無才の刻印術師~転生したら魔術が使えなかったので刻印術を開発して無双する~

文月紲

文字の大きさ
2 / 2

2.孤児院に拾われた模様

しおりを挟む
 異世界転生したら捨てられた。
 あまりにも唐突で混乱するばかりだ。
 また俺は死ぬのかと絶望していたのだが、幸運なことにまだ生きている。

 おそらく孤児院に拾われた。
 両親の親心なのか、俺を捨てた場所がちょうど孤児院だったのだ。
 まあ、親心があるなら捨てるなと声を大にして言いたいのだが。
 
 結局、俺は交通事故で死んで貴族に異世界転生した、と思ったら捨てられて可哀そうな孤児になった。
 なんとも急展開な状況だ。
 というか何で俺は捨てられたのだろうか。
 望まぬ出産だったのか?
 いや、最初は笑顔だったから違う。
 切っ掛けは、母親と思われる女性の焦った表情と声に違いない。

 その後に父親と思われる男が俺を抱えて、魔法のようなもので何かを確認した。
 で、俺は捨てられたのだ。
 つまり、捨てられた原因は俺の体にある。
 障害か疾患か……魔法がある世界だから、魔法的な問題の可能性もぬぐえない。

 はぁ……。
 この世界における孤児の立場が分からないが、良い立場でないことは確かだ。
 また、孤児院の経済状況も気になる。
 建物を見た感じは、決して不衛生でもみすぼらしくもない。
 清潔感もあっていい感じだ。
 だから金銭的に困っていることはないのだろう。

 となると、収入源はなんだろうか。
 商売の利益……は孤児院なので違う。
 考えられるのは、どこからか金銭的な支援を受けていることくらいだ。
 もしかしたら孤児院は国営で、税金によって運営されているのかもしれない。

 それならば安心である。
 無事に俺も成長できる。
 ただ、問題なのは将来の事だ。

 まだこの世界について何も知らないとはいえ、いつかは孤児院を出る必要がある。
 つまり……仕事をするということだ。
 まあそれはいい。
 無職になるつもりはない。
 だが、興味ない仕事はしたくはなかった。

 興味の有無もそうだが、死の危険がある仕事も嫌だ。
 この世界では長生きしたいからな。
 
 その一方で、冒険心や好奇心もある。
 せっかくの異世界なのだから、多少のリスクを負ってでも挑戦したい。

 安定と挑戦。
 両方がせめぎ合っている。

 とはいえ、将来の事を考えるのはもう少し後で良いだろう。
 今は無事に成長しなければいけない。

 幸いにも良い環境だ。
 俺を世話してくれる女性も優しい。
 なんというか……母性がある。
 体が赤ん坊だからか、暖かくて安心感を抱かせてくれた。
 
 ただ、一つ問題がある。
 食事の時間……つまり、母乳を飲む時間がちょっと嫌だった。
 赤ん坊なので当たり前とはいえ、人格は十九歳なのだ。
 かなり抵抗がある。

 だが、飲まないわけにはいかない。
 生きるためには仕方がないことだ。

 なので俺は抵抗感と罪悪感を覚えながら、仕方がなく飲むのだった。



***



 転生してから一か月が経過した。

 相変わらずの母乳生活だが、もうすっかり慣れてしまった。
 多分、俺に母乳を与えている人は乳母のような人なのだろう。
 どこか手馴れている様子だった。

 孤児院には院長と先生のような大人が三人常駐している。
 院長は穏やかな爺さんで、三人の大人は中年の女性だ。
 全員がベテランなのだろう。
 腕白な子供たちを上手くさばいていた。

 子供たちは何人いるか分からないが、小学校低学年あたりの年齢が多い気がする。
 当たり前のことだけれど、一定の年齢に達したら孤児院から出なくてはいけないに違いない。
 
 言語はもちろん日本語でも英語でもない、全く知らない言語だ。
 そしてまだ一か月しか経っていないので、何を言っているのかさっぱりだった。
 まあ時間が経てば、成長と共に自然と覚えるだろう……多分。

 今は暇を楽しみながらじっとしておこう。
 いずれは忙しくなるだろうからな。



***



 転生してから半年が経過した。

 特に変わったことは無い。
 少し俺の体が成長したくらいだ。

 あ、一つだけあったな。
 孤児院から出ていった人がいたんだった。

 もちろん、家出とか追い出されたとか不穏なものじゃない。
 ただ単に一定の年齢に達したから、卒業という形で出ていったのだ。
 おそらく今は自立しているのだろう。
 
 また、ちょくちょく顔を出しに帰ってきているので、さほど出ていった感覚はない。
 いずれは顔を出す回数も少なくなって来なくなるのだろう。
 そんなもんだ。

 俺はどうだろうか。
 出ていくときに感傷に浸れるだろうか。

 ……まっ、後で考えよう。

 今は眠い。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

処理中です...