〇〇と言い張る面倒な王子達

ハチ助

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番外編:『君は最高の親友だと言い張っていた夫』

1.四人の息子達

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――――――◆◇◆――――――
こちらは4人の王子達の両親の話になります。
最終的に子供が4人もいる国王夫妻の若い頃のお話になりますので、内容的には嫁バカヒーローの話になりますが、このヒーローもかなりポンコツです。(苦笑)
ヒストリカルな作品ではない為、「王太子らしからぬ王族など認めん!」でモヤりやすい方は、読まれる際にはご注意ください。
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「リシウス、どうしてあなたがここにいるのかしら?」

 この国の王妃でもあるアデリーナが、優秀だが変なところで抜けている長男リシウスを不機嫌そうに睨みつけた。
 真っ直ぐで銀糸のような艶やかな髪に淡い薄紫の瞳を持つ王妃は、まるで精巧に作られた人形のように整った顔立ちをしているが、やや小柄なので実年齢よりも若く見られやすい。とてもではないが、4人の息子がいるとは、誰も思わない程、可憐で美しかった。

 そんな母のその問い掛けに何の悪びれる様子もなく、ティーカップを優雅に口元に運ぶ長男リシウスは、今年で13歳になる。一年前に次男の縁談相手である侯爵令嬢のオフェリアをちゃっかり自身の婚約者にしてしまったのだが、今日はそのオフェリアとお茶を楽しむ事を娘がずっと欲しかったアデリーナは、心待ちにしていたのだ。

「オフェリアから母上と二人だけで、お茶をすると聞いたので」
「知っているのならば、あなたがここにいる必要はないでしょう!!」
「王妃である母上と二人きりでお茶をするなど、オフェリアが緊張してしまうかと思いまして。私が隣にいれば少しは安心出来るかと……」
「わたくしは、未来の王太子妃でもあるオフェリアとの親睦を深める為にこの機会を設けたのよ!? あなたが一緒に付いてきては、意味がないでしょう!」
「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、古来より嫁姑間は色々とトラブルが発生しやすいと伺った事があるので、お二人だけで交流なさる事は、控えて頂きたいと思いまして」
「あなたは、わたくしが未来の嫁に嫌がらせをするとでも思っているの!?」
「いえ、そこまでは」
「わたくしは、ずっと娘が欲しかったのよ!? オフェリアのような優秀で愛らしいご令嬢が息子の婚約者であれば、親睦を深めたいと思うのは当然でしょ!? 何故、邪魔をするの!」
「ですから、嫁姑問題は古来よりトラブルが多いと……」
「こんな愛らしい待望の未来の嫁をわたくしが傷付ける訳ないでしょうが!!」

 あまりにも偏見に満ちた長男の言い分にアデリーナは、手にしていた扇子をパシンッと自分の空いている手に叩きつけた。すると長男の隣に座っているオフェリアが、やや諦め気味な笑みを浮かべ、目だけでアデリーナに謝罪の気持ちを伝えてくる。母譲りの美貌を持つ長男に負けず劣らず、こちらも淡い水色の瞳に金色の髪を持った素晴らしい程の美少女だ。
 そんな健気な未来の嫁の気遣いにアデリーナが、申し訳ない気持ちになる。

「ああ、もう……。今日わたくしが、オフェリアとのお茶をどれだけ楽しみにしていたと思うの?」
「それは……未来の姑として、オフェリアに制裁を加える事を楽しみにされていたのですか?」
「違うわよっ!! あなた何て言いがかりを!!」
「ならば私が同席しても構わないではありませんか……」
「リシウス。女性はね、同性同士で会話を楽しみたい時があるの!」
「ならば私はお二人の会話を静観しているので、石像とでも思ってください」
「こんな自己主張の激しい石像が存在する訳ないでしょう!!」

 何とかして息子を追い返そうとしたアデリーナだが、リシウスは一向にこの場から立ち去ろうとしない。その頑なな態度に盛大なため息がこぼれる。

「もういいわ……。オフェリア、本当にごめんなさいね……。後日また改めて。お茶の誘いをさせて頂くわね?」
「王妃殿下……。その、申し訳ございません……」
「申し訳ないのは、そこの愚息よ! 全く!」
「母上、本当にもうよろしいのですか? ではオフェリアをここから連れ出してもよろしいでしょうか? 実は本日、中庭で育てられていた珍しい薔薇が開花したので、是非彼女に見せてあげたいのですが」
「もうあなたの好きになさい!」
「ではお言葉に甘えて」

 いそいそとオフェリアをエスコートとしながら、部屋を出ていく長男の姿をアデリーナは、呆れた様子で眺める。

「全く! 誰に似たのかしら……」

 そう呟きながら、少なくとも自身ではない事をアデリーナは確信している。
 何故ならば、リシウスのあの融通の利かない真面目過ぎる部分は、現国王であるフィリクスにそっくりなのだ……。
 折角のオフェリアとの楽しいお茶の時間を長男によって台無しにされたアデリーナは、気持ちを落ち着かせようと侍女が入れ直したお茶を口にする。
 すると、やや乱暴なノック音が室内に響いた。
 その不躾なノック音にアデリーナ付きの侍女がギロリと扉を睨みつける。

「何事です! ここは王妃殿下のお部屋と知っての振る舞いですか!?」
「も、申し訳ございません! ご無礼をお許しください……。じ、実は第四王子ルーレンス殿下が婚約者のシャノン様と、その……言い争いを始めてしまいまして……。我々では仲裁出来ない程、お二人が興奮なさっているので、シャノン様の姉君であらせられるオフェリア様の助力をお借り出来ないかと……」

 その話が聞こえてしまったアデリーナは、テーブル上で両手を組み、そこに額を押し付けるように項垂れた。

「オフェリア様は、つい先程リシウス殿下と中庭の方へと移動されたわ」
「中庭……あ、ありがとうございます。ではそちらの方へ伺い――」
「待ちなさい。わたくしが二人の仲裁をします」
「「王妃殿下!?」」

 慌てて中庭に向かおうとする四男付きの侍女をアデリーナが引き留める。
 すると、侍女二人が驚きの声を上げた。

「恐らく今オフェリアに頼ってもリシウスが、それを聞き入れないわ。ならばわたくしが行きます」
「も、申し訳ございません……。わたくし共が不甲斐ないばかりに……」
「分かっているわ。あの子達は、本気で喧嘩を始めると手が付けられないのよね……。ならばわたくしが仲裁した方が確実でしょう。案内なさい」
「お、恐れ入ります」

 そう言ってスッと立ち上がると、アデリーナは足早に四男ルーレンス達の元へと向かい始めた。しかし、自室を出て中庭が見渡せる通路に出た途端、前方の通路から物凄い勢いで飛び出して来た次男ライナスに遭遇する。

「ライナス!?」
「うわっ!! 母上!?」

 今年で11歳になった次男ライナスは、能力的面では長男と同じくらい優秀なのだが、残念な事に精神面では兄弟中で一番子供っぽい性格をしている。その事を自覚しているのか、今も悪戯が見つかった子供という慌てぶりを見せた。

「城内を走り回るなんて……お行儀が悪いですよ!!」
「も、申し訳ございません!! ですが、今は緊急事態なので!!」

 口早にそう叫んだ次男は、そのまま母アデリーナの横を「失礼致します!!」とすり抜け、猛スピードで駆け抜けていった。

「ライナス!! だから走ってはいけないと――っ」

 思わずアデリーナも叫び返してしまったのだが、そんな次男に続き、またしてもパタパタと城内を駆ける足音が近づいてきた。

「お、王妃殿下!!」
「セリ……?」

 現れたのは現在ライナスの護衛を務めているリアクール伯爵の娘であるセリアネスだった。彼女は王子教育や最近少しずつ任され始めた簡単な公務から、すぐに逃走を繰り返すライナスの捕獲要員として登城してくれている令嬢で、4年後には正式にライナスの婚約者として社交界デビューする予定だ。

「た、大変失礼致しました……」

 歩みを止め、恭しく最上級の礼を執るが、貴族令息のような服装である為、カーテシーではない。それでも姿勢がいい彼女の礼は、幼いながらも美しい。

「構わないわ。またライナスが公務を投げ出し逃げているのでしょう?」
「いえ……。今回は歴史学のお勉強の方を……」
「また歴史学!? はぁ……。いくら記憶力が良いからと言って、教育係の講義を受けないのは、かなり問題ね……」

 ライナスは、一度読んだ書物は大体記憶してしまう所謂天才型だった。
 その為、すでに覚えきってしまった歴史の授業が退屈らしい。
 その特技は長男リシウスも持ってはいるが……ライナスの場合、完全にその恵まれた才能が原因で自信過剰な性格となり、周囲からは『俺様王子』と呼ばれている。

 そんな横柄で人を小バカにした態度が目立つライナスだが、誰に対してもその姿勢を貫く為、逆にその部分が人に媚びない人間性という意味で、何故か評価を得ている。
 しかし長男リシウスとは逆方向で生意気に大人を言い負かす次男は、この国の宰相からは「ライナス殿下は、ただのクソガキでございます!」と言い切られる程の問題児だ……。
 情けない事に母であるアデリーナもその宰相の意見には同意してしまう。

「セリ、わたくしが許可します! 全力でライナスを捕獲なさい!」
「はい!」

 キリっとした表情で9歳とは思えない程、美しい敬礼をしたセリアネスは、再びライナスの追跡を開始し、アデリーナの横を駆け抜けていく。

「はぁ……全く。長男次男と揃って……」

 そう嘆いたアデリーナは、ふと窓の中庭に視線を向ける。すると数人の令嬢達が厳しい淑女教育を受けている様子が目に入った。
 しかし次の瞬間、アデリーナは思わず口をポカンと開けてしまう。

「フィルは……一体、何をやっているの……?」

 その令嬢達の事をどう見ても不審者にしか見えない様子で、三男フィリップが熱心に覗き見ていたのだ……。
 僅か8歳でストーカー的要素を覗かせる三男に母であるアデリーナは、軽い眩暈を覚える。
 すると今度は、少し離れた客室から幼い子供の叫び声が耳をつく。

「うわぁぁぁぁぁーん!! ルーレンス様のバカぁぁぁぁー!!」
「シャノンがバカって言ったぁぁぁー!! 自分の方がバカなくせにぃぃぃー!!」

 取っ組み合いの喧嘩の末、確実に収拾が付かなくなって大泣きしていると思われる四男と、その婚約者の姿が容易に思い浮かんだアデリーナは両手で顔を覆う。

「もうぉぉぉ~!! 何故わたくしの息子達は、こんなにも面倒な子ばかりなの!?」
「お、王妃殿下……」

 アデリーナが嘆くようにそう叫ぶと、長年彼女に仕えている侍女がアワアワしながらアデリーナを宥めてくる。
 すると、前方から呑気そうな男性の声が、アデリーナにかけられた。

「アディ? 何をそんなに腹を立てているのだ?」

 顔のパーツは長男リシウスの成人した姿を彷彿させ、全体の色合いは四男ルーレンスと同じ。表情は人見知りを克服した時の三男フィリップのような柔和さを感じさせる美しくも威厳ある風貌の夫で国王でもあるフィリクスだ。

「陛下……」
「どうやら私の愛しい妻は、ご機嫌斜めの様だな……。どうだろう? 久しぶりに気分転換も兼ねて一緒にお茶でもしないか?」
「陛下。本日のご公務は、もう終えられたのですか?」
「え……? あ、ああ。もちろん!」
「わたくしはこれから、ルーとシャノンを和解させなければなりません。それまでにご公務を終わらせて頂くのであれば、喜んでお誘いをお受け致します」
「わ、わかった! すぐに片付けてこよう!」

 そう言ってフィリクスは、慌てて自身の執務室に戻って行った。
 すぐに処理できる能力を持ちながら、何故か公務を先送りにする事が多い夫のこの姿勢は、次男ライナスが見事に受け継いでいる……。

「そうよね……。父親がああいう方なのだから、その息子であるあの子達も当然、癖の強い部分が色濃く出てしまうわよね……」

 ガクリと肩を落とし、ルーレンス達が泣き叫ぶ客室の方へと歩みを進めながら、アデリーナは夫と出会ったばかりの頃を少しずつ思い出し始めた。
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