無才の刻印術師~転生したら魔術が使えなかったので刻印術を開発して無双する~

文月紲

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1.転生したけど捨てられたらしい

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 俺の人生は普通だった。
 一般的な家庭に生まれ、敷かれたレールをただ歩くだけだった。
 時に笑い、時に悲しみ、ただ時を刻むと共に生きる。
 人によっては幸せな人生だと思うだろう。

 俺も交通事故に巻き込まれるまでは、普通ではあるが幸せだと感じていた。
 そう、交通事故に巻き込まれるまでは。
 別に珍しいものじゃない。
 毎日起こる事故の被害者が不運にも俺だっただけだ。

 おそらく俺は地面に倒れているのだろう。
 衝撃が体を襲った次の瞬間には、痛みすら感じない状態で地面に倒れていた。
 意識が混濁して夢を見ているようだ。
 ただ、耳に入る悲鳴と怒号が現実だと俺に訴えている。

 ……俺は死ぬ。
 根拠はないが、俺は確信していた。
 走馬灯が脳裏に流れる。
 小学生、中学生、高校生……そして今年の春からの大学生。
 
 俺の人生は荒波が皆無だった。
 挑戦することなく、ただ無難な選択を繰り返す毎日だった。

 まあ比較的満足な人生だった……なんて俺は思うことが出来ない。
 膨大な後悔が俺を襲ったからだ。

 ピアノを続けていればよかった。
 サッカーをもっと真剣にやればよかった。
 絵をもっと描いていればよかった。
 勉強をもっと頑張ればよかった。
 好きな子に告白しておけばよかった。
 親孝行しておけばよかった。
 妹にもっと優しくすればよかった。

 ……あぁ……悔しい。
 濁流のように後悔が押し寄せてくる。
 くそ……本当に悔しいなぁ……。

 遠くから救急車のサイレンが聞こえた。
 助かる……とは思わない。
 もう俺は死ぬ。
 この世界から消えるのだ。
 
「つ……ぎの……じんせいは……がんば……ろう……」

 うわ言のように俺は口から零す。
 
 意識が暗転した。



***



 
 目覚めると、金髪の女性が俺を優しく覗き込んでいた。
 北欧系の顔立ちで、凄く美人だ。
 俺の人生の中でこれほどの美人は一度も見たことがない。

 ……ん?
 俺の人生の中?

 ……待て待て、俺は死んだはずだ。
 車に吹き飛ばされて死んだはずだ。
 なのに何で俺という人格がある?
 意味が分からない。

 あ、もしかして助かったのか。
 日本の医療は素晴らしいので、あり得ない話ではないはず。
 ただ、なぜ俺は北欧美人に覗き込まれているのだろうという疑問が出てくる。
 医者……でもない。
 看護師……でもない。
 豪華な服を着ているので違う。

 もっと、こう、ファンタジー的な……。
 色々と考えていると、女性が酷く焦った顔を浮かべて、良く分からない言語で叫ぶ。

「――! ――」
「――、――」

 すると今度は男が覗き込んできた。
 強面だが若くてかなりのイケメンだ。
 注意深く俺を観察している。
 一体全体なんなんだと思っていると、男の大きな手が迫って来た。
 反射的に目を瞑る。
 次の瞬間、俺は男に抱え上げられた。
 頭を支えられて自分の体が視界に入る。

 ……え?
 小さな体だ。
 まるで赤ん坊のような……。
 混乱する頭を落ち着かせて、冷静に自分の体を観察する。
 小さな足、まともな言葉を発せない声帯、クリームパンのような手。

 間違いない。
 俺は赤ん坊だ。

 つまり……俺は転生したのか。
 信じられないがまごうことなき現実だ。
 
 となると、この男と女性は俺の両親か。
 部屋の造りなどのも考えて、明らかに日本ではない。
 大方ヨーロッパのどこかだろう。
 漠然とそのような事を考えていたら、男が何やらブツブツと呟きだした。

「――、――。――」

 男が言い終える。
 突然、俺の体が光に包まれた。
 体の中を何かが通っている感覚がする。

 何が起こった……?
 男が呟き、翳した掌から光の粒子が出て、俺の体を包み込んだ。
 意味が分からない。
 まるで魔法のような……魔法?

 もしかして……ここは地球ではないのかもしれない。
 
 別の世界、つまり異世界の可能性がある。
 いや可能性どころか確信さえ持っている。
 なぜなら、男と女性が話している言葉が全く分からないからだ。
 俺は英語とフランス語は多少わかる。
 英語は中学から大学、フランス語は大学で学んでいるからだ。
 にも拘らず単語も何もが分からなかった。
 また、それだけではない。
 今度は女性が掌を上に向けて何もない場所から水を出現させた。

 ああ……本当に魔法だ。
 前世で思い描いていた魔法だ。

 もう疑いようがない。
 俺は、異世界転生したのだ。

 ……異世界転生か。
 とんでもないことになったな。
 不安はもちろんあるが、それ以上に俺は興奮していた。
 
 記憶を持ったまま二度目の人生を歩むというチート的な状況。
 魔法というファンタジーな存在があるという現実。
 興奮しないわけがない。
 
 しかも部屋が広くて豪華なので、かなり裕福な家に産まれたということだ。
 最低でも大きな商家、もしかしたら貴族の可能性も十分ある。
 こんなに幸運なことがあるだろうか。

 前世に心残りがないわけではない。
 家族や友人に会えないのは悲しいし、気分が暗くなってしまう。

 だが、これはチャンスだ。
 後悔しない人生を歩むチャンスなのだ。

 死ぬ間際、俺は死ぬほど後悔した。
 だから今世では後悔しないように生きる。

 本気で、全力で生きよう。

 俺は決意した。



***



 しとしと雨が降っている。
 夜中なので雨雲も相まって真っ暗だ。
 
 凍えそうなほど寒いわけではないが、雨が降っているので少し寒い。
 赤ん坊の体なので尚更だった。
 一応は毛布に包まれている。
 だが、長いことこのままだと死ぬだろう。

 せっかく異世界転生したのに……。
 憂鬱で陰険な感情が渦巻く。

 少し前までは豪華な部屋にいた。
 未来に希望を見ていた。
 しかし、どうやら勘違いだったらしい。

 俺は今、外にいる。
 籠に入れられて地面に置かれている。
 
 つまり、まあ、あれだ。

 ……どうやら俺は捨てられたらしい。
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