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二章 夜市編
二章9 迷い道
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妖花達は出口を目指して歩いていた。その間、一つ目小僧にこの世界のものを教えてもらっていた。
「いろいろあるんですね」
「うん、ここは夜市だからね。なんでも売ってるよ」
そう言って立ち寄った屋台の店主に話しかける。
「悪いね、少し寄ってもいいかな?」
「かまわんさ、かまわんさ」
「じゃあ遠慮なく。3人とも、来てみて」
そう言われて屋台に行くと何やら水晶玉がたくさん置いてある。
そして一つ目小僧は水晶玉のような丸い玉を指差す。
「これは記憶の玉。少し覗いてみてよ」
「じゃあ私が見てみる」
そう言われて妖花は片目を閉じてその記憶の玉と呼ばれる玉を覗き込む。
すると玉に映像が流れる。誰かの記憶だろうか、何やら妖怪が佇んでいる。
「何か見えたかい?」
「えっと…妖怪が見えます」
「うんうん、これはね。玉に記憶を詰める道具なんだよ。どんな記憶でも詰むことができるんだ」
記憶を詰めるものか…これは私たちの世界で言う動画のようなものなのかな。
「まぁ、俺たちは君たちの持っている携帯やらは持ち合わせていないんだよ」
「携帯を知ってるんですか!?」
3人は驚いた声を上げる。
携帯を知っているということは他の人間世界にあるものも知っているのかな?
妖花はそう思った。
「驚くことじゃないさ、みんなも俺たちのことを知っているだろ?それと同じさ、俺たちもたまに人間の世界に行くことがあるのさ」
「そうなんですか。じゃあ人間の文化も知ってるんですね」
「もちろんさ。妖怪の中には人間の作るものを持ち帰ってくる者もいるくらいさ」
そんなこともしているのか。たしかに人間も妖怪のことを知っている。多分それはこの世界に人間が来たことがあるからだろう
「おーい、次行くってさー」
柳に呼ばれてその屋台を後にする。妖花がその屋台から離れた後、屋台の店主が不敵な笑みを見せていた。それに妖花は気付くことはなかった。
「次はここさ」
そう言われてやってきたのは食べ物を売っている店だった。
湯気がでており、何か温かいものを売っている店ということはひと目で分かった。
「おやっさん。鬼熟おでんを一つくれ」
その声に店主の妖怪が反応した。
「あいよ」
そう言いながら木でできたお玉で何かをすくい上げてお椀に入れると「へい、おまちどう」と言って一つ目小僧に渡した。
「どうも、ありがとね」
お礼を言ったあと小走りでやってきた一つ目小僧は二つお椀を持って現れた。
「あの、これは…?」
神楽がそう聞くと一つ目小僧は笑顔で答える。
「これは鬼熟おでんさ。ここでしか食べられないよ、妖怪たちはこれが大好物さ」
そう言ってお椀をこちらへと渡してきた。それを受け取り、中を見るとそこには見たこともないような具材が入っていた。ほろほろとした何かの肉や緑色のこんにゃくのようなものなど5種類の具材が入っていた。
「さあさあ、食べな、食べな。冷めないうちにさ」
「え、じゃあ3人で分けよっか」
神楽の提案でとりあえず妖花が最初に食べることになったので、神楽からお椀を手に取ろうとした時…
「きゃっ!」
「おいおい、大丈夫かい?」
「ありがとう。でも大丈夫です、すみません落としちゃって」
妖花は誤って鬼熟おでんを落としてしまった。美味しそうだったおでんは見る影なく砂塗れになってしまっている。
「本当にすみません。落としてしまって」
「悪いのは私だよ、本当にごめんなさい」
2人で謝ると一つ目小僧は笑顔で答える。
「いいよ、いいよこれぐらい。たしかにもったいないかもしれないけどね。2人に怪我はない?火傷とかしてない?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「じゃあ俺のほうはさっさと食べるから次にいこうかね」
3人はまた並んでついていく。一つ目小僧は笑顔を変えずに接していた。
「いやー、本当になんでも売ってるんですね」
柳が興奮気味で答える。
「まぁね。それが夜市なのさ。夜市はそこがいいところなんだ」
誇らしげに言う一つ目小僧はドヤ顔を見せている。
「よしよし、ここもいいところなんだよね」
そう言って入った店には人形やら玩具が所狭しに並んでいる店だった。
「ここは様々な玩具やらが売ってるんだ。例えばこれ」
そう言って手に取ったのは何やら駄菓子屋にでも売っていそうなコマだった。
「これはね、よっと!」
一つ目小僧がそのコマを投げるとコマは浮き、そして一つ目小僧の人差し指の上に乗っかった。
「おぉ!すごーい!」
「これはコマはコマでも自分の意思で動くコマなんだ。こんなの人間の世界にはないだろう?」
「はい!こんなの見たことないです」
「そりゃーよかった」
皆の反応を見て一つ目小僧も嬉しそうだった。
「これは何ですか?」
神楽が指を指したのは何やら桃色の固形の物だった。
一つ目小僧に聞くとそれに店主が答える。
「これは紙吹雪さ」
そう言われて神楽は首を傾げた。
「紙吹雪?それってよく私たちの世界で言う祝い事とかに使われる物のことですか?」
「いやいや、違うよ。まぁわからないのも無理はないだろうねー」
「何何、何してるの?」
柳が神楽が話していたところに割り込んできた。
「いや、これが紙吹雪っていうものらしくてね」
「へー、これがね…」
2人の話を妖花は他のものを見ながら聞いていた。
「これはね、こうやって使うんだよ」
店主が店の前に出てきてその紙吹雪と呼ばれる物を手に取って上に投げた。
「おぉ」「何?」
2人は何が起こるのかと店主に注目する。
「こうなるのさ」
上に投げた紙吹雪と呼ばれる物は「ポン」と音を立てて小さい爆発音が聞こえた。すると店主の姿が見えなくなった。
「あれ?さっきまでいたのにどこに…?」
柳がそう言いながらあたりをみわたすも店主の姿はない。
すると店の中から「ポン」と音がして振り返るとそこに店主が立っていた。
「あれ!?さっきまでそこにいたはずなのに」
「これがこの世界での紙吹雪。瞬間移動できるんだよ、すごいだろ」
「はい!すごいです!」
目をキラキラさせながら夢中な柳を見て少し笑みが溢れた妖花だった。
「じゃあそろそろ行こうか」
一つ目小僧からそう言われて3人はその店を後にした。
そんなことをしながら私たちは門を目指した。
「あの、その門はまだなんですか?」
神楽がそう聞くともうそろそろだと言っている。たしかに大きな門が見えている。多分あそこなんだろう。
「ついたよ、ここさ。ここが門」
そう言われてきたのは先ほど見えていた大きな門。赤色の門は見るだけでも圧倒されてしまう。それほどまでにこの門の存在感はすごいものだった。
「これはまたすごいですね」
「そうだろう?これはこの辺じゃ一番でかい門さ。ここからなら出られるよ」
「今まで本当にありがとうございました」
3人でそう告げた。
すると一つ目小僧は照れているのか頭をポリポリとかいている。
「それじゃあ誰からいくさね」
最初に一つ目小僧に言われたとおり1人ずつ門に入ることしかできないため順番を決めることになった。
「どうする?」
誰からこの門に入るのかを話し合おうと言うことになり、とりあえず神楽、柳、妖花の順番で入ることになった。
「じゃあそれじゃあ私、いくね…」
そう言って門に入ろうとした時一つ目小僧が3人に待ってくれと言った。
そう言われて一つ目小僧の方まで行くと小声で一つ目小僧がそっと呟いた。
「人間の持ち物は結構高値で売れるんだよね」
「そうなんですか、それがどうかしたんですか?」
すると一つ目小僧が不敵な笑みを浮かべながらそっと伝える。
「だから、ここに連れて来た礼として何かもらえないかな?」
3人は驚愕した。それが狙いだったのか、だから優しくもてなしたのかと。
「あげると言ってもなにもないですよ?」
「服でもいい、靴でもいい。なんでもいいんだ」
「わかりました。」
妖花は了承して自分の髪留めを一つ目小僧に渡した。
「これでいいですか?」
「そうだなぁー。3人から一つずつ貰いたかったところだけど、他にないかな、これじゃあどうにもね」
ここから出るためならば仕方ないだろう。
ここから出られるのはたしかに一つ目小僧のおかげではあるのだから。
「わかりました、じゃあこれも」
妖花は鞄から筆箱を取り出すとそれを一つ目小僧へと渡す。
「これは筆箱です。妖怪の世界にあるのかはわかりませんがこの中にはあるもの全部上げます」
そう言われて一つ目小僧の目が変わる。
「そりゃ本当かい?」
筆箱を物色している一つ目小僧はあるものを見つけて驚いている。
「こりゃ、花火かい?」
それは妖花の鞄に入っていた花火の残りだった。花火は夏にやる予定だったものの、去年の残りがあったのでとりあえず線香花火だけ入れていたのだ。
妖花は線香花火が好きだった。なんとも言えないこの華やかさやこの花火の繊細さ、そしてこの花火の燃え方が好きだった。
夏はみんなでどれだけ長く消さずにいられるかを勝負したものだ。なるべく動かず落ちないように注意深く見ていた。純粋に火花を楽しむこともあった。
線香花火は妖花にとってもとっても大切なものだった。
「線香花火がどうしたんですか?」
「いや、何々。それをもらえればもうこの筆箱いらないや。花火はとても売れるんだ、ありがたい。花火がもらえるなら筆箱と髪留めは返すよ」
少し考えた後妖花は答えを出した。
「わかりました、線香花火をあげます」
その言葉をきいた時一つ目小僧はとても喜んでいた。
「じゃあ交渉成立だ。いっていいよ。掟は覚えてるよね?」
そう聞かれて3人は答える。
「一つ目は絶対通り抜ける時喋らないこと。
二つ目は1人ずつ通り抜けること。そして三つ目は何があっても一度入った後戻らないことですよね?」
「あぁ、その通りだ。じゃあさようなら、黒髪の女の子さん」
「はい!」
神楽は門へとゆっくり入っていった。
門の中はなんとも言えない空気で、空間が歪み、歩いているだけで酔ってしまう。ぐにゃぐにゃと空間が歪んで頭がクラクラとしてしまう。
しかし、神楽はそれに屈せず意志を保って進み続ける。
すると門が閉じていく。
『え?どういうこと?門が閉まっちゃう』
神楽は門が閉じていく中で神楽は掟にあった門へと戻らないということを思い出し、気にせずに前へと進む。
『怖い、多分大丈夫だよね?大丈夫だよね?大丈夫だよね?う…緊張する』
門を通り抜ける間は喋ってはいけない、その掟に従って喋ることなく通り抜ける。
『後少しで抜ける。あと少し、あと少し、あと少し』
神楽の前には光が差し込んでいた。
『あと少し、後少しで抜ける。』
そして神楽はその光へと足を踏み入れると光に吸い込まれるように中へと入っていった。
「行ったね」
「大丈夫かな、心配だよね」
「大丈夫さ、俺は嘘は言わない、じゃあ約束通り貰っていくよ」
線香花火を手に取るととても喜んでいる様子だった。
「じゃあこれは返すね、筆箱だっけ?はい、どうぞ」
「ご丁寧にどうも」
「あの、次はいつ入ればいいんですかね?」
「うん、門が今しまってるだろ?それが開いたら次が入る、そしてまた閉まり、もう一度開いたら次が入る。それだけさ」
「わかりました」
そう言った直後門が開く。
「門が開いた!」
「よーし。心配せず行って来なさいな、必ず掟は守ってね」
「じゃあそれでは失礼します。ここまでありがとうございました」
そう告げた後、柳は門へと足を踏み入れた。
「もう会うことはない、達者でな」
一つ目小僧が柳に向けてそういうと柳は右腕を上げて反応を返した。
「行っちゃった。よし、私も行かないと」
「まぁまぁ落ち着きなさいな、焦る気持ちもわかるが門が閉まっている。すぐに開くから心配するな」
「はい…」
すると門がまた開いた。やはりこの門はとても迫力がある。一度門が開くだけでこの迫力。何度も見ていられるような感じがした。
「じゃあ、私も行きますね」
「うむ。線香花火、ありがたく頂戴するよ」
「はい!それでは!」
妖花は唾をゴクリと飲み込み、ゆっくりと門へと足を踏み入れる。
そして門の中を覗き込むとそこには歪んだ空間が広がっていた。
『ここが門の中。門の外からじゃわからなかったな』
後ろで門が徐々に閉まっていく。すると一つ目小僧の声が聞こえてくる。
「それではまたなー。線香花火、ありがとう」
そう言われて妖花も柳と同じく右手を上げて答える。そして門は閉じた。
ここから先は前へと進むしかない。
『よし、進もう』
心の中でそう思い、ゆっくりと進んでいく。
目の前には光がある。多分あそこから私たちの暮らす世界へと出られるのだろう。
妖花は焦らずにゆっくりと進む。
歪んだ空間が妖花の三半規官を刺激し、気持ちが悪くなっていく。
『やばい、でも諦めてたまるか!あと少しだもん』
そう思いながら重い体を動かしてゆっくり進む。もう、頭で考えることができないほど気持ちが悪くなっている。しかし諦めずにただ一筋の光を目指して歩き続ける。
『あと少し、あと少し、あと少し』
そして…
『ついた!』
光を抜けるとそこは商店街だった。
来たはずのあの階段のあった道はなく、ただの壁になっていた。
「わたし、抜けれたの?」
妖花は呆然としていた。
すると妖花は抱きつかれて驚く。後ろに目を向けると2人がいた。
「妖花ちゃん!心配してたよ!私たち出られたんだね」
神楽の声に妖花も少し涙目になっていた。
「うん、よかったよ…」
「うん、一件落着だね」
「そうだね、柳くん」
柳も相当疲れていたのか深呼吸をしていた。
「うん、とりあえず帰ってこられてよかった」
妖花は少し力が抜けた。
「今は時刻は7時3分ほどだ」
ならば私達は約2時間ほどあそこにいたのだろう。しかし2時間という時間は私にとって恐怖の中だったからなのかとても長く感じた。
「じゃあ今日は帰ろうか」
3人は自分たちの家へと向かった。
家へと帰る道で3人は未だに興奮していた。
柳は感激しているようだった。
「あんな体験はもうできないかもしれないよね」
「うん、思ったより妖怪が優しくてよかった」
「うんうん、私もこれでホッとしたよ…」
神楽はやっとあの妖怪の世界から脱出できたことで本当の意味でホッとしているらしい。
あれだけ恐怖していた彼女の目にはキラキラした何かがあった。
「いやー、私来てよかったよ!怖かったけど、でも、こんな体験中々できないもん」
「いやー、わかったことはたくさんあるね」
「だね、妖怪は思いの外優しいし、人間とも共存できそうなくらいフレンドリーだったね」
妖花はそんなことを言いながらも何か頭に引っかかっていた。しかしそれが何かを思い出すことは今は出来なかった。
「じゃあここで、みんな今日はありがとう。2人がいなかったら僕はあの世界にすらいけなかったと思うから」
「うん、柳くんのおかげで色々と助かったしお互い様だよ」
神楽は笑顔で柳に伝えた。そして神楽は妖花の方を向いた。
「妖花ちゃんもだよ?」
「え?私は特に何もしてないけど…」
「いやいや、君のおかげだ。何よりあの約束を守ったから出られたのかもしれないからね」
「そうそう、それに妖花ちゃんが快く一緒に行ってくれるって言ってくれたから」
満面の笑みで言う神楽を見ていると妖花も自然と笑顔になっていた。
柳もまた2人を見て笑顔になっている。
「そっか。ならよかったよ、2人とも今度からもっと仲良くしようね」
「「うん!」」
2人は揃って答えた。
そのあとすぐに3人は自分のたちの帰路を歩いた。何度もまたねの挨拶を交わしながら。
「いろいろあるんですね」
「うん、ここは夜市だからね。なんでも売ってるよ」
そう言って立ち寄った屋台の店主に話しかける。
「悪いね、少し寄ってもいいかな?」
「かまわんさ、かまわんさ」
「じゃあ遠慮なく。3人とも、来てみて」
そう言われて屋台に行くと何やら水晶玉がたくさん置いてある。
そして一つ目小僧は水晶玉のような丸い玉を指差す。
「これは記憶の玉。少し覗いてみてよ」
「じゃあ私が見てみる」
そう言われて妖花は片目を閉じてその記憶の玉と呼ばれる玉を覗き込む。
すると玉に映像が流れる。誰かの記憶だろうか、何やら妖怪が佇んでいる。
「何か見えたかい?」
「えっと…妖怪が見えます」
「うんうん、これはね。玉に記憶を詰める道具なんだよ。どんな記憶でも詰むことができるんだ」
記憶を詰めるものか…これは私たちの世界で言う動画のようなものなのかな。
「まぁ、俺たちは君たちの持っている携帯やらは持ち合わせていないんだよ」
「携帯を知ってるんですか!?」
3人は驚いた声を上げる。
携帯を知っているということは他の人間世界にあるものも知っているのかな?
妖花はそう思った。
「驚くことじゃないさ、みんなも俺たちのことを知っているだろ?それと同じさ、俺たちもたまに人間の世界に行くことがあるのさ」
「そうなんですか。じゃあ人間の文化も知ってるんですね」
「もちろんさ。妖怪の中には人間の作るものを持ち帰ってくる者もいるくらいさ」
そんなこともしているのか。たしかに人間も妖怪のことを知っている。多分それはこの世界に人間が来たことがあるからだろう
「おーい、次行くってさー」
柳に呼ばれてその屋台を後にする。妖花がその屋台から離れた後、屋台の店主が不敵な笑みを見せていた。それに妖花は気付くことはなかった。
「次はここさ」
そう言われてやってきたのは食べ物を売っている店だった。
湯気がでており、何か温かいものを売っている店ということはひと目で分かった。
「おやっさん。鬼熟おでんを一つくれ」
その声に店主の妖怪が反応した。
「あいよ」
そう言いながら木でできたお玉で何かをすくい上げてお椀に入れると「へい、おまちどう」と言って一つ目小僧に渡した。
「どうも、ありがとね」
お礼を言ったあと小走りでやってきた一つ目小僧は二つお椀を持って現れた。
「あの、これは…?」
神楽がそう聞くと一つ目小僧は笑顔で答える。
「これは鬼熟おでんさ。ここでしか食べられないよ、妖怪たちはこれが大好物さ」
そう言ってお椀をこちらへと渡してきた。それを受け取り、中を見るとそこには見たこともないような具材が入っていた。ほろほろとした何かの肉や緑色のこんにゃくのようなものなど5種類の具材が入っていた。
「さあさあ、食べな、食べな。冷めないうちにさ」
「え、じゃあ3人で分けよっか」
神楽の提案でとりあえず妖花が最初に食べることになったので、神楽からお椀を手に取ろうとした時…
「きゃっ!」
「おいおい、大丈夫かい?」
「ありがとう。でも大丈夫です、すみません落としちゃって」
妖花は誤って鬼熟おでんを落としてしまった。美味しそうだったおでんは見る影なく砂塗れになってしまっている。
「本当にすみません。落としてしまって」
「悪いのは私だよ、本当にごめんなさい」
2人で謝ると一つ目小僧は笑顔で答える。
「いいよ、いいよこれぐらい。たしかにもったいないかもしれないけどね。2人に怪我はない?火傷とかしてない?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「じゃあ俺のほうはさっさと食べるから次にいこうかね」
3人はまた並んでついていく。一つ目小僧は笑顔を変えずに接していた。
「いやー、本当になんでも売ってるんですね」
柳が興奮気味で答える。
「まぁね。それが夜市なのさ。夜市はそこがいいところなんだ」
誇らしげに言う一つ目小僧はドヤ顔を見せている。
「よしよし、ここもいいところなんだよね」
そう言って入った店には人形やら玩具が所狭しに並んでいる店だった。
「ここは様々な玩具やらが売ってるんだ。例えばこれ」
そう言って手に取ったのは何やら駄菓子屋にでも売っていそうなコマだった。
「これはね、よっと!」
一つ目小僧がそのコマを投げるとコマは浮き、そして一つ目小僧の人差し指の上に乗っかった。
「おぉ!すごーい!」
「これはコマはコマでも自分の意思で動くコマなんだ。こんなの人間の世界にはないだろう?」
「はい!こんなの見たことないです」
「そりゃーよかった」
皆の反応を見て一つ目小僧も嬉しそうだった。
「これは何ですか?」
神楽が指を指したのは何やら桃色の固形の物だった。
一つ目小僧に聞くとそれに店主が答える。
「これは紙吹雪さ」
そう言われて神楽は首を傾げた。
「紙吹雪?それってよく私たちの世界で言う祝い事とかに使われる物のことですか?」
「いやいや、違うよ。まぁわからないのも無理はないだろうねー」
「何何、何してるの?」
柳が神楽が話していたところに割り込んできた。
「いや、これが紙吹雪っていうものらしくてね」
「へー、これがね…」
2人の話を妖花は他のものを見ながら聞いていた。
「これはね、こうやって使うんだよ」
店主が店の前に出てきてその紙吹雪と呼ばれる物を手に取って上に投げた。
「おぉ」「何?」
2人は何が起こるのかと店主に注目する。
「こうなるのさ」
上に投げた紙吹雪と呼ばれる物は「ポン」と音を立てて小さい爆発音が聞こえた。すると店主の姿が見えなくなった。
「あれ?さっきまでいたのにどこに…?」
柳がそう言いながらあたりをみわたすも店主の姿はない。
すると店の中から「ポン」と音がして振り返るとそこに店主が立っていた。
「あれ!?さっきまでそこにいたはずなのに」
「これがこの世界での紙吹雪。瞬間移動できるんだよ、すごいだろ」
「はい!すごいです!」
目をキラキラさせながら夢中な柳を見て少し笑みが溢れた妖花だった。
「じゃあそろそろ行こうか」
一つ目小僧からそう言われて3人はその店を後にした。
そんなことをしながら私たちは門を目指した。
「あの、その門はまだなんですか?」
神楽がそう聞くともうそろそろだと言っている。たしかに大きな門が見えている。多分あそこなんだろう。
「ついたよ、ここさ。ここが門」
そう言われてきたのは先ほど見えていた大きな門。赤色の門は見るだけでも圧倒されてしまう。それほどまでにこの門の存在感はすごいものだった。
「これはまたすごいですね」
「そうだろう?これはこの辺じゃ一番でかい門さ。ここからなら出られるよ」
「今まで本当にありがとうございました」
3人でそう告げた。
すると一つ目小僧は照れているのか頭をポリポリとかいている。
「それじゃあ誰からいくさね」
最初に一つ目小僧に言われたとおり1人ずつ門に入ることしかできないため順番を決めることになった。
「どうする?」
誰からこの門に入るのかを話し合おうと言うことになり、とりあえず神楽、柳、妖花の順番で入ることになった。
「じゃあそれじゃあ私、いくね…」
そう言って門に入ろうとした時一つ目小僧が3人に待ってくれと言った。
そう言われて一つ目小僧の方まで行くと小声で一つ目小僧がそっと呟いた。
「人間の持ち物は結構高値で売れるんだよね」
「そうなんですか、それがどうかしたんですか?」
すると一つ目小僧が不敵な笑みを浮かべながらそっと伝える。
「だから、ここに連れて来た礼として何かもらえないかな?」
3人は驚愕した。それが狙いだったのか、だから優しくもてなしたのかと。
「あげると言ってもなにもないですよ?」
「服でもいい、靴でもいい。なんでもいいんだ」
「わかりました。」
妖花は了承して自分の髪留めを一つ目小僧に渡した。
「これでいいですか?」
「そうだなぁー。3人から一つずつ貰いたかったところだけど、他にないかな、これじゃあどうにもね」
ここから出るためならば仕方ないだろう。
ここから出られるのはたしかに一つ目小僧のおかげではあるのだから。
「わかりました、じゃあこれも」
妖花は鞄から筆箱を取り出すとそれを一つ目小僧へと渡す。
「これは筆箱です。妖怪の世界にあるのかはわかりませんがこの中にはあるもの全部上げます」
そう言われて一つ目小僧の目が変わる。
「そりゃ本当かい?」
筆箱を物色している一つ目小僧はあるものを見つけて驚いている。
「こりゃ、花火かい?」
それは妖花の鞄に入っていた花火の残りだった。花火は夏にやる予定だったものの、去年の残りがあったのでとりあえず線香花火だけ入れていたのだ。
妖花は線香花火が好きだった。なんとも言えないこの華やかさやこの花火の繊細さ、そしてこの花火の燃え方が好きだった。
夏はみんなでどれだけ長く消さずにいられるかを勝負したものだ。なるべく動かず落ちないように注意深く見ていた。純粋に火花を楽しむこともあった。
線香花火は妖花にとってもとっても大切なものだった。
「線香花火がどうしたんですか?」
「いや、何々。それをもらえればもうこの筆箱いらないや。花火はとても売れるんだ、ありがたい。花火がもらえるなら筆箱と髪留めは返すよ」
少し考えた後妖花は答えを出した。
「わかりました、線香花火をあげます」
その言葉をきいた時一つ目小僧はとても喜んでいた。
「じゃあ交渉成立だ。いっていいよ。掟は覚えてるよね?」
そう聞かれて3人は答える。
「一つ目は絶対通り抜ける時喋らないこと。
二つ目は1人ずつ通り抜けること。そして三つ目は何があっても一度入った後戻らないことですよね?」
「あぁ、その通りだ。じゃあさようなら、黒髪の女の子さん」
「はい!」
神楽は門へとゆっくり入っていった。
門の中はなんとも言えない空気で、空間が歪み、歩いているだけで酔ってしまう。ぐにゃぐにゃと空間が歪んで頭がクラクラとしてしまう。
しかし、神楽はそれに屈せず意志を保って進み続ける。
すると門が閉じていく。
『え?どういうこと?門が閉まっちゃう』
神楽は門が閉じていく中で神楽は掟にあった門へと戻らないということを思い出し、気にせずに前へと進む。
『怖い、多分大丈夫だよね?大丈夫だよね?大丈夫だよね?う…緊張する』
門を通り抜ける間は喋ってはいけない、その掟に従って喋ることなく通り抜ける。
『後少しで抜ける。あと少し、あと少し、あと少し』
神楽の前には光が差し込んでいた。
『あと少し、後少しで抜ける。』
そして神楽はその光へと足を踏み入れると光に吸い込まれるように中へと入っていった。
「行ったね」
「大丈夫かな、心配だよね」
「大丈夫さ、俺は嘘は言わない、じゃあ約束通り貰っていくよ」
線香花火を手に取るととても喜んでいる様子だった。
「じゃあこれは返すね、筆箱だっけ?はい、どうぞ」
「ご丁寧にどうも」
「あの、次はいつ入ればいいんですかね?」
「うん、門が今しまってるだろ?それが開いたら次が入る、そしてまた閉まり、もう一度開いたら次が入る。それだけさ」
「わかりました」
そう言った直後門が開く。
「門が開いた!」
「よーし。心配せず行って来なさいな、必ず掟は守ってね」
「じゃあそれでは失礼します。ここまでありがとうございました」
そう告げた後、柳は門へと足を踏み入れた。
「もう会うことはない、達者でな」
一つ目小僧が柳に向けてそういうと柳は右腕を上げて反応を返した。
「行っちゃった。よし、私も行かないと」
「まぁまぁ落ち着きなさいな、焦る気持ちもわかるが門が閉まっている。すぐに開くから心配するな」
「はい…」
すると門がまた開いた。やはりこの門はとても迫力がある。一度門が開くだけでこの迫力。何度も見ていられるような感じがした。
「じゃあ、私も行きますね」
「うむ。線香花火、ありがたく頂戴するよ」
「はい!それでは!」
妖花は唾をゴクリと飲み込み、ゆっくりと門へと足を踏み入れる。
そして門の中を覗き込むとそこには歪んだ空間が広がっていた。
『ここが門の中。門の外からじゃわからなかったな』
後ろで門が徐々に閉まっていく。すると一つ目小僧の声が聞こえてくる。
「それではまたなー。線香花火、ありがとう」
そう言われて妖花も柳と同じく右手を上げて答える。そして門は閉じた。
ここから先は前へと進むしかない。
『よし、進もう』
心の中でそう思い、ゆっくりと進んでいく。
目の前には光がある。多分あそこから私たちの暮らす世界へと出られるのだろう。
妖花は焦らずにゆっくりと進む。
歪んだ空間が妖花の三半規官を刺激し、気持ちが悪くなっていく。
『やばい、でも諦めてたまるか!あと少しだもん』
そう思いながら重い体を動かしてゆっくり進む。もう、頭で考えることができないほど気持ちが悪くなっている。しかし諦めずにただ一筋の光を目指して歩き続ける。
『あと少し、あと少し、あと少し』
そして…
『ついた!』
光を抜けるとそこは商店街だった。
来たはずのあの階段のあった道はなく、ただの壁になっていた。
「わたし、抜けれたの?」
妖花は呆然としていた。
すると妖花は抱きつかれて驚く。後ろに目を向けると2人がいた。
「妖花ちゃん!心配してたよ!私たち出られたんだね」
神楽の声に妖花も少し涙目になっていた。
「うん、よかったよ…」
「うん、一件落着だね」
「そうだね、柳くん」
柳も相当疲れていたのか深呼吸をしていた。
「うん、とりあえず帰ってこられてよかった」
妖花は少し力が抜けた。
「今は時刻は7時3分ほどだ」
ならば私達は約2時間ほどあそこにいたのだろう。しかし2時間という時間は私にとって恐怖の中だったからなのかとても長く感じた。
「じゃあ今日は帰ろうか」
3人は自分たちの家へと向かった。
家へと帰る道で3人は未だに興奮していた。
柳は感激しているようだった。
「あんな体験はもうできないかもしれないよね」
「うん、思ったより妖怪が優しくてよかった」
「うんうん、私もこれでホッとしたよ…」
神楽はやっとあの妖怪の世界から脱出できたことで本当の意味でホッとしているらしい。
あれだけ恐怖していた彼女の目にはキラキラした何かがあった。
「いやー、私来てよかったよ!怖かったけど、でも、こんな体験中々できないもん」
「いやー、わかったことはたくさんあるね」
「だね、妖怪は思いの外優しいし、人間とも共存できそうなくらいフレンドリーだったね」
妖花はそんなことを言いながらも何か頭に引っかかっていた。しかしそれが何かを思い出すことは今は出来なかった。
「じゃあここで、みんな今日はありがとう。2人がいなかったら僕はあの世界にすらいけなかったと思うから」
「うん、柳くんのおかげで色々と助かったしお互い様だよ」
神楽は笑顔で柳に伝えた。そして神楽は妖花の方を向いた。
「妖花ちゃんもだよ?」
「え?私は特に何もしてないけど…」
「いやいや、君のおかげだ。何よりあの約束を守ったから出られたのかもしれないからね」
「そうそう、それに妖花ちゃんが快く一緒に行ってくれるって言ってくれたから」
満面の笑みで言う神楽を見ていると妖花も自然と笑顔になっていた。
柳もまた2人を見て笑顔になっている。
「そっか。ならよかったよ、2人とも今度からもっと仲良くしようね」
「「うん!」」
2人は揃って答えた。
そのあとすぐに3人は自分のたちの帰路を歩いた。何度もまたねの挨拶を交わしながら。
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