我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助

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【我が家の愛犬】

14.我が家の愛犬は優秀な護衛犬①

 リートフラム城の馬車の停留スペースに着いた二人は、驚いている護衛のウォレスと御者のハンクに馬車から出さないようにとアルスを託した。
 ちなみにメイドのシシルは城内まで二人に同行し、その後は使用人の控室で待機となる。

 正直なところ、普段からアルスの世話をする事が多いシシルに託したいという思いはあったのだが……。護衛のウォレスも普段からアルスへの対応が慣れているので、そこまで問題にはならないだろうと、二人は考えた。
 だが、それでもアルスのやんちゃぶりをよく知っているフィリアナは、再度アルスに釘を刺す。

「アルス、いい? 絶対に……絶っっっっっ対にお城に入っちゃダメだからね⁉︎ もし入ったらアルフレイス殿下に捕まっちゃって、もう二度と私達と一緒に暮らせなくなっちゃうからね!?」
「フィー……。そんな今生の別れみたいな言い方をしなくても……」
「だって! もしアルフレイス殿下に見つかっちゃったら、アルスを返して欲しいって絶対に言われるもん!」
「それは極論過ぎるだろう……」

 断固として第二王子にはアルスを渡したくないという姿勢を見せる妹の手を引きながら、呆れ気味なロアルドは早々に今回参加する茶会会場へと向かう。
 すると、前方からフィリアナと親しい令嬢二名が、大きく手を振って来た。

「フィー! ここよ!」
「フィリアナ様、ロアルド様、お久しぶりでございます」

 フィリアナを愛称で呼んだのは、ラテール伯爵家と同格のスウェイン伯爵家の令嬢コーデリアだ。
 波打つような見事な金髪のコーデリアは、見た目からして勝気で華やかさのある少女である。

 対して丁寧な口調で声を掛けてきたのが、テルト子爵家の令嬢ミレーユだ。
 知的で落ち着いた印象を抱かせるこげ茶色のサラリとした髪に明るい茶色の瞳の少女である。フィリアナの家よりも爵位が下だからか、いつも二人には敬語で話しかけてくる礼儀正しい少女だ。
 二人とも特にフィリアナが仲良くしている令嬢達である。

「コーディー! ミレーユ!」

 フィリアナは二人に応えるように大きく手を振り返した後、隣にいるロアルドをジッと見上げる。

「兄様! コーディー達とお話してきてもいい?」
「いいけれど……もしまた誰かに絡まれそうになったら、すぐに兄様のところに逃げてくるんだぞ?」
「大丈夫だよ! コーディーがいるから何かあったら加勢してくれるし。それに今日は王族の方も参加しているから、大人しくしてくれるんじゃない?」
「どうだか……。とにかく! 意地悪されそうになったら、すぐに兄様のところな!」
「分かったよぉ……」

 そんな会話をしていると、コーデリアとミレーユが二人のもとへやって来た。

「ロアルド様、大丈夫ですわ! もしフィーが絡まれてしまったら、私達がすぐにお知らせ致しますので!」

 コーデリアが胸を張るようにそう宣言すると、その隣にいるミレーユも「ご安心を」と笑顔を浮かべながら、深く頷く。

「確かにしっかり者の二人が一緒なら平気だね。それじゃあ、お言葉に甘えて妹をお任せしようかな? フィー、兄様はあっちにいるレオ達と話しているから、何かあったらすぐに逃げてくるんだぞ?」
「もぉ~! 兄様、心配し過ぎだよ!」
「心配したくもなる! お前はすぐトラブルにまきこまれるだろう!?」
「今日は二人もいるし、平気だよ!」

 兄の言い分に不服そうに反論するフィリアナをコーデリアとミレーユが宥め始める。

「まぁまぁ、フィリアナ様。落ち着いてくださいませ。それだけロアルド様はフィリアナ様の事がご心配なのです」
「あら、そうかしら? 普段のフィーの行いに問題があり過ぎるのだと思うのだけれど」
「コーディー、酷い!」

 そんな賑やかな会話を始めだした小さな淑女達に苦笑を浮かべながら、ロアルドは「じゃあ、また後で」と言って、自分も友人達の塊の方へと向かっていった。
 そんなロアルドの後ろ姿を眺めていたコーデリア達は、感嘆の声をもらす。

「はぁー……ロアルド様、素敵よね~!」
「えっ……?」
「本当に……。まだご婚約者がいらっしゃらないご令息の中では、上位に入られる人気ですものね……」
「ええっ!? 兄様がっ!?」

 あまりの驚き方をするフィリアナにコーデリアは呆れた表情を浮かべ、ミレーユは苦笑する。

「フィー。あなた、セルクレイス殿下の影響で目が肥えすぎではなくて?」
「そ、そんな事ないよ! そもそも兄様の見た目って、そこまで煌びやかではないと思うんだけど……」
「何を言っているの! ロアルド様のあの柔らかい亜麻色のサラリとした髪に澄みきったような淡い水色の瞳が放つ穏やかそうな雰囲気は、今同世代のご令嬢方の間で大人気なのよ!?」

 そう熱弁するコーデリアと、その横で何度も深く頷いているミレーユの様子にフィリアナが衝撃を受ける。
 ちなみに髪と瞳の色に関しては、妹のフィリアナも全く同じ色をしているのだが、そんな事よりも周囲の兄への評価が何故か高過ぎる事にフィリアナは納得がいかない。

「に、兄様が……優しい……? 嘘だよ! だって兄様、私にはたまに意地悪だもん!」

 そのフィリアナの反論に二人が盛大にため息をついた。

「フィー、あなた何を贅沢な事を言っているの? あんなにもあなたの身の安全を気にされて、付きっきりでエスコートをしてくださるお兄様なんて、そうそういらっしゃらないからね!」
「エスコートというより、兄様は私が何かやらかさないか監視しているだけだと思うんだけど……」
「そんな事はございませんわ。ロアルド様はいつもフィリアナ様が嫌がらせをされそうになったら、すぐに駆け付けてくださるではありませんか」
「それも私の為というよりも自分に群がってくるご令嬢達を少しでも減らしたいという思いからだと思う。だって兄様、この間『フィーのお陰で、しつこい令嬢を追い払う理由が出来た!』って喜んでいたし……」

 先日、とある侯爵家のお茶会に兄妹で参加したフィリアナだが、王太子のお気に入りという事で目の敵にされているからか、嫌みを言いながら絡んできた令嬢グループに遭遇したのだ。

 その際、即喧嘩を買って臨戦状態になったフィリアナに気がついた兄ロアルドは、その仲裁に入りながらも兄である自分の存在もかなり不快と感じるのではと主張し、その令嬢達には今後近づかないように気を付けると堂々と宣言していた。

 そんな意中の相手からのやんわりとした雰囲気での完全なる拒絶の姿勢を兄にとられた令嬢達は、自業自得とはいえ涙目で茫然としてしまい、その状況を少し気の毒だなとフィリアナは感じていた。それ以降、彼女達はフィリアナの姿を見かけると逃げるように去っていくようになった。
 その話を知っている二人は、先程のフィリアナの言葉でそんな事もあったなと思い出したのだろう。

「あー……あのロアルド様に好意を抱いていたくせにフィーに嫌がらせをしてきたご令嬢方ね……。全く……何を考えてあのような愚かな行動をなさったのかしら? 意中のお相手の妹君に嫌味など言ってしまったら、嫌われてしまうのは当然の事なのに!」
「恐らく一部の方がフィリアナ様に嫌がらせをされているから、ご自身もやってよいと勘違いなされていたのでしょうね……」

 扇子で口元を隠しながらプリプリと怒りをあらわにするコーデリアと、呆れと嘆きを混ぜ合わせたような困った笑みを浮かべるミレーユ達の様子にフィリアナが苦笑いをする。

 コーデリアは爵位的にフィリアナと同じ位だが、ラテール家よりも歴史の長い由緒ある伯爵家の令嬢だ。その為、早くから淑女教育を受けているので、幼いながらも貴族的な考えがしっかりと身に付いている。

 対してもう一人の友人のミレーユは、曾祖父の代で子爵位を賜った家柄なので、成り上がり貴族と子供達が陰口を叩かれないようにと、両親が早めに淑女教育を開始させたそうだ。

 だが、フィリアナはどちらかと言うと、のびのびと育てられた方なので、たまに二人の考えが大人過ぎてついていけない時がある。
 そのように感受性豊かに育てられているフィリアナの嫌がらせをしてくる令嬢達への対処法は、『売られた喧嘩は必ず買う!』をモットーにしていた。

 そんな淑女とは少し言い難いフィリアナだが、そこがラテール家と同等の家柄の令嬢と、伯爵以下の令嬢達から裏表がなく親みやすいと思われ、慕われていたりする。
 同時に兄ロアルドに憧れを抱く令嬢達にとってもお近づきになりたいという存在に今ではなっている。

 しかし、王太子妃候補を狙っていたやや年上の令嬢達からは、あまりよく思われていない。三年前からラテール家に頻繁にセルクレイスが出入りしていた為、フィリアナが王太子妃としての最有力候補と見られていたという事もあるが、その後フィリアナが切っ掛けで、セルクレイスとルゼリアが出会い婚約してしまったので、その事でフィリアナを恨んでいる令嬢も多いのだ……。

 その代表でもあるのが、二年前までセルクレイスの最有力婚約者候補と言われていたニールバール侯爵家令嬢のエレノーラだ。
 まばゆいブロンドを惜しげもなく盛大に巻き、まだ社交界デビュー前の11歳であるのに王家主催のお茶会には、必ず成人女性達と同じような豪華なドレスで盛大に着飾って参加している。

 まだ幼いという事で、ドレスワンピースで参加しているフィリアナ達と比べ、その無理に大人ぶった華美な装いは、毎回子供向けのお茶会で異彩を放っているのだが……。彼女の取り巻きのような友人令嬢達も同じように夜会などで着るような豪華なドレスで参加させられているので、一塊でいると自分達が周囲から好奇の目を向けられている事に気がつかないらしい。

 そんなフィリアナにとって目の上のたんこぶのようなエレノーラだが、この日もやはり四人ほどの取り巻き令嬢達を引き連れ、嬉々としながら意地の悪い笑みを浮かべてフィリアナの前に現れた。

「あら、フィリアナ様ではございませんか。お久しゅうございます。先月のお茶会ではお姿をお見かけしなかったので、ついにセルクレイス殿下に愛想をつかされたのかと思っておりましたが……。今回、ご参加されていると言うことは、殿下はまだ毛色の珍しい玩具に飽きられていないようですわね?」

 相変わらずの嫌味にフィリアナは、心の中ではうんざりしながらも満面の笑みを浮かべ、それに応える。

「お久しぶりでございます、エレノーラ様。相変わらず、わたくしを見つけられるのがお上手ですね? もしやそれほどわたくしにお会いしたかったと言うことでしょうか? もしそうであれば大変光栄な事ですわ! ただ……わたくしの方は特にエレノーラ様にはご用はないのですが……」

 わざとらしく困惑した表情をフィリアナが浮かべると、ただでさえきつそうなエレノーラの緑色の瞳が勢いよく釣り上がった。淑女としては微妙なフィリアナだが、社交界でよく飛び交う腹の探り合いのような嫌味の攻防戦は、口から生まれたような兄ロアルドのお陰で得意なのだ。

「あなた……格下の伯爵令嬢のくせに随分と生意気な口の聞き方をなさるのね……。セルクレイス殿下に気に入られているからと、少々調子に乗りすぎではなくて?」
「恐れ入りますが、わたくしを可愛がってくださるのはセルクレイス殿下だけではございません。未来の王太子妃でもあるルゼリアお姉様もですが……。エレノーラ様はお姉様からお茶会のお誘いを受けられた事がございますか? 現状でお声が掛からないとなると、将来的に社交界での立場は、かなり苦しいものになるかと思いますが……。もしよろしければ、わたくしよりルゼリアお姉様に口添えする事も可能ですよ?」

 二年前、フィリアナを吊し上げようとした事で完全にルゼリアに毛嫌いされ、今では犬猿の仲となっているエレノーラにとって、このフィリアナの一言は完全に彼女の自尊心を傷つけるものだった。
 次の瞬間、エレノーラは真っ赤な顔をしながら、フィリアナの右手を強引に掴み、勢いよく引っ張った。
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