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第20話 吾輩は凍え死にそうである
しおりを挟むさて、我輩今日は夜勤である。
昨晩の事、この家に住むボス殿が、
「ねぇお姉ちゃん。会社で松阪牛のサーロインもらったのよ。今安成も美也も寝てるから内緒にしておこうと思って。2枚しかないのよね……」
「食べる食べる! でも今日はもう12時過ぎてるから明日かなー? 二人に見つからないよう隠しといてよお母さん」
そして凍える箱の中へしまうところを我輩この目で確と見た!
しかし今はまだ二人で〝サケ〟なるクッサイものを飲んでいる最中。
功を焦るとろくなことは無い。
数時間程試練の時を耐える。
― 1時間経過 ―
「さてと、じゃあお母さん私寝るね」
「私ももう寝るわよ。……ニャゴロー悪さしてはダメよ」
釘をさすところは流石にボスと言ったところか。
そして更に10分程待つ事に。
{バッタン}
時は来たれり!
最後の大ボスが部屋を後にした!
超ハイパーチャ―――――――ンス!
完全に静寂と化した三河家のダイニングキッチン。
非常に長かった!
そんな訳で先ずはテーブルに飛び乗る。
瞬間強烈な刺激臭!
我輩この臭いが苦手なのだ。
中身が少し入っているグラスごと下へ落としてやる。
更に本体である〝崎山18いやー〟のボトルを蹴り倒す。
この時先端部分に肉球を当ててクリクリ回すと忽ち中身が外へ。
トクトク流れ出る琥珀色の液体が纏う臭いには堪らず我輩もテーブル外へ脱出!
超クサイんだから!
そしていよいよメインである凍える箱へ。
しかしこれがなんとも開けるのに苦労する。
とにかくデカいのである。
そして重いのである。
だがその苦難を超えればそこにあるのはパラダイス。
様々な仕事で培った技術を応用し、あの肉球この肉球で必死にチャレンジ。
そして……
{ギギイィィィ……}
オープンザドアー!
そこには夢見る楽園が!
我輩にとってはエルドラドそのもの!
迷いなく中へ入ると……パタンと音が。
同時に大停電で我輩大パニック!
なにが起きた!?
こうなってしまえば夜行性もクソもない。
しかも我輩の高感度カメラを凌ぐ目でさえ殆ど役に立たないのだ。
なんにも見えないのだ!
ってか寒いっ!
様々な手を使い脱出を試みるも、寒さと疲労で眠ってしまった。
山岳遭難でよくあるアレの様に。
あー気持ちいい……。
次の日、一家全員で仲良くステーキを食べる姿が我輩の目に映った。
一人一枚ずつあったのだが、ご子息と美也殿が食べたのは何肉なのだろうか?
少なくともサーロインは2枚しかなかったはず……。
え、我輩はどうしたかって?
五体満足で、且つ空中を彷徨う能力まで身に着けて助かったのだ。
あの家族団らんでの食事時にもテーブルの上へとその腰を据えておったわ。
不思議と全員に無視されたのだが。
まるで我輩がそこにはいないように……。
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