アラフォー主婦が異世界に行ったら同じアラフォーの魔法使でした。

ぺこたま

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夜会

21

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 少し気が晴れて門へ向かう。正面の門から来るってことはお客様で貴族よね?…剣はおいておこう。
 あれ。今、伝えにいこうとした本人が御者台から降りてきた。
「セバンスさん、お出かけでした?」
「おや。これはニィナ様自らお出迎えなさって下さるとは」
 にこやかに笑う。
 あ、違う。セバスンさんの方だ。てことはこの馬車の中には。
「約束通りきましたわ。ガーゼイ兄様には知らせをきちんと出しておきました」
 文句ある?とばかりに降りてきたのは、お嬢様だ。
「いらっしゃいませ」
 うん、私のいうセリフじゃないな。私、客扱いでここにいるのに。
「ところで、あれはなんでしょう」
 お嬢様が二人を見て言った。
「仕事をさぼって遊んでいるのですよ」
「門番が?」
「はい」
 門はやっぱりすごく重くて、ぐぬぬと力を入れても開かなかった。なに、これも筋トレなわけ?
 こういう時は魔法だ。ちょちょいと重さを軽減すればいい。
 あ、ついでにガーゴイル君のように害のある者たちは通さないプロテクトをかけておこう。この門の佇まいならガーゴイル君似合うと思うなぁ。いい雰囲気かもしだすよ?セバンスさんに聞いてみよーっと。
「お嬢様。歩いて向かわれるのですか?」
「ええ。先に馬車をつけて荷物を下ろしておいてちょうだい」
「かしこまりました。では、また後ほど」
 きれいなお辞儀をしてセバスンさんは御者台に戻ると馬車を歩かせていった。
 そうだよね、普通はエントランスでお嬢様は降りると思うんだけど。
「昨日のモノを持って参りましたわ」
 本当に食べる気なんだなぁ。
 剣をもって(変な目でみられたけれど気にしない)、のんびりと散歩のように二人で屋敷へ歩く。
「例の方は心労で静養の旅に出たとされてますわ」
 例の方…?ミリベール婦人か。つまり私だ。
 え、旅なの?
「領地だと探されてもやっかいですわ」
 なるほど。行き場のない旅ならどこに行ってるかは、ガーゼイも知らないもんね。心労なら動けないんじゃと思うかもしれないけど、あんな恐ろしいめにあう帝都なんて、という思いの方が強かった、てことで。
 そんな恐ろしい光景の仕上げをしたのは私ですけどねー。
「ドレス姿もまあまあよいのではなくて?」
 ツンデレセリフきました。褒められているんだよね?
「ありがとうございます。来客用なんです」
 そもそもマミヤが客って…。門番と手合わせして楽しそうにしてる客は、ないよねぇ。
 …あと10分『グラビティ』を追加でかけておこう。

 ドレスからワンピースに着替え、エプロンをしてキッチンに立つ。
 ガレットがいるのはわかるんだけど…。なぜかお嬢様が座っている。セバスンさんはいないのに。問いたげな私の視線に気づいたのか、お嬢様が
「ここにいたら、すぐ食べられるじゃない」
 と言った。
 まぁ、本来は貴族が台所にいるってアウトらしいのだが、身内ということもありうるさく言う人もいないので、ここにいるのだ。
「サジョレか」
 きちんとした名前があった。
「お菓子用の砂糖?」
「舌触りがよくないので、料理だと一般的には使われないな」
 なら、もっとサラサラにこまくすればいいんじゃない?と思った。
 粉糖だ。折角手触りはそれっぽいのだからさ。
 とりあえずミキサーで粉々に。うん、いい感じ。あ、粉糖なら見栄えもいいから、ホットケーキにかけてもいいね。
 パパっと作るか。パンケーキにしよう。材料をもらって焼いていく。まぜて焼いていくだけだから簡単。
 クレープもいいけどアイスがない。果物と例のクリームでいってみようか。残ってたチョコも湯煎にしてとろっとかけて。
「その香り!まだ残っていたのね?!」
 めざとい。香りですぐ気づくとは。そして姿勢が前のめりです、お嬢様。
「え、とケーキを作るほど量はありませんからね」
 すごく残念そうな顔をしている。わかりやすい。
 たぶん、カカオが見つかっていないのだろうなぁ。南に旅するか?
 気を取り直して。
 パンケーキにクレープ。砂糖を入れていない泡立てたホイップクリーム。粉雪のように全体にかけて。チョコでメッセージを書こう。
 Enjoy。英語だと「召し上がれ」と一言では訳せなかったような。なので、楽しんで食べてね、の気持ちにした。
「ちょっと、今度は甘い匂いが」
 ビムンが顔をのぞかせた。デジャブだ。お、いいところに来た。
「ね。これにあう花はどんなのがいいと思う?」
「?デザートか。色があるほうが映えるな。待ってろ」
 初めお嬢様に気づいて、びっくり顔で入っていいのか迷ってたっぽいけど、かまわず話かけたら、庭師の顔になって出ていった。
 かと思ったら、すぐ戻ってきた。持ってきてくれた花は、赤やピンク、色鮮やか。小さい花でかわいい。
「地味だったから、これくらいあってもいいんじゃね?」
 地味、ていうな。あえてバターとメープルシロップもどきをかけたんだからね。
「「お」」
 またもガレットと声がそろった。
「まぁまぁまぁ」
 お嬢様、どこぞのおばちゃんみたいな声上げてますよ?
「あなた、なかなかセンスがよろしくてよ」
「は?え…あ、りがとうござい、ます?」
 褒められてるのよ、大丈夫。
「セバスン」
「はい、お嬢様。あちらの部屋で準備ができております」
 いつの間に。さすがに、ここで食べるのはNGらしい。
「え、セバンスさん?」
「違うのか?」
 知らない二人が若干パニックだ。だよね、そうなるよねぇ。
「いただいてもいいのよね?」
「はい」
 これで完成なのか?という意味にもとれる。
 セバスンさんがワゴンにのせて運び出し、お嬢様が嬉しそうに出て行った。
「あ」
「なに?」
「あの花をくっても害はないけど、おいしくはないからな。あくまで飾りだからな」
 あ。なんでも食べてしまいそう…。
「え?私が行くの?」
「当たり前だろ。何言ってんだ」
「パンケーキとクレープはわしが作れそうだ。火加減にきをつければ焼くだけだしな。あとはクリームを絞って、サジョレを散らす、と」
 一回見ただけなのに覚えているとはさすがだ。
「別に決まりはないから、好きなように作っていいと思うよ。クレープの周りにサジョレホイップをこうやってちいさく出して、花みたいにしてもかわいいし」
「おーなるほどな。個性がでて楽しそうじゃ」
「俺、別の花持ってくる」
 二人の作品はあとで教えてもらおう。
 あ、出る前に。細かくしたサジョレとホイップクリームを少し追加で持って行こう。
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