一般人の魔王と勇者

どてかぼちゃ

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接触編

001 黒と金

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 ここは小さな小さな村の外れにある森。
 俺はそこで生活に必要な薪を集めていた。

「さて、こんなもんか」

 魔族と人間が争っている昨今、村には一切関係ないと言わんばかりの平和な日々。
 若者は一攫千金を手にしようと戦争に志願し、残されたのは老人ばかり。
 そのせいで緩やかな時間が流れる村は今一つ肌に合わない為、外れにあるボロ家で俺は一人暮らしをしている。

 ハッキリ言ってこの場所はそれ程安全ではない。
 なぜなら今いる森は既に魔族の領域。 
 そう、この村は人間と魔族の生活圏の境目なのだ。

 魔族?
 それがどうした?
 
 街にいる人間は知らないと思うが、彼等とて知恵ある生命体で話せばわかり合えるのだぞ。
 現に俺は彼等と交流を図っている。

 子供の頃、街で数年間暮らしたこともある。
 その時通った学び舎で教えられたのは”魔族イコール悪”だ。
 今思えば完全に洗脳だな。

 まぁ、当時いた孤児院でも同じような教育を施されていたのも確かだが。
 そもそも俺は両親の顔を知らない。
 赤ん坊の頃、身元が分かるもの何一つない状態で橋の下に捨てられていたそうだ。
 釣り人に発見されてそのまま孤児院へ。
 今思えば死んでいてもおかしくない状況だっただろう。
 
 何かと思想を押し付ける孤児院の教育方針に嫌気がさし、少々ひねくれた成長過程を送る俺。
 そんなわんぱく盛りのある日、探検と称した一人遊びで城の中へ侵入。
 王族貴族とは程遠い平民から見た城の内部はゴージャスな秘密の花園……などと勝手に想像していた。
 
 しかしそこで見たものは、なんと処刑される二人の人間。
 その殺され方のエグイ事エグイ事。

 そのうちの一人を俺は知っていた。
 あれは間違いなくこの国の王子。
 
 何故王子の顔を知っているかだって?
 孤児院に彼の自画像が飾ってあったからだ。
 育ててくれた人が教えてくれたのだが、多額の援助をしてくれていたそうだ。
 少しでも恩に報いる為、有名な画家に彼の自画像を描かせて飾ったのだと。
 それもある日を境に二度と飾られる事が無かった。
 
 以前この国の王子が行方不明になったと大騒ぎになったことがあったそうだ。
 それが数時間も経たぬうち、急速に沈静化。
 どう考えても国が情報統制したのだろう。
 そりゃ王子が行方不明だなんてただ事ではないから。

 そもそも不自然なんだよ。
 王子がいなくなるだなんて国の一大事なのに、その噂さえかき消させられるだなんて。
 そしてあの処刑。

 俺はこの国が怖くなった。
 それからは我慢を重ね、成人すると同時に街を出る決意。
 育ててくれた孤児院には悪いが、それまでアルバイトでためたそれなりの金額を置いていく。
 俺ぐらいのガタイなら数年は食べさせて行けるであろう金額を。

 当然、様々な人から『無謀』だの『世間知らず』だのと反対されたが俺には打算があった。
 実は完全ではないにしろ、前世らしき記憶があるのだ。
 それも年数を重ねるごと、比例して思い出していくのだ。
 勿論それは俺だけの秘密。
 とは言っても、誰も信じないだろうけどね。

 その後は色々な村や町を転々とし、最後にこの村へと辿り着いた。
 ここは魅力だ一杯だ。
 人々は優しいし、なによりも魔族への嫌悪感がまるでない。
 いつ死んでもいい年寄りばかりなのも関係あるのだろうか?
 だからと言って魔族と親しい間柄でもない。
 互いに見えない境界線を張っている感じか。

 そんな中、俺は魔族にファーストコンタクト。
 まぁ、偶然森で出会って恐る恐る話しかけたら答えてくれただけなんだけどね。
 
 何度も彼等と接触しているうち、俺達人間と外観以外何も変わらないことに気付く。
 それはまるで未知への領域。
 彼等からもっともっと知識と情報を手に入れよう。
 そして定住を決心した。
 とまぁ、思い出話はこれぐらいにして、さっさと家へ帰るとするか。

{ドゴオォォォォォンッ!}

 そんな時だった。

「な、なんだ!?」

 突然の轟音に木々は暴れ、大地は激しく揺れる!
 間違いない、何かが近くに落ちた! 
 雷か!?

 この目で確かめようと音のした方へ急いで向かう。
 落雷地点へ近づくにつれ、森が様変わりしていた。
 
「これは!?」

 辿り着いたその場所は、まるで大爆発でも起こしたのかと思うぐらい何もかも無くなっており、ほぼ更地に近い状態となっていた。

「あれ? あれはなんだ!?」

 よく見ると、更地の中心付近に二つの物体を発見。
 早速確認してみることに。

「うおっ!」

 それは人間だった。
 しかも相当に美しく、一人は艶やかな黒髪で、もう一人は輝く金髪。
 気のせいか、どことなく似ているようにも。
 その上、全裸で血まみれ。

「うわあぁぁっ! マジか!?」

 発見当初は動揺したが、落ち着いてよく見ると既に二人とも傷は塞がっており、それが俺を更に混乱させた。
 状況が呑み込めないまま、二人をわきに抱えると急いで家へ。

 質素だが、一応衛生に気を使ったベッドを二つ拵えると、ゆっくり丁寧に一人ずつ中へ寝かせる。
 怪我の状態が分からぬまま、激しく走ったのを後悔するも、二人の口から寝息のような呼吸が聞こえると意味もなく一安心。

 その後、彼女達は来る日も来る日も眠り続けた。
 いつの間にか彼女達の世話が日課に加わった。

 そこで気付いたことがある。
 血まみれでも傷は全て塞がっていると思われた彼女達の身体だったが、改めて見ると傷一つない身体となっているではないか?
 あれ程の血を流させた傷の痕跡さえ残っていないのだ。
 大凡普通の人間とは思えないほどにその回復力は凄まじい。
 
「まさかヴァンパイアか?」

 そっと薄い唇をめくるもそれらしき牙は見当たらない。
 なにより伝説の生命体だしいるはずもない。

「年齢もよくわかんないな? 二十歳前後かな?」

 それにしては幼い気もするが。
 まぁ、いつか目覚めるときの楽しみに取っておこうか。

 俺は彼女達の意識が戻るのを確信していた。
 しかもその時期はもうすぐだとも。
 何よりも二人の鼓動が生きようと激しく脈打っているから。

「う……うーん」

 そして遂にその時はやって来た。
 しかも二人同時に。

「おはよう」

 突然の出来事で何が何だかサッパリってな感じの顔をする二人。

「君達は森の中で倒れてたんだよ」

 きっと混乱しているのだろう。
 無理はよくないかも。

「僕は隣の部屋にいるから用があるなら声を掛けて。じゃあね」

「……」

「……」

 返事こそなかったものの、俺の意図が伝わったのだろう。
 二人は再びゆっくりと瞼を閉じた。
 
 
 
 
 
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