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35 目が覚めたらエイがいた 健斗視点
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【健斗視点】
目が覚めたり、また寝たりを繰り返し、俺はやっと覚醒した。目を開けるたびに、エイが手を握ってくれていた気がしたが、気のせいか?
まだあまり声は出ないが、なんとか頑張って、枕元にいた親父に聞いてみた。親父の言うには、それは気のせいではなく、エイはずっと付き添ってくれているそうだ。今は、母さんと食事に行っているらしい。
兄貴が病室に来て、転送しなかったエイのメールの件について謝罪してきた。
メールを読んでみると、俺はエイに忘れられていなかったし、振られてもいなかった。なんなら、すげぇ愛のメッセージまで書いてある。読んだ途端、俺の生命力が極限にまで拡大した。
兄貴は『ちょっとしたいたずらのつもりだった』と言っていたが、それは嘘だと、俺にはわかった。兄貴は俺に嫉妬したんだよな。そんなことを、わざわざ兄貴に言わねぇけどな。たぶん、親父にも母さんにもわかってる。わからないのはエイだけだろう。
兄貴は、エイのことを好きになったんだろ? わかるよ。俺もエイと最初に話した日、心臓を鷲掴みにされたからな。
エイに愛されている男がいると思ったら、嫉妬するよな。ああいうのが、スターとかカリスマとかいう存在なんだと思うぜ?エイと一緒にいたら、狂っちゃうよな。
俺はエイの傍にいて、痛いほどそれをわかってるから、俺は兄貴を責めないぜ。俺も辛かったけど、兄貴も辛かったんだよな。
エイもエイとそっくりな親父さんも、あいつら自分の影響力に気づいていないんだ。親父さんは、最愛の妻がいて良かったな。あんな男を野放しにしたらやべぇよな。だけど、最愛の妻の方は、しっかり自分を持ってないと、気を抜いたら狂っちまうかもな。
そう言えば、エイは俺に「浮気したな」とプリプリしていたが、大丈夫だろうか? 少し不安になってきた。
◇
食事から帰って来たエイは、俺が親父と話しているのを見て、「健斗がしゃべってる」と滂沱の涙を流した。
良かった、エイは、泣き虫に戻っているじゃねぇか。アメリカで過ごす中で、心が回復したんだな?
俺は、エイの涙を見ると、安心するような癖ができてしまった。親父と兄貴が連れだって食事に行き、母さんは仕事をするため会社に帰っていった。
二人きりになると、俺はエイと色んな話をした。まだ、俺はあんまりしゃべれねぇから、主にエイが近況を語ってくれた。
「エイ、俺も20歳になったし、エイももうすぐ20歳だろ? 退院したら、約束していた目隠しプレイをしようぜ」
掠れた声ながら張り切って言って、俺は期待の目でエイを見た。エイはすねた顔をした。
「先に性病の検査をしてくれ。聞いたぞ、健斗はたくさんの女の子と遊んでいたらしいな。誰とでもヤる奴は嫌いだ」
一瞬で身体が凍った。思い出した。なんで忘れていたんだろう。エイの言葉で、ずっと目を背けていた、自分の罪に直面した。
俺の軽率さで、華ちゃんの人生を台無しにしてしまった。俺と出会わなければ、華ちゃんは今も幸せに生きていたはずだ。20歳で殺人未遂犯になるなんて、一体これから華ちゃんの人生はどうなるんだ?
減刑を求める嘆願書は出すつもりだ。示談も成立すると思う。だからと言って、刑がなくなるわけじゃない。
「そうか、嫌われても仕方ねぇな。ところで、あの写真集は良かったな!」
俺は動揺を隠すために、話を逸らした。
◇◇◇
俺の状態が安定したのを見て、エイは一旦アメリカに帰っていった。冬休み前に、大学の期末試験があるらしい。
エイは、「両親と話し合いをして帰ってきます。日本の大学に行くことを反対されたら、親子の縁を切ります」と親父たちに宣言して帰っていった。なんか、すげぇな。
それから1週間して、親父の病院に転院した。
もうすぐ冬休みというのに、休みの半分は入院生活で終わりそうだ。暇なので、毎日リハビリに励んでいる。手足の筋トレもかかせない。もともと空手で身体を鍛えていたから、回復も人より早いみたいだ。この調子で行けば、初詣はエイと一緒に行けるかもしれない。
でも、ふとした時に考え込んでしまう。俺はこのまま、自分一人だけ幸せになっていいのだろうか?
誰に聞いても、幸せになっていい、というに決まってる。こんなことを聞かれたら、そう答えるしかないもんな。
それがわかっているから、敢えて誰にも聞かなかった。
◇
クリスマス直前にエイがアメリカから帰って来た。試験が終わったので、冬休みは日本で過ごすということだ。
「同性婚を反対されたから、親子の縁を切って来た。これからは好きなときに帰国できるよ。あっ、でも父さんとは和解したけど」と言って、朗らかに笑っていた。
ということは、母親とは縁を切ったままだな? それでいいのか?
エイと入れ替わりに、兄貴はアメリカに帰ろうとしたが、親父たちに「正月が開けるまで日本にいろ」と引き留められて帰れなかった。
エイから聞いた話だが、兄貴の奴、高校卒業時に、エイの親父さんから「2人が連絡を取り合えるように、健斗君のアドレスをエイに教えてやってくれ」と頼まれていたらしいな。
そんな話は、兄貴から一度も聞いてねぇぞ? 一連の件で、奴が要注意人物だといういうことは、よくわかった。
今度から、気をつけねばな。
まわりだけが変わっていく。だけど、俺の後悔と罪悪感はそのままだ。俺は華ちゃんの人生を狂わせて、どうやって償えばいいのか途方に暮れていた。
目が覚めたり、また寝たりを繰り返し、俺はやっと覚醒した。目を開けるたびに、エイが手を握ってくれていた気がしたが、気のせいか?
まだあまり声は出ないが、なんとか頑張って、枕元にいた親父に聞いてみた。親父の言うには、それは気のせいではなく、エイはずっと付き添ってくれているそうだ。今は、母さんと食事に行っているらしい。
兄貴が病室に来て、転送しなかったエイのメールの件について謝罪してきた。
メールを読んでみると、俺はエイに忘れられていなかったし、振られてもいなかった。なんなら、すげぇ愛のメッセージまで書いてある。読んだ途端、俺の生命力が極限にまで拡大した。
兄貴は『ちょっとしたいたずらのつもりだった』と言っていたが、それは嘘だと、俺にはわかった。兄貴は俺に嫉妬したんだよな。そんなことを、わざわざ兄貴に言わねぇけどな。たぶん、親父にも母さんにもわかってる。わからないのはエイだけだろう。
兄貴は、エイのことを好きになったんだろ? わかるよ。俺もエイと最初に話した日、心臓を鷲掴みにされたからな。
エイに愛されている男がいると思ったら、嫉妬するよな。ああいうのが、スターとかカリスマとかいう存在なんだと思うぜ?エイと一緒にいたら、狂っちゃうよな。
俺はエイの傍にいて、痛いほどそれをわかってるから、俺は兄貴を責めないぜ。俺も辛かったけど、兄貴も辛かったんだよな。
エイもエイとそっくりな親父さんも、あいつら自分の影響力に気づいていないんだ。親父さんは、最愛の妻がいて良かったな。あんな男を野放しにしたらやべぇよな。だけど、最愛の妻の方は、しっかり自分を持ってないと、気を抜いたら狂っちまうかもな。
そう言えば、エイは俺に「浮気したな」とプリプリしていたが、大丈夫だろうか? 少し不安になってきた。
◇
食事から帰って来たエイは、俺が親父と話しているのを見て、「健斗がしゃべってる」と滂沱の涙を流した。
良かった、エイは、泣き虫に戻っているじゃねぇか。アメリカで過ごす中で、心が回復したんだな?
俺は、エイの涙を見ると、安心するような癖ができてしまった。親父と兄貴が連れだって食事に行き、母さんは仕事をするため会社に帰っていった。
二人きりになると、俺はエイと色んな話をした。まだ、俺はあんまりしゃべれねぇから、主にエイが近況を語ってくれた。
「エイ、俺も20歳になったし、エイももうすぐ20歳だろ? 退院したら、約束していた目隠しプレイをしようぜ」
掠れた声ながら張り切って言って、俺は期待の目でエイを見た。エイはすねた顔をした。
「先に性病の検査をしてくれ。聞いたぞ、健斗はたくさんの女の子と遊んでいたらしいな。誰とでもヤる奴は嫌いだ」
一瞬で身体が凍った。思い出した。なんで忘れていたんだろう。エイの言葉で、ずっと目を背けていた、自分の罪に直面した。
俺の軽率さで、華ちゃんの人生を台無しにしてしまった。俺と出会わなければ、華ちゃんは今も幸せに生きていたはずだ。20歳で殺人未遂犯になるなんて、一体これから華ちゃんの人生はどうなるんだ?
減刑を求める嘆願書は出すつもりだ。示談も成立すると思う。だからと言って、刑がなくなるわけじゃない。
「そうか、嫌われても仕方ねぇな。ところで、あの写真集は良かったな!」
俺は動揺を隠すために、話を逸らした。
◇◇◇
俺の状態が安定したのを見て、エイは一旦アメリカに帰っていった。冬休み前に、大学の期末試験があるらしい。
エイは、「両親と話し合いをして帰ってきます。日本の大学に行くことを反対されたら、親子の縁を切ります」と親父たちに宣言して帰っていった。なんか、すげぇな。
それから1週間して、親父の病院に転院した。
もうすぐ冬休みというのに、休みの半分は入院生活で終わりそうだ。暇なので、毎日リハビリに励んでいる。手足の筋トレもかかせない。もともと空手で身体を鍛えていたから、回復も人より早いみたいだ。この調子で行けば、初詣はエイと一緒に行けるかもしれない。
でも、ふとした時に考え込んでしまう。俺はこのまま、自分一人だけ幸せになっていいのだろうか?
誰に聞いても、幸せになっていい、というに決まってる。こんなことを聞かれたら、そう答えるしかないもんな。
それがわかっているから、敢えて誰にも聞かなかった。
◇
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ということは、母親とは縁を切ったままだな? それでいいのか?
エイと入れ替わりに、兄貴はアメリカに帰ろうとしたが、親父たちに「正月が開けるまで日本にいろ」と引き留められて帰れなかった。
エイから聞いた話だが、兄貴の奴、高校卒業時に、エイの親父さんから「2人が連絡を取り合えるように、健斗君のアドレスをエイに教えてやってくれ」と頼まれていたらしいな。
そんな話は、兄貴から一度も聞いてねぇぞ? 一連の件で、奴が要注意人物だといういうことは、よくわかった。
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