【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

もも野はち助

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【番外編:二人の友人達の話】

ライアンの日記③

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【新レムナリア歴350年10月8日】
何か今日は色々な事があり過ぎた……。
今日の魔法騎士科は上級魔獣エリアへの実地訓練がメインだった。

そこで俺とエクトル殿下は、リュカスのとんでもないヘタレっぷりを再確認した。あのバカ、あれだけロナリア嬢に溺愛行動とっておきながら、自分では控え目にこっそりやっているつもりだったらしい。
あんなキラキラ美男子の幼馴染兼婚約者に平然とした友人面で、追い込むぐらい溺愛行動されたら、いくら柔軟で大らかなロナリア嬢でも戸惑うっつーの!!
あいつ、学力が学年3位のくせしてバカなのか?
これには流石のエクトル殿下も呆れ顔だった。

だが大変だったのはこの後だった……。
実は今日、ロナリア嬢の魔道士科も魔獣の樹海の初級魔獣エリアに初等部一年を引率する課外授業だったんだが、キラービーに追われてパニックを起こしたクソガキの所為で、引率していた令嬢を庇って一緒に山道から転げ落ちて捜索部隊が組まれる事態になった。

更に恐ろしい事に二人のもとに上級魔獣のカオスドラゴンが飛来してきて、それを確認したリュカスが後先考えずに二人のもとへ向かい出すし……。
その所為で俺は、その現場から救助隊を呼びに行くのにスゲー走らされる羽目になった。つか、何で初級魔獣エリアにカオスドラゴンがいるんだよ!!

しかも俺が救助隊を呼びに行っている間、リュカスの奴は緊急事態だからと言って、瞬間的に魔力を受け取る為にロナリア嬢と、かなり長い間キスしてたっていうじゃねぇーか!!
何で俺がいない時にそういう事すんだよ!!
くそぉ~!! いいなぁー。濃厚キスシーン、俺も見たかった……。
ちなみにエクトル殿下は、バッチリその状況を見たらしい。
俺、本当に間が悪すぎ……。

その後、問題のカオスドラゴンをロナリア嬢から魔力を受け取ったリュカスが、一瞬で凍らせたんで、ロナリア嬢も一緒に組んでいた令嬢も大事に至らず、無事に救出された。本っ当ーに良かった!

でもなぁー……。
リュカスのやつ、いくら緊急事態だったとはいえ、普通6歳児の目の前で一切の躊躇もなく、ガッツリな濃厚キスシーンを披露するかぁ?
あいつのメンタル、鋼かよ……。
前から思っていたが、リュカスの心臓には絶対に剛毛が生えてると思う!



【新レムナリア歴350年10月10日】
二日前のカオスドラゴン討伐の件での噂が、学園内に変な尾ひれがついて広まっていた。
リュカスがロナリア嬢への愛の力でカオスドラゴンを倒したって何だ?
どっからそんな幼稚な御伽噺みたいな作り話が出たんだ?
まぁ、キスしてロナリア嬢から分けて貰った魔力でリュカスがカオスドラゴンを氷漬けにしたんだから、あながち間違っていないんだが、何か腑に落ちん。

そんな俺は、今日も何故かエクトル殿下の従兄妹であるこまっしゃくれた侯爵令嬢こと、こましゃく令嬢のマリエンヌ様に捕まっていた。
今回はそのリュカス達の噂の真相を聞きたくて、わざわざ高等部の学食にご降臨されたとの事だが……。このこましゃく令嬢、去年の9月から月に一回のペース一で高等部の学食に来てんだけど、これ大丈夫なのか?
今年の4月にも中等部にあがったから俺達に「新しい制服を見せに来た」とか言って、何か恋敵のティアディーゼ様と仲良くなっていたぞ?

つか何で毎回、狙ったようにリュカス達がいない時に来るんだよ!
殿下はいても、すぐに「生徒会が……」とか言って逃げて俺に丸投げだし!

もしかしてマリエンヌ様って高位貴族特有の威圧的な雰囲気の所為で、同級生と馴染めず、友達がいないんじゃないか?
少し心配になって軽く聞いてみたら、真っ赤な顔をして怒った後、そのまま逃げるように初等部の校舎に戻って行った。どうやら図星だったらしい……。
いつも初等部まで送り届けてたけれど、よく見たらお付きの護衛らしき綺麗なお姉さん騎士が慌てて追いかけていく姿がみえたので、多分大丈夫だろう。

でも女の子の場合、13歳でクラスで浮いてるって、きついよなー……。
殿下も従兄妹なんだから、もう少しは気にかけてあげればいいのにー。



【新レムナリア歴350年11月3日】
なんかこましゃく令嬢ことマリエンヌ様が、取り巻きっぽい令嬢数人を連れて高等部の学食にやって来た。
この間、俺が友達がいないのかと聞いてしまった事で、かなり彼女の自尊心を傷付けてしまったらしい……。
だからって3人も友達連れてくんなよ!!

ただ幸いな事にこの時は殿下だけでなく、ティアディーゼ様とロナリア嬢にリュカスもいる全員集合状態だった。
そんな小さな淑女達の目当ては、今話題のリュカスとロナリア嬢の愛の力でカオスドラゴンを倒したという噂の真相だった。
4人とも、目をキラキラさせながら渦中の二人を質問責めにしていた。

その思春期真っ只中な乙女令嬢達からのこっぱずかしくなるような質問にリュカスが、余所行きの笑顔を浮かべて嬉々として答えてやがって、非常に腹が立った。
何よりもかわいそうなのはロナリア嬢だ……。
その間、耳まで真っ赤にして薄っすら涙まで浮かべて、答えるのが恥ずかしくなるような質問の総攻撃を受けていた……。
この年頃の少女達の恋愛に対する興味って、恐ろしい程パワフル過ぎる。

だが俺が気になったのは、質問責めとリュカスのこっぱずかしい返答内容の所為で、恥ずかしさから顔が真っ赤になってしまうロナリア嬢の反応を思いっきり満喫していたリュカスだ!
あいつ、ワザとロナリア嬢が赤面するようなこっぱずかしい内容で返答してやがってた!!
言っておくが、それが許されるのは、お前のその高い顔面偏差値だから許されるんだぞ!?
俺みたいな平凡顔の男がやったら袋叩きにされる案件だからな!!

エクトル殿下もそうだけれど、美男子は絶対に自分の顔面偏差値が高い事を知っていやがる……。
くそぉ~!! これだらキラキラ系美男子は嫌なんだよ!!

ロナリア嬢も大変だよなー。
あのカオスドラゴンの件以来、あからさまにリュカスから溺愛行動されまくってて、学園内でも更に有名になっちゃってるし……。
しかもリュカスの奴、他のヤローへの牽制も兼ねてワザと周囲に見せつけるようにロナリア嬢とイチャイチャしてやがる!!
リュカスに愛されたのが運の付きだな……。
ロナリア嬢、心中心よりお察し申し上げます……。



【新レムナリア歴351年4月21日】
高等部3年になった。
同時にエクトル殿下から側近にならないかと、すぐにスカウトが来た。
ずっと待ちと望んでいた王族付きの魔法騎士の未来が約束された瞬間だが……どうも達成感が薄い。何故だ? リュカスも一緒だからか?

そんな俺の学園卒業後の予定は、2年間は城で公務をされるエクトル殿下に仕え、その後はオークリーフ侯爵家に婿入りという形で臣籍に下ったエクトル殿下にくっ付いて、引き続き側近として仕える流れになっている。

ちなみにリュカスの方は、エクトル殿下と同じく2年後にロナリア嬢と挙式してアーバント子爵家に婿に入る為、殿下の側近を担うのは城勤めの期間のみ。
そもそもあいつ、未だに殿下の側近を何とかして断ろうとしているからなー。
ロナリア嬢と早く結婚したいのは分かるが……。
そのロナリア嬢の方は、お前があまりにもグイグイ行き過ぎるから、逆にこの2年間の猶予が設けられた事にホッとしていると思うぞ?

そんな俺は、本日地獄のような虚しい状況に耐えていた……。
右を向けば自制心をかなぐり捨て、婚約者を妄信的に溺愛するリュカスが。
左を向けば、そのリュカスにつられティアディーゼ様に溺愛行動を始めたエクトル殿下がいた為、昼休憩のこの時間が、最近苦痛でならない!!
二人共! ここに独り身の哀れな友がいる事を忘れないで!!

あと一年間、ずっとこんな感じかよー……。
というか俺、この二年間は学園でも二大派閥と言われている美男子二名と一緒につるんでいたのに、何で一人も言い寄って来る令嬢がいないんだ?
美男子と一緒に行動していたら、普通そのキラキラオーラの加護にあやかれるはずだろ!! 
それすらあやかれない程、俺は世間的にはしょっぱい顔なんだろうか……。
うわー。この二人といると本っ当、自信無くすわー。



【新レムナリア歴351年3月4日】
明後日には、6年間過ごしたこの魔法学園を卒業する。
ちなみに明後日の卒業パーティーだが、エスコートする相手がいない俺は、エクトル殿下の護衛も兼ねて参加する事になっている。

うわー、学園最後のイベントなのに結局この6年間、甘酸っぱい恋が待ち受けているはずの青春的な状況は、俺には一度も訪れなかったわー。
俺、何処で間違ったんだろう……。
中等部につるんでいた奴らは、いつの間にか婚約者見つけて謳歌してたし。

そんなこの6年間だが、色んな事があったようだが、日記を読み返してみると大した事もなかったように思える。
つか俺、日記サボりすぎだろう!!
本っ当、気になった事や嫌な事あった日以外は付けていないよな!!
これじゃ、父上も「もう付けなくていい!!」って啖呵切りたくもなるわー。

それでもこの6年間、リュカスやエクトル殿下と出会えた事は、俺の人生にとって大きな転機だったと思う。お陰で念願の王族付きの魔法騎士には二年限定でなれるし、その後は侯爵となったエクトル殿下に仕えるから将来は安泰だ!

リュカスともロナリア嬢とティアディーゼ様が親友なので、その関係で卒業後も顔を会わす機会が多そうだしなー。
それを喜んでいいのか、嘆いていいのか……俺の中では未だに葛藤がある。

そんな俺は現在深夜1時を回っている状態で途方にくれている……。
五日後には、6年間過ごしたこの愛着ある学生寮を巣立たねばならないんだが、なんと未だに室内の荷造りと片付けが終わっていない状態なのだ。

どうしよう……。五日後にはここを追い出されるのに……。
このままじゃ、いつも学生寮の清掃をしてくれてるおばちゃんに確実に罵倒されてしまう!! あのおばちゃん、何か知らないけれど俺に対してだけ、妙にお節介なんだよなー。
リュカス曰く、俺がだらしが無さ過ぎるから、口だしせずにはいられないとか言っていたけれど、それだけじゃないと思うぞ?

何にせよ、早く荷造りを終わらせないと……。
でも掃除や片付けをやろうとすると、何故か今やらなくてもいい他の事が気になり始めるんだよなー。
そんな感じで今現在、日記を綴っている俺は本当にダメだと思う……。



【※次回で『ライアンの日記』は完結となります】
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