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第一章 拾うという選択
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崩れた高架の影で、ユウは足を止めた。
都市が壊れてから、こうした「止まる瞬間」は何度もあった。それでも、慣れることはなかった。むしろ拾い手として生きる時間が長くなるほど、世界の微細な変化に敏感になり、立ち止まる回数は増えていった。
風が止む。
それだけで、背中に冷たいものが走る。
音が消えるわけではない。ただ、空気の密度が変わる。崩壊前なら誰も気に留めなかった変化だが、今ではそれが生死を分ける。
「……ミオ、動くな」
低く告げる。
声を張る必要はない。拾い手のチームでは、判断は常に短く、明確でなければならなかった。
前方を進んでいたミオは、即座に身を低くした。返事はない。返す必要もない。彼女はユウの声色だけで、状況の深刻さを理解している。
背後では、レイが無言で銃の位置を調整していた。カナは端末の画面を伏せ、センサーの感度を一段下げる。全員が、それぞれの役割に戻る。
チームが静かに“探索モード”へ移行する瞬間だった。
ここは旧市街の物流区画。崩壊前には、昼夜を問わず貨物車が行き交い、倉庫の灯りが消えることはなかったという。今では、コンクリートは砕け、鉄骨は錆び、地図に記された区画名だけが虚しく残っている。
拾い手にとっては、ありがたい場所でもあった。
補給庫。
この言葉には、今でも特別な響きがある。食料、弾薬、医療資材。崩壊前に蓄えられたそれらは、完全には失われていない。運が良ければ、未来を数日延ばせるだけの“余剰”が見つかる。
ユウは膝を折り、地面に指先をつけた。
冷たい。
瓦礫の隙間から伝わる振動は微かだが、確かに存在している。一定ではない。規則性も薄い。だが――呼吸に近い。
「反応、弱い」
小声で言う。
「大型じゃない。生体。……たぶん」
この「たぶん」が命取りになることもある。
それでもユウは言葉を濁さなかった。拾い手は、断定できない情報も共有する。それがチームの生存率を上げる。
レイが小さく舌打ちした。「野生獣か」
「違う」
ユウは首を振る。
「動きが遅い。あと……間隔が不自然だ」
言いながら、胸の奥がわずかに軋む。
この感覚には、覚えがあった。
崩壊から三年目。
似たような夜。
同じように瓦礫の下で、微弱な振動を感じた。
あのときも、判断は一瞬遅れた。
結果として、助けられなかった。
名前も知らない、ただの“反応”だった存在。
拾い手は、迷った時点で遅い。
ユウはそのことを、誰よりも知っている。
「行くぞ」
短く告げ、先頭に立つ。
補給庫の残骸は、想像以上に崩れていた。天井は半分以上が落ち、古い搬送レールが歪んだまま剥き出しになっている。床は傾き、瓦礫が斜面を作っていた。
空気が重い。
埃と金属の匂いに、かすかな腐臭が混ざる。
RAD値は許容範囲内。だが安全ではない。この世界で「安全」という言葉は、相対的な意味しか持たない。
「サバイバルセンサー、反応出た」
カナの声が、静寂を切り裂く。
「熱源、一つ。……奥です」
ユウは頷き、ゆっくりと進む。足音を殺し、瓦礫を踏まないように重心をずらす。時間が、伸びていく。こういう瞬間、秒針の存在を忘れる。
奥にいたのは、人だった。
瓦礫の隙間に、痩せた少年がうずくまっている。年は十歳前後。簡易マスクは破れ、呼吸は浅い。腕には明確なRAD反応。致死量ではないが、放置すれば長くはもたない。
ミオが息を呑む音が、はっきりと聞こえた。
「……子ども」
この世界では、その言葉は説明以上の意味を持つ。
子どもは弱い。守る者がいなければ、まず生き残れない。
レイがユウを見る。
その視線には、何も書かれていない。だからこそ、問いがはっきりと伝わってくる。
拾うか。
拾わないか。
ユウは少年を見つめた。
意識はある。こちらを見返す瞳には、怯えと諦めが混ざっている。期待はない。ただ、結果を待っているだけの目だ。
拾えば、リスクは増える。
食料は減り、移動は遅くなり、敵対勢力に見つかる確率も上がる。
拾わなければ――。
ユウは、静かに息を吐いた。
「名前は」
少年は一瞬だけ視線を逸らし、それからかすれた声で答えた。
「……ユウト」
その名を、ユウは心の中で反芻する。
拾うのは物資じゃない。未来だ。
それは、かつて自分が掲げた言葉だった。
そして今も、手放せずにいる生き方だ。
「連れていく」
迷いはなかった。
ミオが安堵の息を吐き、カナがすぐに医療キットを取り出す。レイは何も言わず、周囲の警戒に戻った。誰も異を唱えない。
ユウの判断が、このチームの基準だった。
ユウトを背負いながら、ユウは考える。
自分はいつから、拾うことに理由を求めるようになったのか。
かつては、生きるためだった。
今は――それだけでは足りない。
補給庫を離れる直前、遠くで金属が擦れる音がした。
誰かが、この探索を見ている。
ユウは振り返らず、歩き続けた。
拾った未来が、正しいとは限らない。
それでも、選んだ以上は守り抜く。それが拾い手の責任だ。
そして彼はまだ知らない。
この小さな選択が、やがて世界の設計そのものと衝突することを。
補給庫を離れた瞬間、ユウは初めて息を整えた。
背中に回した重みが、選択の結果を静かに主張している。
それが正しいかどうかを考えるのは、まだ先でいい。
ユウトの体は、思った以上に軽かった。
軽すぎる、と言ってもいい。背負った瞬間、ユウは一瞬だけ力加減を誤った。筋肉が抵抗を感じない。そこにあるのは重さではなく、空白に近い感触だった。
食べていない。
眠っていない。
守られてもいない。
数字にすれば、Fはゼロに近い。ARMも、ほとんど期待できない。拾い手としての判断は冷静であるべきだが、それでも身体が先に答えを出してしまうことがある。
「……帰路、変更する」
ユウは短く言った。
「南回りはやめる。地下連絡路を使う」
レイが眉をひそめる。「遠回りだ」
「敵対勢力が動いてる。さっきの音、偶然じゃない」
言葉の端を切るように告げる。説明は必要ない。拾い手の世界では、判断が遅れること自体が危険だった。
地下への入口は、かつての貨物用エレベーターの跡だった。扉は歪み、半分が開いたまま固定されている。内部は暗く、湿った空気が滞留している。ライトを最低照度に落とし、ユウは先に入った。
地下は、音が溜まる。
一歩一歩が、反響して戻ってくる。誰かに聞かれているような錯覚が、常につきまとう。拾い手にとって、地下移動は好ましい選択ではない。それでも今回は、地上よりは安全だった。
ユウトが、背中で小さく身じろぎした。
「……ここ、暗い」
声は弱々しいが、意識ははっきりしている。
それだけで、ユウはわずかに安堵した。
「すぐ抜ける」
それ以上は言わなかった。希望を与える言葉は、時に残酷になる。拾い手は約束を軽々しく口にしない。
地下通路の壁には、崩壊前の案内表示が残っていた。色褪せた矢印と、意味を失った施設名。ユウはそれらを見ないようにして進む。過去に意味を見出すと、足が止まる。
途中、カナが立ち止まった。
「……反応、増えてる」
小声で報告する。
「上。移動音。複数」
レイが即座に銃を構え、ミオがユウトの様子を確認する。チームは自然と隊形を変えた。守るべき中心が、はっきりと定まった形になる。
ユウは考える。
もし、ここで接触すれば。
交戦になれば。
この子は、確実に足手まといになる。
それでも、判断は変わらなかった。
拾うという行為は、常に未来の負債を背負うことだ。
ユウはそれを理解した上で、この生き方を選んでいる。
「止まらず行く」
音を立てず、速度を落とさず、しかし急がない。焦りは判断を鈍らせる。地下通路の終端が見えたとき、ユウは初めて背中の緊張を少しだけ緩めた。
外に出ると、夜だった。
崩壊後の夜は、暗いだけではない。光源が少ない分、星がやけに鮮明に見える。ユウトが、思わず空を見上げた。
「……きれいだ」
その言葉に、ユウは足を止めなかった。
立ち止まる価値がある美しさほど、この世界では危険だからだ。
簡易キャンプに戻ったのは、予定より一時間遅れだった。
ミオがすぐに食料を分配し、カナがRAD値を測る。応急処置の手際は慣れているが、それでもユウトの状態は良好とは言えない。
「助かるか?」
レイが、ユウにだけ聞こえる声で尋ねた。
「分からない」
即答だった。
「でも、放っておけば確実に死んでた」
レイはそれ以上何も言わなかった。
拾い手にとって、それは十分な理由だった。
夜が深まり、見張りの交代時間が近づく。
ユウトは毛布に包まれ、眠りに落ちていた。呼吸はまだ浅いが、安定している。
ユウは少し離れた場所に座り、銃を膝に置いた。
星を見上げる。崩壊前の空と、何が違うのか。考えたことは何度もあるが、答えは出ていない。
拾う理由は、最初は単純だった。
生き延びるため。
役に立つものを集めるため。
だが今は違う。
拾わなければ、世界は確実に失われていく。
物資ではなく、人が。
選択肢そのものが。
ユウトの寝顔を見て、ユウは思う。
この子は、未来そのものではない。
だが、未来が「残っている」証明にはなる。
拾われた未来は、まだ形を持たない。
それでも、確かにここにある。
ユウは銃を握り直し、静かに目を閉じた。
明日もまた、選択を迫られる。
拾うか。
見捨てるか。
その問いから、もう逃げるつもりはなかった。
都市が壊れてから、こうした「止まる瞬間」は何度もあった。それでも、慣れることはなかった。むしろ拾い手として生きる時間が長くなるほど、世界の微細な変化に敏感になり、立ち止まる回数は増えていった。
風が止む。
それだけで、背中に冷たいものが走る。
音が消えるわけではない。ただ、空気の密度が変わる。崩壊前なら誰も気に留めなかった変化だが、今ではそれが生死を分ける。
「……ミオ、動くな」
低く告げる。
声を張る必要はない。拾い手のチームでは、判断は常に短く、明確でなければならなかった。
前方を進んでいたミオは、即座に身を低くした。返事はない。返す必要もない。彼女はユウの声色だけで、状況の深刻さを理解している。
背後では、レイが無言で銃の位置を調整していた。カナは端末の画面を伏せ、センサーの感度を一段下げる。全員が、それぞれの役割に戻る。
チームが静かに“探索モード”へ移行する瞬間だった。
ここは旧市街の物流区画。崩壊前には、昼夜を問わず貨物車が行き交い、倉庫の灯りが消えることはなかったという。今では、コンクリートは砕け、鉄骨は錆び、地図に記された区画名だけが虚しく残っている。
拾い手にとっては、ありがたい場所でもあった。
補給庫。
この言葉には、今でも特別な響きがある。食料、弾薬、医療資材。崩壊前に蓄えられたそれらは、完全には失われていない。運が良ければ、未来を数日延ばせるだけの“余剰”が見つかる。
ユウは膝を折り、地面に指先をつけた。
冷たい。
瓦礫の隙間から伝わる振動は微かだが、確かに存在している。一定ではない。規則性も薄い。だが――呼吸に近い。
「反応、弱い」
小声で言う。
「大型じゃない。生体。……たぶん」
この「たぶん」が命取りになることもある。
それでもユウは言葉を濁さなかった。拾い手は、断定できない情報も共有する。それがチームの生存率を上げる。
レイが小さく舌打ちした。「野生獣か」
「違う」
ユウは首を振る。
「動きが遅い。あと……間隔が不自然だ」
言いながら、胸の奥がわずかに軋む。
この感覚には、覚えがあった。
崩壊から三年目。
似たような夜。
同じように瓦礫の下で、微弱な振動を感じた。
あのときも、判断は一瞬遅れた。
結果として、助けられなかった。
名前も知らない、ただの“反応”だった存在。
拾い手は、迷った時点で遅い。
ユウはそのことを、誰よりも知っている。
「行くぞ」
短く告げ、先頭に立つ。
補給庫の残骸は、想像以上に崩れていた。天井は半分以上が落ち、古い搬送レールが歪んだまま剥き出しになっている。床は傾き、瓦礫が斜面を作っていた。
空気が重い。
埃と金属の匂いに、かすかな腐臭が混ざる。
RAD値は許容範囲内。だが安全ではない。この世界で「安全」という言葉は、相対的な意味しか持たない。
「サバイバルセンサー、反応出た」
カナの声が、静寂を切り裂く。
「熱源、一つ。……奥です」
ユウは頷き、ゆっくりと進む。足音を殺し、瓦礫を踏まないように重心をずらす。時間が、伸びていく。こういう瞬間、秒針の存在を忘れる。
奥にいたのは、人だった。
瓦礫の隙間に、痩せた少年がうずくまっている。年は十歳前後。簡易マスクは破れ、呼吸は浅い。腕には明確なRAD反応。致死量ではないが、放置すれば長くはもたない。
ミオが息を呑む音が、はっきりと聞こえた。
「……子ども」
この世界では、その言葉は説明以上の意味を持つ。
子どもは弱い。守る者がいなければ、まず生き残れない。
レイがユウを見る。
その視線には、何も書かれていない。だからこそ、問いがはっきりと伝わってくる。
拾うか。
拾わないか。
ユウは少年を見つめた。
意識はある。こちらを見返す瞳には、怯えと諦めが混ざっている。期待はない。ただ、結果を待っているだけの目だ。
拾えば、リスクは増える。
食料は減り、移動は遅くなり、敵対勢力に見つかる確率も上がる。
拾わなければ――。
ユウは、静かに息を吐いた。
「名前は」
少年は一瞬だけ視線を逸らし、それからかすれた声で答えた。
「……ユウト」
その名を、ユウは心の中で反芻する。
拾うのは物資じゃない。未来だ。
それは、かつて自分が掲げた言葉だった。
そして今も、手放せずにいる生き方だ。
「連れていく」
迷いはなかった。
ミオが安堵の息を吐き、カナがすぐに医療キットを取り出す。レイは何も言わず、周囲の警戒に戻った。誰も異を唱えない。
ユウの判断が、このチームの基準だった。
ユウトを背負いながら、ユウは考える。
自分はいつから、拾うことに理由を求めるようになったのか。
かつては、生きるためだった。
今は――それだけでは足りない。
補給庫を離れる直前、遠くで金属が擦れる音がした。
誰かが、この探索を見ている。
ユウは振り返らず、歩き続けた。
拾った未来が、正しいとは限らない。
それでも、選んだ以上は守り抜く。それが拾い手の責任だ。
そして彼はまだ知らない。
この小さな選択が、やがて世界の設計そのものと衝突することを。
補給庫を離れた瞬間、ユウは初めて息を整えた。
背中に回した重みが、選択の結果を静かに主張している。
それが正しいかどうかを考えるのは、まだ先でいい。
ユウトの体は、思った以上に軽かった。
軽すぎる、と言ってもいい。背負った瞬間、ユウは一瞬だけ力加減を誤った。筋肉が抵抗を感じない。そこにあるのは重さではなく、空白に近い感触だった。
食べていない。
眠っていない。
守られてもいない。
数字にすれば、Fはゼロに近い。ARMも、ほとんど期待できない。拾い手としての判断は冷静であるべきだが、それでも身体が先に答えを出してしまうことがある。
「……帰路、変更する」
ユウは短く言った。
「南回りはやめる。地下連絡路を使う」
レイが眉をひそめる。「遠回りだ」
「敵対勢力が動いてる。さっきの音、偶然じゃない」
言葉の端を切るように告げる。説明は必要ない。拾い手の世界では、判断が遅れること自体が危険だった。
地下への入口は、かつての貨物用エレベーターの跡だった。扉は歪み、半分が開いたまま固定されている。内部は暗く、湿った空気が滞留している。ライトを最低照度に落とし、ユウは先に入った。
地下は、音が溜まる。
一歩一歩が、反響して戻ってくる。誰かに聞かれているような錯覚が、常につきまとう。拾い手にとって、地下移動は好ましい選択ではない。それでも今回は、地上よりは安全だった。
ユウトが、背中で小さく身じろぎした。
「……ここ、暗い」
声は弱々しいが、意識ははっきりしている。
それだけで、ユウはわずかに安堵した。
「すぐ抜ける」
それ以上は言わなかった。希望を与える言葉は、時に残酷になる。拾い手は約束を軽々しく口にしない。
地下通路の壁には、崩壊前の案内表示が残っていた。色褪せた矢印と、意味を失った施設名。ユウはそれらを見ないようにして進む。過去に意味を見出すと、足が止まる。
途中、カナが立ち止まった。
「……反応、増えてる」
小声で報告する。
「上。移動音。複数」
レイが即座に銃を構え、ミオがユウトの様子を確認する。チームは自然と隊形を変えた。守るべき中心が、はっきりと定まった形になる。
ユウは考える。
もし、ここで接触すれば。
交戦になれば。
この子は、確実に足手まといになる。
それでも、判断は変わらなかった。
拾うという行為は、常に未来の負債を背負うことだ。
ユウはそれを理解した上で、この生き方を選んでいる。
「止まらず行く」
音を立てず、速度を落とさず、しかし急がない。焦りは判断を鈍らせる。地下通路の終端が見えたとき、ユウは初めて背中の緊張を少しだけ緩めた。
外に出ると、夜だった。
崩壊後の夜は、暗いだけではない。光源が少ない分、星がやけに鮮明に見える。ユウトが、思わず空を見上げた。
「……きれいだ」
その言葉に、ユウは足を止めなかった。
立ち止まる価値がある美しさほど、この世界では危険だからだ。
簡易キャンプに戻ったのは、予定より一時間遅れだった。
ミオがすぐに食料を分配し、カナがRAD値を測る。応急処置の手際は慣れているが、それでもユウトの状態は良好とは言えない。
「助かるか?」
レイが、ユウにだけ聞こえる声で尋ねた。
「分からない」
即答だった。
「でも、放っておけば確実に死んでた」
レイはそれ以上何も言わなかった。
拾い手にとって、それは十分な理由だった。
夜が深まり、見張りの交代時間が近づく。
ユウトは毛布に包まれ、眠りに落ちていた。呼吸はまだ浅いが、安定している。
ユウは少し離れた場所に座り、銃を膝に置いた。
星を見上げる。崩壊前の空と、何が違うのか。考えたことは何度もあるが、答えは出ていない。
拾う理由は、最初は単純だった。
生き延びるため。
役に立つものを集めるため。
だが今は違う。
拾わなければ、世界は確実に失われていく。
物資ではなく、人が。
選択肢そのものが。
ユウトの寝顔を見て、ユウは思う。
この子は、未来そのものではない。
だが、未来が「残っている」証明にはなる。
拾われた未来は、まだ形を持たない。
それでも、確かにここにある。
ユウは銃を握り直し、静かに目を閉じた。
明日もまた、選択を迫られる。
拾うか。
見捨てるか。
その問いから、もう逃げるつもりはなかった。
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