【完結】ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩きたい

ノエル

文字の大きさ
22 / 45

22 救出【健斗視点】

しおりを挟む
【山下健斗視点】


昼飯を食っていたら、「山下君、ちょっといい?」という、俺を呼ぶ声がした。
顔を向けると、エイの担任が教室の入り口で手招きしている。

「あなた、立花君と仲が良いよね?」
「いいですけど、何か?」
「ついさっき、立花君が高熱で早退したんだけど、鞄を置いて帰っているの。立花君のおうちまで、持って行ってくれないかな?」
「高熱ですか? 昨日は元気でしたよ」

俺は首を捻った。
昨日は放課後にエイの家に寄った。そして、エイとディープキスをした。なんなら、それ以上のことも少しだけした。風邪を引いていたなら俺にも移ってないか? 俺は元気なんだが。

「養護教諭の保田先生から聞いたの。インフルエンザだったら、他の生徒に移しちゃいけないでしょ。教室に戻らないまま、すぐに帰らせたって。立花君のおうち、知ってる?」
「知ってますよ。じゃあ、帰りに寄ってみます」
「山下君も、移るといけないわ。インターフォンを鳴らして、扉の前に鞄を置いて帰ればいいと思う」
「そうします」

どうも、妙な話だな。ちょっと、養護教諭の保田先生とやらに話を聞きに行ってみるか。


俺は、昼食を途中でやめて、保健室に行ってみた。そこには、扉の前でノブをガチャガチャ回している彩先輩と、それを見守る柔道部の男子生徒と1年生の女子がいた。

「あっ! 山下君、いい所に来た! ねえ、事務室に行って、保健室の鍵を借りてきて」
「保健室の鍵なんて、普通、生徒に貸さないでしょ」

正直、俺は彩先輩の発言に呆れた。保健室には、薬品とか注射関連とか、危ないものが一杯ある。普通、生徒に鍵を貸すなんて非常識なことはしないだろ。

「他の生徒には絶対貸さない。でも、あなたにはきっと貸してくれると思う。奥のベッドの部屋の鍵も借りてきて」
「ええ? なぜ、俺なら貸してくれるんですか?」
「この学校が私立だからよ。山下君のうちは、この学校で一番寄付金が多いの。絶対、あなたに弱いはずだわ。念のために、山下って名乗るのよ」

まさか、そんな理由で貸してくれるのか? なんか、頭がくらくらしてきた。

「急いで! 立花君が危ないかもしれないのよ! 立花君が中にいるのに、保健室に鍵をかけるっておかしいでしょ。今頃、立花君、保田先生の毒牙にかかってるかもしれないわ!」
「嫌だ! そんなの絶対に嫌です! 山下先輩、お願いします!」
「は? エイが中にいるんですか! すぐに鍵を借りてきます!」

早く、それを言えよ!
走り出した俺の背中に、
「忘れものを取りに行くとか、適当な理由をつけたらいいわよ」という彩先輩の声がかかった。


結果として、事務室の応対は、彩先輩の言った通りだった。
山下と名乗ると、呆気ないほど簡単に、保健室の鍵を貸してもらえた。親父に感謝だ。


保健室の扉を開けると、誰もいなかった。テーブルの上に、食べかけのカツサンドと紙コップが置かれていた。

「こっちで声がする」

柔道部が、奥の扉の前で皆に手招きした。

『お人形さんが反抗しちゃ、駄目なのよ? 先生の指に、歯型がついちゃったじゃない! メッ!』 

気味の悪い声が聞こえた。確かに誰かいるようだ。

「中の状態がわからないままに、突撃するわけにはいかないわね」

彩先輩が小声で言って、唇に人差し指を当てた。

頷き合って、皆で扉に耳をつけた。

『かわいい私のお人形さん。ほんと、かわいいなあ。今夜は私のおうちに行こ?』

ぞっとした。俺は迷わず鍵を開け、中に突入した。



目に入ったのは、ベッドの上に寝かされたエイ。その上に保田とみられる女がまたがっている。エイの首を絞めているのか? なんで、エイは動いてないんだ?

「……先生、何してんの?」

まさか、エイを殺してないよな? 俺は、自分の声の震えを自覚した。

「ちょっと! 立花君の上から降りなさいよ!」

背後から、彩先輩の怒鳴り声。俺は気を取り直して、エイの元に走った。
投げ出されていた手首を握ったら、脈があった。
良かった。安堵で座り込みそうになった。


「私のお人形さんに触らないでよ!」
「立花君の唇に、先生の口紅がついているんだけど? それ、どういうこと?」
「さっき、立花君に無理やりキスされたの! その時、ついたかなあ。えへへ」
「嘘言わないで! 立花君、意識ないじゃない! 何をしたの?」
「なーんだ。ばれちゃった? しょうがないなあ」
「岩田君、この女をベッドからおろして!」
「任せろ!」

柔道部は岩田という名前らしい。岩田先輩が保田の身体を背後から軽々と抱え上げた。
きゃあ、と甲高い悲鳴を保田が上げた。成る程、こういう力仕事のために、彩先輩は柔道部を連れてきたのか。

「あなたも一緒にお人形遊びさせてあげる! それならいいでしょ! 放して!」

ぎゃあぎゃあ暴れる保田を羽交い絞めにする岩田先輩。

その間に俺と彩先輩は、エイの状態を調べた。
首に絞められた痕がある。でも、息はしている。エイ、苦しかったな。でも、もう助かったぞ。俺はエイの手をぎゅっと握った。

「先輩、私、校長先生を呼んできます!」
「お願い!」

1年生の女子が走って部屋から出ていった。

親父に電話すると、エイの状態をいくつか質問され、すぐに連れて来いと言われた。救急車を待つより、教員の車でうちの病院に連れて行った方が早いらしい。

校長と教頭が飛んできた。
岩田先輩が、暴れながら叫んでいる保田を引き渡した。

2人は半狂乱の保田と意識のないエイを交互に見て驚愕している。

「校長先生。立花の意識がないんです。すぐにうちの病院に運んでください。父には連絡しました」
「わかった。手配する。玄関に車を回すから立花君を連れて来てくれ。隣の部屋に担架があるはずだ。できそうか? 無理なら……」
「できます」

彩先輩が被せ気味に答えた。

校長が頷いて、よろけながら出て行った。教頭も保田を引きずるようにして出て行った。

保健室の中で担架を探したが、みつからない。

岩田先輩が、自分なら肩に担いで運べる、と言う。でも、その運び方ではあまりに目立ってしまう。昼休み中だし、他の生徒たちに騒がれると面倒だ。
もう、これ以上のどんな精神的負担もエイにかけたくなかった。

結局、シーツでくるんで顔を隠し、横抱きで車まで運ぶことにした。

俺が運びたかったが、横抱きはかなり腕力がいるらしい。落としては危ないので、岩田先輩に任すことになった。自分の恋人の身体を人に託すことが、俺にはすごく情けなかった。

ふと目をやると、彩先輩は見たこともないほどの怒りの表情を浮かべていた。1年生の女子は泣いていた。どちらの気持ちもよくわかる。

体育教師のワンボックスカーにエイを乗せ、病院に向かった。もちろん、俺もついていく。後の3人は、校長室に行き、担任を交えて、保健室で見たことを説明することになった。

保田は警察に連れていかれたのか、姿が見えない。
午後の授業は、全学年自習になった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...