表裏一体物語

智天斗

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三章 なごみ編

三章11帰り道

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「じゃあ私こっちです」

「私もそっちだよ」

2人の烏天狗やなごみとの出来事はとりあえず終わった。ようやく安心を取り戻し、2人は一気に緊張が溶けていた。

「それじゃあ行きましょうか」

「うん」

2人は並んで帰路に着いた。しかし歩いていると通り過ぎる人通り過ぎる人がこちらを見てくる。

「見られるね」

「当たり前ですよ…中学生がボロボロで歩いてるんですから」

今の状況少しまずい。2人ともボロボロだ。
傍から見れば何かあったのではないかと思うのは当たり前。まぁ確かに何かはあったのだけど、変に声掛けられたりしたら嫌だな。

そんなことを思っているとやはりフラグはすぐに回収されるものである。

「お前ら、大丈夫?」

声をかけてきたのは私達と同い年ぐらいの男の子だった。
逆だった髪の毛が特徴的でキリッとした眉、目付きをしている男の子だった。学生服を来ているところからも中学生ということが分かる。
それに加えて名札には霹靂中学校の学区内に入るか入らないかぐらいの近さである春山中学校しゅんざんちゅうがっこうの校章があったことも中学生だという確信に至る理由だった。

「大丈夫です」

妖花がそう言うとその男の子はキリッとした目付きでこちらを見ると「そうですか」と言った。
最初の印象は少し悪かったがすぐに丁寧な口調で話し始めたため妖花は印象を改めた。

「それでは私達は来れで」

そう言って新道と共に去ろうとした時、声をかけられた。

「待ってくだ、さい!あの、ひとつ聞きたいことがあるん…ですけど!」

敬語自体使うことが苦手なのかところどころ詰まった話し方になっている。

「どうかしました?」

新道が聞くとその男の子は答える。

「いや、服とかはボロボロなのに身体には傷1つついてないなって思って」

それを聞いて妖花は驚いた。

この数秒でそこまで見ているとは。この男の子は一体何者なのだろう。

「いや、服だけ擦れちゃったりしただけですよ」

そんな理由を言うとそうですかとうなづいた。

「そっかー。いや、俺の方こそ急に声掛けて悪いな」

「いえ、大丈夫ですよ」

そう言ってすぐにその場をあとにしようとする。
すると目の前から声が聞こえてきた。

「宮本先輩ー。何してるんですか」

妖花達が移動を始めようとした時、前からもう1人男の子が手を振りながらこちらへやってきた。

「おい、苗字はあまり言うな」

眉に力が入っているその宮本という男の子は名前を呼んだ男の子にそう伝える。

「あぁ、すみません。ついいつもの感じで話してしまいました」

頭をかきながらこちらに歩いてやってきたのは身長が170は超えているだろう背の高い男の子だった。顔は美形で礼儀も正しそうな清楚な雰囲気が漂う彼がこちらのことをその宮本と呼ばれた男の子に向かって聞いている。

「えっと…こちらの方は?」

すると宮本と呼ばれた男の子は小声で伝える。

「いや、服だけボロボロだから気になってな」

「そうですか」

そう言いながら美形の方の男の子が妖花の顔を見つめる。

「どうしました?私の顔に何かついてます?」

首を傾けてそう聞くとその男の子は顔を赤らめた。

「い、いえ。何でももないで、あります!」

変な敬語になっている。急にそんな反応をする背の高い男の子を見て笑みをこぼした。

「大丈夫ですか?話し方変になってますけど」

「いや、その…えっと…」

すると新道がこちらに耳打ちをする。

「多分この子、妖花ちゃんに一目惚れでもしたんじゃない?」

そんなことを言われて妖花も顔を真っ赤にした。

「こ、こんな時にやめてくださいよ。まだ私たちはそんな気を緩めるわけには…」

と言い終わる前に慌てて新道が私の口を塞いだ。

「よ、妖花ちゃん!」

「す、すみません。私としたことが」

そんなことをしていると2人の男の子がこちらを見つめている。

「どうかしました?」

「な、なんでもないです」

「はい、大丈夫ですよ」

新道と共にそう言うと宮本と呼ばれた男の子の方が私達に向けて言う。

「本当に急に声かけて悪いな。なんというか休日で服がボロボロだったから何かに襲われたんじゃないかと思って」

「いえ、少し神社の近くで遊んでいただけですので」

新道がそう言うと2人とも「そうですか」とうなづいた。

「神社でね…それってあの大きい神社か?」

「いえ、あそこです。あの石階段の上にあるんですよ。小さいですけど神社が」

そう言うと「あぁ、あそこか」と美形の方の男の子が小さく呟いた。
その声を聞いて妖花は驚いた。

「知ってるんですか?」

「え、うん。知ってるかな。この前行ったから」

それを聞いて妖花は少し嬉しくなった。

「どうした?何で笑ってる?」

宮本と呼ばれていた方の男の子からそう聞かれて妖花は答える。

「いえ、意外だったので。あの神社に行く人少ないので」

「そ、そうだったんだ。たまたま寄っただけだから。あははは」

「そうですか。たまたま寄っただけ…」

妖花がそう言うと美形の男の子は慌てた様子になる。

「いや、最近よく行くんだ。階段もいい運動になるしあとあと綺麗だし」

「あ、ありがとう。なんだか気を使わせたみたいで。ごめんね」

手を合わせて目片目を瞑りながら妖花はそう伝えた。
すると宮本と呼ばれた男の子の方が妖花に質問する。

「何でありがとうなんだ?」

そう言われて妖花が答えようとすると新道が代わりに答えてくれる。

「あそこの神社は妖花ちゃんの先祖の方が建てたらしいんですよ」

「そうだったのか。なら今度お参りさせてもらうとするよ」

宮本と呼ばれた男の子が笑顔でそう言うと妖花は嬉しそうな顔で「はい」と答えた。

「それでその神社で何をしたらそんなことになるんだ?」

そう言われたと同時に風が吹き少し肌寒く感じてぎゅっと自分の体を抱きしめる。やはり服がボロボロということもあり、破れた箇所から少し風が入ってきたりしている。
それに気づいたのか宮本と呼ばれた男の子の方を向いて美形の方の男の子が妖花と新道に告げる。

「あの、そろそろ話は終えて皆さん帰路に着きませんか?」

突然美形の男の子がそう言葉を発した。

「え?いや、まだ話は終わって…」

急にそんなことを言われて驚いている宮本と呼ばれた男の子は何故かと問いただす。

「どういうことだ?」

そう言う宮本と呼ばれた男の子は背の高い美形の方の男の子に向けて言う。

「少しは察してくださいよ。2人はボロボロなんですよ、こんな人が通るところでそんな姿でずっと話したいわけないじゃないですか」

「そ、それもそうだな」

考えてみて自分がボロボロの少女2人とずっと話しているのはたしかに可哀想だとわかったらしく宮本と呼ばれた男の子は2人に告げる。

「いや、すまんな。俺としたことが。それでは、気をつけて帰ってくれな」

「はい、心配してくださってありがとうございます」

「いえいえ、いいんですよ。それが普通ですから」

2人は手を振って私達を見送った。初めて会った彼らに手を振られながら妖花と新道は笑みを浮かべてその場をあとにした。
2人の姿が見えなくなり、宮本と呼ばれた男の子は振り返って美形の男の子と共に歩き始めた。

そして一言。

「あいつら妖怪に襲われたな」

「そ、そうですね」

2人は話をしながら歩いていた。

「どんな妖怪なのかは分からないが何かあったとしか言えない。俺達も見習いだからな、それくらい分かる」

「あの子…」

美形の男の子は何か考え事をしているのか話を全く聞いていなかった。

「おい、聞いてるのか」

そう言われても返事はない。

「おい!」

やはり返事はない。

「聞いてるのか?忠国!」

そこでやっと気がついたのか宮本の方を向いた。

「あっ、す、すみません。」

「どうした?お前らしくない」

「いえ…なんでもないです」

美形の男の子、忠国はあることを考えていた。

あの子が妖花?本当に妖花なのかな。
たしかに面影はある気がする。
あの時の…脳裏に蘇る記憶。


森の中。幼い頃、小学生の1年生か2年生かそのぐらいの頃。自分と同じぐらいの歳の女の子と自分。そしてもう1人男の子。
あの日は親に連れられて来ていた。そこで3人1組のチームを組んで探索していた。その時のことだ。なんだかんだで好奇心旺盛の子供達の中でその2人と仲良くなった。
森の中を探索する中で妖花らしき女の子が自分に向かって振り向いて言う。

「私、君のこと好きだよ?」

笑顔の彼女が首を傾けてそう言った。

顔を赤らめる自分が大声で叫ぶ。

「ぼ、僕も君のことが…」

その時、何かが3人の背後に現れた。それは人ではない何かであった。

「ねぇ、あれ何!?」

もう1人の男の子が2人に向けて言う。

「え?」

2人は振り返る。

「あれは…?」

そこには…

そこからの記憶はない。ただ、あの時は楽しかった、それだけは覚えている。
たしか、何かのイベントか何かだった気がする。しかし、記憶が無い。

「おい、忠国聞いてるか?」

「えっ、はい!」

その声で忠国は現実に引き戻された。

「大丈夫か。さっきからおかしいぞ」

「い、いえ…。さっきの子が昔遊んでいた子に似てたので」

「そういうことか」

すると宮本と呼ばれた男の子が忠国に言う。

「まぁ別にいいけど、お前も頑張れよ。今日も行かないのか?」

「はい。俺に行く資格はないですから」

「そうか…お前も悲惨だよな。の家系の人間なのに…。いや、悪い。お前を貶していたわけじゃない」

「いえ、それは俺がダメなだけなので。俺は俺なりに頑張りますよ」

笑顔でそう伝えると肩を組んで励ましてくれた。
そんな会話をしながら2人は帰路に着いていた。

2人がそんな会話をしていることなど知らずに妖花と新道は帰路に着いていた。

「じゃあね、妖花ちゃん」

「はい、また月曜日に」

2人もまた自分の家に向かう。
今日だけで色々なことがあった。烏天狗に襲われ、なごみにも襲われかけ、そしてなごみが天狗のようになれると言うことも知った。

「私はあの子のこと何も知らなかったのかな」

なごみのことは親友だと思っていた。ただそれだけ。それだけだった。なごみのことをよく知らないのは自分だった。なごみは私のことを知ってくれているのに私はなごみのことを知らない。
それがとても嫌だった。

しかし知られたくないこともある。だから妖花は無理して聞かない。無理して言わせたところでそれは本心から言ってくれたわけではない。自分から言ってくれたからこそ本心であったということが伝わる気がする。

「あの日までは心の奥にしまおう」

たしかに自分が天狗ということを他の人にバレたくはないだろう。それが普通だ。だから妖花は次に会う日まで心の中にこの気持ちを留めておいた。

「ただいまー」

「お帰りなさい」

いつものように母親が帰宅した後の挨拶を交わしてくれる。

「じゃあ汗かいてるからシャワー浴びてくるね」

「うん、わかったわ」

母親にそう伝えてすぐに妖花は脱衣所に向かった。
汗ばんだ服を脱ぎ、洗濯機へと入れる。
そのあとバスタオルを持って浴室へ入った。

「気持ちー」

シャワーを浴びつつ、これからのことについて考えていた。

「なごみと何を話そうか。なごみの何を知りたいのか。私の何をなごみに伝えたいのか」

考えれば考えるほど出てくる思い。
久しぶりに会ったなごみは人ではなかった。
でも、いつもと変わらなかった。例え天狗だろうと感情は変わらない。

「よし、なごみの話をまずはちゃんと聞こう」

妖花はそう決心して勢いよく浴室の扉を開いた。


あれから数日後。なごみとの約束の日。

「ふぅ…。なごみ今から行くね」

妖花は学校から帰ったあと夕日に照らされながらあの神社の階段を勢いよく駆け上がった。

「やっと着いた」

息を切らして神社の本殿を見た。そこにはなごみが座っていた。

「なごみ…」

「久しぶり、妖花」

なごみは人の姿でそこにいたのだった。
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