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番外編 世界中に (前編)
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俺はキッチンに立って夕食の用意をしていた。といってもそんな凝った物でもなくただ肉と野菜を焼き肉のタレと絡めて炒めてるだけだけど。自分と大樹の分を皿に取り分け、粗熱を取った彼の分にはラップを掛ける。
夕食の用意は自然と早く帰ってきた方がすることになっている。ただ仕事は大抵俺の方が早く終わるので作ることが多い。それでも、大樹によると昨今の働き方改革で大分残業が減ったらしい。良いタイミングで部署を変えたよと笑っていた。
リビングのローテーブルでテレビをつけて1人で食事を取っていると、がちゃりと玄関のドア鍵が開く音がした。
「おかえり、大樹」
「ただいま、要」
スーツ姿の大樹が帰って来る。鞄を床に置き一息つくように前髪を掻き分けている。さらっとした短めのさらっとした髪の毛で目鼻立ちの整った相変わらずの眉目秀麗さ。毎日見てるけどやっぱり見惚れてしまう。今では再会した頃の姿なんか面影の欠片もない。
外に出る仕事は外見のはったりを利かせないといけないからとスーツもフルオーダーのものだそう。それは40代も半ばに差し掛かるのに贅肉のひとつもないスタイルの良い彼をより良く見せる。
「今日はちょっと早かったね。俺、食べ始めたところだから一緒に食べようよ」
「ああ、ありがとう。うまそうな匂いだな」
毎日見ているのに全然飽きない大樹の美貌を堪能しつつ彼の分のおかずのラップを外す。
「取引先の試作品らしい。食べるか?」
大樹は鞄の中からシンプルな、上部がテープで留まった白い紙袋を出して俺の前に置いた。
「大樹の取引先で食品って珍しいね」
「ああ、異業種に参入する計画があるらしい。帰りがけに事務員に渡されて感想が欲しいと言われてな」
「そうなんだ、じゃあ、俺も真剣に味わうよ」
未経験の業種に新規参入するならきっと会社も気合いが入っているはず。それなら俺もその気持ちに応えなければ!
意気込みが凄いなと笑いながら大樹は上着を脱ぎ、手を洗いに洗面所に歩いて行った。
食事を済ませると大樹がお皿を洗ってくれる。
「大樹、もう開けてもいい?」
いいという返事を貰って早速紙袋を開いた。
中には上部をリボンで結ばれた透明な袋に綺麗にデコレーションされたクッキーがいくつも入っていた。所謂アイシングクッキーというものだ。紙袋から出して見ると、ひとつひとつ柄の違う服を着たくまや、パールをちりばめたハートのクッキーが入っていた。食べるのがもったいないくらい装飾されている。
じっと眺めていると袋の裏側に名刺大の紙が貼り付けてあるのに気がついた。何気なく裏返えした俺は書かれている文字を見てなんとも言えない気持ちになる。
『実は私の手作りです♡良かったら感想聞かせてください♡♡』
そんなメッセージの下には名前と連絡先が書かれていた。
外袋をプレゼントとは思われないようなシンプルなものにして中身は気合いの入った手作りクッキー…。女の子って凄い。
「大樹さん、こんなの入ってましたけど」
キッチンから戻ってきた大樹にメッセージの貼られたクッキーの袋を見せる。
「女は何年経っても強かだな」
色々思うところがある大樹は苦々しい顔をしている。
「こんなおっさんのどこがいいんだか」
「そこは、否定するよ!大樹は世界一かっこいい」
「俺が褒められたいのはお前だけだよ」
大樹の一言で俺はちょっともやっとしていた気持ちが一気に晴れた。俺って現金だな。
でも、このクッキー、流石に純粋に自信作のお菓子の感想が欲しいってことじゃないだろうから俺が食べていいのかな。そう思うとクッキーを袋から出していいものか迷ってしまう。
「要、食い意地張ってるのはいいがこれは喰うのはやめておけ」
「うーん、そうだよね、大樹のために作られたものだもんね」
「そういう意味じゃない。得意先の見知らぬ女の作ったものをお前に食べさせられない」
「でもおいしそうだけど」
「俺は普段から個人的にものを受け取ったりしないし、連絡先も当然教えていない。それを騙してでも渡そうとしてくる奴の食い物なんか何が入っているか分かったもんじゃない」
モテモテ大樹は昔手作りお菓子で何かあったんだろうか…。
「一度受け取ると他から断りにくいからな。これは次に得意先に行ったときに返しておく」
そういうと大樹はラッピングされた袋を白の外袋に入れ直して鞄の中に戻してしまった。
夕食の用意は自然と早く帰ってきた方がすることになっている。ただ仕事は大抵俺の方が早く終わるので作ることが多い。それでも、大樹によると昨今の働き方改革で大分残業が減ったらしい。良いタイミングで部署を変えたよと笑っていた。
リビングのローテーブルでテレビをつけて1人で食事を取っていると、がちゃりと玄関のドア鍵が開く音がした。
「おかえり、大樹」
「ただいま、要」
スーツ姿の大樹が帰って来る。鞄を床に置き一息つくように前髪を掻き分けている。さらっとした短めのさらっとした髪の毛で目鼻立ちの整った相変わらずの眉目秀麗さ。毎日見てるけどやっぱり見惚れてしまう。今では再会した頃の姿なんか面影の欠片もない。
外に出る仕事は外見のはったりを利かせないといけないからとスーツもフルオーダーのものだそう。それは40代も半ばに差し掛かるのに贅肉のひとつもないスタイルの良い彼をより良く見せる。
「今日はちょっと早かったね。俺、食べ始めたところだから一緒に食べようよ」
「ああ、ありがとう。うまそうな匂いだな」
毎日見ているのに全然飽きない大樹の美貌を堪能しつつ彼の分のおかずのラップを外す。
「取引先の試作品らしい。食べるか?」
大樹は鞄の中からシンプルな、上部がテープで留まった白い紙袋を出して俺の前に置いた。
「大樹の取引先で食品って珍しいね」
「ああ、異業種に参入する計画があるらしい。帰りがけに事務員に渡されて感想が欲しいと言われてな」
「そうなんだ、じゃあ、俺も真剣に味わうよ」
未経験の業種に新規参入するならきっと会社も気合いが入っているはず。それなら俺もその気持ちに応えなければ!
意気込みが凄いなと笑いながら大樹は上着を脱ぎ、手を洗いに洗面所に歩いて行った。
食事を済ませると大樹がお皿を洗ってくれる。
「大樹、もう開けてもいい?」
いいという返事を貰って早速紙袋を開いた。
中には上部をリボンで結ばれた透明な袋に綺麗にデコレーションされたクッキーがいくつも入っていた。所謂アイシングクッキーというものだ。紙袋から出して見ると、ひとつひとつ柄の違う服を着たくまや、パールをちりばめたハートのクッキーが入っていた。食べるのがもったいないくらい装飾されている。
じっと眺めていると袋の裏側に名刺大の紙が貼り付けてあるのに気がついた。何気なく裏返えした俺は書かれている文字を見てなんとも言えない気持ちになる。
『実は私の手作りです♡良かったら感想聞かせてください♡♡』
そんなメッセージの下には名前と連絡先が書かれていた。
外袋をプレゼントとは思われないようなシンプルなものにして中身は気合いの入った手作りクッキー…。女の子って凄い。
「大樹さん、こんなの入ってましたけど」
キッチンから戻ってきた大樹にメッセージの貼られたクッキーの袋を見せる。
「女は何年経っても強かだな」
色々思うところがある大樹は苦々しい顔をしている。
「こんなおっさんのどこがいいんだか」
「そこは、否定するよ!大樹は世界一かっこいい」
「俺が褒められたいのはお前だけだよ」
大樹の一言で俺はちょっともやっとしていた気持ちが一気に晴れた。俺って現金だな。
でも、このクッキー、流石に純粋に自信作のお菓子の感想が欲しいってことじゃないだろうから俺が食べていいのかな。そう思うとクッキーを袋から出していいものか迷ってしまう。
「要、食い意地張ってるのはいいがこれは喰うのはやめておけ」
「うーん、そうだよね、大樹のために作られたものだもんね」
「そういう意味じゃない。得意先の見知らぬ女の作ったものをお前に食べさせられない」
「でもおいしそうだけど」
「俺は普段から個人的にものを受け取ったりしないし、連絡先も当然教えていない。それを騙してでも渡そうとしてくる奴の食い物なんか何が入っているか分かったもんじゃない」
モテモテ大樹は昔手作りお菓子で何かあったんだろうか…。
「一度受け取ると他から断りにくいからな。これは次に得意先に行ったときに返しておく」
そういうと大樹はラッピングされた袋を白の外袋に入れ直して鞄の中に戻してしまった。
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