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第16章 日の差さぬ場所で
12.違和感の正体
しおりを挟む※今回のお話は16章11話と同じ日で、城壁が壊れる前から始まるルクト視点です。※
俺やウィニストラ、キルレ、サザベルの連中で学者の家にある本を全て読んだが、新たな手がかりになるようなものは見つからなかった。
この家の1階をくまなく調べた後、階段が封鎖されていた2階に上がってみれば、空間を隔てる壁がないだだっ広い空間があった。
壁がないから、四方にある窓から差し込む陽の光がよく通ってとても明るく、開放感がある部屋なのだが。
この部屋には、中央に立派な机が置かれているだけで他に家具がないのが異様だ。その机の上には空のインク瓶と白紙のノートの束があり、周囲の床には大小様々な空の木箱が無数に散らばって雑然としている。開けっ放しの広いクローゼットの中には、日焼けして褪せた1着の紺色のスーツが取り残されたように置かれているだけで、手掛かりになるようなものは何もなかった。
「2階にも何にもねぇな」
「そのようですね」
俺の行く先々に必ず付いてくるファズが、ため息混じりの俺の声にすぐに反応した。
窓を見れば、この家は周囲の家よりも1階層分高いらしく、民家が立ち並ぶ風景がよく見える。赤い煉瓦造りの家しかないが、煉瓦が風化しているのか日焼けしたような色の家もちらほらと見える。この家は2階建てだが、1階と2階の天井は高かったから3階建ての高さがあるようだ。
ーーなんか分からないが、前に来た時に比べて何か違和感を感じる。
城下町を一通り調べている時に感じたこういう違和感は、こうして高い場所から見ると一層強く感じる。
一生懸命シェニカとここに来た時の光景を思い出そうとするのだが、傭兵としてあちこちを移動していたからか、こういう城下街や普通の街や村の景色は、印象に残るほどの何かがなければ記憶に残らない。
シェニカとレオンと一緒に歩いた道をもう一度歩いてみて気付いたのは、コロシアム会場が取り壊されて更地になっていたこと、城下を走る石畳がヒビ割れて、クリーム色の砂地が剥き出しになっている所が多いことだった。違和感はそれだけじゃないと思うが、何を見落としているのだろうか。
「どこに行きますか?」
この部屋に用はないと判断した俺が階段を下り始めると、ファズが足音を立てずに近寄ってきた。
「王宮に。落盤地点に近い場所へ行く」
この家に何もないと分かったら、後は自分の足で動いて、地図を見ながら調べるしかない。
シェニカが落盤事故に巻き込まれて既に5日経っている。早く助け出さないと、生きていたとしても飢えていたり、衰弱したりしているかもしれない。早くこの目でシェニカを見て、抱き締めて生きていると確認しないと気が済まない。
冷静に考えようとするのだが、シェニカへの思慕と手掛かりが見つからない焦りから、頭の中がまとまらない。この状態では記憶を辿りながら調べるのは無理だ。視点を変え、頭の中を一度まっさらな状態にしようと、まだ手を付けていない王宮を調べてみようと思った。
と言っても、王宮内のどこに出入り口があるのかは、学者の本に『城下町の喧騒が遠くに聞こえ、灰色の城壁と黒い王宮が間近にあった』くらいしか手掛かりが書かれていなかったから、既にウィニストラもサザベルも城壁周辺は調べているだろう。
でも、あれだけ大規模な落盤事故が起きた場所の近くなら、鍾乳洞に入れるような穴が空いているかもしれない。もしそれを見つけることが出来たのなら、その穴を慎重に掘って大きくしていけば、鍾乳洞に辿り着けないだろうか。
会いたい。早く会いたい。俺の所に戻ってきてくれ。
声に出せないシェニカへの気持ちをため息に乗せて、ファズと一緒に正門から王宮の中庭に入った。
前に来た時は正門から王宮にすぐ入ったから中庭を見なかったが、領主の庭園とはレベルの違う豪華な噴水があり、最近まで手入れされていたのが分かる薔薇園、迷路のように配置された低木が見渡す限り広がっている。この中庭の石畳の道は、目に入る部分に関しては城下と違ってヒビ割れても居ないし、地面は灰色の石畳か鮮やかな緑の芝生があるだけでクリーム色の砂地はまったく見えない。
「王宮の地図でしたら、こちらをどうぞ」
「どーも」
地図を確認してみると、落盤地点から一番近い場所は、王宮の中庭の端にある東屋だ。整備された石畳の道なんて無視して城壁沿いに進んだ方が早いが、遠回りになるが石畳の道を歩くことにした。
今は水が止められている豪華な噴水を横目で見るような道を歩き、赤や白の薔薇が咲き誇る薔薇園を通ったりしながら進んでいくと、王宮と東屋を繋ぐ屋根付きの渡り廊下が見えた。
渡り廊下の先にある東屋は、どの柱も何本もの細い鉄の棒を絡ませながら1本になっていて、木製の屋根が張ってある。何となく屋根付きの鳥籠のような印象を受ける壁のない大きな建物で、周囲にはオレンジ色の花をつけた金木犀が間隔を空けて数本植えられていた。
この東屋は頑丈に出来ているのか、落盤事故の揺れの影響を受けたと思われるのに、屋根が崩れ落ちている様子も建物が傾いている様子もなかった。
東屋と王宮までの間には、他の金木犀よりも一回り大きな同じ木が1本あり、睡蓮の葉が水面に広がる大きな陶器の鉢が置かれていたり、綺麗な円形に切り出された灰色の大きな飛び石が芝生の地面に不規則に埋め込まれている。壁のない渡り廊下からその景色を見ながら東屋の中に入り、石造りの床の上にある女神の石像の前に立った。
この女神像は目を閉じて穏やかな表情をしているが、誰かを呼び止めるように右手を前に差し出した姿をしている。
女神像の本体はシェニカくらいの背の高さだが、その下にある台座が高くて、俺の目線の位置に女神の膝がある。よく手入れされているらしく、女神像にも台座にも汚れも欠けも見当たらない。
その台座の正面には『賢王ガーファエル 寵姫アルナ・イサイーグ』、背面には『昏く険しい未来を切り拓く者に祝福を』と書いてあった。
この女神像の周辺を調べてみたが、芝生を掘り返した様子も、東屋の地面の床や渡り廊下から見た飛び石を動かした様子もない。地面には陥没しそうな窪みや穴が空いている様子もない。
隠し通路に繋がる入り口を探そうにも、屋外だから空気の流れは感じ取りにくいが、普段閉ざされている場所に人が出入りをすれば必ず物が動く。でも、この辺にそういった痕跡はないし、特におかしなところもないと判断した時、視線の先に渡り廊下と王宮に繋がる扉が見えた。
「この先は何があるんだ?」
「王宮内の礼拝堂です」
東屋の女神像がよく手入れされていたから、王族は寵姫を女神にして信仰していたのだろう。でも、国王ではなく、なぜ寵姫を崇めるのか理解できない。それが何となく腑に落ちないから、礼拝堂に行ってみようと思った。
渡り廊下を通って礼拝堂に繋がる木目の美しい扉を開けると、ウィニストラとサザベルの下級兵士が、魔力の光で周囲を照らしながら入り乱れて捜索をしていた。
王宮と同じで黒い石造りの広い礼拝堂は、俺が入ってきた扉と、その向かい側にある同じような扉の2箇所が入り口だ。
今入ってきた扉から見て左側に広がるこの部屋の奥には、火が灯っていない蝋燭の山になっている祭壇があり、その中央に礼拝堂を見下ろすような高さの女神像が。その右手側には天使、左手側には悪魔の像があり、すべて同じ白い石で出来ている。
2箇所の扉から祭壇まで道を示したような赤い絨毯が敷かれた通路があり、その両脇には女神像に注目するように長椅子が並べられている。
「鳥の壁画?」
礼拝堂内に数歩足を動かした所で、自分の右上部あたりに白い何かが視界に入った。
顔を上にあげれば、後光が差すデカイ鳥を二重丸で囲んだ大きな壁画が、黒い壁に白で彫刻されていた。女神と鳥が向き合うような位置関係である上に、この鳥は女神の顔の位置と同じくらいの高さに刻まれている。
正面を見据えるその鳥は吊り上がった目の眉間にシワを寄せ、威嚇するように大きく口を開け、鋭い両方の鉤爪を見せつけている。その顔は狼のようにも見えるが、翼があるから鳥らしい。
「この国では、女神とその守護者である金の鳥、女神を連れて行こうとする天使と悪魔、天使と悪魔の特徴を持つ青年が題材になったお伽噺があるそうです。その中に出てくる青年が賢王と言われるガーファエル、女神がその寵姫アルナで、2人を神格化していた様子だそうです」
「お伽噺で神格化ねぇ。誰も神なんて信じてねぇのに、王族が自分の先祖を神格化するなんて馬鹿馬鹿しい」
王族は先祖を神格化して自分を神だと思い込んでいるのだろうか。そんなことしても、民衆は誰も信じねぇのに。
礼拝堂の床を調べ始めたファズを置いて、この礼拝堂のメインである祭壇の方へ行こうとした時、ふと足元を見れば、目の前の扉に続く絨毯と女神像に向かって伸びる絨毯が僅かに波打っていた。おそらく一度絨毯を外して床を確認したからだろうが、元通りに戻されているということは、何も見つからなかったらしい。
部屋全体を改めて見渡してみると、壁には窓が一つもないが、天井には小さな窓がいくつも配置されていて、そこから昼の明るい光がほの暗い室内の中に差し込んでいる。捜索のために灯している魔力の光を消せば、薄暗い礼拝堂内に光が差し込む神秘的な情景になるだろう。
「この女神像、泣いてんのか?」
ふかふかの絨毯の上を歩いて奥にある白い女神像を真下から見上げると、東屋にあった女神像よりも大きいからか迫力がある。
両手で自分を抱き締め、目を閉じて俯いた女神の両頬には、ダイヤのような宝石が2個ずつ嵌め込まれている。宝石は涙のようにも見えるが、泣き顔を表しているのだろうか。
両脇から中央の女神像に縋るように両手を差し伸べる天使と悪魔の頭には、岩の破片らしき物体が乗っていて苦悶の表情を浮かべている。彩色されていないが、よく見れば頭から血を流しているような線が頬や首筋にある。
泣いているような女神、苦悶の表情を浮かべる天使と悪魔に対して祈りを捧げていたとしたら、トラントの王族は何を祈っていたのだろうか。
天使と悪魔の像から、燭台や蝋燭が無数に並べられた祭壇に視線を移すと、小さな石碑が置いてあった。そこには
『我が国に恵みをもたらす血に尊敬の祈りを。血と財産を守り繋いでいけば、必ずや世界を有るべき姿に戻せる』
と刻まれていたが、なんのことを言ってるか意味が分からない。血筋と宝物が大事ってことなのだろうか。
「はぁ。次行くか…」
女神像周辺や礼拝堂の椅子、壁や床などを確認したが、ここもおかしい場所はない。俺とは少し離れているファズも、像や天井、壁や床を見ながらゆっくりと礼拝堂の中を回っているが、異常は無いのか立ち止まることもなかった。
次はどこに行こうかと考え始めた時、俺が入ってきた扉とは反対側の扉が開いて、エメラルドグリーンのマントをつけた甲冑姿のサザベル兵が入ってきた。マントの留め具に銅の階級章をつけた上級兵士が8人入った後、その次に入ってきたのは副官を1人つれたユドだった。
ユドは俺から少し離れた場所にいたファズを見つけると、目を細めて殺気を込めて睨みつけた。すると、圧倒的な存在感と威圧感が礼拝堂を支配し、室内に居たウィニストラの兵士達は全員血の気の引いた顔色で数歩後退りしたが、ファズは無表情でユドを見ている。
シンと静まり返った静寂を破るように、逆立てた紺色の短髪に、ヘルベまではいかないがガタイの良いユドの副官が、ファズに向かって真っ直ぐ歩いてきた。
「今からここを我々が重点的に捜索したいので、そちらは全員外に出て頂きたい」
「分かりました」
ファズが無機質に返事をして、近くに居たウィニストラ兵に外に出るように指示を出すと、サザベルの副官は、ユドの視線とは違って射殺さんばかりの激しい憎悪を乗せた目で、ファズの背中に殺気を浴びせていた。
サザベルとウィニストラはここでは一戦交えることはないと言っていたが、ファズがいつ剣を抜いてもおかしくない状況に、周囲のウィニストラ兵は心配そうな顔でファズの様子を伺っていた。
「我々も外に出ましょう」
ウィニストラ兵が全員礼拝堂の外に出たのを見届けたファズは、そう言って俺達が入ってきた扉から外に出た。
「どちらに行きますか?」
「もう一度街を回って調べる」
地図を見ない捜索をしたからか、少しだけ頭の中が落ち着いた。
今まで城下を調べた時、古い地図と今の地図を見比べながら、鍾乳洞への入り口があると思われる場所の予想をつけて時間をかけて調べた。古い地図から時が経っているからか、随分と変わってしまった城下の中では場所の見当をつけるだけでも一苦労で、おそらくここだろうと思った家には何もなかった。地下に続く道は、建て替えられるうちに全部塞がれてしまったのだろうか。
「どの辺りに?」
「特に決めてない。少し街中を歩く」
ファズにそう言うと、曲がりくねった道を歩きながら過去を振り返った。
俺はトラント側の傭兵として働いたことはあるが、首都に来たのはこの前が最初で最後だ。その時、建物内に入ったのは数件の宿と王宮内くらいなのに、違和感を感じるということは建物内ではないはずだ。
あの時立ち寄った市場に向かって歩いていると、通りの向かい側に商人達が使う平屋建ての倉庫が集中する場所があった。
今歩いているこの石畳の道も、グニャグニャと曲がって石畳に大小様々なヒビ割れが走っているが、この周辺は規模は小さいが緩やかに地面が窪んでいる所がいくつもある。こういう場所は他にもあったが、ここは他よりも窪んでいる所が多いように感じる。
レオンを含めた3人でここに来た時、城壁から階段を下りて街中に入ったし、石畳を整備する工事をしていたり、一見平坦に見える道でも緩やかな坂になっていた。
長い時間をかけて街全体が沈んで行って、石畳がヒビ割れたり地面が陥没する度に兵士達が工事をしていたんだろう。落盤や地盤沈下する場所に首都を置き続けるのは危険なのに、それを承知で遷都しない理由は何だろうか。
周囲の街並みを眺めながら市場に入り、酒を買った無人のテントの前を通り過ぎ、あの時泊まった宿まで歩いたが、違和感の正体は掴めなかった。
「なぁ、あんたは以前ここに来たことあるか?」
「いいえ、トラントの首都に来たのは初めてです」
宿の前で立ち止まり、誰かの意見が聞きたくてファズに聞いてみたが、返ってきたのは残念な返事だった。こういう時、シェニカが近くにいれば確認出来るのに…。
溜息を吐いて改めて古い地図を見れば、さっき見た倉庫街の辺りに印がある。目印になりそうなのは王宮を囲む灰色で描かれた城壁と、そこから離れた場所にある緑の葉を茂らせた大きな木だ。印はその中間地点辺りだ。
「木がねぇな」
今の街の地図を見てもデカイ木なんて描かれていないし、倉庫街をしばらく歩き回ってみたが、あるのは白い花を咲かせた幹が細い木くらいだった。
木ではなく城壁から探してみようと城壁近くに行くと、そこにはサザベルの連中が居た。顔ぶれを確認するとヘルベと5人の副官達で、奴らはヘルベを先頭にして俺の方へと向かって来た。
「何か手がかりは見つかりましたか?」
ヘルベは俺に丁寧な口調で声をかけてきたが、図体がデカイからか、その口調が似合わなくて嫌味っぽく聞こえる。
「なんかあったらこんな所でウロウロしてねぇよ」
「今からこの一帯の探索をするのであれば、一緒に探しませんか。後ろの方は戦場では優秀かもしれませんが、こういう神経を使う捜索には適さない不器用な男かもしれませんしね」
ヘルベは俺の後ろに居るファズを蔑んだ目で見ると、後ろに控えた副官達と一緒に小さく嘲笑った。軍人が傭兵相手にこういう馬鹿にした態度を取るのはよく見る。でも軍の中でも上の将軍が、他国の軍人。それも自分より下の副官相手にこういう態度を取るのかと思うと、案外小さいやつだと思えて嘲笑えた。
「あんたらの手助けはいらねぇよ」
「そうでしょうか。地図を見る限り、この一帯は場所を特定出来るものがないので、手当たり次第に探す事になりそうです。ならば、一緒に探した方が効率が良いと思いますが」
「俺は1人でいいんだよ。お前らはトラント国王だけ探してればいいだろうが」
「もちろん国王の捜索はやっています。ですが、シェニカ様は国王と変わらぬ大事な方です。落盤事故に遭われた際、運悪くディスコーニ殿が亡くなっているかもしれませんし、その逆の場合も。または、2人とも最悪の結末になっているかもしれません。
どのような結果であれ、この目で状況を確認しませんとスッキリしませんのでね」
シェニカが死んでるなんて信じたくない。もしそうであったとしても、俺だってこの目で確認しない限り絶対信じない。
でもディスコーニが落盤で死んで、シェニカだけが生き残っていた場合。
あいつは寂しくて泣いてないだろうか。不安になって膝を抱えて、俺が助けに来るのを待っているんじゃないだろうか。
守るのが仕事の俺が、肝心なシェニカから離れて何が護衛だろうか。俺はここに来てからあいつを怖がらせ、不安にさせることしかしていない。それに俺が最後に見たあいつの顔が、暗い表情で俯いた横顔だなんて最悪だ。
落盤に巻き込まれるまで、今まで通りにいかない焦りと苛立ちばかりだったが、今込み上げてくるのは自分のやったことの後悔と罪悪感。早く会いたいという苛立ちと、この手で抱きしめたい愛おしさだ。
特に愛おしさと罪悪感はコップから溢れ出すほど流れているのに、それを向ける相手は手の届くところにいない。
「それに。2人とも生きている場合、落盤事故を利用してディスコーニ殿がシェニカ様を密かに監禁し、ウィニストラの迎えを待っているかもしれませんからね。そうなった場合、一刻も早くシェニカ様を助け出さねばなりません」
「助け出すのは俺の仕事だ」
「まぁ、そんなこと言わずに。手がかりの少ないこのような状況ですから、我々も協力しましょう」
ヘルベと副官達は城壁の前で立ち止まったままの俺から離れ、更地になったコロシアム跡に向かって歩いて行った。残った俺は倉庫街を調べてみたが、やっぱり手がかりは掴めなかった。
次の場所に行こうと移動している時、通りがかった学者の家の窓から、礼拝堂の捜索を終えたらしいユドが副官達と室内に居るのが見えた。本棚を調べている副官達の後ろで、壁に凭れかかったユドが本を見ている。何が書かれた本なのか分からないが、サザベルの連中とも関わりたくない。学者の家から視線を前に移して、古い地図を見ながらゆっくり前に歩いた。
視界の端に赤い城壁を捉えていると、何となくおかしいことに気付いた。
「そういえば赤い城壁なんて見たことねぇな」
自分のすぐそばの赤い城壁に触れてみると、その材質は街中で見た赤い建物と同じで、真新しい煉瓦だとこの時初めて気付いた。
「城壁を煉瓦で造るなんて珍しいですね」
俺の独り言に律儀に返事をしたファズは、赤い城壁の表面を指でなぞった。
王宮の城壁は、頑丈にする必要があるからどの国も石造りにするのが当たり前なのに、なんで軽い煉瓦にしてんだ?
前に来た時の城壁の色を思い出してみるが、なんの印象も残っていない。あの時、城壁が赤かったら印象に残っていると思うのだが、それがないということは灰色だったと思うのだが。
それに、色の違いに注目して昔の地図をもう一度眺めてみると、地図にあるのはほとんどが灰色の建物で赤い建物はごく僅かしか無い。でも今はその逆で、城下にある建物のほとんどが赤い煉瓦の建物で、灰色の建物なんて軍の建物くらいしかない。古い地図を見てみれば、今ある軍の建物があった場所には緑の広場があるだけで、何も建っていなかった。
そうだ。砂丘の上から首都を見た時は、街の中は赤と灰色が混ざっていた。今は赤い煉瓦の建物しかないが、前は石造りの建物はいくつもあった。これが違和感の正体だったのかとようやく納得できた。
「石造りだった民家を全部壊して、短期間で煉瓦の家に建て直したってことか?」
街並みを石造りの建物で統一するよりも、デザイン性の高い煉瓦造りで統一した方が御洒落で綺麗に見えるのは分かるが、防衛のために必要な城壁まで煉瓦にすることに意味があるのだろうか。
煉瓦のことを考えた時、外の貧民街の村長が赤い煉瓦を焼いていて、首都の家を赤い煉瓦に建て替えをしてると言っていたのを思い出した。
「なぁ、首都や地方都市って建て替える時にルールってあるのか?」
「ルールですか?」
「家の建て替えってそこに住んでる奴がするよな。その時、高さが決まっているとか煉瓦造りに限るとか。勝手に道を変えて庭を作っても良いとか…」
「地方都市や街や村は、そこを治める領主や町長、村長の所有。首都は国王の所有になります。どの場所も土地は細かく区切られていて、その土地や建物を民間人が王や領主といった者から購入して所有しています。所有する意思がなくなれば、誰か買ってくれる人を見つけるか、国王や領主に買い戻してもらうことになります。
おっしゃる通り、建て替えはその場所の所有者が行いますが、その時、王宮や屋敷以上の高さのある建物を作ってはいけないとか、街並みを統一するために煉瓦や木造の建物にするなど、その場所の独自のルールに則って行います。
どの国も王宮や屋敷は威厳が出るように、街並みは整然として美しい景観になるように計算されて造られています。なので、それを維持する上で重要である道や水路などは、国王や領主らが所有管理していて、民間人が決められた区画を変更したり、道や水路を潰したり作ったりすることは許されていないはずです」
「だよなぁ」
規模の小さい町や村もそうだが、特に首都や領主の治める地方都市はその国や地方の顔だから、街並みは計算されたように綺麗だ。それはあちこちを旅しているから、何となく肌で感じていた。でも、ファズが言ったとおりなら、計算された街並みが変わることなんてそうあることではないから、古い地図と今の地図を見比べても、見当をつけるのに苦労しないはずなのだ。
古い地図を見る限り、昔は街並みも計算されて造られていたようだが、今は統一感のないゴチャゴチャした街並みになってしまっている。この国でも民間人が道を変えることを許されていないだろうから、こうなったのは国王が区画を変更することを許したってことだ。
そんなことをしたのは、おそらく地盤沈下の影響で街並みを維持するのが難しくなったこと、対外的な評価を落としてまでここを離れたくなかったからだろう。
どうしてこの場所に拘るのかは分からない。でも、もしかしたら。
区画を変更したのは、城下の街並みに限らないのではないだろうか。
学者が鍾乳洞を出た時に見たのは、灰色の城壁。石造りの普通の城壁であって、今、俺の目の前にある煉瓦の赤い城壁ではない。
普通に考えれば、計算された街並みを崩さないために、建て替えるなら当然同じ場所に新しく作り直す。それが当たり前だと思っていたから、2つの地図を見比べ、色は違っても形が共通していた城壁を基準に見当をつけてきた。でも、本当にこの位置に元の城壁があったのだろうか。
「もしかして間違ってたのか?」
そんな直感めいた考えが思い浮かんだ瞬間、昔の地図と今の地図を注意深く見比べてみた。
学者の家と城壁との間にある大通りは、昔の地図だと結構広い道幅で書いてあるが、実際は家半分くらいの幅だ。この古い地図は、きちんと測って地図を作った訳ではないだろうから、道幅なんて大小の目安にしかならないと思っていた。この城壁の位置が違うのなら、もう一度探し直さないといけない。
この大通りは、石畳にヒビ割れた箇所はあっても完全に割れた所はないし、剥がれて地面が見える部分もない。剥がすのが面倒な石畳よりも、城壁の向こう側の芝生の方を調べた方が早いだろう。
そう思った俺は、城門の中に入って、建て替えをする前の壁の痕跡がないかを探し始めた。
「どうかしたんですか?」
緑の芝生が植えられている地面を凝視し、建て替え前の土台部分が残っていないか慎重に調べていると、俺の後ろにいたファズが声をかけてきた。
「ちょっと確認したいことがあるだけだ」
不思議そうにしているファズを尻目に、俺が城壁に沿って芝生をゆっくりゆっくり歩いた。城壁を建て替えたのは最近らしく、壁に近い芝生は元気なようだが、根の張り具合が甘くて、強く引っ張ると比較的簡単に抜ける部分もあった。
「これか?」
時間をかけて注意深く調べていると、不規則に配置された大きな飛び石の近くに、一つだけ形が長方形に近い灰色の石があった。
芝生に膝をついてよく見ると、その石の端の方には不自然に綺麗な丸い弧の穴が空いているから、ここに鉄棒を入れて城壁の土台にしていたのだろう。周囲を確認したが、こんな痕跡を持つ飛び石は他にないから、それが以前の城壁の位置だったかは確定出来ない。でも、この石が城壁の土台と考えると、今の城壁は一般的な民家の半分ほど道にせり出したってことになる。
ということは、昔の地図にある印の場所は、今まで見当をつけた場所じゃない。猫屋敷を例にするなら、一軒後ろの家くらいだろうか。そうならば、もう一度探し直さなければ。
「どうかしたんですか?」
俺が立ち上がると、後ろに立っていたファズが眉を寄せてもう一度問いかけてきた。
学者の本と地図を見つけた後、ウィニストラ、キルレ、サザベルの連中は、古い地図にある印を今の街の地図と慎重に見比べながら、おおよその見当をつけて書き写していたと思う。何を基準に見当をつけたのかは分からないが、おそらく俺と同じ城壁を基準にしただろう。
「もし見当をつけるときに城壁を基準にしたのなら、それが間違っていた」とファズに教えれば、自動的にバルジアラにも情報が伝わるだろう。探すのには人手がいるから、情報を教えてやるのは自分のためにも良いとは分かっている。でも、確証がない今の段階ではまだ教えるべきではない。
「いや何も。もう一度城下を調べなおす」
ここから一番近い猫屋敷に向かうと、その後ろの家は屋根に立派な煙突がある煉瓦造りで、周囲の家よりも少し大きめの平屋が建っていた。
玄関の扉を開くと、2人が並んで歩ける廊下が真っ直ぐ伸びていて、廊下の壁には窓ではなく扉しかない。夜なら真っ暗だろうが、昼過ぎの今は、奥まで途切れること無く続く天窓から光が落ちてきて随分明るい。
早速一番手前にあった扉を開くと、キッチンと小さな食器棚、一人がけのダイニングテーブルが置かれた広めのリビングだった。眩しいほどの陽の光が差し込む大きな窓の側に、ロッキングチェアが取り残されたように寂しそうに置かれているのが目についた。ここには老人が1人で住んでいるのだろう。
怪しい場所が無いことを確認し、廊下に戻って次の部屋の扉を開くと、そこは大人が2人並んで入るのがやっとという狭さの脱衣所兼洗面所になっていて、小さめの風呂場とトイレに繋がるドアがあった。
地下に続くような所はないかと部屋の隅々まで調べたが、リビングに比べると狭いと思うくらいで、ここも怪しい場所はなかった。
廊下に戻ってまた次の扉を開くと、ツノが立派な鹿の剥製が飾られた広々とした応接間になっていて、大きな暖炉とどこかに続く扉がある。部屋の中を進んでその扉を開くと、シングルベッドと文机、経済学や数学、統計学といった本が入った本棚がある狭い寝室だった。
寝室にも何もなさそうだと判断して応接間に戻ると、豪華なソファーセットや壁にある立派な剥製を見たが、特におかしな所はない。
壁に飾られた剥製を調べているファズを横目で捉え、俺は煉瓦造りの大きな暖炉の前で立ち止まった。赤い煉瓦の枠に彫られた鳥のレリーフを調べ、燃やされた物を調べようとしゃがんだ時、顔にどことなく吹き下ろしてくる風を感じた。
すぐ近くにある窓を見ると、外は風が強いのかクリーム色の砂埃が舞い上がっている。暖炉の上には外と繋がる煙突があるから、そこから風が下りてきているのだろう。
暖炉の炉床になっている灰色の石の上は、随分手入れをしていなかったのか燃えた薪や煤で結構汚れている。この暖炉は大人が2人寝そべられるくらい十分な奥行きと幅があるから、調べるには中に入り込まないといけないし時間がかかりそうだ。
「はぁ…。腰が痛ぇ」
しばらく真上から吹き下ろしてくる風を感じながら調べていたが、中腰の体勢がきつくなって、暖炉の外に出ずにそのまま立ち上がって身体を伸ばした。伸ばした腕の先を見るように上を向けば、まっすぐに伸びた煙突の先に青い空が見えた。
「なんか空気が違う?」
腕を下ろして溜息を吐いた時、上から吹き下ろす風が数秒止んだのだが、顔に僅かな空気の違いを感じた。
吹き下ろす風に乗っている煤や砂煙のような空気ではなく、何かが違うような空気だったが、またすぐに吹き下ろす風が始まってしまったから分からなくなってしまった。どこからの空気だったのか確認しようと見渡してみたが、自分の目線の高さにあるものは煤で黒くなった煉瓦しかない。手で触れると煤で黒く汚れるが、僅かな違和感の出処を探そうと煉瓦を押したり、触ってみた。
そして壁側の煉瓦の一部分を押した時、他の部分とは違って奥に押し込めるような手応えを感じた。そこをグッと力を込めて押し込むと、足元の炉床がズズズズズと擦れる音を立てながらゆっくりと開き始めた。
自分の足元が無くなる前に腰をかがめて暖炉から出ると、ファズが驚いた顔をして開き続ける炉床の下を見ていた。
「隠し通路ですか。よく分かりましたね」
「どーも」
隠し通路の蓋になっていた炉床にも空気の流れが違ったはずだが、煙突から吹き下ろす風のせいで、調べていてもここに出入り口があるとは気付かなかった。
暖炉の中に立ったとしても、スイッチになっている煉瓦の隙間から流れ出る僅かな空気を感じられるような状態になければ分からない。吹き下ろす風が止まったこと、俺の目線の高さにスイッチがあり、服で覆われていない顔で僅かな空気の違いに気付けたことは幸運だったと思う。
魔力の光を作って穴の中を照らすと、炉床の上にあった燃えた薪や煤が階段状になっている乳白色の石の上に落ちていて、その階段は下にずっと続いているようだ。
腰をかがめ、ひんやりとした空気が漏れ出る穴に入ろうとすると、
「中に入るのはちょっと待って下さい」
俺の肩をファズが後ろから掴んできた。
「あ?」
「もし、この先にトラント軍が居た場合。将軍や副官らが居る可能性が高いので、こちらも人数を揃えなければ危険です。私が人を呼んできますので、それまでここで、この通路に入らず待っていて下さい」
「待ってられるかよ」
肩に掴むファズの手を振り払って階段を下に進むと、古い蜘蛛の巣が道を隔てるカーテンのように上から下まで覆っていた。それを手で掻き分けて先に進むが、乳白色しかない壁がどこまでも続いている。ファズは仲間を呼ばずに俺の後を付いてくることにしたらしく、無言で俺の真後ろを歩いている。
「仲間を呼びに行くなら行けよ」
「貴方を1人にしておくのは危険です。貴方に万が一のことがあった場合、我々はシェニカ様に顔向けできません。そのかわり、私が先を歩きます」
ファズはそう言うと、窮屈そうにしながら俺の横を通って先頭に立った。
入り口近くには古い蜘蛛の巣があったが、奥に進むとそれもなくなり、動物の気配も人間の気配も僅かな物音すら感じない。
しばらく下り道を歩いていると、水音は聞こえないが壁や地面は濡れているらしく、光をぬらぬらと反射するようになった。長い間、水の侵食を受けているのか、壁の表面が丸みを帯びて滑らかになっているし、地面の窪みには僅かに水が溜まっている。
そんな道をずっと歩いていると、自分の右手側の壁が無くなって崖になった。下を覗き込めば、かなり下の方に乳白色の水が溜まった池が見えている。
その崖の先を進んだ時、人が横向きになってやっと通れるような狭い場所に差し掛かった。
この場所は人の出入りが随分無かったのか、ここに来るまで時間が止まったように空気が淀んでいた。でも、この周辺だけは、目に見えないが塵が舞い上がったような空気を肌で微かに感じる。加えて他の場所にはなかった乳白色の瓦礫が地面に散乱しているということは、つい最近、壁が崩れてこの狭い通路が出来たのだろう。
「ここは行き止まりだったみたいだな」
「そのようですね。この狭い通路の部分だけ、岩肌が尖ったり、凸凹していますから最近崩れて先に進めるようになったようですね。この感じだと落盤事故の時の揺れが原因でしょう」
俺の一歩前にいるファズがその狭い道を通り抜けようと壁に手をついた時、表面が少し突き出た部分がボロっと剥がれ落ちた。
「見た目以上に脆いですから、壁には極力触れないほうが良さそうです」
甲冑を着ているファズは元々の体格の良さもあるが、俺より横の厚みがある。ファズにはこの狭い道はかなり窮屈そうだが、なんとか身体をひねったりしながら時間をかけて通り抜けた。
ファズよりも体格のいいバルジアラでは、甲冑を着ていなくても通り抜けることは無理だろう。
それから緩やかな坂道を下っていると、俺の前にいるファズの足元から「ピシッ」とか「パキパキ」というヒビ割れる音が聞こえ始めた。後ろにいる俺はその部分を避けて歩くのだが、俺が足を置いた場所も体重をかけるとヒビ割れる音がする。いつ地面が割れてもおかしくない状況に、一歩一歩歩くだけでも神経を使う。
「この辺は地面も脆いな。歩くだけでヒビが入る」
「そうですね。大人数で入るのは危険なようです」
脆い地面に気を付けながら、今度は急斜面の下り道を歩いていると、更に下に続く道と、上に続く道の二手に分かれた分岐点に出た。
「これは…」
その分岐点で立ち止まったファズが、下る道を少し進んだ場所で急にしゃがんだ。何かあったのかとファズを見ると、足元にある地面をジッと見ている。
ファズの視線の先にあるのは、下り坂の途中にあるクリーム色の泥が絨毯のように続く地面で、よく見ればその表面には大きさの異なる足跡がある。この辺には砂地なんて無いから、外から持ってきた砂で穴を埋めた時に、そこに溜まった水と混じって泥になったのだろう。
「つい最近、人の出入りがあったようですね。人数からすると4人程のようですからトラントの者でしょう。戻って仲間を呼びましょう」
「そうだな」
本当なら。トラント軍が待ち構えていても、俺は一刻も早くシェニカを助け出したい。でも、ここでトラント軍と鉢合わせした場合、少数でここで戦うのはこちらに不利だ。シェニカを速やかに助け出すには、人数を揃えて出直すべきだろう。そう思って、ファズの提案に素直に頷いておいた。
「女神と悪魔の彫刻ですか…」
「なんでこんな所にあるんだか」
上に続く静かな道を歩いていると、途中から女神の周りを悪魔が飛び回る彫刻が施された壁が左右一面に広がった。
あちこちに女神と悪魔が刻まれているが、ここも水の侵食を受けているからか、細かく彫られた顔の部分は消えてしまっている。でも、女神の周囲で悪魔が踊っていたり、空を飛ぶ悪魔の後ろを鳥に乗った女神が追いかけているものもあるから、表情は分からなくても楽しそうにしているように感じる。
壁の彫刻を見ながら緩やかな登り坂を歩いていると、上に続く灰色の階段が見えてきた辺りで彫刻は終わってしまった。
「ご丁寧に石で階段を作ってるってことは、トラントの連中はここをよく利用してるみたいだな」
「そのようですね。どこに繋がっているのか見当もつきません」
何もしなければ急勾配の坂道だが、わざわざ階段を作って歩きやすくしているのは、王族が利用するからだろうか。
「なんだこれ。扉?」
階段の途中で水の侵食を受けていない乾いた壁になったな、と思いながら一向に先の見えない階段をひたすら上っていると、緩い登り坂になっている階段の踊り場の先に、黒い石の扉が立ち塞がった。
その扉には頑丈な取っ手が付いていて、ファズがそれを掴んで全身を使って横に引くと、ズズズズと重々しい音を立てて開いた。だがそのすぐ先にあったのは、階段でも道でもなく、また同じような黒い石の扉だった。
今開けた扉と違うのは、取っ手が左側に付いていたのに対して次の扉は取っ手が右についている。その扉を開けると、今度は左に取っ手のついた扉があった。
交互に取っ手がある扉を開く作業を数回繰り返していると、扉の先に内容までは聞き取れないが人の声が聞こえた。
「扉の先に扉ってことは、空気の流れを消しているのか」
「そのようです。これが最後の扉のようですね」
最後の扉には取っ手がない代わりに、扉の右横に天井から持ち手のついた鎖が垂れ下がっている。ファズはその鎖をグッと引くと、扉がゴゴゴゴと重苦しい音を立てながらゆっくりと地面に飲み込まれるように下にさがり始めた。
「お前ら、どっから入った?」
そして完全に扉が開ききると、扉の向こうに居たのは怪訝な顔をしたバルジアラやウィニストラの副官達だった。
「城下の家にあった隠し通路から入った。ここはどこだよ」
目の前を塞ぐバルジアラを押し退けて広い空間に出ると、やたらとデカイ女神像や天使や悪魔の像が置かれた広い半円型の部屋に出た。周囲を見渡すと、ここにはウィニストラの下級、中級兵士と、副官達しかいない。
隠し通路は、悪魔の像の近くにある、デカイ木枠の縁取りに色とりどりの宝石が嵌め込まれた中にあった。額縁のような枠があるということは、壁画や絵画でも嵌っていたのだろうか。
「ここは王宮の謁見の間だ。城下のどこの家にあった?」
「バルジアラ様、この家の暖炉から鍾乳洞内に通じる隠し通路を発見し、ここまで辿り着きました。その道の途中で下に続く道と、ここに続く道がありましたが、下に向かう複数の足跡がありました」
ファズが街の地図に印をつけると、バルジアラに渡した。それを見た銀髪の男は、それを広げてファズを除く4人の副官達を集めた。
「よくやった。エニアスは俺と一緒にここから先に進め。ニドニアーゼルはこの出入り口を、ストラはこの家に行って出入り口を確保しろ。
アスギークはエメルバにここに来て、俺が戻るまで待機しろと伝えておけ。この謁見の間もその家も、サザベルの奴を近づけるな。
それと、ここには居ない俺とエメルバの副官達、『白い渡り鳥』様の監視をしていないディスコーニの副官も、俺達の後を追ってこいと命令しておけ」
「バルジアラ様、鍾乳洞内は随分と脆くなっていました。大人数で入り込めば地面が抜ける可能性もありますので、4、5人で行くのが良いかと思います」
「ならエニアスとアスギークが中に入ってこい。ストラは民家に行って出入り口を確保、エメルバとその他の副官達はここで待機しろと伝えろ。ファズ、案内しろ」
バルジアラの命令を受けた副官連中は、一斉に頷いて動き始めた。
ファズが最初に鍾乳洞に入り、俺がその後を続こうとすると、バルジアラが俺の肩を掴み、親指を立てて後ろに行けと合図した。
「お前は一番後ろにいろ」
「はぁ?」
「今回の戦争では、お前はあくまで中立の立場だ。この先にいるのはシェニカ様ではなく、トラントの連中の可能性が高い。シェニカ様だけでなく、その護衛であるお前も俺達の護衛対象であることを忘れるな。分かったら一番後ろにいろ」
確かに中立の立場の俺は、こいつらにとってシェニカと同様に護衛対象だろう。ファズが言っていたように、俺に万が一のことがあればシェニカに対して面目は立たない。それだけでなく、「大国のくせに中立の立場の者を守りきれないのか」と世界中から笑われるのだろう。
既に中に入ったバルジアラに文句を言ってもどうにもならないと、出かかった文句を飲み込んで最後に鍾乳洞に入った。
「鏡の裏に隠し通路があったとはな。調べても異変は感じなかったし、どこに開くための仕掛けがあるのかも分からなかった」
鍾乳洞の階段を下りながら、バルジアラはそう言って短く舌打ちをした。その舌打ちの音は、静かすぎるこの場所では響いてやけに大きく聞こえる。
「出口の直前にはいくつも扉がありましたので、空気を消していたと思われます」
「お前達があそこまで辿り着けたのは幸運だったが、どうやって隠し通路を見つけた?」
「見つけたのは私ではなく…」
「俺が見つけたんだよ」
「へぇ。城下には無数の家があるのに、よく的を絞れたな。ただの傭兵や護衛にしておくのは惜しい観察眼だ」
「そりゃどーも」
バルジアラと会話するのも嫌だが、今は好き嫌いを言ってる場合でもない。今は仕方なく協力してやっているが、時が来たら必ずこの男を俺の前に跪かせたい。
小声もしくは無言で来た道を進んでいると、彫刻が施された場所まで戻ってきた。
弱めに調整した魔力の光で照らす女神と悪魔の彫刻を、バルジアラや副官達は足を止めて見上げた。
「悪魔と女神の彫刻か」
「天使と青年はいないようですね」
バルジアラとその腹心が何かを確認するように、彫刻を一つ一つ眺めている。この彫刻に何か意味があるのだろうか。
彫刻を眺めながら一歩一歩足元に気を付けながら奥へと進むと、民家に行く道と下に続く道の分岐点に差し掛かった。そこで立ち止まったファズは振り返って、民家に繋がる道を指さした。
「この分岐点のあちらが城下の家に繋がっていました。この道は元々繋がっていた訳ではなく、最近壁が崩れて繋がったようでした。おそらく落盤事故の時の揺れだと思います」
「ということは、トラントの連中もここに繋がる別の道があるってことは知らない可能性があるな」
「バルジアラ様、この部分に足跡があります」
ファズがそう言って先頭をバルジアラに譲ると、銀髪の男は魔力の光を足元に移動させて丹念に調べ、下り坂の奥へとゆっくり進み始めた。
「足跡はこの奥に続いているな。少人数で行っているってことは、国王とアステラ、その他数名がここを通ったんだろ。他の奴らもここに隠れていると思うが、足跡が足りない。ということは他に出入り口があるみたいだな」
先に進めば進むほど、下り坂はどんどん急斜面になってきたが、ここも歩きやすいように石で階段が作られ、壁には手すり代わりの鎖が打ち込まれていた。
バルジアラが先頭のまま前に進んでいるが、どんなに進んでも人の気配も動物の気配も何も感じない。俺を除けばここには筆頭将軍と副官しかいないから、誰もが足音も呼吸音も立てていないし、気配を消して歩いている。
最後尾にいる俺の位置からは、副官3人と先頭のバルジアラの背中が見える。甲冑姿の4人の後ろ姿を眺めていると、頭の中に思い出したくない手紙の内容が浮かんだ。
ーーお前がどんなに吠え噛み付こうとも、所詮お前は我々の足元にも及ばぬ傭兵に過ぎん。だからお前の力不足を我々が鍛え、足りぬものは補ってやると言っているんだ。大人しく自分の弱さを認め、シェニカ様を連れて帰ってこい。
あいつらが俺を嘲笑いながらそう言っている姿が目に浮かび、それがあの平原で俺を勝ち誇った顔で見下ろすバルジアラと被る。怒りが爆発しそうなほどに膨らむが、今はシェニカのために抑えようと拳を強く握り込んで耐えた。
「なんだこれは」
先頭を歩いていたバルジアラが、細い道の先に見えた開けた場所に足を踏み入れたと思ったら、そう呟く声がした。何があったのかと気になって歩くスピードを上げた3人の副官達に続いて俺もそこに入ると、目の前に広がる光景に絶句した。
「これでは先に進めませんね」
目の前にあるのは家が2軒分はある大きな穴で、覗き込んでも底の見えない真っ暗な空間がぽっかりと空いている。
その大穴の先には歩いてきたような道が続いているから、最近までここに地面のある空間があったのだろう。歩いただけでヒビ割れるような場所が続いていたから、あの大きな落盤事故の揺れで大規模に崩落したのかもしれない。
奈落の底のような真っ暗闇の穴は、ようやく痕跡を見つけた俺達を嘲笑っているかのようにも見えた。
「トラント国王がここを通った後に落盤があったようだな。橋を渡そうにも、この距離だと向こう側に人が居ねぇと無理だな」
「そうですね」
誰もが諦めざるを得ない状況にため息を吐き、またバルジアラが先頭で来た道を引き返して謁見の間に戻ると、ウィニストラの将軍3人の副官達が待ち受けていた。
「その御様子だと、トラントの者達は見つかりませんでしたか」
天使の像の前にいるエメルバが残念そうな顔でそう言うと、バルジアラは広い謁見の間に響くような大きなため息を吐いた。
「ここを通ったのは間違いないが、途中で大穴が空いていて先に進めない。奴らを探し出すには他の出入り口を見つけるしかないな。俺はとりあえず会議室に戻るが、副官以上ならばそこに入っても良い。ただし、入る人数は5人以内にして足元には十分気をつけろよ」
「情報の確認をするためにも、私も会議室に行きましょう」
バルジアラとエメルバが腹心を連れて謁見の間の扉に向かって歩き出すと、その場に残った副官達は鍾乳洞に続く道に入ったり、どこかに行ったりと自由に行動を始めた。
シェニカを助け出せる道が見つかったかもしれないと期待に胸を膨らませただけに、先に進めなかったという落胆は身体に疲労感を与える。
落盤事故以降、まともに寝ていないからどっと疲れを感じて休息が欲しくなった。
「捜索を続けますか?」
俺も謁見の間の扉に向かって歩き出すと、その場に残ったバルジアラの副官と喋っていたファズが俺に駆け寄って声をかけてきた。
「今日はとりあえず寝る」
「分かりました」
王宮を出て正門に向かっていると、正門から軍の施設にかけてあったはずの煉瓦の城壁が綺麗サッパリなくなっていた。
今まで城壁に阻まれて見えなかった学者の家や大通り、民間人が住んでいる家が丸見えの状態になっていて、王宮の中庭から城壁まで伸びていた芝が線を引いたようにぷっつりと途切れているのが、星が見える薄闇の状態でもはっきりと見える。
戦闘があって城壁が破壊されたのかと思ったが、瓦礫はないし焦げ臭い匂いもない。何が起きたのだろうか。
「なんで城壁が片側だけなくなってるんだ?」
「落盤事故の影響で城壁が脆くなっていたらしく、自然崩壊したそうです」
「自然崩壊?俺が触った時には崩壊寸前って感じもしなかったが」
「えっと…。当たりどころが悪かったのか、僅かな衝撃で崩壊したらしいです」
後ろを振り向いてファズを見ると、こいつは明かりが灯る学者の家の前で副官と喋っているヘルベを見て、言いにくそうにしている。この反応から考えると、城壁に衝撃を与えたのはヘルベなんだろう。
「ヘルベがやったのか。あいつは見た目通りジッとするのが苦手そうだから、膠着状態に苛立って八つ当たりしたんだろ」
「あ~…。えっと…。とりあえず事故です」
軍の施設に戻るとファズからパンの入った籠を貰い、部屋に入ると風呂場に直行した。シャワーは使うなと言われているから、浴槽に溜められている冷たい水を身体にかけて汗を流した。風呂を終えると、ベッドに腰掛けて味気ないパンを齧る。
シェニカと一緒に食べない食事はなんて味気ないんだろう。事故の前、俺は避けられていて会話も目も合わせることも、触れることも出来なかったが、それでもこんなに寂しい時間じゃなかった。
あいつが一緒に居ないと、自分の身体から何か大事な部分が抜け落ちたようで、落ち着かないし違和感がある。なにより寂しくて、恋しくて堪らない。
会えない時間が経過すればする分だけ、自分の奥底にあるあいつへの想いが沸騰してきて、言葉に出来ない愛おしさが胸を焼き尽くしていく。
パンを胃の中に入れる作業を終えると、魔力の光を消して久しぶりにベッドに横になった。
現実で会えないならせめて夢の中で会いたいと思い、目を閉じてシェニカのことを考えていたが、あいつへの罪悪感がどんどん増してきてなかなか寝付けない。そんな状態が続いていると、瞼の向こう側で明るい何かを感じて目を開けた。
その明るさの正体は、東の空から昇り始めた少し欠けた月だった。野宿で見るよりもやたらと大きく見えるこの月は、もうすぐ満月になるだろう。
明るい月なのにどこか寂しそうで、シェニカが俺に背を向けて小さくなって泣いている姿に見えた。
寂しがっているだろうシェニカを映した月に向かって、手を伸ばした。
必ず俺が助け出すから、どうか無事でいてくれ。悪かった、もうしないって謝るから、この戦争が終わったら今までみたいに2人の旅に戻ろう。
どういう言葉で言い表したら良いか分からないけど、お前が居なくなって、好きだという言葉で表現出来ないくらい恋しく思う気持ちがあるんだと、初めて実感した。
ちゃんと言葉に出来ないかもしれないけど、その代わり今度はちゃんと気持ちが伝わるように優しくするから。だから今は寂しいかもしれないけど、もう少し待っててくれ。
伸ばした手をゆっくりと下ろしてもう一度目を閉じ、戦場跡で初めて出会った時から、今に至るまでのことを思い出した。
月が空高い場所に来るまで。長い時間をかけて過去を振り返り、アビテードに入った時を思い出した時、
ーーねぇ、兄ちゃん。兄ちゃんが1番怖いことって何?
俺のような傭兵に憧れているセジル達が、俺に問いかけた質問を思い出した。
あの時、俺は『プライドが壊れることが怖い』と答えたと思う。それは間違っていないのだが、あの時は気付いていなかったけど、それ以上に大事なものがあったのだと今になってやっと分かった。
俺にとって一番怖いことは、シェニカを失うことだ。
自分の身体の一部のように側に居るのが当たり前だから、シェニカのいない人生なんて考えられない。これから先もずっと一緒に居たい。
だから、そのためなら何だってやる。俺を怖いというなら距離を空けていてもいいし、シェニカが望むなら土下座して謝っても良い。今まで大事にしてきたプライドより、お前の方が大事なんだ。
だから、どうか。無事な姿をこの目で確認させてくれ。
シェニカへの胸を焦がす気持ちが喉をせり上がってくるのに、表現できる言葉が見つからない。何と言って表現すればいいのだろう。
自分では処理出来ない気持ちを持て余しながら瞼の向こう側で月を感じていると、俺はいつの間にか深く眠っていた。
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