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第4章 噂の一人歩きは本当にやめて欲しいのです
その4
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「そのお告げとやらは、どのようにして告げられたのじゃ?」
「それが不思議な話で、当時街にいた全員が夢を見ているのさ」
「夢、ですか?」
「ああ。時間にしては2、3分の出来事だったんだが、全員が同じ夢を見てね。まあ、夢と表現したが夢でも見ていたかのような不思議な体験と言うやつさ」
「白昼夢のようなものでしょうか?」
「そうかもしれない。こればかりは表現が難しくてね」
「夢で先程の内容を?」
「ああ。真っ白な空間に大きな青い花が一輪咲いていてね。その中に中性的な人物が佇んでいるのさ。逆光になっていて顏なんかはハッキリと見えなかったんだが、ありゃきっと神さ」
今でも目に焼き付いている、と警備員さんは語る。
そして時計を確認すると私とゼロさんを回れ右させた。
「いいかい、輝石はなくても20時以降に出歩いちゃダメだからね」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「とても良い話であった、礼を言う」
警備員さんにお礼を言うと、私達は帰路につく。
よく見るとお店が次々と灯りを落としていた。
「大きな花に人影というと、ルナさんを思い出しますね」
「うむ」
「やっぱりアブド・リヴラドなんでしょうか?」
「今の段階ではなんとも…。今夜、御使とやらの姿を確認してみる必要がありそうじゃな」
「そうですね。でも、今夜は様子見だけでいいんじゃないですか?明後日くらいまでは居るってオルレンシアさん言ってましたし」
「そうじゃのう。確かに一晩くらいは様子見でも良いかもしれぬな」
私達は早足で駐屯所に戻ると、お告げの事をオルレンシアさんに報告し休む事にした。
窓の外を見れば大きな街に灯りはなく、空には満天の星。
元の世界ほどではないけれど、この世界でも街や村はそこそこ灯りが灯っていてここまでたくさんの星は見えなかった。
それだけこの街にとってお告げは重要なのだろう。
カーテンを閉めてベッドに入る。
御使や神様と思しき人は一体誰なんだろう?
気になる事は多々あれど、半日歩き回っていた疲れの方が勝り、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
※ ※ ※
皆が眠りにつき、しんと静まり返った深夜。
お告げのあった当初は人がいないのを良い事に店舗への空き巣被害が多発し、駐屯所の兵士達も見回り等で出歩いていた。
だが、今では犯罪者も兵士も眠りにつく。
お告げを授けた『神』は犯罪者には有無を言わさず天罰を、治安を守る兵士には少しだけ配慮して警告を与えた。
今や街は、この辺りで一番静まり返っている。
そんな中、大型鳥類の羽ばたきのような音が聞こえ、駐屯所の玄関先で何やらしている。
近づいてきた気配は紛れもない増幅の火種。
ゼロは窓の隙間から外を見るが、残念ながら玄関は死角となっていて様子を見る事ができない。
だがこれでハッキリした。
お告げを与えたのは増幅の火種で、自由に動き回れる程に成長している。
だが、分からないことが一つ。
いわゆる『害悪』と称されるものを撒き散らすのが増幅の火種であり、幸福を与えるなど聞いた事がない。
どういう事かとゼロが考えていると、不意に増幅の火種の気配が近づいてきた。
「やあ!」
窓からひょっこりと顔を出したのは少年とも少女ともつかぬ容姿と声の存在だった。
全身がまるでガラス細工でできているかのようで、ヘミモルファイト色の髪と瞳に白い肌。
見開き気味の瞳と張り付いた笑顔が少々不気味だ。
夜中に突然出会ったら幽霊と見間違えられても文句は言えないだろう。
「揺り籠の守人とか久々に見たな~。こんなトコロで何してるの~?」
「お主を浄化しにきた」
「え~?ボクまだナニもしてないよ~?それに、今はキミたちのほうが、よっぽど厄害だと思うな~」
「どういう意味じゃ?」
「まったまたぁ、とぼけちゃって~」
無邪気に笑う増幅の火種に、ゼロは眉根を寄せる。
「あれあれ?もしかしてホント~にわかってないの~?」
「この世界に息づく全ての命を不幸の感情から守るのが魔獣の使命じゃ。だのにお主は儂らこそが害悪であると?」
「だってそうでしょ~?世界を飲み込み破壊する力を持った『不幸の感情の究極集合体』を、浄化の方法すら無いのに解放したのはキミたちじゃないか~」
「それは…」
「そりゃそ~だよね、こんな世界、壊したくなるよね。捕まって、殺されて、魔石奪われて。そうやって奪った魔石で人間は魔術文明を発展させてきたんだから」
「…っ!…やはり、そうじゃったか」
「んん?ん~、もしかしてキミ…。ははぁん、そっか、そ~なんだぁ。浄化って言うからそれでなのかと思ったけど、なるほどね」
苦虫を噛み潰したかのようなゼロを見て、増幅の火種は楽しそうに笑った。
「いいよ、やれるものならやってみてよ。明日、時計塔の最上階に来て。ボクはそこに居るから。勇者も一緒でいいよ。どっちが悪か、確かめようじゃないか」
「望むところじゃ」
口角をさらに上げ増幅の火種はニタリと不気味に笑うと、体色と同じ色の翼を背中から生やして飛び立っていった。
「それが不思議な話で、当時街にいた全員が夢を見ているのさ」
「夢、ですか?」
「ああ。時間にしては2、3分の出来事だったんだが、全員が同じ夢を見てね。まあ、夢と表現したが夢でも見ていたかのような不思議な体験と言うやつさ」
「白昼夢のようなものでしょうか?」
「そうかもしれない。こればかりは表現が難しくてね」
「夢で先程の内容を?」
「ああ。真っ白な空間に大きな青い花が一輪咲いていてね。その中に中性的な人物が佇んでいるのさ。逆光になっていて顏なんかはハッキリと見えなかったんだが、ありゃきっと神さ」
今でも目に焼き付いている、と警備員さんは語る。
そして時計を確認すると私とゼロさんを回れ右させた。
「いいかい、輝石はなくても20時以降に出歩いちゃダメだからね」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「とても良い話であった、礼を言う」
警備員さんにお礼を言うと、私達は帰路につく。
よく見るとお店が次々と灯りを落としていた。
「大きな花に人影というと、ルナさんを思い出しますね」
「うむ」
「やっぱりアブド・リヴラドなんでしょうか?」
「今の段階ではなんとも…。今夜、御使とやらの姿を確認してみる必要がありそうじゃな」
「そうですね。でも、今夜は様子見だけでいいんじゃないですか?明後日くらいまでは居るってオルレンシアさん言ってましたし」
「そうじゃのう。確かに一晩くらいは様子見でも良いかもしれぬな」
私達は早足で駐屯所に戻ると、お告げの事をオルレンシアさんに報告し休む事にした。
窓の外を見れば大きな街に灯りはなく、空には満天の星。
元の世界ほどではないけれど、この世界でも街や村はそこそこ灯りが灯っていてここまでたくさんの星は見えなかった。
それだけこの街にとってお告げは重要なのだろう。
カーテンを閉めてベッドに入る。
御使や神様と思しき人は一体誰なんだろう?
気になる事は多々あれど、半日歩き回っていた疲れの方が勝り、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
※ ※ ※
皆が眠りにつき、しんと静まり返った深夜。
お告げのあった当初は人がいないのを良い事に店舗への空き巣被害が多発し、駐屯所の兵士達も見回り等で出歩いていた。
だが、今では犯罪者も兵士も眠りにつく。
お告げを授けた『神』は犯罪者には有無を言わさず天罰を、治安を守る兵士には少しだけ配慮して警告を与えた。
今や街は、この辺りで一番静まり返っている。
そんな中、大型鳥類の羽ばたきのような音が聞こえ、駐屯所の玄関先で何やらしている。
近づいてきた気配は紛れもない増幅の火種。
ゼロは窓の隙間から外を見るが、残念ながら玄関は死角となっていて様子を見る事ができない。
だがこれでハッキリした。
お告げを与えたのは増幅の火種で、自由に動き回れる程に成長している。
だが、分からないことが一つ。
いわゆる『害悪』と称されるものを撒き散らすのが増幅の火種であり、幸福を与えるなど聞いた事がない。
どういう事かとゼロが考えていると、不意に増幅の火種の気配が近づいてきた。
「やあ!」
窓からひょっこりと顔を出したのは少年とも少女ともつかぬ容姿と声の存在だった。
全身がまるでガラス細工でできているかのようで、ヘミモルファイト色の髪と瞳に白い肌。
見開き気味の瞳と張り付いた笑顔が少々不気味だ。
夜中に突然出会ったら幽霊と見間違えられても文句は言えないだろう。
「揺り籠の守人とか久々に見たな~。こんなトコロで何してるの~?」
「お主を浄化しにきた」
「え~?ボクまだナニもしてないよ~?それに、今はキミたちのほうが、よっぽど厄害だと思うな~」
「どういう意味じゃ?」
「まったまたぁ、とぼけちゃって~」
無邪気に笑う増幅の火種に、ゼロは眉根を寄せる。
「あれあれ?もしかしてホント~にわかってないの~?」
「この世界に息づく全ての命を不幸の感情から守るのが魔獣の使命じゃ。だのにお主は儂らこそが害悪であると?」
「だってそうでしょ~?世界を飲み込み破壊する力を持った『不幸の感情の究極集合体』を、浄化の方法すら無いのに解放したのはキミたちじゃないか~」
「それは…」
「そりゃそ~だよね、こんな世界、壊したくなるよね。捕まって、殺されて、魔石奪われて。そうやって奪った魔石で人間は魔術文明を発展させてきたんだから」
「…っ!…やはり、そうじゃったか」
「んん?ん~、もしかしてキミ…。ははぁん、そっか、そ~なんだぁ。浄化って言うからそれでなのかと思ったけど、なるほどね」
苦虫を噛み潰したかのようなゼロを見て、増幅の火種は楽しそうに笑った。
「いいよ、やれるものならやってみてよ。明日、時計塔の最上階に来て。ボクはそこに居るから。勇者も一緒でいいよ。どっちが悪か、確かめようじゃないか」
「望むところじゃ」
口角をさらに上げ増幅の火種はニタリと不気味に笑うと、体色と同じ色の翼を背中から生やして飛び立っていった。
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