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第三十七話 ゾッテ村(2)
しおりを挟む「なんだか随分と静かね」
「時間的に混み合う時間じゃないにしてもやけに人が少ないな」
ギルドのなかを見渡すと、数人の冒険者が依頼書の貼られている掲示板を眺めている以外は、併設されている酒場で昼間から酒を飲んでいる冒険者が数組いる程度だ。
むしろ、ギルド職員の数の方が多いくらいに思える。
「こんにちは。本日はどう言ったご用件でしょう」
「ベイクの町から来た冒険者パーティーの《黒猫の集会》です。うちのギルドマスターから手紙を預かって来ました」
「そうですか。遠いところご苦労様です。手紙の方、お預かりします」
受付嬢はクロイスから手紙を受け取り、中身を確認すると、顔を驚きの表情に変えた。
「も、もしかして『聖女』様のおられるパーティーですか!?」
「え、聖女様??」
「すみません!すぐに戻りますので少々お待ちください!!ギルマス!ギルマスーーー!!!」
「ええ・・・」
受付嬢のあまりのテンションと唐突な展開に口を半開きで固まるクロイス。
そのやり取りを見ていた他のメンバーも、目をパチクリさせながら、ゆっくりと私の方を見る。
「聖女って?」
「いや、私に聞かれても」
マリさんが私にそう問い掛けてくるが、聞かれても困る。私も知らないよそんなの。
何となく予想が出来ないわけでもないだけに、この後の展開がどうなるのかとても不安で仕方がない。
「おい、ナナ」
「は、はい!」
固まっていたはずのクロイスが眉間に皺を作りながら振り返り、私に向かって説教のような口調で話し始めた。
「絶対に余計な事は言うなよ。出来れば終始黙ってろ」
「はい!了解であります!」
よし、何も言わないぞ。
私は何も言わないぞ。
回避できる面倒ごとは回避しておかないとね。
「お、お待たせして申し訳有りません!」
そんな時、受付嬢が戻ってきた。
「ギルマスが皆様とお会いするとの事ですので、私がご案内させていただきます」
「そうですか。わかりました」
そう言って私を睨みつけるクロイス。
わかってるって。何も言わないから。
心配性だなぁ、もう。
「では聖・・・いえ、ナナ様、それとメンバーの皆様、こちらです」
「・・・・」
いや、だから睨まれても知らんし。
それより、聖女ってやっぱり私のことっぽい。
ベイクの町でハイヒール(実際はただのヒール)を使ったのが知れ渡ったからなんだろうけど、まさかその程度で聖女とはね。
そのうちミランダちゃんも使える様になる予定だよ?
その辺、あとでクロイス達に確認しておこう。
「ギルマス、お連れしました」
「通してください」
そんなことを考えているうちに、私達はギルマスの部屋へ到着した。
部屋の中に入ると、そこには20代後半から30代前半くらいの女性が1人立っていた。
「《黒猫の集会》の皆さん。突然お呼び立てして申し訳有りません。私はこのギルドのギルドマスターをしています、ヘレンと言います。どうぞ、そちらにお掛けください」
どうやらここのギルドのギルドマスターは女性らしい。
しかも、若くて腰が低い。
ギルドマスターなんだから、冒険者相手にそんなに下手に出る必要はないと思うんだけど。
ギルドマスターと言えば、冒険者上がりのオッサンか、長老的な老人がなるようなイメージがあったので、私はそんなヘレンさんの対応に少し驚いていた。
「では、お呼びして早々申し訳ないですが、早速本題に入らせていただいてよろしいでしょうか」
「魔物の調査と討伐についてですよね」
「いえ、それもあるのですが・・・」
「ん?他にも何か?」
私達は、このゾッテ村の冒険者ギルドのギルドマスターである、ヘレンさんから、意外な依頼を受けることになった。
「聖女様のお力とそのご威光で、村人達の説得をお願いしたく」
「説得??」
「はい。この村を諦めてほしいと」
「は??」
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