我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助

文字の大きさ
13 / 103
【我が家の愛犬】

13.我が家の愛犬はナイト気取り

 リートフラム城の中庭で行われる子供向けのガーデンパーティーに出席する為、ラテール兄妹は30分程、馬車に揺れながら城へと向かう。

 ちなみに通常は保護者同伴で登城するのだが……。
 二人の場合、父フィリックスが出勤という形ですでに登城している為、保護者同伴という状態になり、今回は子供達のみで城に向かっている。

 もちろん、最初は母ロザリーが二人の保護者として同行するつもりでいたのだが……。当人達から二人でも問題ないと言われたので、しっかり者のロアルドがいれば大丈夫だろうと、今回二人だけで登城させる事にした。

 そんな経緯もあり、現在馬車内はロアルドとフィリアナのみの状態だ。
 その間、フィリアナはいかに第二王子を言い負かし、アルスを奪われないようにするかの対策案を呆れ気味な兄に一生懸命熱弁していた。

「まず一番に主張するところは、うちに来たばかりの頃、元気がなかったアルスが、すぐに元気いっぱいになった事でしょ? だからそこを強調して、いかにお城での生活が、アルスにとって苦痛だったか訴えようと思うの!」

 兄の影響で、大分難しい言葉を難なく使いこなせるようになったフィリアナだが、その分生意気さはかなりパワーアップしている。
 そんな妹の微妙な意味での目覚ましい成長ぶりに兄ロアルドは、「育て方を間違えた……」と、やや後悔していた。

 だが、熱弁をふるうフィリアナに白い目を向けていたロアルドは、その足下で微かに動く何かに気付き、怪訝そうな表情を浮かべる。

「フィー。お前、足下に何を置いているんだ?」
「え? 私、何も置いていないよ?」
「でも今、何かがモソモソと動いているように見えたぞ?」
「何だろう? でも本当に何も置いていな……あっ!」

 兄の言葉に座ったままの状態で、自身の足下を覗き込んだフィリアナが、驚くような声をあげた。その反応にロアルドが、更に怪訝そうな表情を深める。

 すると、顔をあげたフィリアナが表情をなくした真顔でジッとロアルドの顔を見つめる。そんな反応を見せる妹にロアルドが片眉を上げながら首を傾げる。

「どうした? フィー」
「兄様、どうしよう……。アルスが付いてきちゃった……」
「はぁ!?」

 ロアルドが素っ頓狂な声を上げると、フィリアナが先程まで自身が座っていた座席の下に両手を突っ込み、そこから黒と白のモフモフな毛玉を引きずり出す。
 その状況にロアルドが絶句する。

「は……? 何でアルス!? いやいやいや! この状況、おかしいだろ!! だってアルスは僕が馬車に乗り込む前に中庭の方に突っ走って行ったはず……」

 そう言いかけたロアルドだが、その後10分間程、今回同行してくれている護衛のウォレスとメイドのシシルと談笑していた事を思い出す。恐らくアルスは、会話に夢中になっていた三人の目を盗んで、こっそり馬車に乗り込んだのだろう。

 ちなみに同行してくれているメイドのシシルは御者のハンクの隣に座って同行しており、護衛のウォレスは馬に乗って馬車の護衛をしながら同行している為、現状の馬車内の状況には気づいていない様子だ。

 だが困った事に現時点では、もう邸に引き返す事が出来ないところまで馬車は進んでいた。その状況にロアルドが盛大にため息をつく。

「アルス……。今日はいい子で留守番してろって僕、言ったよな……?」

 ロアルドから責めるような視線の送られたアルスだが……フンっと鼻を鳴らして、誤魔化すように明後日の方向に視線を逸らす。
 そんな太々しい態度のアルスにロアルドが右手でわしゃわしゃと自身の髪を掻き乱す。

「あ~~~~!! もう!! 何でよりにもよって登城する時について来ちゃうんだよ!! お前、城に行ったら自分が危ない目に遭うって分かっていないのか!?」

 ロアルドが説教モードに入ったのを確認したアルスが、ササっとフィリアナの背後に隠れ、やり過ごそうとする。そんなアルスをフィリアナは両手で抱き抱え、容赦なく兄の方へと突き出した。

「アルス! 今回は私、庇ってあげないよ! しっかりと兄様のお説教を受けなさい!!」

 現在、中型犬ほどの大きさにまで成長しているアルスを9歳のフィリアナが抱き抱えるのは、それなりに骨が折れるのだが、そうでもしないとアルスは反省しないだろうと、敢えてフィリアナは動きを封じるようにしっかりと抱き抱えた。

 すると、アルスがフィリアナの同情を引こうと、ピスピスと悲しげな鳴き声を出し始める。だが、フィリアナはそんなアルスの行動に絆される事なく、厳しい表情を崩さなかった。

「もし今日お城に来ている事が第二王子殿下に知られたら、そのまま連れ戻されちゃうかもしれないんだよ!? なのにどうして付いてきちゃったの!?」
「クーン……」
「そんな悲しそうな鳴き声を出してもダメっ!! 今日は絶っ対に馬車の中から出ちゃダメだからね!?」
「クーン、クーン……」

 更に切なげな鳴き声をあげるアルスをフィリアナは、足下へおろす。そして両手で握りこぶしを作りながら仁王立ちし、アルスを見下ろした。

「アルスは……そんなにアルフレイス殿下に会いたいの……?」

 フィリアナの言葉にアルスが怯えるようにビクリと体を強張らせ、一瞬だけ動きをとめる。だが、すぐに誤解だと言わんばかりにフィリアナの膝あたりに両前足を掛け、すがりつき始めた。

「フィー……いくらなんでもこの状況で、その可能性は低いだろう」
「だって! 今までこんな風にこっそり付いてきちゃった事なんてなかったでしょ!? 今回だけ付いてくるのはおかしいよ!!」

 そう訴えるフィリアナは今にも泣き出しそうな状態である。その様子に罪悪感を抱いたからか、アルスが尻尾をダラリと下げ、必死にフィリアナに前足をかけてまとわり付く。

「ほら……アルスも誤解だって訴えてるみたいじゃないか。たまたま付いてきたのが今回だっただけだろう?」
「たまたまじゃないよ!! だってアルスは今日のお茶会にアルフレイス殿下が参加するかもしれないって話をセルクレイス殿下が話されている時、私の隣でその話を聞いてたんだよ!? だから……今日はきっとアルフレイス殿下に会えると思って、こっそり付いてきちゃったんだよ……」

 力なくそう口にしたフィリアナの瞳にジワリと涙が溜まりだす。その状況にアルスだけでなく、ロアルドも慌てだした。

「フィー! 泣くな! 今泣いたら会場についた時にその泣き顔の事で、また意地悪な令嬢達に絡まれるぞ!?」
「う~~~……」
「大丈夫だから……。多分、アルスが付いてきたのは、フィーが危ない場所に行くから心配だったんだよ……」
「危ない場所って……。警備がしっかりしてるお城だよ? だから危なくないよ?」

 もっともな疑問を投げ掛けてきた妹に対して、ロアルドが盛大にため息をつく。

「確かに城の警備は、うちとは比べ物にならないほど厳重だ。でも……過去に何度も命を狙われた事のあるアルスにとっては、未だに危険な場所なんだよ……。そんなところに大好きなフィーが行くと知ったら、アルスも心配になるだろう?」

 兄のその考えを聞いたフィリアナが、自分にすがり付いているアルスをゆっくり見下ろす。

「アルス……そうなの?」

 すると、フィリアナに掛けていた前足を降ろしたアルスが、それを肯定するように「わふ!」と一声鳴いた。そんな反応を見せたアルスをフィリアナは、しゃがみこんでギュッと抱き締める。

「だからって何で付いてきちゃったの……? お城に行ったら、私よりもアルスの方が危険な目に遭っちゃうかもしれないんだよ?」
「それでもアルスは、フィーが心配だったんだよ……。こいつ、昔からフィーのナイト気取りだから」

 兄の話を聞きながら、フィリアナがアルスの背中に顔を埋める。

「でも……今日は私達が戻ってくるまで、絶対に馬車から出たらダメだからね? ウォレスと一緒にいい子で馬車の中で待ってるんだよ?」

 フィリアナが言い聞かすようにアルスの耳元に囁く。
 だが、アルスは困ったような様子で「クーン……」と鳴きながら、ロアルドの顔をジッと見上げた。

「大丈夫だ。フィーの事は、ちゃんと僕が守るから」

 その言葉を理解したのか、渋々という様子を見せながらアルスは頷くように足下に視線を落とす。

 すると、急に馬車が大きく曲がり出した。
 その反動でしゃがみこんでいたフィリアナがバランスを崩しそうになり、アルスにしがみつく。

「リートフラム城に着いたみたいだな。アルス、絶対に馬車から出るなよ? お前が登城したって知られたら、色々面倒だから……」

 アルスがロアルドに釘を刺されていると、馬車の扉が護衛のウォレスによって開かれる。だが扉を開いた瞬間、ウォレスは固まってしまった。

「ア、アルス様っ!? 」

 驚きの声をあげるウォレスを前に二人は顔を見合わせた後、同情するようにそっと視線を地面に落とした。
感想 33

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2025年12月に第4巻が発売されました  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。