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第八章 回収される未来
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夜明けは来なかった。
正確には、来たはずだった。だが、雲と煤と、遠くで燃え続ける何かが、朝という概念を曖昧にしていた。
RUINS RAIDの拠点は、静かだった。
静かすぎる、と言ったほうが正しい。
「……通信、まだ戻らない」
ミオが端末を叩きながら言った。
「予備回線も?」
「全部。沈黙してる」
それは異常だった。
昨日まで、生き残りの情報屋や、回収屋同士の小さな連絡が常に飛び交っていた。それが、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
ユウは、地図を見ていた。
「……消されてるな」
「NIGHT?」
「いや……違う」
ユウは首を振った。
「これは、もっと――整理されてる」
その瞬間、警戒用ドローンの映像が切り替わった。
白。
冷たい白。
整列した人影。
「……GENESIS」
ミオが呟く。
GENESIS部隊は、無音で進んでいた。
銃を構え、一定の間隔を保ち、迷いなく。
「包囲されてる?」
「違う」
ユウは、映像を拡大した。
「囲む気はない。――選別だ」
「選別?」
「逃げる価値があるか、回収する価値があるか。その判断をしに来てる」
それは戦争ではなかった。
狩りでもない。
管理だった。
「……ユウ」
ユウトの声が、少し震える。
「俺たち、昨日の件で……目を付けられた?」
「間違いない」
ユウは答えた。
「人を拾った。GENESISにとっては、秩序の破壊だ」
GENESISは、人類再建を掲げる勢力だ。
だが、彼らが再建するのは“管理できる人類”だけだった。
「彼らは、救わない」
ミオが低く言う。
「回収するだけ」
白い部隊が、拠点の外縁に到達する。
通信が、割り込んだ。
《こちらGENESIS管理部隊。識別コードを提示せよ》
無機質な声。
《抵抗は推奨しない。回収は円滑に行われる》
「……来たわね」
ミオが息を吐く。
「どうする?」
ユウは、少しだけ目を閉じた。
逃げる。
戦う。
交渉する。
どれも、完全な答えではない。
「交渉する」
ユウは言った。
「時間を稼ぐ」
「その間に?」
「逃がす」
「全員?」
「……できる限り」
ミオは、苦笑した。
「無茶を言うようになったわね、指揮官」
「昨日、学んだ」
ユウは静かに答える。
「選ばないと、誰かが死ぬ」
通信を開く。
「こちらRUINS RAID」
ユウは名乗った。
「回収対象の定義を聞かせろ」
数秒の沈黙。
《基準は単純だ》
GENESISの声は、感情を含まない。
《秩序に従う意思があるかどうか》
「従わなければ?」
《排除、または隔離》
ユウトが、息を呑む。
「……それ、救いじゃない」
「違う」
ユウは、はっきり言った。
「それは“処理”だ」
GENESISの部隊が、一歩前に出る。
《再度確認する》
《貴部隊は、回収に応じるか》
ユウは、仲間を見る。
ミオ。
ユウト。
名もない回収屋たち。
誰もが、答えを待っている。
「……応じない」
ユウは言った。
その瞬間、白い部隊の陣形が変わった。
《了解》
その一言だけで、全てが分かった。
GENESISは、もう交渉を終えている。
「来る!」
ミオが叫ぶ。
ユウは、叫び返した。
「戦闘準備! ――これは、回収じゃない。生存戦だ!」
白い秩序が、牙を剥く。
RUINS RAIDは、この瞬間から理解することになる。
拾われない未来は、敵として処理される。
そしてユウは、初めて知る。
GENESISと戦うということが、
単なる勢力争いではなく、
「世界の正しさ」そのものと戦うことなのだと。
GENESISの動きは、静かだった。
だが、それは躊躇のない静けさだった。
閃光。
音の遅れた衝撃。
前線にいた回収屋が倒れる。血は出ていない。だが、身体が痙攣し、そのまま動かなくなった。
「非殺傷……?」
ユウトが息を詰まらせる。
「違う」
ミオが歯を噛む。
「“殺さない”だけよ。壊してるのは神経」
GENESISの武器は、命を奪わない。
だが、戦う意思を正確に切断する。
「前に出るな!」
ユウは叫ぶ。
「距離を取れ! 分断されるな!」
白い部隊は、包囲ではなく、切り分けを始めていた。
左右から圧をかけ、弱い部分を見極め、そこだけを潰す。
「……うまいな」
ミオが吐き捨てる。
「戦争じゃない。処理作業よ、これ」
ユウは、歯を食いしばった。
GENESISは、勝つために戦っていない。
正すために動いている。
それが、何よりも厄介だった。
「ユウ!」
ユウトの声。
振り返ると、ユウトが一人、取り残されかけていた。
白い兵が、彼を囲もうとしている。
「ユウト、動くな!」
だが、その時だった。
倒れていた回収屋の一人が、身を起こそうとする。
GENESISの兵が、即座に照準を合わせた。
ユウトは、考える前に身体を動かしていた。
走る。
割り込む。
撃つ。
「やめろ!」
衝撃が走る。
ユウトは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「……くそ……」
視界が揺れる。
だが、立ち上がる。
「ユウト!」
ユウが叫ぶ。
「下がれ!」
「無理だ……!」
ユウトは、震える声で答えた。
「このままだと……連れていかれる!」
GENESISの兵が、再び照準を合わせる。
《抵抗行為を確認》
無感情な声。
《対象を拘束》
その瞬間、ユウは理解した。
――このままでは、ユウトは“回収”される。
生きて。
だが、もう戻らない。
「……撃て」
ユウは、低く言った。
ミオが、一瞬だけ彼を見る。
「……了解」
炸裂音。
白い兵の一人が、倒れる。
初めて、GENESISの陣形が乱れた。
《敵性行動を確認》
《優先度変更》
《指揮対象:RUINS RAID 指揮官》
視線が、ユウに集まる。
「……狙われたわね」
ミオが笑う。
「ちょうどいい」
ユウは、前に出た。
「ユウト、下がれ!」
「ユウ!」
「命令だ!」
その声に、ユウトは足を止めた。
ユウは、GENESISの部隊と正面から向き合う。
「俺は……回収されない」
声は、震えていなかった。
「拾う側だ」
GENESISの兵が、ゆっくりと照準を上げる。
《理解不能》
《秩序外行動》
《排除対象に指定》
「……そうだな」
ユウは、苦く笑った。
「お前らにとっては、俺は――」
銃声が、夜を裂く。
ミオが援護する。
ユウトが、必死に弾を送る。
RUINS RAIDは、撤退を開始していた。
完全な勝利ではない。
だが、壊滅でもない。
GENESISは、深追いをしなかった。
彼らにとって重要なのは、殲滅ではなく記録だ。
《対象、敵性勢力として登録》
《次回接触時、即時排除》
その通信を最後に、白い部隊は引いた。
拠点に戻った時、誰も声を出さなかった。
倒れた仲間は、生きていた。
だが、目を覚まさない。
「……連れていかれなかっただけ、マシね」
ミオが言う。
「それが……正解なのか?」
ユウトが呟く。
ユウは、答えなかった。
自分が下した判断。
GENESISを撃ったという事実。
それは、もう戻れない線だった。
「なあ、ユウ」
ユウトが、静かに言う。
「俺……守られただけじゃなかったよな」
ユウは、彼を見る。
「ああ」
「俺、初めて……誰かを守った」
その言葉に、ユウは胸が締め付けられた。
「それでいい」
ユウは、そう言った。
「それで、十分だ」
外では、夜が明け始めていた。
だが、その光は、救いではない。
RUINS RAIDは、世界に登録された。
秩序に従わない勢力として。
拾われない未来を選んだ敵として。
そしてユウは理解する。
GENESISと戦うということは、
武器を向け合うことではない。
“正しい未来”を拒否するという宣言なのだと。
第八章、ここで終わり。
正確には、来たはずだった。だが、雲と煤と、遠くで燃え続ける何かが、朝という概念を曖昧にしていた。
RUINS RAIDの拠点は、静かだった。
静かすぎる、と言ったほうが正しい。
「……通信、まだ戻らない」
ミオが端末を叩きながら言った。
「予備回線も?」
「全部。沈黙してる」
それは異常だった。
昨日まで、生き残りの情報屋や、回収屋同士の小さな連絡が常に飛び交っていた。それが、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
ユウは、地図を見ていた。
「……消されてるな」
「NIGHT?」
「いや……違う」
ユウは首を振った。
「これは、もっと――整理されてる」
その瞬間、警戒用ドローンの映像が切り替わった。
白。
冷たい白。
整列した人影。
「……GENESIS」
ミオが呟く。
GENESIS部隊は、無音で進んでいた。
銃を構え、一定の間隔を保ち、迷いなく。
「包囲されてる?」
「違う」
ユウは、映像を拡大した。
「囲む気はない。――選別だ」
「選別?」
「逃げる価値があるか、回収する価値があるか。その判断をしに来てる」
それは戦争ではなかった。
狩りでもない。
管理だった。
「……ユウ」
ユウトの声が、少し震える。
「俺たち、昨日の件で……目を付けられた?」
「間違いない」
ユウは答えた。
「人を拾った。GENESISにとっては、秩序の破壊だ」
GENESISは、人類再建を掲げる勢力だ。
だが、彼らが再建するのは“管理できる人類”だけだった。
「彼らは、救わない」
ミオが低く言う。
「回収するだけ」
白い部隊が、拠点の外縁に到達する。
通信が、割り込んだ。
《こちらGENESIS管理部隊。識別コードを提示せよ》
無機質な声。
《抵抗は推奨しない。回収は円滑に行われる》
「……来たわね」
ミオが息を吐く。
「どうする?」
ユウは、少しだけ目を閉じた。
逃げる。
戦う。
交渉する。
どれも、完全な答えではない。
「交渉する」
ユウは言った。
「時間を稼ぐ」
「その間に?」
「逃がす」
「全員?」
「……できる限り」
ミオは、苦笑した。
「無茶を言うようになったわね、指揮官」
「昨日、学んだ」
ユウは静かに答える。
「選ばないと、誰かが死ぬ」
通信を開く。
「こちらRUINS RAID」
ユウは名乗った。
「回収対象の定義を聞かせろ」
数秒の沈黙。
《基準は単純だ》
GENESISの声は、感情を含まない。
《秩序に従う意思があるかどうか》
「従わなければ?」
《排除、または隔離》
ユウトが、息を呑む。
「……それ、救いじゃない」
「違う」
ユウは、はっきり言った。
「それは“処理”だ」
GENESISの部隊が、一歩前に出る。
《再度確認する》
《貴部隊は、回収に応じるか》
ユウは、仲間を見る。
ミオ。
ユウト。
名もない回収屋たち。
誰もが、答えを待っている。
「……応じない」
ユウは言った。
その瞬間、白い部隊の陣形が変わった。
《了解》
その一言だけで、全てが分かった。
GENESISは、もう交渉を終えている。
「来る!」
ミオが叫ぶ。
ユウは、叫び返した。
「戦闘準備! ――これは、回収じゃない。生存戦だ!」
白い秩序が、牙を剥く。
RUINS RAIDは、この瞬間から理解することになる。
拾われない未来は、敵として処理される。
そしてユウは、初めて知る。
GENESISと戦うということが、
単なる勢力争いではなく、
「世界の正しさ」そのものと戦うことなのだと。
GENESISの動きは、静かだった。
だが、それは躊躇のない静けさだった。
閃光。
音の遅れた衝撃。
前線にいた回収屋が倒れる。血は出ていない。だが、身体が痙攣し、そのまま動かなくなった。
「非殺傷……?」
ユウトが息を詰まらせる。
「違う」
ミオが歯を噛む。
「“殺さない”だけよ。壊してるのは神経」
GENESISの武器は、命を奪わない。
だが、戦う意思を正確に切断する。
「前に出るな!」
ユウは叫ぶ。
「距離を取れ! 分断されるな!」
白い部隊は、包囲ではなく、切り分けを始めていた。
左右から圧をかけ、弱い部分を見極め、そこだけを潰す。
「……うまいな」
ミオが吐き捨てる。
「戦争じゃない。処理作業よ、これ」
ユウは、歯を食いしばった。
GENESISは、勝つために戦っていない。
正すために動いている。
それが、何よりも厄介だった。
「ユウ!」
ユウトの声。
振り返ると、ユウトが一人、取り残されかけていた。
白い兵が、彼を囲もうとしている。
「ユウト、動くな!」
だが、その時だった。
倒れていた回収屋の一人が、身を起こそうとする。
GENESISの兵が、即座に照準を合わせた。
ユウトは、考える前に身体を動かしていた。
走る。
割り込む。
撃つ。
「やめろ!」
衝撃が走る。
ユウトは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「……くそ……」
視界が揺れる。
だが、立ち上がる。
「ユウト!」
ユウが叫ぶ。
「下がれ!」
「無理だ……!」
ユウトは、震える声で答えた。
「このままだと……連れていかれる!」
GENESISの兵が、再び照準を合わせる。
《抵抗行為を確認》
無感情な声。
《対象を拘束》
その瞬間、ユウは理解した。
――このままでは、ユウトは“回収”される。
生きて。
だが、もう戻らない。
「……撃て」
ユウは、低く言った。
ミオが、一瞬だけ彼を見る。
「……了解」
炸裂音。
白い兵の一人が、倒れる。
初めて、GENESISの陣形が乱れた。
《敵性行動を確認》
《優先度変更》
《指揮対象:RUINS RAID 指揮官》
視線が、ユウに集まる。
「……狙われたわね」
ミオが笑う。
「ちょうどいい」
ユウは、前に出た。
「ユウト、下がれ!」
「ユウ!」
「命令だ!」
その声に、ユウトは足を止めた。
ユウは、GENESISの部隊と正面から向き合う。
「俺は……回収されない」
声は、震えていなかった。
「拾う側だ」
GENESISの兵が、ゆっくりと照準を上げる。
《理解不能》
《秩序外行動》
《排除対象に指定》
「……そうだな」
ユウは、苦く笑った。
「お前らにとっては、俺は――」
銃声が、夜を裂く。
ミオが援護する。
ユウトが、必死に弾を送る。
RUINS RAIDは、撤退を開始していた。
完全な勝利ではない。
だが、壊滅でもない。
GENESISは、深追いをしなかった。
彼らにとって重要なのは、殲滅ではなく記録だ。
《対象、敵性勢力として登録》
《次回接触時、即時排除》
その通信を最後に、白い部隊は引いた。
拠点に戻った時、誰も声を出さなかった。
倒れた仲間は、生きていた。
だが、目を覚まさない。
「……連れていかれなかっただけ、マシね」
ミオが言う。
「それが……正解なのか?」
ユウトが呟く。
ユウは、答えなかった。
自分が下した判断。
GENESISを撃ったという事実。
それは、もう戻れない線だった。
「なあ、ユウ」
ユウトが、静かに言う。
「俺……守られただけじゃなかったよな」
ユウは、彼を見る。
「ああ」
「俺、初めて……誰かを守った」
その言葉に、ユウは胸が締め付けられた。
「それでいい」
ユウは、そう言った。
「それで、十分だ」
外では、夜が明け始めていた。
だが、その光は、救いではない。
RUINS RAIDは、世界に登録された。
秩序に従わない勢力として。
拾われない未来を選んだ敵として。
そしてユウは理解する。
GENESISと戦うということは、
武器を向け合うことではない。
“正しい未来”を拒否するという宣言なのだと。
第八章、ここで終わり。
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