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第1章 数値化されなくても運の悪さは知っていました

その6

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シスターに案内されて向かった先は教会の入り口。
正面扉からは10段くらいの下り階段があり、その前は噴水のある公園となっている。
正確には噴水のあった、公園。
西洋風の鎧をつけた人達が大勢片膝をついている。
怪我をした、というよりは壊れた噴水に腰掛けている女性に頭を下げているように見える。
赤…というよりはワインレッドの髪、ブドウのような紫の瞳。
ボン、キュ、ボンのお姉さんは叶姉妹が着ていそうなセクシードレスを着ている。
スリットから大胆に太ももを見せ足を組み、退屈そうに髪をいじっていた。
この女の人が…ララムさん、なのかな?
魔獣って言うから、てっきり動物なのかと思ってた。
「貴女が異界の勇者様、かしら?」
私に気づくと、お姉さんは優雅に髪をかきあげた。
妖艶ってこういう人を指す言葉なのかも。
「は、初めまして。夜々子と申します」
「自己紹介してどうするんですか!」
はずみで名乗った私にシスターが的確なツッコミを入れた。
「んふふ。わざわざどうも。私は赤き薔薇の淫夢、ララムよ」
やっぱりこの人がララムさんなんだ。
ウェーブのかかった長い髪なんてすごく綺麗。
「恐怖で声も出ない、といったところかしら?」
「あ、いえ、綺麗な人だなぁと思って」
「へ?」
「さっき髪かきあげた時すごくサラサラで、羨ましいです」
「そ、そうかしら?」
「はい。そのドレスもすごく似合ってますし」
「本当?これ、お気に入りなのよね~」
「足も綺麗だし、羨ましいです。私、自信ないからいつもタイツとかレギンスで隠しちゃってて…」
「もったいないわねぇ。ちゃんと寝る前にケアしてるの?」
「いえ、あんまり…」
「だめよ、その日のうちに老廃物はリンパに流さないと」
「やり方がよくわからなくて」
「わかる、私も最初はそうだったわ。いい?マッサージはね…」
そう言ってララムさんは、わざわざ私の隣に来てリンパマッサージを教えてくれた。
教え方がすごく丁寧でわかりやすい。
これを身につけられるかどうかは努力次第ということね。
「ありがとうございます、ララムさん」
「いいのよ、美を追求する先輩として当然の事をしたまでなんだから」
「私、頑張ってみます」
「それじゃ私はこれで」
「はい、ありがとうございました」
ごきげんよう、とララムさんは手を振り笑顔で飛んで行った。
長い髪で気がつかなかったけれど、ドレスの背中部分は大きく開いていて、そこからコウモリのような羽-ー私達がよく想像する悪魔の羽--が生えていた。
大きさはいわゆる小悪魔サイズ。
髪と同じワインレッドだったから気づかなかったのかも。
あの小ささでよく飛べるなぁ、なんて思っていたら、

「って、ちっがーーーう!」

ララムさんが猛スピードで戻ってきた。
乱れた髪を直しつつ、ビシィッとわたしに指を突きつけ、ビクついた私に息も切れ切れにいう。
「や…やるじゃ…ゼェ…ない…の…ハァ…。危うく…フゥ…本来の…ハァ…目的を…ゼェ…忘れるところ…フゥ…ああ~しんどい」
「えと、お水入ります?」
「結構よ…」
呼吸が落ち着いたのか、ララムさんは咳払いして仕切り直す。
「勇者ヤヤコ!私をおだてて追い返そうとしたって無駄よ!」
「そんなつもりなかったんですけど…」
「お黙り!」
「たとえ赤き薔薇の淫夢でも、勇者様は負けませんわ!女性である勇者様には、貴女の自慢のテンプテーションは効きませんよ!」
黙れと言われて黙ってしまった私の代わりに、今まで呆然とやりとりを見ていたシスターが、我に返って啖呵たんかを切った。
テンプテーションってなんだっけ?
ゲームとかでよく聞くような…。
シスターの言葉にララムさんは余裕の笑みを浮かべている。
「ええ、承知しておりますわ。騎士団はほとんどが男性。騎士団を動けなくした段階で私の役目は終了ですのよ」
「それはどういう…」
「待たせたね、ララム」
シスターのセリフを遮り、バサバサと羽音が聞こえてきた。
「ああ…そんな…」
現れたのは長髪の男性。
紫に近い青い髪、ブドウのような紫の瞳。
まるで宝塚歌劇団のような、白くてゴージャスな衣装。
顔立ちがどこかララムさんに似ている。
兄弟とかなのかな?
彼が現れた事で、シスターは膝から崩れ落ちてしまった。
「赤き薔薇だけでなく、青き薔薇まで現れるなんて…」
どうやら彼にも通り名があるみたい。
「まったく…待ちくたびれたわよ」
「待たせたね、異世界の勇者。僕は青き薔薇の淫夢、ロロム。君も僕のとりこにしてあげるよ」
そういってロロムさんはウインクをした。
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