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21.暴走する夫
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ブローディアの懐妊が判明してから、一カ月後――――。
邸内は、その事で使用人達のモチベーションが上がり、活気づいていた。
しかし、そんな中で一際目立つ困った動きをしている人間が約一名いる……。
「奥様……。また大量の荷物の搬入があったのですが……」
そう言って険しい表情をしながらブローディアに声を掛けてきたのは、侍女長のミランダだ。もうすっかり表情豊かな様子をブローディアに披露してくれるようになったミランダだが、ここ最近は困り果てながらの険しい表情をよくしている。
「またノティス様が何か購入されたのかしら……」
対してブローディアも同じような表情を浮かべた。
現在、妊娠三か月目に突入したブローディアは、最近やっと悪阻が軽減されてきた期間に入ったが、それでも匂いに反応してしまう事があるので油断がならない状態だ。しかし妊娠二カ月目に比べれば、大分マシにはなった方だった。
何故なら先月までのブローディアの悪阻は、食事がまともに出来ない程の酷さで寝込む事が多かったのだ。だが、その度に夫のノティスが仕事に行く事を渋り、何度か接待外交の日程を無理矢理延期しようと暴挙に走りかけた為、傘下の子爵家男爵家一同と邸内の使用人達が一丸となって、それを阻止しよう奮闘しなければならず、なかなか大変な一カ月間だったのだ……。
そんな夫は何故か分からないが、妊婦となった妻に対して恐ろしい程の過保護ぶりを今でも無駄に発揮していた……。だが、現在はブローディアの体調も大分安定期に入ってきたようで、食欲も戻り適度な運動が出来るまでの回復を見せている。
その為、夫ノティスの気持ちも少しは落ち着くのかと思いきや……。
今度はまた別の暴走ぶりを夫が見せ始めたのだ。
それが、最近頻繁に邸内に届けられるある荷物だ……。
「奥様、まずは中身を確認しましてから、お部屋に運ぶか判断されますか?」
「いいえ。どうせ中身はいつもの物だと思うから……。そのまま子供部屋へ運んで頂戴……」
「……かしこまりました」
何故かお互いに呆れ気味な口調になってしまうブローディアとミランダ。
そして荷物が運ばれて行く二階の一番日差しが優しく差し込む部屋に目を向ける。
その後、タイミングを合わせたかのように二人は同時にため息をついた。
「ノティス様は……一体、どこまで新生児用品をご用意されたら気が済むのかしら……。おしめなんか、この子が老後になっても使えそうな程の量を購入されていらっしゃるのよ?」
「奥様、その程度ならまだ可愛らしいものです……。私など先日到着した荷物を開けましたら、中から新生児用の……しかも女児用のレースとフリルが、ふんだんに使われた多彩な淡い色の寝間着のみが詰め込まれておりました……」
「なんですって!! 寝間着のみ!? 先日、同じようにおくるみだけが詰め込まれた荷物が届いたばかりでしょう!?」
「はい……。しかもどれも女児用の物ばかりでして……」
そのミランダの返答にブローディアが、軽くこめかみを押さえる。
「これでもし男の子が生まれて来たら、どうするおつもりなのかしら……」
「それがよく分からないのですが、若旦那様は何故かお生まれになるお子様は、お嬢様であるという絶対的自信をお持ちのようで……。新生児用品は全て女児用で用意する事を我々使用人達にも徹底されております」
「ミランダ……。わたくし、怖いのだけれど。これで、もし生まれてきたのが男の子だったら、どうしたらいいの……?」
「ホースミント家としては、そちらの方が大変喜ばしい事になりますが……。若旦那様のお気持ちを考えますと、私はお嬢様であって欲しいと切に願わずにはいられません……」
「今からでも女の子が生まれやすくなる運動とかあるかしら……」
そんな会話をミランダとしていると、ある人物がその会話に乱入してきた。
「今更、無理ではないですか? そういうのって仕込みの時が肝心だと思うので」
「「ロイドっ!!」」
「えー……? 今の流れでは、確実に奥様がそういう会話展開を誘導さてましたよね? でもミランダさんでは、切り返しにくそうな内容だったから、敢えて私が切り返しただけなのに……酷い」
「変なところで空気を読まなくても良いのです! まず女性の会話にいきなり乱入する行為が、紳士としてマナー違反ですよ!?」
「ロイド……。あなた、もう40代に突入するのだから、もう少し言葉を選ぶ事を覚えないと……。社交界ではやっていけなくてよ?」
「うっ……。まだ18歳の奥様に言われると、物凄く心を抉られる……。年齢の話は私にとって、とても繊細な話題になるので、あまりされてないでください……」
「中年男性の仲間入りを果たしているというのに……何を今更乙女なような事を!」
「ミランダさん……酷過ぎるぅ……」
ミランダに止めを刺されたロイドが、胸に手を当てよろめく。
そんなロイドの反応を華麗に受け流したミランダは、子供部屋から業者が出てくるのを確認すると「それでは荷物の中身を確認してまいります」と、足早に子供部屋に向って行った。
そんなミランダの後ろ姿を目で追っていたら、先程のメンタルダメージから復活したロイドが話しかけてくる。
「奥様……。流石にもうそろそろ若旦那様の暴走に釘を刺さなければ、邸内が新生児用品だらけになってしまいますよ?」
「ロイド……。わたくしが今まで釘を刺さなかったとでも思っているの?」
「刺してアレですか……。ではもうバカ旦那様は救いようがありませんね……」
ちなみに久しぶりにロイドから『バカ旦那様』呼ばわりをされたノティスだが、現在西の隣国に外交業務の一環として出向いている為、一週間程ブローディアとは顔を会わせていない。そして本日送られて来た荷物は、その西の隣国で購入したと思われる新生児用品であろう……。
ここ最近のティスは、国外に出る度にその国特有の新生児用品を購入してくるのだ。
確かに初めての子供で浮かれてしまうのは分かるが……。まさかあのやり手外交官の合理的思考をしがちな夫が、ここまで親バカになるとは流石のブローディアも夢にも思わなかったのだ。
親になると、人が変わってしまうのだろうか……。
そんな事を考えてしまったブローディアは思わず、それを口に出してしまう。
「ノティス様は……わたくしを妻に迎えてから、少々お人柄が変わり過ぎていないかしら……」
「そんな事はないですよ? 若旦那様は昔から……というか子供の頃からあんな感じでしたけれど」
「そうなの?」
「はい。普段は穏やかで落ち着いた雰囲気をまといながら、人の足元を見るような要望を平然と、にこやかにしてくる事が多いですが……」
「待って、ロイド。わたくしが把握しているよりも、ノティス様のお人柄が酷過ぎるのだけれど」
「いや、でも大体そんな感じではないですか? 若旦那様って」
「ま、まぁ、そういう傾向は、あると言えばあるけれど……」
「でも愛着があるモノに対しては、物凄く猫可愛いがりをなさるのですよ」
「愛着があるモノ?」
「幼少期の頃だと……怪我をして保護した小動物とか。使用人達の幼い子供とか? あとは……エルマみたいにまだ10代半ば過ぎの若い使用人達に多いのですが、まるで飼い猫みたいに若旦那様に餌付けされているのもその延長じゃないかなー」
ロイドのその話にブローディアは、以前エルマからノティスの評判を聞いた際、明らかに飴玉で餌付けさているとしか思えないような話を聞かされた事を思い出す。どうやら夫は、意外な事に何かを愛でるという行為が好きらしい。
「まぁ、その中でも奥様とお腹の中の赤ちゃんに対する溺愛ぶりは、かなり別格ですよねー。なんせお二人は、ご両親を亡くされて大旦那様のみしか血縁関係がいなくなってしまった若旦那様が、初めてご自身で作られた家族になりますから」
その言葉を聞いたブローディアが、ゆっくりとロイドに視線を向ける。
すると普段おちゃらけ気味なロイドが、何故かこの時だけは珍しく銀縁メガネの奥から優しい眼差しをブローディアに返してきた。
その眼差しに込められている意味をブローディアは、よく知っている。
何故ならそれは、ブローディアが父親からずっと注いでくれた眼差しと同じであったからだ
「これでも一応、兄的な視点から私も若旦那様を見守っているのですよ? あのクソガキ様は大抵の事は一人で乗り切ってしまわれるから、油断していると倒れるまで、ご自身の限界を越えてしまっている事に気付けない方なので……。ですから、これからは私やアルファスさん達だけでなく、一番近くにいらっしゃる奥様にも、若旦那様の監視役としてご協力願いたいですねー。なんせ若旦那様は、私達には弱音は吐けなくても奥様には吐ける様なので……」
そう言って、ロイドは手に持っていた書類の束をブローディアに差し出しながら苦笑する。恐らくロイドは、ノティスに頼って欲しいという状況がブローディアがまだこの邸に来る前から多々あったのだろう。
ブローディアからすれば10歳も年上の夫は、頭が切れ、何でもそつなくこなし、深い心の傷を負っていても何事もなかったように穏やかに振舞える強さを持った大人の男性という印象が強い。
だが、古株の使用人達からすると、そんなノティスでもまだ子供という扱いなのだ。そんな夫は、このホースミント家の当主として皆を引っ張っている立場だが、実は自分の方が皆から大切に見守られていると言う事を自覚しているのだろうか……。
そんな事を考えてしまったブローディアは、ロイド同様思わす苦笑してしまう。
中でもこのロイドは、一番ノティスの事を気に掛けて今まで仕えて来たのだろう。
そんなロイドが差し出して来た書類をブローディアが受け取ると、何故かロイドがバツの悪そうな笑みを浮かべた。
「ですから奥様、そんな弱音をなかなか吐けない若旦那様には、寛大な気持ちで接してあげてくださいね……」
「えっ……? ロイド、それどういう……」
「それでは私は、まだ書類仕事が残っておりますので! これで失礼致します!」
「ちょ、ちょっと、ロイド!?」
何故か手にしていた書類をブローディアに渡した途端、ロイドは逃げるようにその場を去ってしまった。その素早い動きに唖然としていたブローディアだが、ふと手渡された書類に目を落とした瞬間、固まってしまう。
「なっ……何よ!! これっ!!」
そこにはここ最近、ノティスが購入されたと思われる新生児用品の購入金額がまとめられていたのだ……。
「ちょ、ちょっと、ロイド!! これはどういう事なの!? 逃げないで出てきなさい!!」
すでに逃げ去って姿が見えなくなったロイドにブローディアが、邸内に響き渡る声量で呼びかける。しかし、返って来たのはミランダの悲痛な叫びだった……。
「お、奥様! 大変でございます!! 先程届きました荷物の中身をエルマと共に確認しましたところ、何と気が早い事に幼児用のドレスが何着も入っておりまして!!」
そのミランダの報告を受けたブローディアは、ロイドから渡された書類をグシャリと握りしめ、両肩をワナワナと震わせた。
「ミランダ!! 今から西の隣国に滞在されているノティス様に一筆したためるから、伝令用の早馬を早急に手配して頂戴!!」
邸内は、その事で使用人達のモチベーションが上がり、活気づいていた。
しかし、そんな中で一際目立つ困った動きをしている人間が約一名いる……。
「奥様……。また大量の荷物の搬入があったのですが……」
そう言って険しい表情をしながらブローディアに声を掛けてきたのは、侍女長のミランダだ。もうすっかり表情豊かな様子をブローディアに披露してくれるようになったミランダだが、ここ最近は困り果てながらの険しい表情をよくしている。
「またノティス様が何か購入されたのかしら……」
対してブローディアも同じような表情を浮かべた。
現在、妊娠三か月目に突入したブローディアは、最近やっと悪阻が軽減されてきた期間に入ったが、それでも匂いに反応してしまう事があるので油断がならない状態だ。しかし妊娠二カ月目に比べれば、大分マシにはなった方だった。
何故なら先月までのブローディアの悪阻は、食事がまともに出来ない程の酷さで寝込む事が多かったのだ。だが、その度に夫のノティスが仕事に行く事を渋り、何度か接待外交の日程を無理矢理延期しようと暴挙に走りかけた為、傘下の子爵家男爵家一同と邸内の使用人達が一丸となって、それを阻止しよう奮闘しなければならず、なかなか大変な一カ月間だったのだ……。
そんな夫は何故か分からないが、妊婦となった妻に対して恐ろしい程の過保護ぶりを今でも無駄に発揮していた……。だが、現在はブローディアの体調も大分安定期に入ってきたようで、食欲も戻り適度な運動が出来るまでの回復を見せている。
その為、夫ノティスの気持ちも少しは落ち着くのかと思いきや……。
今度はまた別の暴走ぶりを夫が見せ始めたのだ。
それが、最近頻繁に邸内に届けられるある荷物だ……。
「奥様、まずは中身を確認しましてから、お部屋に運ぶか判断されますか?」
「いいえ。どうせ中身はいつもの物だと思うから……。そのまま子供部屋へ運んで頂戴……」
「……かしこまりました」
何故かお互いに呆れ気味な口調になってしまうブローディアとミランダ。
そして荷物が運ばれて行く二階の一番日差しが優しく差し込む部屋に目を向ける。
その後、タイミングを合わせたかのように二人は同時にため息をついた。
「ノティス様は……一体、どこまで新生児用品をご用意されたら気が済むのかしら……。おしめなんか、この子が老後になっても使えそうな程の量を購入されていらっしゃるのよ?」
「奥様、その程度ならまだ可愛らしいものです……。私など先日到着した荷物を開けましたら、中から新生児用の……しかも女児用のレースとフリルが、ふんだんに使われた多彩な淡い色の寝間着のみが詰め込まれておりました……」
「なんですって!! 寝間着のみ!? 先日、同じようにおくるみだけが詰め込まれた荷物が届いたばかりでしょう!?」
「はい……。しかもどれも女児用の物ばかりでして……」
そのミランダの返答にブローディアが、軽くこめかみを押さえる。
「これでもし男の子が生まれて来たら、どうするおつもりなのかしら……」
「それがよく分からないのですが、若旦那様は何故かお生まれになるお子様は、お嬢様であるという絶対的自信をお持ちのようで……。新生児用品は全て女児用で用意する事を我々使用人達にも徹底されております」
「ミランダ……。わたくし、怖いのだけれど。これで、もし生まれてきたのが男の子だったら、どうしたらいいの……?」
「ホースミント家としては、そちらの方が大変喜ばしい事になりますが……。若旦那様のお気持ちを考えますと、私はお嬢様であって欲しいと切に願わずにはいられません……」
「今からでも女の子が生まれやすくなる運動とかあるかしら……」
そんな会話をミランダとしていると、ある人物がその会話に乱入してきた。
「今更、無理ではないですか? そういうのって仕込みの時が肝心だと思うので」
「「ロイドっ!!」」
「えー……? 今の流れでは、確実に奥様がそういう会話展開を誘導さてましたよね? でもミランダさんでは、切り返しにくそうな内容だったから、敢えて私が切り返しただけなのに……酷い」
「変なところで空気を読まなくても良いのです! まず女性の会話にいきなり乱入する行為が、紳士としてマナー違反ですよ!?」
「ロイド……。あなた、もう40代に突入するのだから、もう少し言葉を選ぶ事を覚えないと……。社交界ではやっていけなくてよ?」
「うっ……。まだ18歳の奥様に言われると、物凄く心を抉られる……。年齢の話は私にとって、とても繊細な話題になるので、あまりされてないでください……」
「中年男性の仲間入りを果たしているというのに……何を今更乙女なような事を!」
「ミランダさん……酷過ぎるぅ……」
ミランダに止めを刺されたロイドが、胸に手を当てよろめく。
そんなロイドの反応を華麗に受け流したミランダは、子供部屋から業者が出てくるのを確認すると「それでは荷物の中身を確認してまいります」と、足早に子供部屋に向って行った。
そんなミランダの後ろ姿を目で追っていたら、先程のメンタルダメージから復活したロイドが話しかけてくる。
「奥様……。流石にもうそろそろ若旦那様の暴走に釘を刺さなければ、邸内が新生児用品だらけになってしまいますよ?」
「ロイド……。わたくしが今まで釘を刺さなかったとでも思っているの?」
「刺してアレですか……。ではもうバカ旦那様は救いようがありませんね……」
ちなみに久しぶりにロイドから『バカ旦那様』呼ばわりをされたノティスだが、現在西の隣国に外交業務の一環として出向いている為、一週間程ブローディアとは顔を会わせていない。そして本日送られて来た荷物は、その西の隣国で購入したと思われる新生児用品であろう……。
ここ最近のティスは、国外に出る度にその国特有の新生児用品を購入してくるのだ。
確かに初めての子供で浮かれてしまうのは分かるが……。まさかあのやり手外交官の合理的思考をしがちな夫が、ここまで親バカになるとは流石のブローディアも夢にも思わなかったのだ。
親になると、人が変わってしまうのだろうか……。
そんな事を考えてしまったブローディアは思わず、それを口に出してしまう。
「ノティス様は……わたくしを妻に迎えてから、少々お人柄が変わり過ぎていないかしら……」
「そんな事はないですよ? 若旦那様は昔から……というか子供の頃からあんな感じでしたけれど」
「そうなの?」
「はい。普段は穏やかで落ち着いた雰囲気をまといながら、人の足元を見るような要望を平然と、にこやかにしてくる事が多いですが……」
「待って、ロイド。わたくしが把握しているよりも、ノティス様のお人柄が酷過ぎるのだけれど」
「いや、でも大体そんな感じではないですか? 若旦那様って」
「ま、まぁ、そういう傾向は、あると言えばあるけれど……」
「でも愛着があるモノに対しては、物凄く猫可愛いがりをなさるのですよ」
「愛着があるモノ?」
「幼少期の頃だと……怪我をして保護した小動物とか。使用人達の幼い子供とか? あとは……エルマみたいにまだ10代半ば過ぎの若い使用人達に多いのですが、まるで飼い猫みたいに若旦那様に餌付けされているのもその延長じゃないかなー」
ロイドのその話にブローディアは、以前エルマからノティスの評判を聞いた際、明らかに飴玉で餌付けさているとしか思えないような話を聞かされた事を思い出す。どうやら夫は、意外な事に何かを愛でるという行為が好きらしい。
「まぁ、その中でも奥様とお腹の中の赤ちゃんに対する溺愛ぶりは、かなり別格ですよねー。なんせお二人は、ご両親を亡くされて大旦那様のみしか血縁関係がいなくなってしまった若旦那様が、初めてご自身で作られた家族になりますから」
その言葉を聞いたブローディアが、ゆっくりとロイドに視線を向ける。
すると普段おちゃらけ気味なロイドが、何故かこの時だけは珍しく銀縁メガネの奥から優しい眼差しをブローディアに返してきた。
その眼差しに込められている意味をブローディアは、よく知っている。
何故ならそれは、ブローディアが父親からずっと注いでくれた眼差しと同じであったからだ
「これでも一応、兄的な視点から私も若旦那様を見守っているのですよ? あのクソガキ様は大抵の事は一人で乗り切ってしまわれるから、油断していると倒れるまで、ご自身の限界を越えてしまっている事に気付けない方なので……。ですから、これからは私やアルファスさん達だけでなく、一番近くにいらっしゃる奥様にも、若旦那様の監視役としてご協力願いたいですねー。なんせ若旦那様は、私達には弱音は吐けなくても奥様には吐ける様なので……」
そう言って、ロイドは手に持っていた書類の束をブローディアに差し出しながら苦笑する。恐らくロイドは、ノティスに頼って欲しいという状況がブローディアがまだこの邸に来る前から多々あったのだろう。
ブローディアからすれば10歳も年上の夫は、頭が切れ、何でもそつなくこなし、深い心の傷を負っていても何事もなかったように穏やかに振舞える強さを持った大人の男性という印象が強い。
だが、古株の使用人達からすると、そんなノティスでもまだ子供という扱いなのだ。そんな夫は、このホースミント家の当主として皆を引っ張っている立場だが、実は自分の方が皆から大切に見守られていると言う事を自覚しているのだろうか……。
そんな事を考えてしまったブローディアは、ロイド同様思わす苦笑してしまう。
中でもこのロイドは、一番ノティスの事を気に掛けて今まで仕えて来たのだろう。
そんなロイドが差し出して来た書類をブローディアが受け取ると、何故かロイドがバツの悪そうな笑みを浮かべた。
「ですから奥様、そんな弱音をなかなか吐けない若旦那様には、寛大な気持ちで接してあげてくださいね……」
「えっ……? ロイド、それどういう……」
「それでは私は、まだ書類仕事が残っておりますので! これで失礼致します!」
「ちょ、ちょっと、ロイド!?」
何故か手にしていた書類をブローディアに渡した途端、ロイドは逃げるようにその場を去ってしまった。その素早い動きに唖然としていたブローディアだが、ふと手渡された書類に目を落とした瞬間、固まってしまう。
「なっ……何よ!! これっ!!」
そこにはここ最近、ノティスが購入されたと思われる新生児用品の購入金額がまとめられていたのだ……。
「ちょ、ちょっと、ロイド!! これはどういう事なの!? 逃げないで出てきなさい!!」
すでに逃げ去って姿が見えなくなったロイドにブローディアが、邸内に響き渡る声量で呼びかける。しかし、返って来たのはミランダの悲痛な叫びだった……。
「お、奥様! 大変でございます!! 先程届きました荷物の中身をエルマと共に確認しましたところ、何と気が早い事に幼児用のドレスが何着も入っておりまして!!」
そのミランダの報告を受けたブローディアは、ロイドから渡された書類をグシャリと握りしめ、両肩をワナワナと震わせた。
「ミランダ!! 今から西の隣国に滞在されているノティス様に一筆したためるから、伝令用の早馬を早急に手配して頂戴!!」
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