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第4章 噂の一人歩きは本当にやめて欲しいのです

その1

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誰かの話し声で目が覚める。
けど目が開かないのでとりあえず聞き耳を立てる。
女の人に、男の人。
年配の方もいるみたい。
「全く…例え悪意でも明確な目的と人望があるだけ魔王の方がまだマシですじゃわい」
「ワタクシもそう思いますわ」
誰かのため息の後、ヒヒンと馬が鳴いた。
「オルレンシア様、皆様、どうぞお気をつけて」
「貴方方も気をしっかりと保つのですよ。ロビン分隊長、後は頼みます」
「お任せください」
「全体、前へ!」
その号令に馬の足音が徐々に増え、やがて私の体も揺れ始めた。
ガタガタという揺れはお世辞にも快適とは言えず、このままだと確実に酔いそう。
重い体に鞭打ってなんとか起き上がろうとすれば、誰かがさりげなく手を貸してくれた。
「おはよう、ヤヤコくん。もう起きて大丈夫なのかのぅ?」
「ゼロさん、おはようございます。ちょっとダルいですけど、多分大丈夫です」
どうやら私がいるのはいつもの武具荷台らしい。
ゼロさんの話によると、どうやら魔力を使い果たして眠り込んでいたみたい。
そういえば、いつの間にかゾウさんが居なくなっているわ。
巨大薔薇が灰になった後、大きな瓦礫を撤去し、生き残りがいないか調査、洞窟の安全確認、怪我人の治療等々…とにかく、私が眠りこけている間も騎士団とゼロさんは忙しかったのだとか。
驚いたことに寝ている間に日付も変わっていたわ。
そこまで重症ではないけれど怪我をした騎士達で分隊をつくり、本部からの応援を待つ間の街の警護をまかせ、オルレンシアさん率いる本隊は次の街へと出発したところなんだとか。
「喜べヤヤコくん。君の面倒は見切れないと儂がお守役として同行を正式に許可されたぞい」
「えっと、喜んじゃいけない気がするんですけど…」
「ルナの一件に関しては適当に報告しておいたから安心せい」
「…怒って、ましたよね?」
「まったく!ワタクシの許可も取らずに魔術の練習をしていただなんて信じられませんわ!これだから異世界人を同行させるのは嫌だったんですわ!」
誰が、と言わなくても伝わったらしい。
ゼロさんはわざわざオルレンシアさんに変身してモノマネを披露してくれた。
「やっぱり、ちゃんと許可を取るべきでしたね」
「仕方あるまい。あっさり瘴気を浄化しては儂が魔獣だとバレてしまうからの。今の世の中、魔獣だとバレたらなにをされるかわからなそうじゃからな」
「私がやったことにすれば、異世界人だからで納得されそうですもんね」
「利用するようで悪いが、そういうことじゃ」
「今一番の問題は世界の厄災を防ぐことですし、利害が一致してるなら問題なしです」
「ヤヤコくんは前向きじゃなぁ。むしろ楽天的…能天気?」
「……」
「ははっ、すまんすまん」
ムッとした私を見て、ゼロさんはよしよしと頭を撫でてきた。
子供扱いされてる…。
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