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第1章 冤罪をかけられた王子
8 カイエルの目覚め
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カイエルが無実だったと証明されたことにより、国民の間では「なぜ最初にちゃんと調査をしなかったのか?」という疑問の声が広まった。
そして、国王と王妃に対する信頼が急激に低下した。
国王の側近や重臣たちも、適切に助言しなかったことを非難された。
カイエル王子は国民たちの間で、“見捨てられた悲劇の王子”と呼ばれるようになった。
王太子リオネルが、その公正な判断と適格な動きが高く評価されたことにより、かろうじて王家の威信は保たれた。
そうして、嫉妬した王子が妹王女を毒殺しようとしたという、恥ずべき疑惑は、払しょくされたのだった。
◇
カイエルは救出後、高熱を出ししばらく意識を戻すことはなかった。度重なる暴力と栄養不足で、身体を回復することができないのだ。病室に横たわるカイエルの姿は、まるで浮浪者か餓死者のようだった。
「許せ、カイエル」
国王は握りしめた拳を見つめながら、呟いた。
これが王族なのかと疑うような惨状に、頭を抱え込んだ。塔に幽閉されていた1年間の過酷さが、思いやられた。
国王の視線の中で、カイエルはゆっくりと瞼を開けた。
驚いた国王は、口を開くことができなかった。そんな国王をカイエルは表情のない瞳で見つめた。
「カイエル…お前を信じてやれなくてすまなかった。今、お前に何を言えばいいのか、わからない」
国王は迷いながら言葉を続ける。
「カイエル、私たちの過ちを許してほしい。お前を信じてやれなかったことを、深く後悔している。お前の無実は証明された。犯人はすでに捕らえている。どうか、私たちに償わせて欲しい」
カイエルは表情を変えることなく口を開いた。
「国王陛下。私は何も必要としていません。謝罪の言葉も不要です。今から私を塔に戻してもかまわないのです」
国王は息子の言葉に息を呑んだ。カイエルはなんの希望も持っていない。
自分たちは王子に酷いことをしたが、謝罪すれば元の関係に戻れるものと思っていた。
だが、それは甘い考えだった。
今後、息子に、“父上”と、呼んでもらえることはないのだと、この時に悟った。
救出から一月後。
王宮は少しずつ日常を取り戻していた。だが、カイエルは、未だ体力が回復せずに、ベッドで寝ている時間がほとんどだった。
王妃が北の塔に幽閉されているという報告を耳にしたときだけは、カイエルは嘆願書を書いて国王に届けさせた。あの塔は人間が住む場所ではない。
◇
二か月後。カイエルはほぼ健康を取り戻し、医師から、出歩く許可が下りた。
「護衛はいらない」
部屋の前に立っていた近衛騎士が、カイエルの護衛として一歩踏み出し、足を止めた。
第二王子として、常に守られる立場にいた彼が、彼らに“不要”と告げたのだ。
「王子殿下、それは王命に反します」
「それなら、陛下に伝えてくれ。護衛する必要もない王子だと」
騎士は言葉を失い、ただ身を引くしかなかった。
食卓の席にも、カイエルの姿はなかった。
「陛下。今後、第二王子殿下は部屋でお召し上がりになるそうです。その理由は告げられませんでした」
「そうか。もう我らを家族とは思えないのであろうな」
「それだけのことを、我々はしましたから、仕方ありません」
国王の言葉に、王太子が頷く。
「では、私たちだけで始めよう」
国王はそっとため息をついた。
彼らはここにいないカイエルとマリアンヌに思いを馳せた。そして、王妃。かつては一家5人で、楽しく食事をとっていたというのに。どこで道を間違えたのだろうか。
そして、国王と王妃に対する信頼が急激に低下した。
国王の側近や重臣たちも、適切に助言しなかったことを非難された。
カイエル王子は国民たちの間で、“見捨てられた悲劇の王子”と呼ばれるようになった。
王太子リオネルが、その公正な判断と適格な動きが高く評価されたことにより、かろうじて王家の威信は保たれた。
そうして、嫉妬した王子が妹王女を毒殺しようとしたという、恥ずべき疑惑は、払しょくされたのだった。
◇
カイエルは救出後、高熱を出ししばらく意識を戻すことはなかった。度重なる暴力と栄養不足で、身体を回復することができないのだ。病室に横たわるカイエルの姿は、まるで浮浪者か餓死者のようだった。
「許せ、カイエル」
国王は握りしめた拳を見つめながら、呟いた。
これが王族なのかと疑うような惨状に、頭を抱え込んだ。塔に幽閉されていた1年間の過酷さが、思いやられた。
国王の視線の中で、カイエルはゆっくりと瞼を開けた。
驚いた国王は、口を開くことができなかった。そんな国王をカイエルは表情のない瞳で見つめた。
「カイエル…お前を信じてやれなくてすまなかった。今、お前に何を言えばいいのか、わからない」
国王は迷いながら言葉を続ける。
「カイエル、私たちの過ちを許してほしい。お前を信じてやれなかったことを、深く後悔している。お前の無実は証明された。犯人はすでに捕らえている。どうか、私たちに償わせて欲しい」
カイエルは表情を変えることなく口を開いた。
「国王陛下。私は何も必要としていません。謝罪の言葉も不要です。今から私を塔に戻してもかまわないのです」
国王は息子の言葉に息を呑んだ。カイエルはなんの希望も持っていない。
自分たちは王子に酷いことをしたが、謝罪すれば元の関係に戻れるものと思っていた。
だが、それは甘い考えだった。
今後、息子に、“父上”と、呼んでもらえることはないのだと、この時に悟った。
救出から一月後。
王宮は少しずつ日常を取り戻していた。だが、カイエルは、未だ体力が回復せずに、ベッドで寝ている時間がほとんどだった。
王妃が北の塔に幽閉されているという報告を耳にしたときだけは、カイエルは嘆願書を書いて国王に届けさせた。あの塔は人間が住む場所ではない。
◇
二か月後。カイエルはほぼ健康を取り戻し、医師から、出歩く許可が下りた。
「護衛はいらない」
部屋の前に立っていた近衛騎士が、カイエルの護衛として一歩踏み出し、足を止めた。
第二王子として、常に守られる立場にいた彼が、彼らに“不要”と告げたのだ。
「王子殿下、それは王命に反します」
「それなら、陛下に伝えてくれ。護衛する必要もない王子だと」
騎士は言葉を失い、ただ身を引くしかなかった。
食卓の席にも、カイエルの姿はなかった。
「陛下。今後、第二王子殿下は部屋でお召し上がりになるそうです。その理由は告げられませんでした」
「そうか。もう我らを家族とは思えないのであろうな」
「それだけのことを、我々はしましたから、仕方ありません」
国王の言葉に、王太子が頷く。
「では、私たちだけで始めよう」
国王はそっとため息をついた。
彼らはここにいないカイエルとマリアンヌに思いを馳せた。そして、王妃。かつては一家5人で、楽しく食事をとっていたというのに。どこで道を間違えたのだろうか。
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