剣狂いの転生~バケモノ相手に剣一本で挑む~

文月紲

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2.転生したらしい

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 視界がぼやけている。
 体が上手く動かない。
 声も赤ん坊のような呻き声しか出せない。

 俺の身に何が起きているのだろうか。確か……俺は魔物に胸を貫かれて死んだはずだ。しっかりと覚えている。夢でも幻でもない。

 じゃあなぜ俺は意識がある? もしかして凄腕の魔術師がいて治してくれたのだろうか。視界も、体が動かないのも、声も怪我の後遺症によるものなのだろうか。

「――、――」

 誰かの声が聞こえる。これも怪我の後遺症か分からないが、何を話しているのか分からない。耳を凝らしていると、体が浮かび上がった。
 
 浮かび上がった、というか持ち上げられたと言う方が正しい。恐ろしく顔が整った女性が俺を抱え上げていた。

 俺が今まで生きてきた中でこれほどの美人は一度も見たことがない。美人と街中で評判だった大商人の娘も、冒険者の中で人気だった女冒険者も、俺の目の前に女性に比べれば普通だ。

 誰だこの女性は。というか男の俺を抱え上げるなんて、どれほどの腕力を持っているんだ。困惑と戸惑いに満たされた俺はふと横を見る。

 姿鏡が壁に立てかけてあった。自分の姿を確認するために、俺はぼやける目を凝らして鏡に映っている自分を見る。

 小さな体……短い手足……大きな目。

 そんな筈はないと思いながら、俺は何度も目を瞑っては開いて鏡を見た。だが何度見ても変わらない。間違いなく俺は赤ん坊の姿だった。

 赤ん坊……赤ん坊か……。一体全体どうなっているんだ。俺はあのクソ魔物に殺されたんじゃないのか。あいつらがいる死後の世界へ行ったのではないのか。

 ぐるぐると思考が渦巻く。いくら魔術が発達していたとはいえ、生まれ変わるなんて聞いたこともない。馬鹿な話だと一蹴しようとして……引っ掛かりを覚えた。

 ……そういえば聞いたことがある。記憶を保持したまま生まれ変わるというお伽話を聞いたことがある。確か……転生というものだ。

 如何せん昔に少し聞いた程度だから詳しくは覚えていない。が、そのお伽話の中で転生という概念があったことは覚えていた。

 肉体こそ違うが、俺という人格は確かにある。今まで生きてきた二十五年間の記憶も残っている。紛れもなく俺は俺だ。

 生まれ変わり……つまり転生したと考えてもいいだろう。この体に俺という存在が入ったのか、もとからこの体は俺という存在なのかという問題は多々ある。

 しかし、正直俺にとってはどうでもよかった。どのような形であろうと、俺という人間が存在することには変わりないのだ。

 仮に俺がこの体の人格を押しのけて入ったとしても……やはりどうでもいい。気にするほど俺はお人好しじゃないし、善人でもない。

 重要なのは、俺が俺という人格を持って今生きているということだった。

 心の中で勝手に結論付けると、ようやく転生したという実感が湧いてくる。

 そうか……転生したのか……。歓喜、興奮、狂気……今度は感情が渦巻いて心と体が震える。小さな体に巨大な欲望を宿している感覚になる。死に際に残った後悔を押し出すようにして、狂気が溢れ出てきた。

 今、俺はどのような顔をしているのだろうか。もしかしたら、赤ん坊らしくない狂気的な笑みを浮かべているのかもしれない。

 だが、仕方がなかった。また一から人生を歩めるということ他ならないのだ。喜ばないのは転生させてくれた奴に失礼だろう。

 なので俺は感謝をする。感謝をして……自分の心の赴くままに二度目の人生を生きる。全ては己と剣の為に。この二つ以外は総じて些事だ。

 また、どのような世界であろうとも俺は剣に捧げる。それが俺という人間の存在意義であり、心の底から望んでいることだからだ。

 ……心が未だに震えている。いつ治まるか分からないが、己の深淵を震わしているのはこの上なく心地いい。

 あぁ……最高だ……。声帯が機能していたら延々と笑っていただろう。

 初めて己の人生に光が見えた。この体に才能があるか分からないが、少なくても前世の俺よりかはマシなはずだ。

 ありがとう俺を転生してくれた奴。ありがとう俺という存在。

 そして待ってろ世界。

 剣に魅せられ、剣に狂い、剣に捧げた俺という人間が往くぞ。


 ……何人たりとも邪魔はさせない。

 これは……俺の物語だ。
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