青白い月の光の下で

真奈子

文字の大きさ
上 下
1 / 6

プロローグ

しおりを挟む
 最近、キーンと言う音が頭の中に響くことがよくある。
 アイスクリームを食べた時とは違う、何か引っ張られるような音。

       *

 朝起きると、セミが大合唱している。
 高校生活は夏休みの入ったけれど、部活は休みではない。わたしはのろのろと朝の準備をした。

 友だちに誘われて入った卓球部だが、始めるとそれなりに上達して楽しいけれど、夏休みまでやりたいかと言うと、微妙なところだ。
 それでも友だちに会えるのは、楽しいしうれしいから、そう思うと自転車をこぐ力も自然と力が入った。


 うちの高校は山の上にある。正確に言うと、うちから山3つ越えたところだ。どんな山奥と思われるかもしれないが、新興住宅地がドンドン広がって行っているので、上り坂と下り坂が繰り返された山の上に学校はある。

 上り坂の途中で自転車から降りて、汗をかきながら自転車を押して上がっていると、車道の反対側を郵便局のバイクのおじさんが「大変だね」って顔を向けて通り過ぎて行くので、苦笑いを返した。

 そうして顔を前にもどした瞬間、いつもよりひときわ大きいキーンって音が頭の中に響いたかと思うと、わたしと同じ年頃の女の人のイメージが目の前に広がって、そして消えた。

 (今の、何。寝不足?)

 すっごく気にはなるけれど、時間が!
 部活の時間に遅れないように、学校に行くことに気持ちを集中した。


 で、部活の練習の休憩時間に、ぼんやり今朝のことを思い出していると

「さくら、何してるの。今日の帰り、クレープ屋さんにまた、寄る?」

と、親友の綾子に声をかけられた。

「うん、行く。その時に話を聞いて」

「良いよ、じゃ、もう一息がんばろうか」

 タオルで汗を拭きながら、まあ相談されても困るだろうけどね。と考えながら振り向いた瞬間、ざわっと目の前の空気が動いた気がした。
 そのまま切り開かれた空間の向こうからわたしと同じ年くらいの金髪の少女が手を伸ばして来た。

「たすけて」

とっさに手を握った瞬間、引っ張られると同時にさっきより強くキーンと言う音がして目の前が真っ暗になった。

しおりを挟む

処理中です...