助けたキツネが恩返しにきました。もふもふはいるだけで幸せです。

三園 七詩

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5.ただいま

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「じゃ、お先に」

俺は仕事を終えると同僚に軽く挨拶をした。

「あれ?今日はやけに早いな、いい人でもできたのか?」

ニヤニヤと好奇心の籠った視線を向けられる。

「そんなんじゃないよ」

まさかキツネの子が待ってるとも言えずに曖昧に笑って家路へと急ぐ。

しかし帰り道、いつもなら目に入らないお店に目を向けた。

そこには熱々の串焼きが並びいい香りを放っていた。

あれをココが食べたら美味しくて驚くんじゃ…

目をまん丸にして口いっぱいに頬張るココの姿が目に浮かぶ。

俺はクスッと笑ってしまい、慌てて顔を隠すと店へと向かった。

「おやじ、串焼き二本」

「はいよ!兄ちゃん買ってくれるの初めてだな!」

店のおやじは大きい串を特別だと選んでくれた。

「ありがとう」

「まいど!また来てくれよ!」

おやじにお礼を言うと串焼きを大事に抱えて小走りに家へと向かう。

家の前につくといつもなら躊躇なく開ける扉に何となく緊張する。

ただいま…って言った方がいいよな。

よし!

覚悟を決めて扉に手を伸ばそうとすると…

バンッ!

先に扉が開いた!

そばに立っていた俺は思いっきり扉にぶつかってしまう。

「うわっ!」

「わー!ジャック大丈夫!」

扉を開けたのはココでぶつかった音に驚きあたふたとしていた。

「大丈夫、大丈夫。驚いただけだよ」

「よかった~」

なんともないとわかると満面の笑みで足元に抱きついてきた。

「ぼくね、掃除したの!それにねご飯も取ってきた!あとねあとね!」

次から次へと言葉が飛び出してくる。

「わかったよ、とりあえず中でゆっくり聞かせてくれ」

「うん!あっおかえり!」

「た、ただいま」

ココに当たり前のように家に迎えられる。

なんか自分の家がいつもより明るく感じた…が、中に入って驚いた。

家具は端に寄っていて布団はぐちゃぐちゃに丸まっており、しまいにはなんか変な臭いまでする。

「こ、これは…」

衝撃に固まっているとココが嬉しそうに服を引っ張った。

「ぼくね、部屋きれいにしたの!」

どうだと部屋を自慢げに見せてきた。

これは、ここなりの整理整頓らしい。

「そ、そうか。ありがとうな、でも一人だと危ないからやる時は俺がいる時にしような」

「わかった!」

ココは気にした様子もなくうんうんと頷いてくれる。

「それでこの臭いはなんだ?」

「あっ!ご飯」

ココがキッチンまで俺を引っ張るとそこには色んな形と色のキノコが置いてあった。

「こ、これは…」

「ご飯だよ!美味しいの」

ココは紫色のまだら模様のキノコを掴むとガブッと一口で食べてしまった。

「あっ!」

止めようと手を伸ばしたが遅かった。

「ココ!大丈夫か!吐き出せ」

手を差し出すがココは美味しそうにモグモグと口を動かしている。

「ほほひいほ?」(美味しいよ)

俺が慌てる様子に意味がわからないのか首を傾げた。

「大丈夫なのか?気持ち悪くないか?」

「うん!いつも食べてるもん」

「うそ…これ食べられるのか?」

俺はどう見ても毒のありそうなキノコを掴んだ。

「これ森のみんな大好きだよ!なかなかないから今日はうれしいの」

どうも珍しいキノコらしく取れて幸運だと言いたいらしい。

「そうか、じゃあ焼いて頂こうかな。そうだ今日は俺からもお土産があるんだ」

俺は串焼きをココに見せた。

「それなに!いい匂い…ジュル」

美味しそうだと目がキラキラとしている。

「待て待て、キノコを焼いてから一緒に食おう。ココは…そうだな机を拭いてくれるか?」

「わかった!」

ココはベチャベチャに濡れた布を絞って机を拭くが絞りが甘く机は濡れている。

「あれー」

ココはなんでだろと何度も何度も机を拭いてくれていた。

「ココおいで」

俺は苦笑してキノコを焼きながらこっちに来いとココを呼ぶ。

「なーに?」

「かしてごらん」

布を受け取るとしっかりと水を絞ってやる。

「これで拭いて」

「わかった」

ココは今度はしっかりと机を拭いてくれた。

キノコも焼き上がり串焼きも一緒に並べて夕食にする。

「じゃあいただきます」

「いただきます!」

ココは一緒に手を合わせるとまずは串焼きを掴んだ。

「串が付いてるから気をつけろよ」

「うま!うま!」

ココは聞いているのかお肉に夢中でかぶりついていた。

俺はココが取ってきてくれたキノコを取ってじっくりと見つめる。

焼くといい香りがして美味しそうに見えた。

ココも食べてたし…死にはしないよな。

せっかく取ってきてくれたのに食べない訳にはいかないと少しだけ端をかじった。

「ん、美味い!?」

見かけよりもかなり美味い!

「本当?」

いつの間にかココは手を止めて俺が食べているのをじっと見ていた。

「ああ、取ってきてくれてありがとうな。でも大変だから無理しなくていいんだぞ」

「大丈夫!よかった…ココ役にたてた?」

「え?ああ、もちろん」

その言葉にココは満足したのかまた食事に夢中になっていた。
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