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第一章(祈)
散
しおりを挟む「…っ、ごめん。ごめんなさい、祈、ごめんね」
違うよ、桜。桜のせいじゃない。
そう言っても今の桜は自分を責めるだろう。
それが分かっているから、俺は黙って桜の手を引き続けた。
俺らの後ろを涙の足跡がついてくる。
客室に入っていく俺らに、執事が「何か用意しますか」と目配せしてくれたけど、俺はそれを片手で制止する。
嗚咽を漏らし涙を流し続ける桜をソファーに座らせて、その前に膝をついた。
「祈、ごめんね…ヒクッ…どうし…て…私……祈が好きなのに、なんでぇ」
視線を合わせようとしない桜。
自分の顔を覆い、手のひらからこぼれ落ちた涙が膝に落ちる。
小さく身を屈ませる桜を、俺はもう抱きしめてあげることができない。
「…桜のせいじゃないよ」
そう言っても、やはり桜は顔を上げない。
「絶対、桜のせいじゃない。これは望と……俺自身のせいで起こったことだ」
桜の手に流れる涙を拭う。
泣きすぎて、汗をかき、桜の前髪はペタリとくっついていた。
暑いだろうと、その前髪を横に流しながら俺はポツリと懺悔する。
「俺、望が桜に手を出すかもしれないって分かってた」
「以前も同じようなことがあったんだ。望からすれば"確かめてる"って。彼女が本当に俺のことを大事にしているか」
「はじめは俺が陽太(ヨウタ)と仲良くなりはじめた時に起こった」
「……陽太君って。祈の友達の陽太君?」
「そう、中等部から仲良くなってさ。その時は毎日のように陽太と遊んでた。そしたら、望が陽太と俺を引き離そうと裏から手を回し始めたんだ」
「俺が「陽太うざい」とか「キモい」「嫌い」とか言ってたって、陽太に……。俺は言ってないのにさ」
「まぁ、陽太は馬鹿だから、気にせず俺と一緒に居続けたし、望にも興味持ってグイグイ近づいていったから、望が諦めて、男の友人には特に何も言わなくなった」
あの時はウケたな。
陽太のしつこさに望の顔が微かに歪んでいたのを覚えてる。
自分から陽太に近づいたのに、無理ゲーだと気づいた途端、陽太を避け始めるし。逆に陽太は望に近寄っていくし。
「男の友人は大丈夫、でも彼女ができると、望はその女を誘惑するようになった」
「桜…、こうなったのは桜だけじゃないんだ」
桜の涙はいつの間にか止まっていた。
まん丸の瞳を困惑に曇らせ俺を見つめる。
「……どういうこと?」
「望が……桜に手を出すってはじめから分かってた」
「じゃぁ、何で……何で教えてくれなかったの?」
どうして…。それは俺にもよく分からない。
桜が望の誘惑に乗るか知りたかったのか。
望が今も俺に執着しているか知りたかったのか。
そもそも、桜をどうでもいいと思っていたのか。
多分、理由は全部だと思う。
「………ごめん」
でも、理由を言ってしまえばまた桜を傷つける。
告白されて付き合っただけで、桜を好きになったわけじゃない。でも、俺にも罪悪感というものがあって、それを、無くすための謝罪をただ続ける。
桜のために、何もできない自分。
そして、それを改めてようとしない自分はどうしようもないクズだ。
「…もう…いい…」
ふらふらと立ち上がる桜。
「…もういい、帰る」
俺はその手を掴むことも、桜を抱き締めることもできずに、後ろ姿を見送る。
桜がドアノブに手をかけた時、クルリと桜は俺の方を振り返った。
「…理由があろうと、浮気しちゃったのは私だから……ごめんね」
申し訳なさそうな顔をした。
そのあと、桜は馬鹿にしたように笑った。
自分を俺を望を、全部を馬鹿にしたように笑った。
「まぁ、2人がクズだってことは何となく分かってた…女の勘なめんな」
可愛らしい印象の桜からは想像できないような棘のある表情をしている桜に目を開く。
「私も2人の顔しか見てなかったし、おあいこ。じゃあねクズ。さよなら」
泣き腫らした目で舌を出す桜に何も言えず、突っ立ったまんま、桜が扉を開けて飛び出すのを見ていた。
固まった体が動き出したのはどれくらい経ってからだろう。
俺は息を吐いて、桜が座っていたソファーに自ら沈む。
桜はふわふわしてて可愛くて…。
でも、最後の桜は……。
あれが桜の本当の姿のように思えた。
俺の知っている桜は本当の桜なのか。それとも、俺らが桜を変えてしまったのか。
口から笑いが漏れる。
まぁ、嘘でも本当でも、どちらでもいいか。
どちらにしても俺と桜はここで終わり。
もう、関わることはないだろう。
桜にとって俺らは最悪な思い出で、思い出すたびに泣き出したくなるようなもなのかもしれない。
でも、あわよくば、涙の思い出じゃなくて、最後みたいに、中指立てるような思い出であってほしいと思った。
そっちの方が、俺の心が救われる。
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