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22 救出【健斗視点】
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【山下健斗視点】
昼飯を食っていたら、「山下君、ちょっといい?」という、俺を呼ぶ声がした。
顔を向けると、エイの担任が教室の入り口で手招きしている。
「あなた、立花君と仲が良いよね?」
「いいですけど、何か?」
「ついさっき、立花君が高熱で早退したんだけど、鞄を置いて帰っているの。立花君のおうちまで、持って行ってくれないかな?」
「高熱ですか? 昨日は元気でしたよ」
俺は首を捻った。
昨日は放課後にエイの家に寄った。そして、エイとディープキスをした。なんなら、それ以上のことも少しだけした。風邪を引いていたなら俺にも移ってないか? 俺は元気なんだが。
「養護教諭の保田先生から聞いたの。インフルエンザだったら、他の生徒に移しちゃいけないでしょ。教室に戻らないまま、すぐに帰らせたって。立花君のおうち、知ってる?」
「知ってますよ。じゃあ、帰りに寄ってみます」
「山下君も、移るといけないわ。インターフォンを鳴らして、扉の前に鞄を置いて帰ればいいと思う」
「そうします」
どうも、妙な話だな。ちょっと、養護教諭の保田先生とやらに話を聞きに行ってみるか。
俺は、昼食を途中でやめて、保健室に行ってみた。そこには、扉の前でノブをガチャガチャ回している彩先輩と、それを見守る柔道部の男子生徒と1年生の女子がいた。
「あっ! 山下君、いい所に来た! ねえ、事務室に行って、保健室の鍵を借りてきて」
「保健室の鍵なんて、普通、生徒に貸さないでしょ」
正直、俺は彩先輩の発言に呆れた。保健室には、薬品とか注射関連とか、危ないものが一杯ある。普通、生徒に鍵を貸すなんて非常識なことはしないだろ。
「他の生徒には絶対貸さない。でも、あなたにはきっと貸してくれると思う。奥のベッドの部屋の鍵も借りてきて」
「ええ? なぜ、俺なら貸してくれるんですか?」
「この学校が私立だからよ。山下君のうちは、この学校で一番寄付金が多いの。絶対、あなたに弱いはずだわ。念のために、山下って名乗るのよ」
まさか、そんな理由で貸してくれるのか? なんか、頭がくらくらしてきた。
「急いで! 立花君が危ないかもしれないのよ! 立花君が中にいるのに、保健室に鍵をかけるっておかしいでしょ。今頃、立花君、保田先生の毒牙にかかってるかもしれないわ!」
「嫌だ! そんなの絶対に嫌です! 山下先輩、お願いします!」
「は? エイが中にいるんですか! すぐに鍵を借りてきます!」
早く、それを言えよ!
走り出した俺の背中に、
「忘れものを取りに行くとか、適当な理由をつけたらいいわよ」という彩先輩の声がかかった。
結果として、事務室の応対は、彩先輩の言った通りだった。
山下と名乗ると、呆気ないほど簡単に、保健室の鍵を貸してもらえた。親父に感謝だ。
保健室の扉を開けると、誰もいなかった。テーブルの上に、食べかけのカツサンドと紙コップが置かれていた。
「こっちで声がする」
柔道部が、奥の扉の前で皆に手招きした。
『お人形さんが反抗しちゃ、駄目なのよ? 先生の指に、歯型がついちゃったじゃない! メッ!』
気味の悪い声が聞こえた。確かに誰かいるようだ。
「中の状態がわからないままに、突撃するわけにはいかないわね」
彩先輩が小声で言って、唇に人差し指を当てた。
頷き合って、皆で扉に耳をつけた。
『かわいい私のお人形さん。ほんと、かわいいなあ。今夜は私のおうちに行こ?』
ぞっとした。俺は迷わず鍵を開け、中に突入した。
目に入ったのは、ベッドの上に寝かされたエイ。その上に保田とみられる女がまたがっている。エイの首を絞めているのか? なんで、エイは動いてないんだ?
「……先生、何してんの?」
まさか、エイを殺してないよな? 俺は、自分の声の震えを自覚した。
「ちょっと! 立花君の上から降りなさいよ!」
背後から、彩先輩の怒鳴り声。俺は気を取り直して、エイの元に走った。
投げ出されていた手首を握ったら、脈があった。
良かった。安堵で座り込みそうになった。
「私のお人形さんに触らないでよ!」
「立花君の唇に、先生の口紅がついているんだけど? それ、どういうこと?」
「さっき、立花君に無理やりキスされたの! その時、ついたかなあ。えへへ」
「嘘言わないで! 立花君、意識ないじゃない! 何をしたの?」
「なーんだ。ばれちゃった? しょうがないなあ」
「岩田君、この女をベッドからおろして!」
「任せろ!」
柔道部は岩田という名前らしい。岩田先輩が保田の身体を背後から軽々と抱え上げた。
きゃあ、と甲高い悲鳴を保田が上げた。成る程、こういう力仕事のために、彩先輩は柔道部を連れてきたのか。
「あなたも一緒にお人形遊びさせてあげる! それならいいでしょ! 放して!」
ぎゃあぎゃあ暴れる保田を羽交い絞めにする岩田先輩。
その間に俺と彩先輩は、エイの状態を調べた。
首に絞められた痕がある。でも、息はしている。エイ、苦しかったな。でも、もう助かったぞ。俺はエイの手をぎゅっと握った。
「先輩、私、校長先生を呼んできます!」
「お願い!」
1年生の女子が走って部屋から出ていった。
親父に電話すると、エイの状態をいくつか質問され、すぐに連れて来いと言われた。救急車を待つより、教員の車でうちの病院に連れて行った方が早いらしい。
校長と教頭が飛んできた。
岩田先輩が、暴れながら叫んでいる保田を引き渡した。
2人は半狂乱の保田と意識のないエイを交互に見て驚愕している。
「校長先生。立花の意識がないんです。すぐにうちの病院に運んでください。父には連絡しました」
「わかった。手配する。玄関に車を回すから立花君を連れて来てくれ。隣の部屋に担架があるはずだ。できそうか? 無理なら……」
「できます」
彩先輩が被せ気味に答えた。
校長が頷いて、よろけながら出て行った。教頭も保田を引きずるようにして出て行った。
保健室の中で担架を探したが、みつからない。
岩田先輩が、自分なら肩に担いで運べる、と言う。でも、その運び方ではあまりに目立ってしまう。昼休み中だし、他の生徒たちに騒がれると面倒だ。
もう、これ以上のどんな精神的負担もエイにかけたくなかった。
結局、シーツでくるんで顔を隠し、横抱きで車まで運ぶことにした。
俺が運びたかったが、横抱きはかなり腕力がいるらしい。落としては危ないので、岩田先輩に任すことになった。自分の恋人の身体を人に託すことが、俺にはすごく情けなかった。
ふと目をやると、彩先輩は見たこともないほどの怒りの表情を浮かべていた。1年生の女子は泣いていた。どちらの気持ちもよくわかる。
体育教師のワンボックスカーにエイを乗せ、病院に向かった。もちろん、俺もついていく。後の3人は、校長室に行き、担任を交えて、保健室で見たことを説明することになった。
保田は警察に連れていかれたのか、姿が見えない。
午後の授業は、全学年自習になった。
昼飯を食っていたら、「山下君、ちょっといい?」という、俺を呼ぶ声がした。
顔を向けると、エイの担任が教室の入り口で手招きしている。
「あなた、立花君と仲が良いよね?」
「いいですけど、何か?」
「ついさっき、立花君が高熱で早退したんだけど、鞄を置いて帰っているの。立花君のおうちまで、持って行ってくれないかな?」
「高熱ですか? 昨日は元気でしたよ」
俺は首を捻った。
昨日は放課後にエイの家に寄った。そして、エイとディープキスをした。なんなら、それ以上のことも少しだけした。風邪を引いていたなら俺にも移ってないか? 俺は元気なんだが。
「養護教諭の保田先生から聞いたの。インフルエンザだったら、他の生徒に移しちゃいけないでしょ。教室に戻らないまま、すぐに帰らせたって。立花君のおうち、知ってる?」
「知ってますよ。じゃあ、帰りに寄ってみます」
「山下君も、移るといけないわ。インターフォンを鳴らして、扉の前に鞄を置いて帰ればいいと思う」
「そうします」
どうも、妙な話だな。ちょっと、養護教諭の保田先生とやらに話を聞きに行ってみるか。
俺は、昼食を途中でやめて、保健室に行ってみた。そこには、扉の前でノブをガチャガチャ回している彩先輩と、それを見守る柔道部の男子生徒と1年生の女子がいた。
「あっ! 山下君、いい所に来た! ねえ、事務室に行って、保健室の鍵を借りてきて」
「保健室の鍵なんて、普通、生徒に貸さないでしょ」
正直、俺は彩先輩の発言に呆れた。保健室には、薬品とか注射関連とか、危ないものが一杯ある。普通、生徒に鍵を貸すなんて非常識なことはしないだろ。
「他の生徒には絶対貸さない。でも、あなたにはきっと貸してくれると思う。奥のベッドの部屋の鍵も借りてきて」
「ええ? なぜ、俺なら貸してくれるんですか?」
「この学校が私立だからよ。山下君のうちは、この学校で一番寄付金が多いの。絶対、あなたに弱いはずだわ。念のために、山下って名乗るのよ」
まさか、そんな理由で貸してくれるのか? なんか、頭がくらくらしてきた。
「急いで! 立花君が危ないかもしれないのよ! 立花君が中にいるのに、保健室に鍵をかけるっておかしいでしょ。今頃、立花君、保田先生の毒牙にかかってるかもしれないわ!」
「嫌だ! そんなの絶対に嫌です! 山下先輩、お願いします!」
「は? エイが中にいるんですか! すぐに鍵を借りてきます!」
早く、それを言えよ!
走り出した俺の背中に、
「忘れものを取りに行くとか、適当な理由をつけたらいいわよ」という彩先輩の声がかかった。
結果として、事務室の応対は、彩先輩の言った通りだった。
山下と名乗ると、呆気ないほど簡単に、保健室の鍵を貸してもらえた。親父に感謝だ。
保健室の扉を開けると、誰もいなかった。テーブルの上に、食べかけのカツサンドと紙コップが置かれていた。
「こっちで声がする」
柔道部が、奥の扉の前で皆に手招きした。
『お人形さんが反抗しちゃ、駄目なのよ? 先生の指に、歯型がついちゃったじゃない! メッ!』
気味の悪い声が聞こえた。確かに誰かいるようだ。
「中の状態がわからないままに、突撃するわけにはいかないわね」
彩先輩が小声で言って、唇に人差し指を当てた。
頷き合って、皆で扉に耳をつけた。
『かわいい私のお人形さん。ほんと、かわいいなあ。今夜は私のおうちに行こ?』
ぞっとした。俺は迷わず鍵を開け、中に突入した。
目に入ったのは、ベッドの上に寝かされたエイ。その上に保田とみられる女がまたがっている。エイの首を絞めているのか? なんで、エイは動いてないんだ?
「……先生、何してんの?」
まさか、エイを殺してないよな? 俺は、自分の声の震えを自覚した。
「ちょっと! 立花君の上から降りなさいよ!」
背後から、彩先輩の怒鳴り声。俺は気を取り直して、エイの元に走った。
投げ出されていた手首を握ったら、脈があった。
良かった。安堵で座り込みそうになった。
「私のお人形さんに触らないでよ!」
「立花君の唇に、先生の口紅がついているんだけど? それ、どういうこと?」
「さっき、立花君に無理やりキスされたの! その時、ついたかなあ。えへへ」
「嘘言わないで! 立花君、意識ないじゃない! 何をしたの?」
「なーんだ。ばれちゃった? しょうがないなあ」
「岩田君、この女をベッドからおろして!」
「任せろ!」
柔道部は岩田という名前らしい。岩田先輩が保田の身体を背後から軽々と抱え上げた。
きゃあ、と甲高い悲鳴を保田が上げた。成る程、こういう力仕事のために、彩先輩は柔道部を連れてきたのか。
「あなたも一緒にお人形遊びさせてあげる! それならいいでしょ! 放して!」
ぎゃあぎゃあ暴れる保田を羽交い絞めにする岩田先輩。
その間に俺と彩先輩は、エイの状態を調べた。
首に絞められた痕がある。でも、息はしている。エイ、苦しかったな。でも、もう助かったぞ。俺はエイの手をぎゅっと握った。
「先輩、私、校長先生を呼んできます!」
「お願い!」
1年生の女子が走って部屋から出ていった。
親父に電話すると、エイの状態をいくつか質問され、すぐに連れて来いと言われた。救急車を待つより、教員の車でうちの病院に連れて行った方が早いらしい。
校長と教頭が飛んできた。
岩田先輩が、暴れながら叫んでいる保田を引き渡した。
2人は半狂乱の保田と意識のないエイを交互に見て驚愕している。
「校長先生。立花の意識がないんです。すぐにうちの病院に運んでください。父には連絡しました」
「わかった。手配する。玄関に車を回すから立花君を連れて来てくれ。隣の部屋に担架があるはずだ。できそうか? 無理なら……」
「できます」
彩先輩が被せ気味に答えた。
校長が頷いて、よろけながら出て行った。教頭も保田を引きずるようにして出て行った。
保健室の中で担架を探したが、みつからない。
岩田先輩が、自分なら肩に担いで運べる、と言う。でも、その運び方ではあまりに目立ってしまう。昼休み中だし、他の生徒たちに騒がれると面倒だ。
もう、これ以上のどんな精神的負担もエイにかけたくなかった。
結局、シーツでくるんで顔を隠し、横抱きで車まで運ぶことにした。
俺が運びたかったが、横抱きはかなり腕力がいるらしい。落としては危ないので、岩田先輩に任すことになった。自分の恋人の身体を人に託すことが、俺にはすごく情けなかった。
ふと目をやると、彩先輩は見たこともないほどの怒りの表情を浮かべていた。1年生の女子は泣いていた。どちらの気持ちもよくわかる。
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