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1 召喚
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「できた…」
目の前に倒れている黒髪の少女を目の前にして、わたしは自分の魔術が成功したことより、この少女のこれからを思ってモヤモヤと落ち込みそうになるのをこらえた。違う世界にいきなり連れて来られて、さぞかしびっくりするだろう。その上、大変な仕事を頼むなんて…
「姫様」
声をかけられてゆっくり振り返ると、茶色の目をした魔道士のガステルとその後ろにこの国の王太子である兄の姿があった。
「待機させていた侍従や侍女を呼びにやっております。姫様は休息していただけたらと存じます」
その言葉に兄のアーサーもうなずく。
それでもやっぱり倒れたままの方が気になり後ろを振り返った、そのつもりだったけど、大量の魔力を使った体は思ったより疲れているようで、ギッギーィと音が出そうなくらいギクシャクと動いて、体は振り返る途中で止まった。
(あっ、これダメだ。どんどんしんどくなるやつだ)
結局、倒れてしまう前にと思い、わたしは早々に侍女とともに部屋を辞した。
*
コトリ、と音が聞こえた気がして目を開けた。分厚いカーテンのためか真っ暗の中、スリッパで歩く音が聞こえた。
「エミリー?」
「はい、姫様」
かすれ声のわたしの声が無事に聞こえたようで、エミリーはナイトランプをつけてから、ゆっくりわたしの体を起こし背に枕を入れた後、コップに水を入れてわたしてくれた。
それを少し飲んで、コップを返した。
「ありがとう、どのくらい寝てたのかしら」
「ちょうど1日半です。今は夜半前になります」
「あの、異世界からのお客様はどうなったのかしら、侍従長に聞けば良いかしら」
「その件に関しては、王太子殿下がお話くださるそうです。姫様がお目覚めされたことをお伝えしてまいります」
エミリーが部屋から出ると代わりに別の侍女がやって来た。侍女のアニーにわたしが合図をすると、彼女は軽くお辞儀をしてカーテンを開けていく。
もう夜だった。窓から見える三日月を見ながら、温かいスープを噛み締めて食べていると、お兄様がいきなり入って来た。
食べるのを支えてくれていたエミリーがあわてて立ちあがるのを、お兄様は目で制し、ベッドから少し離れたソファにゆっくり座った。
「来るのが早過ぎたようだな。食べ終わるのを待っているからゆっくり食べなさい」
「そうは言われても、忙しいお兄様をお待たせするのも」
「じゃあ、待ちながら最近の話をするか」
そう言いながらお兄様は、この間城の庭師が木から降りられないネコを捕まえようとして木から落ちた話や、城のパティシエが市街地のケーキ屋さん巡りに目覚めたと思ったら彼女をゲットした話だの、そんな情報をこの広いお城の中でどうやって仕入れたの、と言うかその情報網おかしいんじゃないって思いながら話を色々聞かせてもらって、無事に夜食を食べ終わった。
「それでグラディスが一番聞きたいのは、サクラのことだろ」
「サクラ?」
「グラディスが連れてきてくれた異世界からの客人の名前だ。」
カチャリ、銀で縁取りされたソーサーの上にカップを置くと、お兄様は優雅にわたしの方に体を向けた。
目の前に倒れている黒髪の少女を目の前にして、わたしは自分の魔術が成功したことより、この少女のこれからを思ってモヤモヤと落ち込みそうになるのをこらえた。違う世界にいきなり連れて来られて、さぞかしびっくりするだろう。その上、大変な仕事を頼むなんて…
「姫様」
声をかけられてゆっくり振り返ると、茶色の目をした魔道士のガステルとその後ろにこの国の王太子である兄の姿があった。
「待機させていた侍従や侍女を呼びにやっております。姫様は休息していただけたらと存じます」
その言葉に兄のアーサーもうなずく。
それでもやっぱり倒れたままの方が気になり後ろを振り返った、そのつもりだったけど、大量の魔力を使った体は思ったより疲れているようで、ギッギーィと音が出そうなくらいギクシャクと動いて、体は振り返る途中で止まった。
(あっ、これダメだ。どんどんしんどくなるやつだ)
結局、倒れてしまう前にと思い、わたしは早々に侍女とともに部屋を辞した。
*
コトリ、と音が聞こえた気がして目を開けた。分厚いカーテンのためか真っ暗の中、スリッパで歩く音が聞こえた。
「エミリー?」
「はい、姫様」
かすれ声のわたしの声が無事に聞こえたようで、エミリーはナイトランプをつけてから、ゆっくりわたしの体を起こし背に枕を入れた後、コップに水を入れてわたしてくれた。
それを少し飲んで、コップを返した。
「ありがとう、どのくらい寝てたのかしら」
「ちょうど1日半です。今は夜半前になります」
「あの、異世界からのお客様はどうなったのかしら、侍従長に聞けば良いかしら」
「その件に関しては、王太子殿下がお話くださるそうです。姫様がお目覚めされたことをお伝えしてまいります」
エミリーが部屋から出ると代わりに別の侍女がやって来た。侍女のアニーにわたしが合図をすると、彼女は軽くお辞儀をしてカーテンを開けていく。
もう夜だった。窓から見える三日月を見ながら、温かいスープを噛み締めて食べていると、お兄様がいきなり入って来た。
食べるのを支えてくれていたエミリーがあわてて立ちあがるのを、お兄様は目で制し、ベッドから少し離れたソファにゆっくり座った。
「来るのが早過ぎたようだな。食べ終わるのを待っているからゆっくり食べなさい」
「そうは言われても、忙しいお兄様をお待たせするのも」
「じゃあ、待ちながら最近の話をするか」
そう言いながらお兄様は、この間城の庭師が木から降りられないネコを捕まえようとして木から落ちた話や、城のパティシエが市街地のケーキ屋さん巡りに目覚めたと思ったら彼女をゲットした話だの、そんな情報をこの広いお城の中でどうやって仕入れたの、と言うかその情報網おかしいんじゃないって思いながら話を色々聞かせてもらって、無事に夜食を食べ終わった。
「それでグラディスが一番聞きたいのは、サクラのことだろ」
「サクラ?」
「グラディスが連れてきてくれた異世界からの客人の名前だ。」
カチャリ、銀で縁取りされたソーサーの上にカップを置くと、お兄様は優雅にわたしの方に体を向けた。
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