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chapter.4
更け行く夜
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疲れているだろうから、とサキやジェイクィズとは解散になり、ひとまず宿に戻ろうとしたのだが、シェスカの「大事をとって」の言葉でヴィルはまだジブリールの中、第二分隊の病室に残っていた。
ヴィルをベッドへ寝かしつけ、その脇でシェスカは彼が動かなくてもいいように水を持ってきたり、果物を持ってきたり。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのはありがたいのだが……。
「もうなんともないって、ロゼさんも言ってたじゃん」
「でも何かのきっかけでもし傷が開いたりでもしたら……」
「だから、その傷も他の傷も、まるっとシェスカが治したんだろ?」
「それはそうなんだけど、でも……」
「あー!! もう大丈夫だから!! シェスカは休む!! 聞いたぞ、ロクに寝てないって!!」
と、まあ先程からこんな感じである。ヴィルの怪我なんて擦り傷すら完治しているし、むしろ元気が有り余ってるくらいなのだ。一方シェスカはというと、時々足元が覚束なかったり、重そうな瞼を閉じないように時折頬を叩いていたり。こっちのほうが病人と形容すべきではないかと思う。
「そうよ。あなたが寝てなきゃダメそうね」
様子を見に来たジブリール第二分隊隊長、サラサネイア・ロゼが、やれやれといった具合に溜息を吐いた。その後ろには苦笑いを浮かべる第二分隊隊員、レタ・オルバネハの姿もある。
「平気です! 寝てないのだっていつものことだし」
シェスカは頑として聞き入れるつもりはないようだ。そんな彼女を見て、サラサネイアは不敵な笑みを浮かべ、
「あら? これから長旅になるのよ? その途中あなたが倒れたらどうするの? みんな大迷惑よ~? ただでさえあなたは狙われてるんだし、弱ってるところを叩かれたら……」
と、畳み掛ける。それに一瞬たじろいだシェスカだが、まだ意志を曲げようとしない。そこにさら追い討ちをかけるようにサラサネイアは続けた。
「それに、一緒に行くのはむさ苦しいヤロー共なわけだし、必然的にあなたの看病も彼らがするわけよねぇ」
「わ、わかった! わかりました!! ちゃんと休みます!!」
サラサネイアのこれが決定打となったのか、それともヤケクソなのかシェスカはそう叫ぶように言い放つと、逃げるように去っていった。
「あ、レタ。彼女がちゃんと休んでるかついてってあげて」
「了解ですっ! ヴィルくんもお大事にね!」
「は、はい。ありがとう、レタさん」
レタは小さくヴィルに手を振ると、「シェスカさん転ばないように気をつけてくださいよ~!」と、彼女の後を小走りで追いかけに行った。
それを見届けたサラサネイアはふぅ、と小さく息を吐いた。
「責任感が強すぎるのも困りものね、彼女」
「え?」
「あなたが寝てる間ずっと看病してくれてたのは聞いてるわよね? で、その時に彼女に聞いたのよ。どうしてそこまでするのかって。
そしたら彼女、『自分のせいで巻き込んで、大変な目に遭わせて、しかも死んじゃいそうな大怪我までさせて。何もしないなんてできない。巻き込んだからには、ちゃんと無事に家まで帰してあげなくちゃいけないの』って」
サラサネイアは似ていないモノマネを交えながらそう話してくれた。確かにそんなことをたまに言っていたなぁ、と思わず苦笑する。
「ははは、オレが勝手にしたことばっかだから、気にしなくていいのになぁ」
「まぁ、私が彼女の立場だったらめちゃくちゃ気にするけどね。もう、罪悪感でいっぱい! ……に、ならない?」
「なりますね……」
確かにシェスカの立場に立つとオレも同じようなことをしたかもしれないな。とヴィルは頬を掻いた。そんなヴィルを見て、サラサネイアは柔らかく微笑んだ。あたたかく、包み込むような笑顔だ。
「だから、あなたも今日は眠りなさい。ゆっくりとね」
起こしていた半身を倒してに横になると、彼女がさら、と前髪を撫でてくれた。
「サラサネイアさんって、なんだかおかあさんみたいだ」
「ふふふ、こんな大きな子どもはいないんだけどね」
今度はぐしゃぐしゃと髪を撫でてそう笑うサラサネイアは、母親という言葉がしっくりくる。もっとも、ヴィルは孤児だから、母親というものをろくに知らないが。
「師匠もオレが風邪引いた時とかは、さっきみたいに撫でてくれて……あれ、ローだったっけ?」
「その人たちがあなたのおかあさんね」
「多分、そうかな……うん。オレの家族」
何故だかサラサネイアと話していると、先ほどまでは全く重くなかった瞼が下りてくるのを感じる。
ホームシックというのだろうか。パルウァエの、あのアルキュミアの狭苦しい雑多なあの空間が恋しかった。
******
コツ、コツ、靴底が石の階段を叩く音が大きく響く。規則正しい間隔でそれを鳴らしながら、サキ・スタイナーは地下へと下っていた。ある程度下へ降りると、無骨な石をレンガ状に積んだ壁が、つるりとしたつなぎ目のないものに変わる。
境界線だ。彼はそう思った。ジブリールと、このアメリの遺跡とを分ける境界線。壁に備え付けてあるろうそくの明かりも、ここでちょうど途切れていた。彼はそのまま明かりを用意せずに、暗い地下へと降りていく。まるで見えているかのように正確に、踏み外すことなく階段を下る。さらにしばらく降りると、階段はようやく終わり、ある部屋へと辿り着いた。
名目上は機関室となっているこの部屋は特殊だった。広さは恐らく広い、ということしかわからない。何故なら暗すぎて、部屋の全容が見えないからだ。この部屋の唯一の明かりは、天井の割れ目から注ぐ、一筋の強い光で、それが白いオブジェをより白く照らしていた。見上げるほどの大きさのそれは、複雑に何かが絡み合った檻のようであり、台座のようでもあった。辛うじてそのモチーフが翼であったり、人間の身体であったりすることがわかる。
オブジェの台座からは細く長いプラグが伸びており、それは床を蜘蛛の巣状に走っている。これは魔力を通す管だ。あのオブジェは大魔石を設置していたもので、所謂制御装置である。ここから大魔石より生成された魔力は、プラグを通りジブリールの各施設へ供給され、またこの大魔石へと戻り、ぐるぐると循環していた。
今はその大魔石がない。何者かによって奪われた。
けれど巨大で水晶のように透き通ったあの石があった場所に現在、黒い衣装に身を包んだ一人の男が座っていた。
「いらっしゃい、サキくん。おれに用かな?」
男は閉じていた瞳をゆっくり開けた。赤い瞳が光を受けて輝いている。彼はふー、と脱力するように息を吐いて、ぐいっと指を組んで伸びをした。
「今回の任務の件でお話が」
「何かな? おれは忙しいんだよ。見ての通りにね。手短に頼むよ」
どうみても暇そうにしか見えないが黙っておく。ただ座っているだけとはいえ、現在の彼は、彼自身から生成される魔力でこのジブリールのエネルギー全てを賄っているのだ。身体に負担がかかっていないはずがない。
けれどいつも通りの調子で、上司でありジブリール最高責任者であるルシフェル・セラーフは笑った。顔立ちこそベルシエルによく似ているが、彼の印象は彼女とはまるで違う。全てを見透かしているような、そんな風に感じて、サキは彼が少し苦手だった。
「どうせ君も、アレがなんなのかとかそういう事聞きに来たんだと思うんだけど」
「君も、というと、私以外にそれを尋ねた者がいたと?」
「ああ。ベルシエルだよ。珍しいこともあるもんだ。君が絡んでいるからかな?」
ルシフェルは愉快そうに声を弾ませる。彼は人間嫌いの妹が、人間──サキに入れ込んでいるのが大層面白いらしく、よく彼女をからかっていた。
彼は思い出したようにあれもこれもとベルシエルの話を始め出した。このままでは無駄な話が続きそうだ。サキは小さく息を吐くと、普段よりも強い口調で話を遮った。
「回りくどい話は無しにして下さい。単刀直入に聞きますが、彼女は何者ですか? 私が関係していると、先程言っていましたが」
彼女──シェスカ・イーリアスという魔術師。魔族に追われている少女。『賢者の石』の『器』。器は所詮容れ物だ。自由に動く意思は必要ない、無機質なものだと思っていた。
しかし、彼女自身はごく普通の少女だった。自らの意思で立ち、動いている、どこにでもいるような。唯一違うと感じたのは彼女が怪我をしたヴィルを咄嗟に治療した時だ。
サキはその時に感じた魔力を知っている、気がした。それがいつ、どこで知ったものかはわからない。──俺は彼女に会ったことがある。そんな漠然とした確信だけが残っていた。
「君が関係してるのは自分が一番わかってるだろう? それは任務に必要だから聞いているのかい? それとも好奇心?」
「どちらでも聞いている事には変わらない」
そうだね。ルシフェルがにっこりと微笑む。答えるつもりはないらしい。我が上司は、任務に必要な情報は与えているから、後は自分たちで何とかしろと仰せである。いつも彼はそうなのだ。最低限必要な情報しか与えない。干渉しない。それが役割であるように。
「他に何か用は?」
無いなら去れ。ということだろう。答える気がない局長に何を言っても無駄だ。
「一つ、それとは別で聞きたいことが」
「なんだい?」
「何故シェスカ・イーリアスの名を呼ばないのですか?」
その問いを聞いたルシフェルは少しだけ、その丸い瞳をさらに丸くした。が、すぐに愉快そうに細めると、煽るように口を開く。
「今日の君は饒舌だねぇ。そんなにムカつく?」
「いえ。なんとなく気になっただけですよ」
「そうかい」
楽しくてたまらない。そう言われている気がした。ルシフェル・セラーフという男は、自らを「人間好き」と称する男だ。その彼が、彼女──シェスカの名を呼ばない、ということは一体どういうことなのか。それくらいの察しはついていたが、どうも気に入らなかった。
彼は彼女を人間だと思っていないが、サキは人間だと思っている。人間を、いやヒトをそのような物のように扱うことは、サキ・スタイナーの信条を逆撫でするようなものだった。ルシフェルはそれをわかっているからこそ、楽しそうに笑っているのだ。
「ねぇ、サキくん。例の事件の犯人、手がかりはあったかい?」
ルシフェルは笑みを深めながらそう尋ねてきた。頭によぎる凄惨な光景を軽く首を振ることで追いやった。ずっと探している、その事件の真相。忘れたことは一日だってない。ジブリールへ入隊したのだって、その事件を調べるためだ。十年経ってもその糸口は全く掴めていない。だから素直に、
「何も」
とだけ答えた。このタイミングでこれを尋ねるということは、シェスカ・イーリアスはこの事件に関わっているのだろうか。いや、十年も前のことだ。その頃の彼女はまだ子供で、あんな場所にいるはずがない。ただルシフェルが面白がって尋ねただけだろう。そう結論付けてこの場を後にすると決めた。
「失礼します」
「はいはーい。あ、そうそう、今回の任務、勝手にベルシエルがついていくと思うから。あいつのことよろしく頼むよ」
ひらひらと手を振るルシフェルに背を向け、サキはまた暗い階段を登り始めた。
******
陽が傾いてきている。白いアメリの建物たちは赤いともオレンジとも、紫ともつかない色に染め上げられ、街の人々は下りてくる夜の帳に向けてバタバタとせわしなく走り回っている。
そういえば情報屋の双子が言っていたっけ。ここは宿屋の多い区画だとかなんとか。この様子だとどこも大盛況のようだ。そんなことを思いながら、シェスカ・イーリアスは後ろでひょこひょこと楽しげにスキップしそうな人物へと声をかけた。
「あの、いつまでついてくるんですか?」
「そりゃあ、シェスカさんがお休みになるまでです!」
うまく撒いたと思ったのに。と、シェスカはため息をついた。サラサネイアに丸め込まれて、一度はジブリールに用意された(今度は対魔術師用の独房のような部屋ではなかった)客室からこっそりと抜け出してきたつもりだったのだ。
だが流石ジブリールと言うべきか。レタ・オルバネハにものの数分で追いつかれてしまい、こうして共にぶらついているというわけだ。
「ね、帰りましょう? 今日までずーっと気を張ってたんですから、身体だってお疲れでしょう?」
「……じっとしてると、なんだか落ち着かなくって」
「もお~、アシュリーといいシェスカさんといい、どうしてじっとしててくれないかなぁ……」
レタはがっくりと肩を落として溜息を吐く。放っておいてくれてもいいのに、と思うがそれが彼女の仕事なのだ。そう思うと申し訳ない気持ちがふつふつとわいてきた。どう足掻いても彼女からは逃れられなさそうだ。諦めて大人しく戻るとしよう。
「……わかりました。レタさん、お手数かけてすみません。もう戻ります」
「ほんとですか!?」
ぱあっと顔が明るくなるレタ。そんな彼女に頷いて、ジブリールへ戻ろうとした時だった。
くい、と。服の裾を引っ張られる感覚。
振り返ると、セレーネが後ろに立っていた。驚いて思わず後ずさると、レタもシェスカ同様に驚いていたらしく、小さく声をあげていた。
「ぅわっ! あなた……ええと、セレーネだったかしら……? いつの間に?」
「…………」
じっと。ただまっすぐに、セレーネはこちらを見つめている。青とも緑ともつかない真ん丸な瞳が、夕日の色と混ざり合ってさらに不思議な色を称えていた。彼女の顔には表情はなく、緩く小首を傾げた仕草で疑問を持っている、と主張している。
「……? 私になにか?」
「あなたは、なにもの?」
セレーネは短く尋ねた。それもとても簡潔に。あなたはなにもの。そう言った。しかしシェスカの脳は何故か、それを一瞬理解するのを拒否した。ぐるぐるとその言葉が頭を三回ぐらい巡り、ようやくすとん、と落ちてきた。
「私は……」
「あなたは、なにもの?」
言葉に詰まる。彼女は何を言っているのか。問いの意味は。いまいち何もわからない。自分が何者かなんて、自分が今一番知りたいことなのだ。
私は何者なんだろうか。記憶もない。家族だっているのかどうかすら知らない。行くべき場所はあれど、行きたい場所もない。帰る場所もない。なにもない。自分がどうしようもなく惨めで、空っぽに思えてくる。
私は何者か。『器』。時折そう呼ばれるけれど、その実感は湧かない。私の中に賢者の石が入ってる? 馬鹿馬鹿しい。この身体に異物感なんてどこにもないのに。そもそもに、賢者の石だかなんだか知らないが、人間の中にそんなものが入るわけがない。生きている人間に、そんなもの……
「シェスカさん!!」
がっ。誰かに手を掴まれた。はっとしてそちらを見ると、レタが不安そうな顔で見つめていた。
「え、と……レタさん? どうしたんですか?」
そう尋ねると、レタは目を丸くして「どうしたって……今、首を……」と、そこまで言って彼女は口を閉ざした。一体何なのだろうか。
シェスカが不思議に思っていると、セレーネはさらに首をかしげた。
「やっぱり、わかってないの?」
「なにがよ……?」
彼女は真ん丸い瞳でじっとシェスカを射抜いてくる。人形のように整った可愛らしい顔が、とても無機質に見えて、何故だか背中がぞわっとした。
セレーネの柔らかそうな唇がゆっくりと動く。
「あなたが────」
「ちょぉぉぉ! 危ないそこの姉ちゃん達!!」
そんな叫びが、セレーネの声を遮る。叫び声の方へ向くと、大量の荷物を抱えた誰かが転がるようにシェスカたちのほうへ向かっていて……。
──って、転がるように、じゃなくて思いっ切り転がってるじゃない!
そう気付いた時には既に遅く、鈍い衝撃音が響いた。続いてやってくるぶつかった痛み。シェスカだけでなくセレーネもレタも巻き込みながら、その誰かはやけにカラフルな荷物を派手にぶちまけて地面に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか、お二人とも!?」
真っ先に立ち上がったのはレタだった。レタさんこそ、とシェスカが返すと、こう見えてもジブリールですからね! と力こぶを作ってウインク。流石と言うべきなのだろうか。
一方セレーネは、荷物の山を頭から突っ込まれたらしく、カラフルな衣類が帽子のように頭に乗っかっており、ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。
そしてぶつかってきた張本人はというと、シェスカたちにぶつかった反動なのか、大の字になって倒れている。見たところ小柄な少女だった。肌は少し日焼けしているのか健康的な小麦色で、色素の薄い茶色の髪を編み込みつつ、右耳の下で一つにまとめている。黄色っぽいオレンジのチューブトップには白抜きでギルドか何かのマークが描いてあった。
「いったぁ…………」
大の字になったまま、少女が呟いた。すぐに彼女ははっとして、勢いをつけて起き上がる。分厚い底のブーツが石畳を鈍く叩きつけ、少女の耳に付いている赤い花の形のピアスがきらりと揺れた。
少女はシェスカたちを見ると、さあっと血の気の引いた顔をして、ものすごい速さで走ってくると、
「ほんっまごめんなさいっ!! ケガしてへん? 大丈夫? これ、何本に見えるっ!?」
早口でまくし立てながら、グローブに包まれた右手の人差し指と中指を立てこちらの顔へ近付けてくる。
「に、二本」
シェスカがそう答えると、少女は大袈裟に頭を抱えながら仰け反った。右手は相変わらずピースのままである。
「ちゃ──う!! これ三本やっ! やっぱしどっか悪いとこぶつけ……って合うとるやんけ!」
まるで一人芝居だなぁ。シェスカはぼんやりとそんなことを思っていた。少女はレタにもセレーネにも同じような確認をすると、後から追いついてきた仲間と思しき青年たちとせっせと散らかした荷物を片付け始めた。
「ほんまごめんなぁ。まさか坂道から転がり落ちるとは思わんくて」
少女は独特の喋り方で苦笑いを浮かべる。彼女が指さした坂道は、足場が悪そうで、ところどころ石畳が剥がれていた。なるほどそれでつまづいてしまったようだ。
「えらいすんません、お嬢さん方!」
「いえいえ、こちらは何ともありませんでしたから」
後からやって来た青年たちとレタがそんなやり取りをしている中、セレーネは彼らをじっと見つめている。その視線は鋭く、何故か敵意のようなものが感じられた。
「セレーネ、どうかした?」
シェスカがそう尋ねると、セレーネはゆるゆると首を振りながら「なんでもない」と立ち上がった。
「姉ちゃん大丈夫かいな。ちょっと顔色悪いで?」
セレーネの様子に気付いたのか、少女は彼女に駆け寄って顔を覗き込んでいる。
「へいき」
露骨に嫌そうな顔でそう返したが、少女はお構い無しにいろんな角度からセレーネを覗き込んでいた。まるで一番美しい角度を探している画家のようである。そんな少女をしばらく眉間に皺を寄せた状態で眺めていたセレーネだったが、ふと何かに気付いたように、少女を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。それから何度も少女と青年たちを見比べ、一言、
「……あなたは、違うんだね」
とだけ言って、ふ、と一瞬だけ、どこか安心したように表情が和らいだ。
「?」
それを見て、少女はどういう意味かとシェスカの方を見るが、シェスカもどういう意味なのかさっぱりわからない、と肩を竦めてせた。どうもセレーネという存在は不思議で謎めいている。
少女とシェスカが頭にクエスチョンマークを浮かべているのを気にもしていないのか、セレーネは少女の肩に軽くさっ、とゴミを払うように触れた後、「気をつけてね」とだけ言って、そのまますたすたとどこかへと行ってしまった。
「あの姉ちゃんお人形さんみたいにかわええのに、めっちゃ変な姉ちゃんやな……いつもあんな感じなん?」
「……さあ?」
いつもあんな感じと言われても、知り合って数日。それもろくに会話もしていなければ会ってもないので答えようがない。そんなふうに呆気にとられていると、少し離れた場所にいたレタたちがこちらを呼んでいた。
「うちのイリスが、ご迷惑かけてほんまにすんませんでした!」
一番年長らしい青年が少女の頭をがっと掴んで下げさせる。どうやら少女はイリスという名前らしい。
「私達は大丈夫です。イリスちゃん、もうたくさん荷物持ったまま走っちゃダメよ?」
「はいはーい!」
優しく諭すレタに、イリスが元気よく右手を上げて応えた。
「はい、は一回じゃボケッ!」
「あだっ!?」
年長の青年に拳骨を食らうイリス。痛そうではある。しかし彼らの中ではよくあることのようだ。いわゆるどつき漫才というものだろうか。
「ほんならねー! また会うことあったらよろしゅうなー!!」
そう言って、イリスたちは手を振って去っていった。
「私たちも帰りましょう、シェスカさん」
しばらく彼らを見守っていたレタがそう促した。それに頷いて、彼女の後ろを付いていく。
『あなたは、なにもの?』
セレーネの問いかけが頭から離れない。無理やり振り払うように、シェスカはその歩みを早めた。
******
夜。月は高く昇り、誰もが寝静まっているのか、アメリ城の中は静寂に包まれていた。
城の主──アメリ王オグマは、マイノス=ガラドの入口へと続く屋上へとやって来ていた。ここは庭園のように整備されており、かつてのエルフの都の姿を再現しているらしい。もっとも、他国から来た成り上がりの王であるオグマにとっては、どうでもいいことだ。しかし、わざわざ塔を見に観光にやって来る物好きが多く、それがこの国の経済の一端を担っているのだから、放っておくわけにはいかなかった。
マイノス=ガラドを見上げると、切れ込みのように空いた窓のような穴から、ちらちらと光が見え隠れしている。中では学者たちが寝るのを惜しんで発掘作業をしているのだろう。塔は特殊な石でできているらしく、中の音を全く漏らさない。故に、研究者共の耳障りな口論も聞こえない。さらにここは城下からも遠く離れているため、城下のさらにその下の街の喧騒すら聞こえない。
謂れやらはどうでもいいが、ここはとても静かで、落ち着く空間だ。
オグマは塔と空と、さらにはアメリを一望出来る場所に置いたベンチへと腰掛けると、髪を結んでいた紐を解いた。
長い髪がさらさらと背中へと落ちてくる感覚。引き締められた気分が少しだけ緩む気がした。圧迫感から開放された髪を軽く手で梳きながら、オグマは昼間に聞いたルシフェル・セラーフの話を思い返していた。
ここ最近の魔物騒ぎと、それを引き起こす鍵となる──シェスカ・イーリアス。先日、情報屋の少年と見た、凄まじい炎の魔術を使った少女。彼女が『賢者の石』の『器』であるという話。それから、それを狙う者達の話。普通に聞いたのならまるで信じられないような、出鱈目で滅茶苦茶な話だ。
「異世界に、魔族に、悪魔。まるで娯楽物語のようだ」
「信じ難いですか?」
側で控えていたゲニウス・レイヤースが片眼鏡をハンカチで拭きあげながら問い掛けてきた。
「お前がそれを問うのか、ゲニウス」
「ええ。きちんと覚えているか、確認しておかないといけないですからね」
「覚えているよ。それはもう一言一句ね」
「そうですか。それは安心しました」
片眼鏡を左目にしっかりと付け、彼は微笑んだ。忘れるわけがない。それがオグマと、ゲニウスの間に結ばれた契約だ。
「探し物は見つかったが、事は色々と複雑なようだ。お前はどこまで知っていた?」
「そうですね。『賢者の石』とその『器』の話まで。まさか私もここまでとは思っていませんでしたよ。せいぜい人間同士……いえ、アルダと言った方がいいですね。この中での争いで済むと思ってましたから」
あ、そうそう。ゲニウスは何かを思い出したかのように、懐をゴソゴソとあさり出した。
「キヤーナから預かったんですよ、休暇届け」
差し出されたヨレヨレの紙には確かに休暇届と書かれている。日程はかなり長期間で、しかも休暇開始は明日からと書いてある。紙の状態から見るに、提出されてから数週間は経っていそうだった。
「どうしましょっか~? 休ませてあげます?」
ゲニウスが意地の悪そうな笑みを浮かべる。いつもの事ながら、この男は他人をおちょくるのが楽しくて仕方ないらしい。オグマはやれやれと肩を竦めながら、
「当たり前だろう。当然の権利だ」
と答える。ゲニウスは少し残念そうに「はーい」と返すと、そのまま城の中へ戻る道へと歩いていく。オグマは休暇届から目を離し、ふぅ、と一息吐きながら、再び塔を見上げた。
「ゲニウス」
塔から視線を外さずに呼び留める。ゲニウスはその場でぴたり、と足を止めた。
「なんでしょう?」
「その休暇、お前も行ってくるといい」
「内緒のほうがいいですかね?」
「当然」
一度も振り返らずに、静かに二人は笑い合う。
「まずは厄介事を解決しないとね」
疲れているだろうから、とサキやジェイクィズとは解散になり、ひとまず宿に戻ろうとしたのだが、シェスカの「大事をとって」の言葉でヴィルはまだジブリールの中、第二分隊の病室に残っていた。
ヴィルをベッドへ寝かしつけ、その脇でシェスカは彼が動かなくてもいいように水を持ってきたり、果物を持ってきたり。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのはありがたいのだが……。
「もうなんともないって、ロゼさんも言ってたじゃん」
「でも何かのきっかけでもし傷が開いたりでもしたら……」
「だから、その傷も他の傷も、まるっとシェスカが治したんだろ?」
「それはそうなんだけど、でも……」
「あー!! もう大丈夫だから!! シェスカは休む!! 聞いたぞ、ロクに寝てないって!!」
と、まあ先程からこんな感じである。ヴィルの怪我なんて擦り傷すら完治しているし、むしろ元気が有り余ってるくらいなのだ。一方シェスカはというと、時々足元が覚束なかったり、重そうな瞼を閉じないように時折頬を叩いていたり。こっちのほうが病人と形容すべきではないかと思う。
「そうよ。あなたが寝てなきゃダメそうね」
様子を見に来たジブリール第二分隊隊長、サラサネイア・ロゼが、やれやれといった具合に溜息を吐いた。その後ろには苦笑いを浮かべる第二分隊隊員、レタ・オルバネハの姿もある。
「平気です! 寝てないのだっていつものことだし」
シェスカは頑として聞き入れるつもりはないようだ。そんな彼女を見て、サラサネイアは不敵な笑みを浮かべ、
「あら? これから長旅になるのよ? その途中あなたが倒れたらどうするの? みんな大迷惑よ~? ただでさえあなたは狙われてるんだし、弱ってるところを叩かれたら……」
と、畳み掛ける。それに一瞬たじろいだシェスカだが、まだ意志を曲げようとしない。そこにさら追い討ちをかけるようにサラサネイアは続けた。
「それに、一緒に行くのはむさ苦しいヤロー共なわけだし、必然的にあなたの看病も彼らがするわけよねぇ」
「わ、わかった! わかりました!! ちゃんと休みます!!」
サラサネイアのこれが決定打となったのか、それともヤケクソなのかシェスカはそう叫ぶように言い放つと、逃げるように去っていった。
「あ、レタ。彼女がちゃんと休んでるかついてってあげて」
「了解ですっ! ヴィルくんもお大事にね!」
「は、はい。ありがとう、レタさん」
レタは小さくヴィルに手を振ると、「シェスカさん転ばないように気をつけてくださいよ~!」と、彼女の後を小走りで追いかけに行った。
それを見届けたサラサネイアはふぅ、と小さく息を吐いた。
「責任感が強すぎるのも困りものね、彼女」
「え?」
「あなたが寝てる間ずっと看病してくれてたのは聞いてるわよね? で、その時に彼女に聞いたのよ。どうしてそこまでするのかって。
そしたら彼女、『自分のせいで巻き込んで、大変な目に遭わせて、しかも死んじゃいそうな大怪我までさせて。何もしないなんてできない。巻き込んだからには、ちゃんと無事に家まで帰してあげなくちゃいけないの』って」
サラサネイアは似ていないモノマネを交えながらそう話してくれた。確かにそんなことをたまに言っていたなぁ、と思わず苦笑する。
「ははは、オレが勝手にしたことばっかだから、気にしなくていいのになぁ」
「まぁ、私が彼女の立場だったらめちゃくちゃ気にするけどね。もう、罪悪感でいっぱい! ……に、ならない?」
「なりますね……」
確かにシェスカの立場に立つとオレも同じようなことをしたかもしれないな。とヴィルは頬を掻いた。そんなヴィルを見て、サラサネイアは柔らかく微笑んだ。あたたかく、包み込むような笑顔だ。
「だから、あなたも今日は眠りなさい。ゆっくりとね」
起こしていた半身を倒してに横になると、彼女がさら、と前髪を撫でてくれた。
「サラサネイアさんって、なんだかおかあさんみたいだ」
「ふふふ、こんな大きな子どもはいないんだけどね」
今度はぐしゃぐしゃと髪を撫でてそう笑うサラサネイアは、母親という言葉がしっくりくる。もっとも、ヴィルは孤児だから、母親というものをろくに知らないが。
「師匠もオレが風邪引いた時とかは、さっきみたいに撫でてくれて……あれ、ローだったっけ?」
「その人たちがあなたのおかあさんね」
「多分、そうかな……うん。オレの家族」
何故だかサラサネイアと話していると、先ほどまでは全く重くなかった瞼が下りてくるのを感じる。
ホームシックというのだろうか。パルウァエの、あのアルキュミアの狭苦しい雑多なあの空間が恋しかった。
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コツ、コツ、靴底が石の階段を叩く音が大きく響く。規則正しい間隔でそれを鳴らしながら、サキ・スタイナーは地下へと下っていた。ある程度下へ降りると、無骨な石をレンガ状に積んだ壁が、つるりとしたつなぎ目のないものに変わる。
境界線だ。彼はそう思った。ジブリールと、このアメリの遺跡とを分ける境界線。壁に備え付けてあるろうそくの明かりも、ここでちょうど途切れていた。彼はそのまま明かりを用意せずに、暗い地下へと降りていく。まるで見えているかのように正確に、踏み外すことなく階段を下る。さらにしばらく降りると、階段はようやく終わり、ある部屋へと辿り着いた。
名目上は機関室となっているこの部屋は特殊だった。広さは恐らく広い、ということしかわからない。何故なら暗すぎて、部屋の全容が見えないからだ。この部屋の唯一の明かりは、天井の割れ目から注ぐ、一筋の強い光で、それが白いオブジェをより白く照らしていた。見上げるほどの大きさのそれは、複雑に何かが絡み合った檻のようであり、台座のようでもあった。辛うじてそのモチーフが翼であったり、人間の身体であったりすることがわかる。
オブジェの台座からは細く長いプラグが伸びており、それは床を蜘蛛の巣状に走っている。これは魔力を通す管だ。あのオブジェは大魔石を設置していたもので、所謂制御装置である。ここから大魔石より生成された魔力は、プラグを通りジブリールの各施設へ供給され、またこの大魔石へと戻り、ぐるぐると循環していた。
今はその大魔石がない。何者かによって奪われた。
けれど巨大で水晶のように透き通ったあの石があった場所に現在、黒い衣装に身を包んだ一人の男が座っていた。
「いらっしゃい、サキくん。おれに用かな?」
男は閉じていた瞳をゆっくり開けた。赤い瞳が光を受けて輝いている。彼はふー、と脱力するように息を吐いて、ぐいっと指を組んで伸びをした。
「今回の任務の件でお話が」
「何かな? おれは忙しいんだよ。見ての通りにね。手短に頼むよ」
どうみても暇そうにしか見えないが黙っておく。ただ座っているだけとはいえ、現在の彼は、彼自身から生成される魔力でこのジブリールのエネルギー全てを賄っているのだ。身体に負担がかかっていないはずがない。
けれどいつも通りの調子で、上司でありジブリール最高責任者であるルシフェル・セラーフは笑った。顔立ちこそベルシエルによく似ているが、彼の印象は彼女とはまるで違う。全てを見透かしているような、そんな風に感じて、サキは彼が少し苦手だった。
「どうせ君も、アレがなんなのかとかそういう事聞きに来たんだと思うんだけど」
「君も、というと、私以外にそれを尋ねた者がいたと?」
「ああ。ベルシエルだよ。珍しいこともあるもんだ。君が絡んでいるからかな?」
ルシフェルは愉快そうに声を弾ませる。彼は人間嫌いの妹が、人間──サキに入れ込んでいるのが大層面白いらしく、よく彼女をからかっていた。
彼は思い出したようにあれもこれもとベルシエルの話を始め出した。このままでは無駄な話が続きそうだ。サキは小さく息を吐くと、普段よりも強い口調で話を遮った。
「回りくどい話は無しにして下さい。単刀直入に聞きますが、彼女は何者ですか? 私が関係していると、先程言っていましたが」
彼女──シェスカ・イーリアスという魔術師。魔族に追われている少女。『賢者の石』の『器』。器は所詮容れ物だ。自由に動く意思は必要ない、無機質なものだと思っていた。
しかし、彼女自身はごく普通の少女だった。自らの意思で立ち、動いている、どこにでもいるような。唯一違うと感じたのは彼女が怪我をしたヴィルを咄嗟に治療した時だ。
サキはその時に感じた魔力を知っている、気がした。それがいつ、どこで知ったものかはわからない。──俺は彼女に会ったことがある。そんな漠然とした確信だけが残っていた。
「君が関係してるのは自分が一番わかってるだろう? それは任務に必要だから聞いているのかい? それとも好奇心?」
「どちらでも聞いている事には変わらない」
そうだね。ルシフェルがにっこりと微笑む。答えるつもりはないらしい。我が上司は、任務に必要な情報は与えているから、後は自分たちで何とかしろと仰せである。いつも彼はそうなのだ。最低限必要な情報しか与えない。干渉しない。それが役割であるように。
「他に何か用は?」
無いなら去れ。ということだろう。答える気がない局長に何を言っても無駄だ。
「一つ、それとは別で聞きたいことが」
「なんだい?」
「何故シェスカ・イーリアスの名を呼ばないのですか?」
その問いを聞いたルシフェルは少しだけ、その丸い瞳をさらに丸くした。が、すぐに愉快そうに細めると、煽るように口を開く。
「今日の君は饒舌だねぇ。そんなにムカつく?」
「いえ。なんとなく気になっただけですよ」
「そうかい」
楽しくてたまらない。そう言われている気がした。ルシフェル・セラーフという男は、自らを「人間好き」と称する男だ。その彼が、彼女──シェスカの名を呼ばない、ということは一体どういうことなのか。それくらいの察しはついていたが、どうも気に入らなかった。
彼は彼女を人間だと思っていないが、サキは人間だと思っている。人間を、いやヒトをそのような物のように扱うことは、サキ・スタイナーの信条を逆撫でするようなものだった。ルシフェルはそれをわかっているからこそ、楽しそうに笑っているのだ。
「ねぇ、サキくん。例の事件の犯人、手がかりはあったかい?」
ルシフェルは笑みを深めながらそう尋ねてきた。頭によぎる凄惨な光景を軽く首を振ることで追いやった。ずっと探している、その事件の真相。忘れたことは一日だってない。ジブリールへ入隊したのだって、その事件を調べるためだ。十年経ってもその糸口は全く掴めていない。だから素直に、
「何も」
とだけ答えた。このタイミングでこれを尋ねるということは、シェスカ・イーリアスはこの事件に関わっているのだろうか。いや、十年も前のことだ。その頃の彼女はまだ子供で、あんな場所にいるはずがない。ただルシフェルが面白がって尋ねただけだろう。そう結論付けてこの場を後にすると決めた。
「失礼します」
「はいはーい。あ、そうそう、今回の任務、勝手にベルシエルがついていくと思うから。あいつのことよろしく頼むよ」
ひらひらと手を振るルシフェルに背を向け、サキはまた暗い階段を登り始めた。
******
陽が傾いてきている。白いアメリの建物たちは赤いともオレンジとも、紫ともつかない色に染め上げられ、街の人々は下りてくる夜の帳に向けてバタバタとせわしなく走り回っている。
そういえば情報屋の双子が言っていたっけ。ここは宿屋の多い区画だとかなんとか。この様子だとどこも大盛況のようだ。そんなことを思いながら、シェスカ・イーリアスは後ろでひょこひょこと楽しげにスキップしそうな人物へと声をかけた。
「あの、いつまでついてくるんですか?」
「そりゃあ、シェスカさんがお休みになるまでです!」
うまく撒いたと思ったのに。と、シェスカはため息をついた。サラサネイアに丸め込まれて、一度はジブリールに用意された(今度は対魔術師用の独房のような部屋ではなかった)客室からこっそりと抜け出してきたつもりだったのだ。
だが流石ジブリールと言うべきか。レタ・オルバネハにものの数分で追いつかれてしまい、こうして共にぶらついているというわけだ。
「ね、帰りましょう? 今日までずーっと気を張ってたんですから、身体だってお疲れでしょう?」
「……じっとしてると、なんだか落ち着かなくって」
「もお~、アシュリーといいシェスカさんといい、どうしてじっとしててくれないかなぁ……」
レタはがっくりと肩を落として溜息を吐く。放っておいてくれてもいいのに、と思うがそれが彼女の仕事なのだ。そう思うと申し訳ない気持ちがふつふつとわいてきた。どう足掻いても彼女からは逃れられなさそうだ。諦めて大人しく戻るとしよう。
「……わかりました。レタさん、お手数かけてすみません。もう戻ります」
「ほんとですか!?」
ぱあっと顔が明るくなるレタ。そんな彼女に頷いて、ジブリールへ戻ろうとした時だった。
くい、と。服の裾を引っ張られる感覚。
振り返ると、セレーネが後ろに立っていた。驚いて思わず後ずさると、レタもシェスカ同様に驚いていたらしく、小さく声をあげていた。
「ぅわっ! あなた……ええと、セレーネだったかしら……? いつの間に?」
「…………」
じっと。ただまっすぐに、セレーネはこちらを見つめている。青とも緑ともつかない真ん丸な瞳が、夕日の色と混ざり合ってさらに不思議な色を称えていた。彼女の顔には表情はなく、緩く小首を傾げた仕草で疑問を持っている、と主張している。
「……? 私になにか?」
「あなたは、なにもの?」
セレーネは短く尋ねた。それもとても簡潔に。あなたはなにもの。そう言った。しかしシェスカの脳は何故か、それを一瞬理解するのを拒否した。ぐるぐるとその言葉が頭を三回ぐらい巡り、ようやくすとん、と落ちてきた。
「私は……」
「あなたは、なにもの?」
言葉に詰まる。彼女は何を言っているのか。問いの意味は。いまいち何もわからない。自分が何者かなんて、自分が今一番知りたいことなのだ。
私は何者なんだろうか。記憶もない。家族だっているのかどうかすら知らない。行くべき場所はあれど、行きたい場所もない。帰る場所もない。なにもない。自分がどうしようもなく惨めで、空っぽに思えてくる。
私は何者か。『器』。時折そう呼ばれるけれど、その実感は湧かない。私の中に賢者の石が入ってる? 馬鹿馬鹿しい。この身体に異物感なんてどこにもないのに。そもそもに、賢者の石だかなんだか知らないが、人間の中にそんなものが入るわけがない。生きている人間に、そんなもの……
「シェスカさん!!」
がっ。誰かに手を掴まれた。はっとしてそちらを見ると、レタが不安そうな顔で見つめていた。
「え、と……レタさん? どうしたんですか?」
そう尋ねると、レタは目を丸くして「どうしたって……今、首を……」と、そこまで言って彼女は口を閉ざした。一体何なのだろうか。
シェスカが不思議に思っていると、セレーネはさらに首をかしげた。
「やっぱり、わかってないの?」
「なにがよ……?」
彼女は真ん丸い瞳でじっとシェスカを射抜いてくる。人形のように整った可愛らしい顔が、とても無機質に見えて、何故だか背中がぞわっとした。
セレーネの柔らかそうな唇がゆっくりと動く。
「あなたが────」
「ちょぉぉぉ! 危ないそこの姉ちゃん達!!」
そんな叫びが、セレーネの声を遮る。叫び声の方へ向くと、大量の荷物を抱えた誰かが転がるようにシェスカたちのほうへ向かっていて……。
──って、転がるように、じゃなくて思いっ切り転がってるじゃない!
そう気付いた時には既に遅く、鈍い衝撃音が響いた。続いてやってくるぶつかった痛み。シェスカだけでなくセレーネもレタも巻き込みながら、その誰かはやけにカラフルな荷物を派手にぶちまけて地面に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか、お二人とも!?」
真っ先に立ち上がったのはレタだった。レタさんこそ、とシェスカが返すと、こう見えてもジブリールですからね! と力こぶを作ってウインク。流石と言うべきなのだろうか。
一方セレーネは、荷物の山を頭から突っ込まれたらしく、カラフルな衣類が帽子のように頭に乗っかっており、ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。
そしてぶつかってきた張本人はというと、シェスカたちにぶつかった反動なのか、大の字になって倒れている。見たところ小柄な少女だった。肌は少し日焼けしているのか健康的な小麦色で、色素の薄い茶色の髪を編み込みつつ、右耳の下で一つにまとめている。黄色っぽいオレンジのチューブトップには白抜きでギルドか何かのマークが描いてあった。
「いったぁ…………」
大の字になったまま、少女が呟いた。すぐに彼女ははっとして、勢いをつけて起き上がる。分厚い底のブーツが石畳を鈍く叩きつけ、少女の耳に付いている赤い花の形のピアスがきらりと揺れた。
少女はシェスカたちを見ると、さあっと血の気の引いた顔をして、ものすごい速さで走ってくると、
「ほんっまごめんなさいっ!! ケガしてへん? 大丈夫? これ、何本に見えるっ!?」
早口でまくし立てながら、グローブに包まれた右手の人差し指と中指を立てこちらの顔へ近付けてくる。
「に、二本」
シェスカがそう答えると、少女は大袈裟に頭を抱えながら仰け反った。右手は相変わらずピースのままである。
「ちゃ──う!! これ三本やっ! やっぱしどっか悪いとこぶつけ……って合うとるやんけ!」
まるで一人芝居だなぁ。シェスカはぼんやりとそんなことを思っていた。少女はレタにもセレーネにも同じような確認をすると、後から追いついてきた仲間と思しき青年たちとせっせと散らかした荷物を片付け始めた。
「ほんまごめんなぁ。まさか坂道から転がり落ちるとは思わんくて」
少女は独特の喋り方で苦笑いを浮かべる。彼女が指さした坂道は、足場が悪そうで、ところどころ石畳が剥がれていた。なるほどそれでつまづいてしまったようだ。
「えらいすんません、お嬢さん方!」
「いえいえ、こちらは何ともありませんでしたから」
後からやって来た青年たちとレタがそんなやり取りをしている中、セレーネは彼らをじっと見つめている。その視線は鋭く、何故か敵意のようなものが感じられた。
「セレーネ、どうかした?」
シェスカがそう尋ねると、セレーネはゆるゆると首を振りながら「なんでもない」と立ち上がった。
「姉ちゃん大丈夫かいな。ちょっと顔色悪いで?」
セレーネの様子に気付いたのか、少女は彼女に駆け寄って顔を覗き込んでいる。
「へいき」
露骨に嫌そうな顔でそう返したが、少女はお構い無しにいろんな角度からセレーネを覗き込んでいた。まるで一番美しい角度を探している画家のようである。そんな少女をしばらく眉間に皺を寄せた状態で眺めていたセレーネだったが、ふと何かに気付いたように、少女を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。それから何度も少女と青年たちを見比べ、一言、
「……あなたは、違うんだね」
とだけ言って、ふ、と一瞬だけ、どこか安心したように表情が和らいだ。
「?」
それを見て、少女はどういう意味かとシェスカの方を見るが、シェスカもどういう意味なのかさっぱりわからない、と肩を竦めてせた。どうもセレーネという存在は不思議で謎めいている。
少女とシェスカが頭にクエスチョンマークを浮かべているのを気にもしていないのか、セレーネは少女の肩に軽くさっ、とゴミを払うように触れた後、「気をつけてね」とだけ言って、そのまますたすたとどこかへと行ってしまった。
「あの姉ちゃんお人形さんみたいにかわええのに、めっちゃ変な姉ちゃんやな……いつもあんな感じなん?」
「……さあ?」
いつもあんな感じと言われても、知り合って数日。それもろくに会話もしていなければ会ってもないので答えようがない。そんなふうに呆気にとられていると、少し離れた場所にいたレタたちがこちらを呼んでいた。
「うちのイリスが、ご迷惑かけてほんまにすんませんでした!」
一番年長らしい青年が少女の頭をがっと掴んで下げさせる。どうやら少女はイリスという名前らしい。
「私達は大丈夫です。イリスちゃん、もうたくさん荷物持ったまま走っちゃダメよ?」
「はいはーい!」
優しく諭すレタに、イリスが元気よく右手を上げて応えた。
「はい、は一回じゃボケッ!」
「あだっ!?」
年長の青年に拳骨を食らうイリス。痛そうではある。しかし彼らの中ではよくあることのようだ。いわゆるどつき漫才というものだろうか。
「ほんならねー! また会うことあったらよろしゅうなー!!」
そう言って、イリスたちは手を振って去っていった。
「私たちも帰りましょう、シェスカさん」
しばらく彼らを見守っていたレタがそう促した。それに頷いて、彼女の後ろを付いていく。
『あなたは、なにもの?』
セレーネの問いかけが頭から離れない。無理やり振り払うように、シェスカはその歩みを早めた。
******
夜。月は高く昇り、誰もが寝静まっているのか、アメリ城の中は静寂に包まれていた。
城の主──アメリ王オグマは、マイノス=ガラドの入口へと続く屋上へとやって来ていた。ここは庭園のように整備されており、かつてのエルフの都の姿を再現しているらしい。もっとも、他国から来た成り上がりの王であるオグマにとっては、どうでもいいことだ。しかし、わざわざ塔を見に観光にやって来る物好きが多く、それがこの国の経済の一端を担っているのだから、放っておくわけにはいかなかった。
マイノス=ガラドを見上げると、切れ込みのように空いた窓のような穴から、ちらちらと光が見え隠れしている。中では学者たちが寝るのを惜しんで発掘作業をしているのだろう。塔は特殊な石でできているらしく、中の音を全く漏らさない。故に、研究者共の耳障りな口論も聞こえない。さらにここは城下からも遠く離れているため、城下のさらにその下の街の喧騒すら聞こえない。
謂れやらはどうでもいいが、ここはとても静かで、落ち着く空間だ。
オグマは塔と空と、さらにはアメリを一望出来る場所に置いたベンチへと腰掛けると、髪を結んでいた紐を解いた。
長い髪がさらさらと背中へと落ちてくる感覚。引き締められた気分が少しだけ緩む気がした。圧迫感から開放された髪を軽く手で梳きながら、オグマは昼間に聞いたルシフェル・セラーフの話を思い返していた。
ここ最近の魔物騒ぎと、それを引き起こす鍵となる──シェスカ・イーリアス。先日、情報屋の少年と見た、凄まじい炎の魔術を使った少女。彼女が『賢者の石』の『器』であるという話。それから、それを狙う者達の話。普通に聞いたのならまるで信じられないような、出鱈目で滅茶苦茶な話だ。
「異世界に、魔族に、悪魔。まるで娯楽物語のようだ」
「信じ難いですか?」
側で控えていたゲニウス・レイヤースが片眼鏡をハンカチで拭きあげながら問い掛けてきた。
「お前がそれを問うのか、ゲニウス」
「ええ。きちんと覚えているか、確認しておかないといけないですからね」
「覚えているよ。それはもう一言一句ね」
「そうですか。それは安心しました」
片眼鏡を左目にしっかりと付け、彼は微笑んだ。忘れるわけがない。それがオグマと、ゲニウスの間に結ばれた契約だ。
「探し物は見つかったが、事は色々と複雑なようだ。お前はどこまで知っていた?」
「そうですね。『賢者の石』とその『器』の話まで。まさか私もここまでとは思っていませんでしたよ。せいぜい人間同士……いえ、アルダと言った方がいいですね。この中での争いで済むと思ってましたから」
あ、そうそう。ゲニウスは何かを思い出したかのように、懐をゴソゴソとあさり出した。
「キヤーナから預かったんですよ、休暇届け」
差し出されたヨレヨレの紙には確かに休暇届と書かれている。日程はかなり長期間で、しかも休暇開始は明日からと書いてある。紙の状態から見るに、提出されてから数週間は経っていそうだった。
「どうしましょっか~? 休ませてあげます?」
ゲニウスが意地の悪そうな笑みを浮かべる。いつもの事ながら、この男は他人をおちょくるのが楽しくて仕方ないらしい。オグマはやれやれと肩を竦めながら、
「当たり前だろう。当然の権利だ」
と答える。ゲニウスは少し残念そうに「はーい」と返すと、そのまま城の中へ戻る道へと歩いていく。オグマは休暇届から目を離し、ふぅ、と一息吐きながら、再び塔を見上げた。
「ゲニウス」
塔から視線を外さずに呼び留める。ゲニウスはその場でぴたり、と足を止めた。
「なんでしょう?」
「その休暇、お前も行ってくるといい」
「内緒のほうがいいですかね?」
「当然」
一度も振り返らずに、静かに二人は笑い合う。
「まずは厄介事を解決しないとね」
0
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