〇〇と言い張る面倒な王子達

もも野はち助

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第二話:『君を愛する事は出来ないと言い張る夫』

【後編】

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「へっ?」

 予想もしていなかったフィリップの言葉に思わず気の抜けた声を上げてしまったセリーヌ。だが、フィリップの方は、何故か思い詰めた様子で必死でセリーヌに対して謝罪を繰り返し始めた。

「本当にすまない!! 僕は……僕は!! 自分が情けないくらい臆病な性格だと、よく知っているつもりだったんだ!! だから――――いざ君と夫婦の営みを始めても臆病な僕なら、きっと君に対して優しく接する事が出来ると確信していたんだ!」

 セリーヌの首筋に更に顔を深く埋め、絞り出すように告げてきたフィリップ。
 しかしセリーヌには、そのフィリップの言っている事がよく分からない……。

「だが……いざ君の全てを手に入れられると実感してしまった瞬間、こんなにも身勝手で、どす黒くて、汚い欲望まみれの感情が自分の中にあっただなんて知らなかったんだ!」

 更によく分からない事を嘆き出したフィリップにセリーヌは、目を大きく見開きキョトンとする。
 一方、フィリップの方は、もう自分の情けなさが許せないという様子で、素早くセリーヌから体を離すと、寝台に自分の右拳を何度も叩きつけた。

「あ、あのフィリップ様、おっしゃっている意味が、よく分からないのですが……」
「―――――初めて君を見かけたのは今から10年前だった……」

 そして突如として始まった昔話に更にセリーヌが、困惑しながら首を傾げる。

「あれは……恐らく君が初めて王族用の淑女教育を受け始めた日だったと思う。僕はリシウス兄様に社交関係から逃げている事を責められ、オフェリアに泣き言を言いに彼女のいる城内の庭園へ行ったんだ……」

 のっけから出た情けないエピソードにセリーヌがグッと唇を引き締める。
 笑ってはいけない……。
 今、フィリップは何かを真剣に自分に語ろうとしているのだから。

「そうしたらその日は、新しく淑女教育に参加した君の歓迎会をやっていたようで……。君はオフェリア達と一緒にお茶をしていた。初めは『少し見た目がオフェリアに似ているな』としか思わなくて、そこまで興味はなかったのだけれど……。お茶会が終わるまで、木陰からこっそりその様子を見ていたら、物凄く幸せそうな表情でケーキを食べている君の姿が目に付いたんだ」
「ケーキ……」

 10年前というと、兄の助言でオフェリアの真似をしようと淑女教育に参加し出した7歳の頃だ。そんな時から自分はフィリップに認識されていた事にセリーヌが驚く。

「その時の君は、とても令嬢とは思えない程の大口を開けて、物凄く幸せそうにケーキをバクバク食べていた……」
「ええっ!?」

 なんとフィリップは、セリーヌがオフェリアのような令嬢ではない事をこの頃から知っていたらしい。そのフィリップの言葉を聞いたセリーヌは、真っ赤な顔をしながら口をパクパクさせた。

「その後もリシウス兄様やライナス兄様に内向的な性格部分で怒られて、何度かオフェリアに泣きつきに行くと、必ずそのお茶会の中心に君がいたんだ……」

 どうやらフィリップが頻繁にオフェリアの元を訪れていたのは、初恋の君に会いたかったからではなく、優秀な兄二人から受けた説教の愚痴を言いに来ていただけらしい……。

「君はいつも年上令嬢達から可愛がられていた。見た目はオフェリアに似ているのにその表情は、クルクル変わって、まるで太陽のように明るい表情を振りまいていた。社交が苦手な僕には、とても出来ない芸当で、そんな君の様子を僕は、いつしか陰からこっそり見つめるようになったんだ……」

 それを聞いた瞬間、セリーヌは湯気が出てしまうのでは、というくらい顔を真っ赤にした。
 自分では完璧にオフェリアの真似をしていたつもりだったが、実際にフィリップには全くその部分は注目して貰えていなかったのだ……。
 それどころか本来の自分の素の部分が、フィリップの興味を引いたらしい……。
 そのあまりにも酷い自身の空回りぶりにセリーヌは、恥ずかしさのあまり再び両手で顔を覆った。

「だけど夜会で見かける君は、まるでオフェリアのように振る舞っていたので、僕が惹かれた君の姿はなかなか見る事が出来なかった……。だから僕は、ルーに君との仲を取り持って貰いたいと頼んだ。しかし、やっと交流する事が出来るようになってからも何故か君は、オフェリアを模倣するような振る舞いばかりしていた。でも……僕が君に笑い掛けると、君はオフェリアのように取り繕うのをやめ、とても幸せそうな笑みで返してくれたんだ。もうそれが堪らなく可愛くて……」
「お、お待ちください!! あ、あの! ルーレンス様に仲を取り持って貰ったというのは……」
「僕では口下手だから、君と年齢が一緒のルーに仲介役を頼んだんだ。昔のルーは、やや粗暴な所があったけれど、成長してからのルーは猫かぶりが上手くなって、僕よりも社交関係に強くなっていたから。もちろん、初めはオフェリアに頼もうと思ったのだけれど……。いくら義姉とは言え、女性に頼むのは流石に恥ずかしくて……」

 どうやら第四王子に協力を要請したのはオフェリアではなく、フィリップ本人だったらしい。
 もう今聞いている内容だけで、セリーヌの頭の中は情報の整理が出来ない程、混乱している。とりあえず、自分が今まで完璧に振る舞っていたと思い込んでいた劣化版オフェリア像は、全くフィリップには響いていなかった事だけは確実だ。
 それだけでも恥ずかしくて死にそうになる……。

「それで君との距離がある程度縮まって来た時に父上とリシウス兄様に社交をもっと頑張るという条件で、君との婚約を許可して貰ったんだ。もうそれからは毎日が幸せ過ぎて……。君の方もその頃には大分、オフェリアみたいに振る舞うのをやめてくれていたから、本来の君のありのままの表情で対応してくれてたし」

 それを聞いたセリーヌは再び両手で顔を覆い、寝台の上で背中を丸めてうずくまる。自分では完璧にオフェリアのように振る舞っていたつもりだったのだ……。
 しかし実際は、婚約が決まった事で浮かれすぎてしまい、常に素の自分をさらけ出していたようだ。
 そんな羞恥心にのたうち回っているセリーヌの様子に気付かないのか、更にフィリップは幸せそうな笑みを浮かべながら、話を続けた。

「僕は婚約期間中、君にそっとふれるだけで信じられない程の幸福感に満たされていた……。穏やかで温かくなるようなそんな幸福感は、本当に堪らないくらい僕に幸せな気持ちを抱かせてくれた。だけど……つい先程、僕は自分の中にその穏やかな幸福感では、満足する事が出来ない自分自身に気付いてしまったんだ……」

 先程の幸福そうな笑みを消し去ったフィリップは、急に青白い顔をして、再び頭を抱え込む。悲痛な表情を浮かべ、苦悩しみ始めたフィリップの様子にセリーヌの方も心が痛み出す。

「先程、君を寝台に押し倒した瞬間、僕の中の血が燃えるように沸き立ったんだ! そこからは自分でも怖いくらいに君への邪な想いが暴走し出して!!」

 まるで何かを振り払うかのように取り乱し始めたフィリップを宥めようと、セリーヌがその肩に手を掛けようとする。
 しかし、フィリップは恐れるように素早くセリーヌと距離を取った。

「頼む! あまり君からは僕に近づかないでくれ!!」

 拒絶とも取れるその反応に再びセリーナの瞳に涙が溜まり出す。
 しかしその様子に気付かないフィリップは悲痛な表情のまま、絞り出すようにその先の言葉を吐き出した。

「頼むから……今日はもう僕の事を刺激しないでくれ……。こんな状態で君に触れられたら……僕は……僕は……」

 苦悩するように頭を抱え出したフィリップは、吐き出すようにその続きを叫ぶ。

「壊れるまで君の事を求めてしまう!!」

 その瞬間、真新しい調度品で揃えられた夫婦の寝室が、しーんと静まり返った。

「あ、あの……フィリッ――」
「もうダメなんだ!! 君のその柔らかい唇の感触が!! 優しく頬を撫でた時に羞恥心を感じながら頬を赤らめ、更に上目遣いでウルウルするその瞳が!! そんな庇護欲を刺激してくる君に対して、僕は……今まで感じた事もないようなどす黒い支配欲を満たそうした自分自身が、恐ろしくて堪らない!!」
「フィ、フィリップ様っ!? あの……何やらお話がおかしな方向に――――」

 段々と論点が変な方向にズレていく事に気が付いたセリーヌは、とにかくフィリップには少し冷静になって貰った方がいいと判断し、落ち着かせようと宥め始めたのだが……。

「柔らかすぎる君の唇を僕は一生、貪っていたい!!」
「は、い……?」

 草食系男子代表と言ってもいいフィリップのその肉食系発言にセリーヌが、やや引き気味で固まる。

「絹のような滑らかな触り心地の君の素肌を僕は、一生撫で続けていたい!!」
「なっ!!」

 人畜無害だと思っていた純粋無垢の象徴のような天使の見た目のフィリップの言葉とは思えない訴えにセリーヌは、絶句する。

「更に押し倒して……君の身ぐるみを全て引っぺがし、頭のてっぺんから足先まで唇を這わせたい!!」
「ひぃっ!!」

 もう欲望の塊と化した様なフィリップの心からの叫びにセリーヌが、小さな悲鳴をあげて顔面蒼白になる。

「そしてその後は全力で愛情を注ぎながら行為に及び、太陽が昇った後もずっと君と深く繋――――」
「ストップ!! フィリップ様!! ストォォーップ!! お、落ち着いてくださいませ!! そ、その先は絶対に口にしてはなりません!!」

 あまりにも予想外の暴走の仕方を見せたフィリップに慌ててセリーヌが止めに入る。どうやらフィリップの言う『君を愛する事は出来ない』は『君と愛し合う行為は、自分が大暴走しそうなので恐ろしくて出来ない』という意味らしい……。

 しかし男性であればその生理現象的な性欲の暴走は、そこそこ当たり前のように起こるのでは……と閨の講義を受けたセリーヌは思っていた。
 だが、そこはやはり純情過ぎるからなのか、繊細で天使のような清らかさを感じさせるフィリップだからなのか、それとも単に臆病なだけなのか……。
 己の中に潜んでいたドロっとした欲望を垣間見てしまい、急に怖じ気づいてしまったのだろう……。

「僕は……僕は、ただ純粋に君を深く愛したいだけなのに……。君をやっと手にする事が出来ると実感した瞬間、淫らで汚らわしい愛し方をしたくてしたくて堪らない自分自身がいて……」

 この世の終わりのように嘆きながら訴えるフィリップだが……その嘆く理由は、もう赤面するしかないという内容だ……。
 顔を真っ赤にしたセリーヌは、正直どう応えていいのか分からなくなってしまい、ただただ口をパクパクさせる。

「もしこのまま君の事を抱いてしまえば……きっと僕は君を枯渇させてしまう程、夢中になって朝まで君を貪ってしまう……」

 更に悲壮感いっぱいで訴え続けるフィリップだが、言っている内容はろくでもない……。
 そもそももう夫婦なのだから、そこは気にしなくても……とセリーヌは思うのだが、どうもフィリップは男性にしてはロマンチストのようだ。

 だが、ここまで自分を大切に想ってくれている事は伝わってきた。
 しかし、それとは別に気になる事も出てきてしまう。
 それならば以前抱いていたオフェリアへの恋心は、一体いつ消えてしまったのだろうかと……。
 現状、己の信じられない性欲を垣間見てしまい、ショックを受けて打ちひしがれているフィリップには申し訳ないが、その事がどうも気になってしまうセリーヌ。

「あ、あの、一つだけ確認させて頂いてもよろしいでしょうか……。その、フィリップ様は確か幼少期の頃より、現王太子妃のオフェリア様をお慕いされていたのではないのでしょうか……?」

 そのセリーヌの質問があまりにも予想外だったのか、フィリップが急にキョトンとする。

「オフェリア? どうしてそこで彼女が出てくるんだい?」
「その……まだオフェリア様が王太子殿下とご婚約されたばかりの頃、フィリップ様が中庭でオフェリア様にご婚約を申し込まれているような会話をされている姿を偶然拝見してしまった事がありまして……」
「僕がオフェリアに婚約を? いや、そんな記憶は一切ないのだけれど……」
「ですが、リシウス殿下とのご婚約が政略的な要素が強い為、オフェリア様にご婚約を考え直すようにご助言を――――」
「そういえば……まだ二人が婚約したばかりの頃にそんな事を言ったような……。あの頃はリシウス兄様に政略婚だと言われ続けているオフェリアが、かわいそうで……。それならば僕と婚約した方が、いくらかマシではないかと思っていたからね。でもその時の僕は、まだ君の存在を知らなかったのだけれど……」

 呟くように答えたフィリップだったが……次の瞬間、何かに気付いたように大きく目を見開く。

「もしかして……君がオフェリアのように振る舞っていたのは、僕が彼女に好意を寄せていると勘違いしていたから?」

 そう聞かれ、再びのたうち回りたくなる程の羞恥心がセリーヌを襲う。
 9年間も大空回りをして、オフェリアを真似ていた自身の行動を……。

「あ、あの……その……」

 その恥ずかしさから真っ赤になって俯くと、何故か目の前のフィリップが顔を紅潮させながら、瞳をキラキラさせた。

「10年近くも僕を想ってそんな行動を……?」
「ち、違うのです! フィリップ様の為と言うよりも自身の欲のためです! わ、わたくしはどうしてもフィリップ様の一番傍にいたいという欲求が強すぎて……」
「もし僕が本当にオフェリアに好意を抱いていたら、君はオフェリアの代わりとして扱われていたかもしれないのに?」
「…………」

 そんな浅ましいくらいにフィリップを求めていた自分の行動を言い当てられ、気まずさと恥ずかしさでセリーヌは再び両手で顔を覆ってしまう。

「ああ! セリーヌ! 君は何て健気で愛らしいんだ!!」

 一方、フィリップの方は歓喜に満ちたように瞳をキラキラさせ、セリーヌを抱き締めようとした。しかし……その行動は寸前で止まる。

「くっ……!! 自分の為にこんなに可愛い行動を10年近くし続けてくれた最愛の女性を今すぐ抱き締めたいのに……。理性が即死しそうで触れる事すら出来ない!!」

 そして再び嘆きだした……。
 そんなフィリップを少しでも落ち着かせようと、セリーヌが再び手を伸ばす。

「ダ、ダメだ! セリーヌ、僕に迂闊に触れようとしないでくれ!! 君に触れられたら荒ぶる欲望が抑えられなくなる!!」

 フィリップはそう叫び、寝台の上で頭を抱えながら、丸まるように蹲ってしまった。そんな情けない行動をしつつも、必死で自分を大切に扱おうとしてくれているフィリップにセリーヌは、思わず顔を綻ばせる。

「僕は今日、自室の方で眠る。だからセリーヌは安心してここで休んで――」
「いけません!! そのように初夜に別々の部屋で眠ってしまえば不仲説が出てしまいます!!」
「で、でも……。隣で君が同じ寝台で寝ていると思うと、どうしても過剰に触れたくなってしまい、理性がすぐに死んでしまう……」

 真っ赤な顔をしながら、そう呟くフィリップの手をセリーヌが、両手でそっと手に取る。すると、フィリップがビクリと体を震わせた。

「では手を繋ぎ眠る事で、わたくしと触れ合う事に少しずつ慣れていくように致しませんか? そうすれば過剰な触れ合いにまでお気持ちが暴走しないかと」
「ダメだよ!! そんな確実に僕の理性が即死してしまう状況で眠るなんて! もし僕が暴走してしまったら、君はとても恐ろしい思いと痛みを感じる事になるんだよ!?」
「その時はその時です。ですが、わたくしはそうなってしまった場合でもフィリップ様を拒む事は一切致しません」
「セ、セリーヌ……」

 困り果てた表情を浮かべているフィリップを安心させようと、セリーヌはフィリップの手を更に強く握った。

「少しずつ、わたくしと触れ合う事に慣れていかれれば、いざという時にそのような暴走をしなくなるのではないでしょうか」
「少しずつ?」
「わたくし達は、あまりにも空回りしている期間が長すぎました。その原因は、お互いの自己評価が低すぎる事と、嫌われてしまう可能性を恐れ、自身の気持ちを隠しすぎた事のように思えます」
「僕は君を嫌ったりなんてしないよ!?」
「もちろん、わたくしもです。ですがフィリップ様はわたくしに対して『求めすぎて壊してしまうかもしれない』と思ってしまったのですよね?」
「そ、それは……」
「それはフィリップ様だけでなく、わたくしにも言える事なのです。初恋相手を真似てまでもフィリップ様に愛されたいと思う程、わたくしの重い愛は気味悪がられるのではないかと……」
「セリーヌからの愛情を気味が悪いだなんて、僕は絶対に思わないよ!!」
「それでもお互いどこまで踏み込んで良いか分からない状態では、どうしても相手に嫌われてしまう可能性を懸念し続けてしまうので、不安ではありませんか?」
「それは……」

 それでも自分を抑え込める自信のないフィリップは、目を泳がせながら視線を逸らす。そんなフィリップにセリーヌが優しく微笑みかけた。

「フィリップ様はこの婚約期間中、よくわたくしと手を繋いでくださいましたよね? その際はどういうお気持ちでしたか?」
「その時は……とても穏やかで幸福に満たされるような気持ちだったよ」
「わたくしもです。しかしフィリップ様にとっては、その時もわたくしに触れている状態なはずです。ですが先程のようなフィリップ様が恐れる邪な感情は湧き起こらなかった」
「あっ……」
「わたくし達は自分自身の重すぎる気持ちにばかり目が行ってしまい、お互いの気持ちを確認する事が疎かになってしまっていたのではないでしょうか? ですから、これから少しずつお互いどれだけ想い合っているかを確認していけば、フィリップ様のお気持ちと、わたくしに対する接し方のバランスが取れてくるかと思うのです」

 そう言ってセリーヌは、握っていたフィリップの手をそっと優しく撫で始める。
 だがフィリップの方は、それでも自分の自制心に自信が持てないらしい。

「でも、隣で君が寝ていて……しかも繋いだ手から君のぬくもりを感じられる状態で一晩中共に過ごしてしまったら、僕は確実に暴走すると思う……」
「その時はその時です。そもそもお忘れかもしれませんが、わたくしの方も自分を偽り、フィリップ様の初恋の君であったと勘違いしていたオフェリア様を真似てまで、その愛情を受けようとした愛が重い女ですよ? なのでフィリップ様がわたくしを壊すかもしれないと恐れている深い愛情を受け止めるだけの器をわたくしは持ち合わせていると思います!」
「そうかもしれないけれど……。でももし君に怯えられたりしたら僕は……」
「その時はわたくしの事は気にせず、強硬手段に出てくださいませ」
「そ、そういう訳にはいかないよ!」
「もしわたくしが恐怖を感じたとしてもそれはフィリップ様に対してではなく、その未知なる行為に対しての不安から抱いたものになります。なので一度体験してしまえば、後はもう幸福感しか抱かないかと」

 そう自信満々に答えるセリーヌにフィリップが苦笑する。

「君は変なところで、やけに男気溢れるね……」
「別の女性に擬態してまでフィリップ様の愛情を受けようとする浅ましい女ですよ? 枯渇してしまう程の深い愛情を受けられるのなら、それは本望です!」
「うん……。どうやら僕らは本当にお互いが抱いている愛情がどれだけ重いのか、かなり認識不足のようだね……」

 そう言ってフィリップは、右手で包んでいたセリーヌの両手の上に空いている左手を重ねる。

「自制出来る自信はないけれど……。出来るだけ気持ちと行動のバランスを取れるようには頑張る。でももし僕が暴走して君が恐怖を感じた場合は、遠慮なく悲鳴を上げて拒絶して欲しい」
「もしそのような状況になっても受け入れたい気持ちの方が強いと思うので、それはお約束出来ませんが……。ですが、出来るだけフィリップ様のお気持ちが穏やかな状態で事に運べるようにわたくしの方もあまり刺激する行動は控えるよう努力致します」

 夫婦となってしまったのだから、そのような気遣いは無用だとお互いに思いつつも、何故か無駄な方向で頑張ろうとしている自分達のおかしな行動に二人は、同時に吹き出してしまう。

「お互いに愛情が重すぎるのも問題だね……」
「ですが、同じだけの重い愛情をフィリップ様が、わたくしに抱いてくださっていた事が分かったので、今のわたくしは幸せ過ぎて仕方ありません」

 そう言って幸福そうな笑みを浮かべたセリーヌをフィリップが優しく自分の方へ抱き寄せ、その額にそっと口付けを落とす。

「おやすみ、セリーヌ。今の満たされた気持ちの僕ならば、たとえ君が隣で無防備に眠りについていても、穏やかな気持ちで共に眠る事が出来ると思うから。だから今夜は安心して休んで欲しい」
「お気遣い、誠にありがとうございます。ですが、それはわたくしにとって、とても残念な状況になりますね」

 そう言って微笑み合った二人は、手を繋いだまま寝具に潜り込み、幸福な気持ちで眠りに就く。
 それから一週間程は、二人が手を繋いだ状態で毎朝眠っている姿が侍女達に目撃され、その初々しい夫婦関係が微笑ましいと城内では、かなり噂となった。

 だがその後、フィリップが懸念していた愛が重すぎる故の暴走が起こったかどうかの噂は、一切立たなかった。二人の夫婦事情に関しては、何故か第三王子夫妻付きの侍女達が固く口を閉ざしているらしい。

 そんな二人は、いつまでも初々しい雰囲気をまとった夫婦として、周りから温かい目で見守られ続けたそうな。
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