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二章 夜市編
二章10 戻り道
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妖花は一人自分の暮らす家へと向かっていた。
「結構疲れた…」
独り言を言いながら電灯が照らす道路を歩く。
数秒おきに車が通る人通りの多い道を歩き、学校を抜けていつもの坂へと辿り着いた。
「よーし、あと少し!頑張るかー」
自分に気合を入れて一歩ずつ少し重い鞄を持ちながら坂道を歩く。
帰り道も車が通り、電灯もある明るい場所だったので特に何も気にせずに家に向かって歩く。
そして歩き、歩き、歩き、歩き…
「着いたー!!」
やっとの思いで家へと辿り着いた。
家の明かりはついており、おそらく母が家でもう夕食の準備に取り掛かっている頃だろうと思う。
「疲れたから早く寝よっと」
妖花は汗まみれの身体を早くシャワーで洗い流したくて仕方がなかった。べたっとした服を摘んでみるとまだまだ汗が吹き出している。胸に目を向けるとスポーツブラジャーがくっきりと浮き出ておりこの姿で帰っていたことに顔がリンゴのように真っ赤になってしまう。
そしてぎゅっと自分の体を抱きしめて、そそくさと玄関の扉の前へとやってくる。
「怒ってるかな…」
今日は何も告げずに7時まで帰らなかったので母親に心配をかけているだろう。
妖花は母親に会ったらすぐに謝ろうと決めていた。
「謝れば大丈夫かな」
妖花は勢いよく玄関の扉を開いた。
「ただいまー!」
そして扉の中へと入るといつもの景色が…
広がってはいなかった。
「あれ?ここどこ?」
いつもとは違う景色が広がっていた。
ここはどこだろうか、帰る家を間違えたのか、いやそうではなかった。
扉の先は家の中とは思えなかった。なぜなら路地だったからだ。
見たことのある、つい先程見た景色が広がっている。
ガチャっと扉が閉まる音が聞こえて後ろを振り向くと玄関の扉は消えていた。
「えっ…もしかしてここって…」
そこはあの路地だった。あの、猫商人と会った路地。
息を飲んだ。いつもなら、自分の家の玄関を開けるとそこにはいつもの家の廊下があるはずなのに。なぜここに来てしまっているのか。
そんなことを考えているうちに、頑張って歩いてかいた汗が冷や汗へと変わっていた。
今の状況を整理しようとしても頭が回らなかった。それに少し肌寒い。
「一体何が起こっているの?」
そう思っていると声が聞こえてきた。
「やっと来たか、遅いんだよね~」
どこかで聞いたことのある声。いや、どこかではない、ここで聞いた声。
「あなたは…」
「ありゃ?今日会った少女じゃないか~」
階段の上、つまり夜市の会場に続く階段に人影がある。光の反射で顔は見えないが誰かと言うことは見なくてもわかった。
「あなたは一つ目小僧さん…?」
「ご名答、あたりだ」
腕を組んでこちらを見つめる一つ目小僧を見て妖花はなんだか嫌な感じがした。
「あの、私何故だかここに来てしまったんですけど…」
そう聞くと、一つ目小僧は笑いながら答える。
「そりゃーそうさ!俺がここに来させるように仕向けたんだから!」
腹を抱えて笑う一つ目小僧を見ても妖花は全く笑えなかった。
何が言いたかったのかも分からなかった。
「それってどう言う…」
「君は理解できるんじゃないの?」
「私なら…?」
分かるわけがない、今の状況を整理するので頭がいっぱいだった。
「まぁ来なよ」
そう言ってこちらに手でこいと呼んでいる。
「嫌です」
妖花は後ろへ後退り、壁にもたれかかった。
ひんやりと冷たい壁が妖花の体温を少し下がるのを感じる。しかし、そんなことよりもこの一つ目小僧は何かやばいと感じた。嫌な予感がする。
「私は行かない、どれだけ時間がかかっても、何をされても動かない」
睨むように一つ目小僧を見つめると先ほどまで笑っていた顔が真顔に変わる。
「来なって」
「嫌だ」
「来なよ、早く」
「嫌だ」
「悪いようにはしない。来なよ」
「嫌だ」
「早く来なよ」
「だから、嫌だって…」
そう言い終わる時、怒号が響いた。
「こい!」
「…。」
「早くこいよ」
その怒った一つ目小僧を見て妖花は思った。
「本性を表したのね」
「うるさい、早くこい」
何を言われても動くつもりはなかった。
今一つ目小僧に従ったら生きて帰れるか分からなかったからだった。
「嫌だ、何をされるか分からないのにいくわけがない」
そう言うと一つ目小僧はため息を吐いて答えた。
「お前を喰う」
「えっ…」
耳を疑った。
今なんて言ったの?私を喰う?人を食べるってこと?
妖花の脳内にあることが頭をよぎる。
『妖怪は信用できない』
妖花は急に震えを覚えて、一つ目小僧がこわくてしかたがなくなった。
「言った。早くこい」
命令とも取れるその言動に妖花は抗う。
「そんなことを言われて行きますってなるわけがない!」
「まぁ別にいいよ、無理にでもこさせるし」
その瞬間、後ろから妖怪がすり抜けてやってきた。がたいの良い2人のツノの生えた妖怪に妖花は掴まれ、身動きが取れなくなった。
「きゃっ、何するの!」
何度も抜け出そうとするも、二体の妖怪に手も足も出ない。
「早く上がれ、階段を登れ」
一つ目小僧にそう言われて渋々登るしかなかった。
「っ…。分かった」
仕方なく妖花は階段を登った。
出来る限りゆっくりと。
誰かが助けに来てくれるのではないかと淡い期待を抱きながら。
しかしまた「早く上がれ」と言われて妖花は少し早い速度で階段を登った。
登り切った妖花の目には夜市の景色が広がっていた。先ほども見た景色だった。しかし少し違って見えた。
三人の時はあまり怖いとは思わなかったのに、一人でここにくると恐怖が増していった。それに今は何をされるかわからない状況。妖花は一つ目小僧を睨みつけた。
「いい目だ。こりゃあいい」
頬を掴まれて妖花をじっと見つめる一つ目小僧に妖花は問う。
「どこへ連れていく気ですか」
「だまれ。それよりもほれほれみんな集まれ」
その言葉でたくさんの妖怪が妖花の周りに集まる。
その時にがたいの良い妖怪二体が一つ目小僧の指示で私の腕を解放した。
「なぁ少女よ。お前気づかなかったか?俺は嘘はつかないんだよ」
「だから、何を気づかないって…」
「はぁ…これでも気づかんか、よく思い出せよ」
「何を…」
妖花は思い出した。この一つ目小僧の言葉を。最後、3人であの場所から脱出する時の最後の言葉を。
「あなたは私にだけ「またね」って言ったことよね」
「その通りだ!いやー、こりゃー脳が発達してるのかなぁー」
確かに思い返してみるとそうだった。
この一つ目小僧は柳と神楽に最後に言った言葉は神楽に「さようなら」と柳に「もう会うことはない」と言っていた。しかしわたしには「またなー」と言っていた。
「2人にはもう会うことはないようなことを言って私にだけはまたなって…」
「あぁそういうことだ」
「でもどうやってわたしをここに来させたの!?私はこの世界を理解してない、でも2人となんら変わらず…」
「違うんだよ、言っただろ?俺が仕掛けたと」
「ま、まさか…」
妖花は思い出したように自分の筆箱を広げて中身を確かめる。
すると今までなかったあの玩具の売っていた場所にあった自分の意思で動くコマが入っていた。
「これは…なんでこれが入ってるの?」
「そりゃーあの時に入れたのさ、君が筆箱を渡した時にね」
「くっ…でも、花火でいいって言ったじゃない!なんで私をここに呼んだのよ」
「花火じゃ割りに合わない。本当は三人まとめて連れ去るつもりだったのに。感謝して欲しいくらいだね、君だけにしたんだから」
「ならあなたは嘘ついてるじゃないですか、花火でいいって言ったのに」
「誰がそんなこと言った?花火がもらえるならそれでいいと言っただけで満足したとはいってない」
「くっ…」
「それに君を選んだのは君が頭がいいと思ったからだ」
「頭がいいって何がですか?」
「いやー、鬼熟おでんをあげた時わざと落としたでしょ?」
「えっ…」
バレていた。
妖花は何か危険が及ばないようにできる限りこの世界のものを持ち帰らないようにだけしていた。それは食事も同じだった。もしかしたらということで事前にふたりにも説明して約束していたのだ。
「いやー、俺が目を離しているうちに何かしてるなと思ったけどやはり友達とそうやってやってたわけだ」
「はい、そうですよ。もしもの時があったら困るから。それにあなたを信用できるわけがなかったから」
「そりゃーそうだな、人間でもない妖怪のいうことをいちいち信じる方がおかしい」
「少しは…最後は信用してもいいかなって思ってなのに!」
妖花はどこか隙ができないかと探していた。
しかし、全てバレてしまっている。これでは隙も生まれない。ここから脱出ができない。
この状況に妖花は強がっていただけで本当はとても怖かった。このまま私は死ぬのだろうかと恐怖に襲われていた。
しかし、諦めるわけにはいかなかった。
「2人には危険な思いをして欲しくなかった。だからあの時も私が率先してあなたに渡したの。こちらのものを持ってくる妖怪もいるって言ってたから」
「あぁ、君の読みは正しい。素晴らしいよ、俺の言葉を一言も漏らさず聞いて手をうってくるなんてね」
「だから大丈夫だって思っていたのに…」
「あぁ、それは残念だったねー。君のいう通りそちらの世界のものをこちらに持ってきても特に何も起こらない。しかし、こちらの世界を君たちの世界に持っていくのとでは話は別だ」
「でも、私はここから脱出する」
何かいい方法はないの…何か、何か、何か…
そして妖花はあるものに目を向ける。
『こ、これなら!もしかしたら何とかなるかもしれない!』
妖花はバレずにどうにかこの状況を打開する作戦の実行に徹する。
「そんなこと俺たちが許すはずがないだろう」
集まった妖怪が妖花を取り囲む。
このままでは私は妖怪達に食べられてしまう。
だから今しかない!
「なら仕方がないわね」
「あぁ、大人しく捕まってくれるかな?」
「嫌だね!」
妖花は一つ目小僧を睨みつけながら言い放った。
その時、妖花は筆箱のコマを一つ目小僧に投げつけた。コマは妖花の意思に従って的確に一つ目小僧の目へと一直線に向かい、一つ目小僧の目に当たった。
「ぐわっ…」
一つ目小僧が目を押さえながらしゃがみ込んだ。その機を妖花は見逃さなかった。
「今しかない!」
妖花は一つ目小僧に集中した妖怪たちの隙間に向かって走るもすぐに妖怪達が隙間を埋めたため開いていた妖怪の股の間に向かって走り、滑走して妖怪達から逃げることに成功した。
「くそ…おい!あのガキを追え!早くしろ!」
目を押さえながら一つ目小僧は周りにいた妖怪達に命令した。その言葉で周りにいた妖怪たちが妖花を追いかける。
妖花は振り返ることなく一生懸命走り続ける。先ほどの疲れを忘れたように急いで夜市の会場にある路地に入り、妖怪たちから逃げる。
入り組んだ路地を走りながら妖怪達に見つからないために走る。
「おい、どこにいったあのガキ」
「はぁはぁはぁ」
妖花は走りながら道に並んだ屋台に置いてあるものを追いかけてくる妖怪に向かって投げつけながら必死に逃げる。
「くそ!このガキが!!」
「おい、何しやがる」
屋台の店主は怒り狂って妖花たちに怒号を飛ばす。そんなことは気にせず、妖花は今は逃げることだけを考え、必死になっていた。
「よし、作戦成功!これから逃げないと!」
その頃一つ目小僧は痛みに耐えながら周りの妖怪に妖花を追わせてある場所に向かった。
「あのガキ絶対ゆるさねぇ、楽には殺さねえぞ」
投げられたコマを握り潰してそう言い放った。
その姿は怒り狂っており、他の妖怪も声をかけることができなかった。
「はぁはぁはぁ」
妖花は逃げ回っていた。
屋台の商品を投げ、そして逃げ回ってそれを繰り返す。しかし、そんなことをしても妖怪たちは屈せず妖花を追いかける。
「あそこからなら出られる、早く行かないと」
妖花はあの門へと向かっていた。初めに自分たちの世界に出ることができたあの門に。
あそこからなら出られる。幸いにも一つ目小僧は痛みで動けないと思われる。
だからこの妖怪たちを振り切れば門へと辿りつけるそう思った。
「門への道はなんとなくだけど覚えてる」
逃げる妖花は路地に入った。
暗がりの路地でどこに繋がっているのかは分からなかったが門の方向にある道に曲がった。
「ここなら多分こっち」
そう思いながら走ると目の前から追ってが来ていた。
「いたぞ!」
バレた妖花は先程とは違う、門とは違う方向にある道へと走った。
「ここは…どこ」
先程の道をまっすぐ走り抜け、階段を降りるとそこは暗がりの広い道だった。
あの明るかった夜市とは打って変わってここは暗い。屋台はあるものの何を売っているのかよく分からなかった。
夜市の中ということは分かっているがどことなくお化け屋敷にでもきた気分だ。それほどまでにこの通りは不気味で不思議な雰囲気だった。
「おい、こっちだ」
「あぁ、こっちに入っていったのを見たぞ」
声が聞こえて妖花は近くの屋台に向かうと、その店の店主に一言「すみません、少しだけ隠れさせてください」と言った。
その店の店主の顔は見えず、薄暗く見えないだけなのかそれとも真っ黒なのかそれは分からなかった。一言も発さず、ただ俯いていた。
返事がないので妖花は了承を得ることができないまま、屋台の下へと隠れた。
隠れてから程なくして声が聞こえてくる。
「あのガキどこにいった!まだ近くにいるはずだ」
「くそ、この道ならまっすぐだろ」
妖花は息を殺して隠れる。心臓の音が聴こえてしまうのではないかと心配になる程大きくなり、見つからないようにぎゅっと胸を押さえ込む。そうやって妖花は自分の気配を絶った。
そして妖怪たちが去っていくのを確認して道に出た。
「ふぅ…行ったみたいね」
そう言いながら今隠れていた屋台の店主におじぎをすると置いてあった商品に目がいった。
「これは人!?」
その屋台には人の部位が置かれていた。
頭や四肢や臓器などが置かれてあまりにもリアルで妖花は気持ちが悪くなる。
「何、なんなのここは」
口を押さえて先ほど見たものを忘れるために他の場所へと目を向ける。
しかし、他の店もこの店となんら変わらなかった。人間ではないものの何かの体の部位が置かれていたり、得体の知れない液体や物が所狭しに置かれていたりしていた。
やはりここは変だ。客も店主もどこかおかしい。周りを見渡すと、妖花は気がつく。
「お店の人もお客さんもみんななんだが暗い、というよりもなんだか不気味」
皆一言も発さず、指を刺したりして欲しいものを買っているようだった。
「あ、あの…すみません。ここって一体…」
「…。」
返事はない。店主は帽子を深く被り、顔はやはり見えなかった。いや、妖花は見ようとしなかった。みたら何か起こりそうな予感がしたからだった。
「ほかに何かないかな…ってあれは…」
そして壊れかけの看板がありそれをみると妖花はここが何かを知った。
「闇夜市…」
看板には闇夜市と書かれていた。その意味は売っている商品を見ればすぐに分かった。
人やら動物やらなんでも売っている、ようは闇市場。人間世界で言う銃や薬物などの売買を行ったり、定価の何倍もの値段でものを売ったりしている非合法設けられた独自の市場。
ここは来てはいけない場所だったのかもしれない。そう思いつつ、妖花は帰ろうと先程来た道を見るとそこにはまだ追っての妖怪が待ち伏せていた。
「あいつらに任せて俺らは待機だ。知らせを待とう」
会話が聞こえて妖花はもう一度隠れる。
出口を封じられてしまった。あの言い方からして逆にある出口にももう妖怪がいるはず。しかし確証はない。
「くっ…このままでは動けない」
仕方なく、確認のために入ってきた道とは逆方向にある路地を気づかれないように歩きながらほかに出口がないのかを探そうとする。
しかしこの路地がどこまで続いているのか分からず早く出口に着いて欲しいと願うばかりだ。
後ろを見ながら歩いていると何かにぶつかった。
「痛っ…」
目を開けて目の前を見るとそこにはローブを着た体格の良い妖怪が立っていた。
「や、やばい」
声を発しながら後ろに逃げようと思った時後ろには追ってがいた。まだこちらには気付いていないらしい。
「は、挟まれた…」
そういうとそのローブを来た妖怪が声を発した。
「そこの少女、このローブの中へ入りたまえ」
「え?」
「早く、お前追われているんだろ?」
そう言われて驚きつつも今はそれしかないと思い、そのローブの中へと入った。
「だ、大丈夫なんですか?」
「少し静かに、去ったら言うから」
「おい、こっちの道かもしれないぞ!早くいくぞ」
ローブの妖怪は狭い路地で出来る限り道に寄った。
「おい、そこのお前。ここらに人間のガキが通らなかったか?」
妖怪の声が目の前から聞こえて心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「それならこの道をまっすぐ行ったよ」
え?本当に嘘を言ってくれた。
「そりゃ助かるぜ、この先には出口があるからな」
追っての妖怪たちはその路地をまっすぐ走り抜けていった。妖怪たちの走る音が聞こえなくなる。
「もういいぞ」
その声でやっと妖花はローブの外に出た。
「ありがとうございます、助かりました」
素直に礼を言うとローブの妖怪はローブを外した。
「いや、気にするな」
ローブを外した姿は陰陽師のような格好をしていた。顔は鬼のような顔つき、身長は妖花よりもひとまわり大きい、200cmはあるだろう。
そんな怖そうな見た目の妖怪は後ろを振り向いてまた振り返ると顔が変わっていた。
「この方が喋りやすいであろう?」
「はっはい」
顔は妖花のよく知る人間の顔。
あの鬼のような顔は整った顔立ちに変わっていた。鼻高く、キリッとした目つきに加えて優しそうに笑みを溢す顔はなんとも美しい。
「まぁ緊張するな、私はお前に危害を加えはしない」
「本当ですか?」
「あぁ、あの方に誓ってな」
信じたくはなかった。しかし助けてくれた妖怪に感謝をしていたのでとりあえず話を聞くことにした。
「あの、なぜ私を助けてくれたんですか?」
夜市に来てから追いかけられて妖怪が怖かった。しかしこの妖怪は助けてくれた、だからなぜ助けてくれたのか、それだけは気になっていた。
「うむ、人間をここで見たのは久々でな。それに人目見てお前が何かに追いかけられていると言うことは分かった、だから助けようと思ったんだ」
「ありがとうございます。妖怪にも優しい人はいるんですね」
「どうだろうな。私は優しくしたわけではない。ここは夜市だ、そんなことをする場ではないからな。それに人間の少女を追いかけまわすとは不埒なやつだと思ったのだ」
「そうでしたか、本当に助かりました」
「まぁ気にするな、当然のことをしたと思ってくれればいい」
助けてくれた妖怪はとても堂々としていた。そんな妖怪に見惚れてしまう、やはり顔も性格も良いので何だが妖花も無意識に照れてしまっていた。
とりあえず、危機が去り、追手にバレず少し休む。
そしてこの妖怪が何者なのかが気になった。
「あの、あなたは一体どう言った妖怪なんですか?」
「私は式神。その名の通り陰陽師が使役する鬼神だ。まぁ今は呼ばれていないからこうやって暇つぶしに買い物をしていたわけだが」
「そうだったんですか…式神、聞いたことはあります」
「そうかそうか、ならよかった。それで何があったのだ?人間の娘がこんなところで」
妖花は式神に今までのことを伝えた。
「そう言う事だったのか、それは災難だったな」
「いえ、元はと言えば私たちが悪いので」
そういうと式神は深くうなづいた。
「確かにそうだ。人間がこの世界に来るのは良くない。しかし、一つ目小僧も一つ目小僧だ。脱出させると言ったのに喰おうとするとはな」
「はい…あの、私あるところに向かっていて」
「そうか、私で良ければ手伝おう、ここであったのも何かの縁。それに…いやまぁここでまた若い少女が殺されるのは私としても見て見ぬふりはできんからな」
式神は思いの外すんなりと手伝ってくれると言ってくれる。しかし、そんな妖怪をすぐに信用するほど妖花も警戒は怠ってはいない。
「ありがとうございます、でも。あなたを信用しきれていない自分がいるです…」
「そうか、それは仕方ないことだ。」
「はい、だから…」
「私のことは信じても信じなくてもどちらでも構わない。それを決めるのは少女、お前次第だ」
急な選択を迫られる。妖花はこの妖怪を信じ、手伝ってもらうことにするのか、それとも信じず、自分一人でこの闇夜市、そして夜市を脱出することにするのか。
答えは思いの外すぐに決まった。
「信じます。今は信じるしかないから」
妖花は真剣な顔つきで式神に言った。
「そうか、信じるか。私が聞くのもなんだがなぜ信じようと思ったんだ?」
そんな質問されるとは思っていなかった妖花だったが表情を変えることなく淡々と答えた。
「単純です。今はここを出ることが最優先。なら助けてくれたあなたを信用するだけです。たとえあなたが裏切ったとしても私は生きてここから脱出する気です」
そして妖花は息を吸って呟いた。
「どんな手を使ってでも」
その顔を見た式神は少し笑った。
「そうかそうか、変な質問をして悪いな。少女、お前の覚悟しかと受け取った。私の力をお前に使うことを約束しよう」
その言葉を信じて妖花と式神は協力関係となった。
「それでどこへ向かっているんだ?」
妖花は式神に聞かれ、すぐに答える。
「それは門です」
「ほぉ、ここからの距離だと門とはまさか呼ノ後門か?大きな赤色の特徴的な門何だが」
呼ノ後門。それは妖花たちが現実世界に出るために使用した門だった。
「そうです、その門だと思います」
「そうか…それはまずいかもしれないな」
「え?何がまずいんですか?あそこなら…」
妖花は思い出した。あることを。
「いや、式神さんのいう通りでした。あそこにいくのはまずい」
「おぉ、気づいたか?」
「はい、あの門の掟の三つ目。一度門へと足を踏み入れたら何があってももう一度門へは戻らないこと。それは多分一度入ったらもう一度入ることも禁ずるってことなんじゃないんですか?」
「その通りだ。だからあの門は一度使ったらもう誰も使えなくなる。呼んだ後の門。あの門はそうやってもう一度入った者の魂を喰らう門なんだ」
「だからもう一度入ることはお勧めしないし、まず待ち伏せされているだろうしな」
妖花が式神とそのことについて話している時、呼ノ後門の前。
「早く来いよガキ」
一つ目小僧は門の前に待ち構えていた。
「お前は掟を知っていたとしてもたかがガキ。もう一度入っていいと思うだろうなぁ?だがそれだとお前の魂は喰われちまう。そして門からお前の魂の抜けた体だけがでてくる」
ヒヒッと笑いながら一つ目小僧は喋る。
「それを貰えばいいだけの話だ」
一つ目小僧の目は充血しており、怒り狂っていた。
「しかし、もしそれに気づいたとしてもお前を助ける妖怪がいるとは思えんがな、くくくっ。」
周りにいた妖怪を指差して指示をする。
「お前らはここで待ってろ、俺は向かうところがある」
そう言って一つ目小僧は一人で妖花を探し始めた。
「結構疲れた…」
独り言を言いながら電灯が照らす道路を歩く。
数秒おきに車が通る人通りの多い道を歩き、学校を抜けていつもの坂へと辿り着いた。
「よーし、あと少し!頑張るかー」
自分に気合を入れて一歩ずつ少し重い鞄を持ちながら坂道を歩く。
帰り道も車が通り、電灯もある明るい場所だったので特に何も気にせずに家に向かって歩く。
そして歩き、歩き、歩き、歩き…
「着いたー!!」
やっとの思いで家へと辿り着いた。
家の明かりはついており、おそらく母が家でもう夕食の準備に取り掛かっている頃だろうと思う。
「疲れたから早く寝よっと」
妖花は汗まみれの身体を早くシャワーで洗い流したくて仕方がなかった。べたっとした服を摘んでみるとまだまだ汗が吹き出している。胸に目を向けるとスポーツブラジャーがくっきりと浮き出ておりこの姿で帰っていたことに顔がリンゴのように真っ赤になってしまう。
そしてぎゅっと自分の体を抱きしめて、そそくさと玄関の扉の前へとやってくる。
「怒ってるかな…」
今日は何も告げずに7時まで帰らなかったので母親に心配をかけているだろう。
妖花は母親に会ったらすぐに謝ろうと決めていた。
「謝れば大丈夫かな」
妖花は勢いよく玄関の扉を開いた。
「ただいまー!」
そして扉の中へと入るといつもの景色が…
広がってはいなかった。
「あれ?ここどこ?」
いつもとは違う景色が広がっていた。
ここはどこだろうか、帰る家を間違えたのか、いやそうではなかった。
扉の先は家の中とは思えなかった。なぜなら路地だったからだ。
見たことのある、つい先程見た景色が広がっている。
ガチャっと扉が閉まる音が聞こえて後ろを振り向くと玄関の扉は消えていた。
「えっ…もしかしてここって…」
そこはあの路地だった。あの、猫商人と会った路地。
息を飲んだ。いつもなら、自分の家の玄関を開けるとそこにはいつもの家の廊下があるはずなのに。なぜここに来てしまっているのか。
そんなことを考えているうちに、頑張って歩いてかいた汗が冷や汗へと変わっていた。
今の状況を整理しようとしても頭が回らなかった。それに少し肌寒い。
「一体何が起こっているの?」
そう思っていると声が聞こえてきた。
「やっと来たか、遅いんだよね~」
どこかで聞いたことのある声。いや、どこかではない、ここで聞いた声。
「あなたは…」
「ありゃ?今日会った少女じゃないか~」
階段の上、つまり夜市の会場に続く階段に人影がある。光の反射で顔は見えないが誰かと言うことは見なくてもわかった。
「あなたは一つ目小僧さん…?」
「ご名答、あたりだ」
腕を組んでこちらを見つめる一つ目小僧を見て妖花はなんだか嫌な感じがした。
「あの、私何故だかここに来てしまったんですけど…」
そう聞くと、一つ目小僧は笑いながら答える。
「そりゃーそうさ!俺がここに来させるように仕向けたんだから!」
腹を抱えて笑う一つ目小僧を見ても妖花は全く笑えなかった。
何が言いたかったのかも分からなかった。
「それってどう言う…」
「君は理解できるんじゃないの?」
「私なら…?」
分かるわけがない、今の状況を整理するので頭がいっぱいだった。
「まぁ来なよ」
そう言ってこちらに手でこいと呼んでいる。
「嫌です」
妖花は後ろへ後退り、壁にもたれかかった。
ひんやりと冷たい壁が妖花の体温を少し下がるのを感じる。しかし、そんなことよりもこの一つ目小僧は何かやばいと感じた。嫌な予感がする。
「私は行かない、どれだけ時間がかかっても、何をされても動かない」
睨むように一つ目小僧を見つめると先ほどまで笑っていた顔が真顔に変わる。
「来なって」
「嫌だ」
「来なよ、早く」
「嫌だ」
「悪いようにはしない。来なよ」
「嫌だ」
「早く来なよ」
「だから、嫌だって…」
そう言い終わる時、怒号が響いた。
「こい!」
「…。」
「早くこいよ」
その怒った一つ目小僧を見て妖花は思った。
「本性を表したのね」
「うるさい、早くこい」
何を言われても動くつもりはなかった。
今一つ目小僧に従ったら生きて帰れるか分からなかったからだった。
「嫌だ、何をされるか分からないのにいくわけがない」
そう言うと一つ目小僧はため息を吐いて答えた。
「お前を喰う」
「えっ…」
耳を疑った。
今なんて言ったの?私を喰う?人を食べるってこと?
妖花の脳内にあることが頭をよぎる。
『妖怪は信用できない』
妖花は急に震えを覚えて、一つ目小僧がこわくてしかたがなくなった。
「言った。早くこい」
命令とも取れるその言動に妖花は抗う。
「そんなことを言われて行きますってなるわけがない!」
「まぁ別にいいよ、無理にでもこさせるし」
その瞬間、後ろから妖怪がすり抜けてやってきた。がたいの良い2人のツノの生えた妖怪に妖花は掴まれ、身動きが取れなくなった。
「きゃっ、何するの!」
何度も抜け出そうとするも、二体の妖怪に手も足も出ない。
「早く上がれ、階段を登れ」
一つ目小僧にそう言われて渋々登るしかなかった。
「っ…。分かった」
仕方なく妖花は階段を登った。
出来る限りゆっくりと。
誰かが助けに来てくれるのではないかと淡い期待を抱きながら。
しかしまた「早く上がれ」と言われて妖花は少し早い速度で階段を登った。
登り切った妖花の目には夜市の景色が広がっていた。先ほども見た景色だった。しかし少し違って見えた。
三人の時はあまり怖いとは思わなかったのに、一人でここにくると恐怖が増していった。それに今は何をされるかわからない状況。妖花は一つ目小僧を睨みつけた。
「いい目だ。こりゃあいい」
頬を掴まれて妖花をじっと見つめる一つ目小僧に妖花は問う。
「どこへ連れていく気ですか」
「だまれ。それよりもほれほれみんな集まれ」
その言葉でたくさんの妖怪が妖花の周りに集まる。
その時にがたいの良い妖怪二体が一つ目小僧の指示で私の腕を解放した。
「なぁ少女よ。お前気づかなかったか?俺は嘘はつかないんだよ」
「だから、何を気づかないって…」
「はぁ…これでも気づかんか、よく思い出せよ」
「何を…」
妖花は思い出した。この一つ目小僧の言葉を。最後、3人であの場所から脱出する時の最後の言葉を。
「あなたは私にだけ「またね」って言ったことよね」
「その通りだ!いやー、こりゃー脳が発達してるのかなぁー」
確かに思い返してみるとそうだった。
この一つ目小僧は柳と神楽に最後に言った言葉は神楽に「さようなら」と柳に「もう会うことはない」と言っていた。しかしわたしには「またなー」と言っていた。
「2人にはもう会うことはないようなことを言って私にだけはまたなって…」
「あぁそういうことだ」
「でもどうやってわたしをここに来させたの!?私はこの世界を理解してない、でも2人となんら変わらず…」
「違うんだよ、言っただろ?俺が仕掛けたと」
「ま、まさか…」
妖花は思い出したように自分の筆箱を広げて中身を確かめる。
すると今までなかったあの玩具の売っていた場所にあった自分の意思で動くコマが入っていた。
「これは…なんでこれが入ってるの?」
「そりゃーあの時に入れたのさ、君が筆箱を渡した時にね」
「くっ…でも、花火でいいって言ったじゃない!なんで私をここに呼んだのよ」
「花火じゃ割りに合わない。本当は三人まとめて連れ去るつもりだったのに。感謝して欲しいくらいだね、君だけにしたんだから」
「ならあなたは嘘ついてるじゃないですか、花火でいいって言ったのに」
「誰がそんなこと言った?花火がもらえるならそれでいいと言っただけで満足したとはいってない」
「くっ…」
「それに君を選んだのは君が頭がいいと思ったからだ」
「頭がいいって何がですか?」
「いやー、鬼熟おでんをあげた時わざと落としたでしょ?」
「えっ…」
バレていた。
妖花は何か危険が及ばないようにできる限りこの世界のものを持ち帰らないようにだけしていた。それは食事も同じだった。もしかしたらということで事前にふたりにも説明して約束していたのだ。
「いやー、俺が目を離しているうちに何かしてるなと思ったけどやはり友達とそうやってやってたわけだ」
「はい、そうですよ。もしもの時があったら困るから。それにあなたを信用できるわけがなかったから」
「そりゃーそうだな、人間でもない妖怪のいうことをいちいち信じる方がおかしい」
「少しは…最後は信用してもいいかなって思ってなのに!」
妖花はどこか隙ができないかと探していた。
しかし、全てバレてしまっている。これでは隙も生まれない。ここから脱出ができない。
この状況に妖花は強がっていただけで本当はとても怖かった。このまま私は死ぬのだろうかと恐怖に襲われていた。
しかし、諦めるわけにはいかなかった。
「2人には危険な思いをして欲しくなかった。だからあの時も私が率先してあなたに渡したの。こちらのものを持ってくる妖怪もいるって言ってたから」
「あぁ、君の読みは正しい。素晴らしいよ、俺の言葉を一言も漏らさず聞いて手をうってくるなんてね」
「だから大丈夫だって思っていたのに…」
「あぁ、それは残念だったねー。君のいう通りそちらの世界のものをこちらに持ってきても特に何も起こらない。しかし、こちらの世界を君たちの世界に持っていくのとでは話は別だ」
「でも、私はここから脱出する」
何かいい方法はないの…何か、何か、何か…
そして妖花はあるものに目を向ける。
『こ、これなら!もしかしたら何とかなるかもしれない!』
妖花はバレずにどうにかこの状況を打開する作戦の実行に徹する。
「そんなこと俺たちが許すはずがないだろう」
集まった妖怪が妖花を取り囲む。
このままでは私は妖怪達に食べられてしまう。
だから今しかない!
「なら仕方がないわね」
「あぁ、大人しく捕まってくれるかな?」
「嫌だね!」
妖花は一つ目小僧を睨みつけながら言い放った。
その時、妖花は筆箱のコマを一つ目小僧に投げつけた。コマは妖花の意思に従って的確に一つ目小僧の目へと一直線に向かい、一つ目小僧の目に当たった。
「ぐわっ…」
一つ目小僧が目を押さえながらしゃがみ込んだ。その機を妖花は見逃さなかった。
「今しかない!」
妖花は一つ目小僧に集中した妖怪たちの隙間に向かって走るもすぐに妖怪達が隙間を埋めたため開いていた妖怪の股の間に向かって走り、滑走して妖怪達から逃げることに成功した。
「くそ…おい!あのガキを追え!早くしろ!」
目を押さえながら一つ目小僧は周りにいた妖怪達に命令した。その言葉で周りにいた妖怪たちが妖花を追いかける。
妖花は振り返ることなく一生懸命走り続ける。先ほどの疲れを忘れたように急いで夜市の会場にある路地に入り、妖怪たちから逃げる。
入り組んだ路地を走りながら妖怪達に見つからないために走る。
「おい、どこにいったあのガキ」
「はぁはぁはぁ」
妖花は走りながら道に並んだ屋台に置いてあるものを追いかけてくる妖怪に向かって投げつけながら必死に逃げる。
「くそ!このガキが!!」
「おい、何しやがる」
屋台の店主は怒り狂って妖花たちに怒号を飛ばす。そんなことは気にせず、妖花は今は逃げることだけを考え、必死になっていた。
「よし、作戦成功!これから逃げないと!」
その頃一つ目小僧は痛みに耐えながら周りの妖怪に妖花を追わせてある場所に向かった。
「あのガキ絶対ゆるさねぇ、楽には殺さねえぞ」
投げられたコマを握り潰してそう言い放った。
その姿は怒り狂っており、他の妖怪も声をかけることができなかった。
「はぁはぁはぁ」
妖花は逃げ回っていた。
屋台の商品を投げ、そして逃げ回ってそれを繰り返す。しかし、そんなことをしても妖怪たちは屈せず妖花を追いかける。
「あそこからなら出られる、早く行かないと」
妖花はあの門へと向かっていた。初めに自分たちの世界に出ることができたあの門に。
あそこからなら出られる。幸いにも一つ目小僧は痛みで動けないと思われる。
だからこの妖怪たちを振り切れば門へと辿りつけるそう思った。
「門への道はなんとなくだけど覚えてる」
逃げる妖花は路地に入った。
暗がりの路地でどこに繋がっているのかは分からなかったが門の方向にある道に曲がった。
「ここなら多分こっち」
そう思いながら走ると目の前から追ってが来ていた。
「いたぞ!」
バレた妖花は先程とは違う、門とは違う方向にある道へと走った。
「ここは…どこ」
先程の道をまっすぐ走り抜け、階段を降りるとそこは暗がりの広い道だった。
あの明るかった夜市とは打って変わってここは暗い。屋台はあるものの何を売っているのかよく分からなかった。
夜市の中ということは分かっているがどことなくお化け屋敷にでもきた気分だ。それほどまでにこの通りは不気味で不思議な雰囲気だった。
「おい、こっちだ」
「あぁ、こっちに入っていったのを見たぞ」
声が聞こえて妖花は近くの屋台に向かうと、その店の店主に一言「すみません、少しだけ隠れさせてください」と言った。
その店の店主の顔は見えず、薄暗く見えないだけなのかそれとも真っ黒なのかそれは分からなかった。一言も発さず、ただ俯いていた。
返事がないので妖花は了承を得ることができないまま、屋台の下へと隠れた。
隠れてから程なくして声が聞こえてくる。
「あのガキどこにいった!まだ近くにいるはずだ」
「くそ、この道ならまっすぐだろ」
妖花は息を殺して隠れる。心臓の音が聴こえてしまうのではないかと心配になる程大きくなり、見つからないようにぎゅっと胸を押さえ込む。そうやって妖花は自分の気配を絶った。
そして妖怪たちが去っていくのを確認して道に出た。
「ふぅ…行ったみたいね」
そう言いながら今隠れていた屋台の店主におじぎをすると置いてあった商品に目がいった。
「これは人!?」
その屋台には人の部位が置かれていた。
頭や四肢や臓器などが置かれてあまりにもリアルで妖花は気持ちが悪くなる。
「何、なんなのここは」
口を押さえて先ほど見たものを忘れるために他の場所へと目を向ける。
しかし、他の店もこの店となんら変わらなかった。人間ではないものの何かの体の部位が置かれていたり、得体の知れない液体や物が所狭しに置かれていたりしていた。
やはりここは変だ。客も店主もどこかおかしい。周りを見渡すと、妖花は気がつく。
「お店の人もお客さんもみんななんだが暗い、というよりもなんだか不気味」
皆一言も発さず、指を刺したりして欲しいものを買っているようだった。
「あ、あの…すみません。ここって一体…」
「…。」
返事はない。店主は帽子を深く被り、顔はやはり見えなかった。いや、妖花は見ようとしなかった。みたら何か起こりそうな予感がしたからだった。
「ほかに何かないかな…ってあれは…」
そして壊れかけの看板がありそれをみると妖花はここが何かを知った。
「闇夜市…」
看板には闇夜市と書かれていた。その意味は売っている商品を見ればすぐに分かった。
人やら動物やらなんでも売っている、ようは闇市場。人間世界で言う銃や薬物などの売買を行ったり、定価の何倍もの値段でものを売ったりしている非合法設けられた独自の市場。
ここは来てはいけない場所だったのかもしれない。そう思いつつ、妖花は帰ろうと先程来た道を見るとそこにはまだ追っての妖怪が待ち伏せていた。
「あいつらに任せて俺らは待機だ。知らせを待とう」
会話が聞こえて妖花はもう一度隠れる。
出口を封じられてしまった。あの言い方からして逆にある出口にももう妖怪がいるはず。しかし確証はない。
「くっ…このままでは動けない」
仕方なく、確認のために入ってきた道とは逆方向にある路地を気づかれないように歩きながらほかに出口がないのかを探そうとする。
しかしこの路地がどこまで続いているのか分からず早く出口に着いて欲しいと願うばかりだ。
後ろを見ながら歩いていると何かにぶつかった。
「痛っ…」
目を開けて目の前を見るとそこにはローブを着た体格の良い妖怪が立っていた。
「や、やばい」
声を発しながら後ろに逃げようと思った時後ろには追ってがいた。まだこちらには気付いていないらしい。
「は、挟まれた…」
そういうとそのローブを来た妖怪が声を発した。
「そこの少女、このローブの中へ入りたまえ」
「え?」
「早く、お前追われているんだろ?」
そう言われて驚きつつも今はそれしかないと思い、そのローブの中へと入った。
「だ、大丈夫なんですか?」
「少し静かに、去ったら言うから」
「おい、こっちの道かもしれないぞ!早くいくぞ」
ローブの妖怪は狭い路地で出来る限り道に寄った。
「おい、そこのお前。ここらに人間のガキが通らなかったか?」
妖怪の声が目の前から聞こえて心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「それならこの道をまっすぐ行ったよ」
え?本当に嘘を言ってくれた。
「そりゃ助かるぜ、この先には出口があるからな」
追っての妖怪たちはその路地をまっすぐ走り抜けていった。妖怪たちの走る音が聞こえなくなる。
「もういいぞ」
その声でやっと妖花はローブの外に出た。
「ありがとうございます、助かりました」
素直に礼を言うとローブの妖怪はローブを外した。
「いや、気にするな」
ローブを外した姿は陰陽師のような格好をしていた。顔は鬼のような顔つき、身長は妖花よりもひとまわり大きい、200cmはあるだろう。
そんな怖そうな見た目の妖怪は後ろを振り向いてまた振り返ると顔が変わっていた。
「この方が喋りやすいであろう?」
「はっはい」
顔は妖花のよく知る人間の顔。
あの鬼のような顔は整った顔立ちに変わっていた。鼻高く、キリッとした目つきに加えて優しそうに笑みを溢す顔はなんとも美しい。
「まぁ緊張するな、私はお前に危害を加えはしない」
「本当ですか?」
「あぁ、あの方に誓ってな」
信じたくはなかった。しかし助けてくれた妖怪に感謝をしていたのでとりあえず話を聞くことにした。
「あの、なぜ私を助けてくれたんですか?」
夜市に来てから追いかけられて妖怪が怖かった。しかしこの妖怪は助けてくれた、だからなぜ助けてくれたのか、それだけは気になっていた。
「うむ、人間をここで見たのは久々でな。それに人目見てお前が何かに追いかけられていると言うことは分かった、だから助けようと思ったんだ」
「ありがとうございます。妖怪にも優しい人はいるんですね」
「どうだろうな。私は優しくしたわけではない。ここは夜市だ、そんなことをする場ではないからな。それに人間の少女を追いかけまわすとは不埒なやつだと思ったのだ」
「そうでしたか、本当に助かりました」
「まぁ気にするな、当然のことをしたと思ってくれればいい」
助けてくれた妖怪はとても堂々としていた。そんな妖怪に見惚れてしまう、やはり顔も性格も良いので何だが妖花も無意識に照れてしまっていた。
とりあえず、危機が去り、追手にバレず少し休む。
そしてこの妖怪が何者なのかが気になった。
「あの、あなたは一体どう言った妖怪なんですか?」
「私は式神。その名の通り陰陽師が使役する鬼神だ。まぁ今は呼ばれていないからこうやって暇つぶしに買い物をしていたわけだが」
「そうだったんですか…式神、聞いたことはあります」
「そうかそうか、ならよかった。それで何があったのだ?人間の娘がこんなところで」
妖花は式神に今までのことを伝えた。
「そう言う事だったのか、それは災難だったな」
「いえ、元はと言えば私たちが悪いので」
そういうと式神は深くうなづいた。
「確かにそうだ。人間がこの世界に来るのは良くない。しかし、一つ目小僧も一つ目小僧だ。脱出させると言ったのに喰おうとするとはな」
「はい…あの、私あるところに向かっていて」
「そうか、私で良ければ手伝おう、ここであったのも何かの縁。それに…いやまぁここでまた若い少女が殺されるのは私としても見て見ぬふりはできんからな」
式神は思いの外すんなりと手伝ってくれると言ってくれる。しかし、そんな妖怪をすぐに信用するほど妖花も警戒は怠ってはいない。
「ありがとうございます、でも。あなたを信用しきれていない自分がいるです…」
「そうか、それは仕方ないことだ。」
「はい、だから…」
「私のことは信じても信じなくてもどちらでも構わない。それを決めるのは少女、お前次第だ」
急な選択を迫られる。妖花はこの妖怪を信じ、手伝ってもらうことにするのか、それとも信じず、自分一人でこの闇夜市、そして夜市を脱出することにするのか。
答えは思いの外すぐに決まった。
「信じます。今は信じるしかないから」
妖花は真剣な顔つきで式神に言った。
「そうか、信じるか。私が聞くのもなんだがなぜ信じようと思ったんだ?」
そんな質問されるとは思っていなかった妖花だったが表情を変えることなく淡々と答えた。
「単純です。今はここを出ることが最優先。なら助けてくれたあなたを信用するだけです。たとえあなたが裏切ったとしても私は生きてここから脱出する気です」
そして妖花は息を吸って呟いた。
「どんな手を使ってでも」
その顔を見た式神は少し笑った。
「そうかそうか、変な質問をして悪いな。少女、お前の覚悟しかと受け取った。私の力をお前に使うことを約束しよう」
その言葉を信じて妖花と式神は協力関係となった。
「それでどこへ向かっているんだ?」
妖花は式神に聞かれ、すぐに答える。
「それは門です」
「ほぉ、ここからの距離だと門とはまさか呼ノ後門か?大きな赤色の特徴的な門何だが」
呼ノ後門。それは妖花たちが現実世界に出るために使用した門だった。
「そうです、その門だと思います」
「そうか…それはまずいかもしれないな」
「え?何がまずいんですか?あそこなら…」
妖花は思い出した。あることを。
「いや、式神さんのいう通りでした。あそこにいくのはまずい」
「おぉ、気づいたか?」
「はい、あの門の掟の三つ目。一度門へと足を踏み入れたら何があってももう一度門へは戻らないこと。それは多分一度入ったらもう一度入ることも禁ずるってことなんじゃないんですか?」
「その通りだ。だからあの門は一度使ったらもう誰も使えなくなる。呼んだ後の門。あの門はそうやってもう一度入った者の魂を喰らう門なんだ」
「だからもう一度入ることはお勧めしないし、まず待ち伏せされているだろうしな」
妖花が式神とそのことについて話している時、呼ノ後門の前。
「早く来いよガキ」
一つ目小僧は門の前に待ち構えていた。
「お前は掟を知っていたとしてもたかがガキ。もう一度入っていいと思うだろうなぁ?だがそれだとお前の魂は喰われちまう。そして門からお前の魂の抜けた体だけがでてくる」
ヒヒッと笑いながら一つ目小僧は喋る。
「それを貰えばいいだけの話だ」
一つ目小僧の目は充血しており、怒り狂っていた。
「しかし、もしそれに気づいたとしてもお前を助ける妖怪がいるとは思えんがな、くくくっ。」
周りにいた妖怪を指差して指示をする。
「お前らはここで待ってろ、俺は向かうところがある」
そう言って一つ目小僧は一人で妖花を探し始めた。
応援ありがとうございます!
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