【完結】君に、生きる力を~公爵令嬢に裏切られ追放された王子は、巻き返しを図る

ノエル

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2 静養というなの追放

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王宮は、すでに静まり返っていた。
レオンは一人、玉座の間に呼び出されていた。
両親である国王と王妃が、厳かな空気の中で彼を見下ろすように座っていた。

「……そうか。クラリス嬢はガルナス王国のアデル王子と婚約を発表したのか」

国王の声音は淡々としていた。だが、その奥に、かすかな失望がにじんでいるのがレオンにはわかった。

「申し訳ありません。僕は……彼女の変化に、気づけませんでした」

かろうじてそう答えると、王妃が優雅に扇を口元に当てて、ふっと笑った。

「まあ、レオン。相手はあの強国の王子ですもの。あなたは悪くはないわ。ただ……仕方のないことよ。貴族女性は力に惹かれるものよ」

その言葉に、レオンの胸がしめつけられた。

「王子ともあろう者が、もう少し毅然と振る舞えなかったのか?」

国王の言葉は重く響いた。

「その場でクラリス嬢を取り返すくらいの気概があっても良かったのだ。相手が大国で我が国より力があるとはいえ、そこまで大きな差ではない。そんなに弱腰では、王としての威厳が疑われるぞ」

レオンは目を伏せた。言葉が出てこない。
自分の中でまだ整理もできていない感情を、今こうして、力の足りなさや不甲斐なさとして断罪されることが、何よりも、つらかった。

「おまえは……あまりにも純粋すぎるのかもしれんな。それに優しすぎる」

国王がふうとため息をつく。

王妃は微笑を絶やさないまま、立ち上がると、そっとレオンの肩に手を置いた。

「少し、辺境の別荘で静養なさいな。あなたは、少し疲れた顔をしているわ」


こんな気持ちのままで、王都を離れたくない。だがレオンは、何も言い返せないまま、唇を噛みしめた。


(レオンサマ! ワタシガイル! アナタノヨサハ、ワタシガシッテルワ!)



その晩、レオンは眠れずにいた。

王妃の笑顔、国王の口調、どれもいつも通りだったはずだ。だが、何かが引っかかっていた。
ふらりと寝間着のまま部屋を出たレオンは、人気のない廊下を歩いていた。
そんなとき、壁の向こうから微かに声が聞こえた。
ふと足を止め、そっと音のする方向――宰相の執務室の扉に近づく。


「……まさか、殿下を本当に辺境に送るとはな」

「仕方あるまい。早めに遠ざけておかねば、殿下が王位継承1位である以上、派閥が騒ぎ出す」

「でも、"静養"という名目で、実質の追放とは……あまりにも……」

「あの気弱な殿下に国を任せれば、あっという間に我が国は他国に飲み込まれてしまうだろう。そんなわけにはいかんのだ」


レオンの鼓動が跳ね上がる。
扉一枚隔てた向こうで、自分の“処遇”が語られている。
優しいと思っていた父と母。何も疑わず信じていた。

静養なんかじゃなかったのか。
僕は、追放されるんだ。
もう、ここへは戻れないんだ。


「……殿下には、騙されたと気づく暇もないだろう。今夜の一件で、心が砕けているからな」

「まさか、婚約すると思っていた令嬢にあんな形で裏切られるとはな……」

「正式に婚約をしていない以上、王家としては公爵家に抗議もできん。
公爵家も王家相手に失礼なことをするものだ。クラリス嬢が婚約を引き延ばしていたのは、ユリウス殿と両天秤にかけているのだと認識していた。だが、まさか他国の王子を選ぶとはな」


レオンは、膝が崩れそうになるのを必死で堪えた。
唇を噛み締め、音を立てぬようにその場を離れる。


自分を取り巻いていた人々の優しさは、仮面だった。
自分は、王としての器ではないと、皆がそう思っているんだ。
いや、存在そのものが邪魔になったのだ。
レオンの心から、何かが音を立てて崩れ落ちていった。



夜明け前の王宮。
まだ太陽も昇らぬ薄明のなか、ひとつの馬車が静かに動き出そうとしていた。
王子付きの侍従が手早く荷を詰め、護衛の騎士たちが配置につく。
誰もが淡々と任務をこなしている。けれど、そのどこかに、気まずさがあった。

レオンは、自室で最後の荷物を手に取り、黙って馬車へ向かった。

「レオン殿下、お気をつけて……」

侍従のひとりが声をかける。
だが、レオンはその言葉に反応を返さず、まっすぐ馬車へと乗り込んだ。
窓の外、王宮がゆっくりと遠ざかっていく。
そこは、自分が生まれ育った場所。
家族だと思っていた者たちと楽しく暮らしていた場所。語らい、笑い、助け合った。
だが今、そのすべてが嘘だったと思えるほど、心は冷え切っていた。

「……さようなら」

誰にともなく呟いたその声は、馬車の中に虚しく消えていった。


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