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第18章 隆盛の大国
7.分岐点での別れ
しおりを挟むふっと意識が覚醒すると、私はどこかで見たような大きな乳白色の女神像の下にある祭壇の手前で両膝をつき、胸の前で両手を組んで祈るような格好をしていた。
赤い絨毯に右手をついて立ち上がり、横長の祭壇に近付いてみると。綺麗に咲いた姿なのに色が灰色になっている薔薇やカーネーション、かすみ草がたくさん入った花瓶が2つ、何かの骨が山のように盛られた大皿が2つあり、無数の燭台が広い祭壇を埋め尽くしている。その燭台には太く長い蝋燭が立っているのに、1つも火が灯っていない。周囲に魔力の光もなければ窓もないのに、何故か部屋は昼間のように明るかった。
見上げる女神像には見覚えはあるのに、どこで見たのか思い出せない。女神が纏う羽衣に違和感を感じ、首を傾げながら後ろを振り返ってみれば、乳白色の壁に囲まれた部屋の真ん中に口を開けたような穴が1つ空いている。自分が立つ赤い絨毯がそこに向かって真っ直ぐに敷かれていて、自分の数歩先から穴の入り口の手前まで赤い絨毯の両脇には長椅子がいくつも置いてある。この様子だとここは礼拝堂のようだ。
「ねぇ!」
「ねぇねぇ!」
なんとなく真っ暗な洞穴に向かって数歩踏み出すと、人の気配はなかったのに、突然両側の長椅子の影から黒髪に色白の男の子が1人ずつ出てきて、飛びつくように私の両手を掴んだ。
純白の服を着た2人は双子のように顔も外見もそっくりで、見た感じ10歳くらいに見える。でも、その力は成人男性のように強いのか、両側から引っ張られると身体が半分に引き裂かれてしまいそうな気がした。
「い、痛いから放してくれる?」
「手を放しても、どこにも行かない?」
「絶対行かない?」
念を押すように私を見上げる2人に痛みを堪えながら頷くと、引っ張るのを止めて「じゃあ、こっちに来て」と、2人で私の両手を引きながら女神像に一番近い長椅子に座らせられた。
この子達は何がしたいのだろうと不思議に思っていると、私の両脇に座る少年の1人が1冊の古ぼけた薄い赤い本を私に手渡した。
「ねぇ!この本って何が書いてあるの?」
「読んで読んで!」
「ちょっと待ってね」
早く教えて!と急かす2人の視線を感じながら本を開いてみると、頭の奥に刻まれた蠍と蜘蛛の外殻が溶け落ちるリアルな絵があった。それを見た瞬間、他のページを捲らなくても、この本に書いてあるのが『聖なる一滴』の作り方だと直感して、パタンと本を閉じて膝の上に置いた。
「どうしたの?」
「何が書いてあるの?」
「あ……。えっと、これはね。危険な物の作り方が書いてあるんだよ」
両側から見上げてくる視線から逃げたくなって立ち上がろうとしたのに、両脇に居る少年達に腕をすごい力で引っ張られ、椅子から立ち上がれなかった。
「危険なもの?」
「素晴らしいものじゃないの?」
少年の言葉に違和感を覚えながらも、なぜか聞き返そうとする言葉は口から出てこない。私が返事をしないことよりも、この場を離れることを気にしているらしく、少年達は掴んだままの私の腕にギュウっと力を込め始めた。
「この本、誰が書いたの?」
「お姉さんが書いたの?」
「ううん、本を書いたのは私じゃないんだ。多分昔の人じゃないのかな」
「危険なものなら、誰が作ったの?」
「いつ使うの?」
「誰が作ったのかは知らないけど、これは身を護るために使うんだよ」
ーーそういえば。『聖なる一滴』って、誰がどういうきっかけで作ったのだろう?
少年の問いに答えられなかったからなのか、この問いかけは私の脳裏にすっきりしない異物のような存在として刻まれた気がした。
「ねぇ!身を守るって、護身用ってことだよね?」
「そうだよ」
今まで息をつかせないほどのテンポで声をかけてきたのに、2人は次の質問を投げかけることなく、静かなまま私を真顔でジッと見つめている。その目には何か執念が宿っているような鬼気迫るものを感じて、不快な気持ちになった。
「他の人が作るとグッタリするだけなのに」
「どうしてお姉さんが作ると身体の中が溶けちゃうの?」
「え?」
少年達の思わぬ言葉に弾かれるように立ち上がると、さっきまで私の腕を強く掴んでいた白い手はスルリと外れ、呆気なく立ち上がることが出来た。少しホッとした気持ちになったものの、手が外れる瞬間に嫌な柔らかさを感じたと思って振り返ってみれば、2人の少年の手や身体、顔がソフトクリームが溶けるみたいにドロドロとゆっくり崩れ始めていた。
白い肌と純白の服が溶け合わさって、椅子の上や床にネバネバした塊を作る中、溶けた髪がその白い塊に落ちると、その黒色があっという間に塊を真っ黒に染め上げた。それはまるで、私の『聖なる一滴』を受けて、肌が一気に黒く変色する様子に似ていて、祭壇に足をぶつけるまで後ずさった。
椅子と床に全て溶け落ちてドロドロの黒い塊になったものは、縦に横にと触手を伸ばすように形を変えながら大きくなっていく。粘っこい塊から何か嫌な物が生まれそうな予感がして、逃げたいのに蠢くソレに目が釘付けになって動けない。
やがて黒い塊から2本の枝が出てくると、私に向かって長さと太さを増しながら伸びてきた。それぞれの先端には目、鼻、口に見える穴が空いていて、人の顔に見えてきた。
「どうしてその能力を有効利用しない……」
「お前が協力すれば、思い通りに行ったのに……」
2つの顔はドロドロと絶えず床に向かって崩れ落ちていくから誰かは分からないのに、その口から発された言葉から、この顔はベラルス神官長とアステラ将軍だと確信した。
床に蠢く黒いドロドロの塊とそこから伸びる顔は、ゆっくりと私に向かってくる上に、恨み言を言い続ける2つの顔のすぐ横からそれぞれ1本の枝が生えた。それはドクンドクンと脈打ちながら大きくなり、手の形になって私に向かって伸びてきた。
「黙っていれば良かったものを……」
「『聖なる一滴』を寄越せ……」
向かってくる黒い腕から逃げようと、強張った身体に力を入れて身体を捩った途端、全身に痛みが走った。
「痛った……」
反射的に瞑っていた目を開けると、私は絨毯の上に横になっていて、身体にズキズキと鈍い痛みを感じる。
ここはどこなのか、あの2人はどこにいるのか、と胸の早鐘を感じながら身体を起こして周囲を見渡すと、ここは上品な宿の部屋で、私しかいない状況だと分かって小さく息を吐き出した。
「ゆ、夢?夢かぁ。やけにリアルだったけど、夢で良かった」
ベッドの上にあるはずの布団が自分と一緒に床に落ちている様子から考えると、ベッドから落ちてしまったようだ。
「あれ?コッチェルくんは全部枕元に並べて、みんな仲良く一緒に寝たのに。何でベッドの下に落ちてるのな。あ、もしかして私と一緒に落ちちゃったかな?えっと人数確認しないと。
私のコッチェルくんが1人、副官の人と神官長に渡すコッチェルくんが12人、真コッチェル君が1人。よし全員いる!みんなごめんね。ちゃんと治療魔法かけておくね」
落ちた布団をベッドに戻し、14体の人形に1体ずつ謝り、治療魔法をかけてキスをすると彼らをソファの上に横一列に並べた。
「傷もないし、みんな無事で良かった。さて、顔を洗ってスッキリしよ」
2人同時に使えるほど広い洗面台の隅には、オレンジ色の花をつけた金木犀の枝が1本飾ってある。洗面所を満たすその香りを嗅ぐと、大きな満月を背後にしたディズを思い出した。
月の使者のような彼の姿は幻想的だったと思いながら顔を洗い、タオルやバスローブも入ったクローゼットを開け、ハンガーにかけておいたお気に入りの旅装束に袖を通し始めた。
「そういえば『聖なる一滴』って、どういうきっかけで作ったんだろう?」
目が覚めた今でも覚えている夢を振り返っていると、頭の中に残った異物が気になってきた。
『聖なる一滴』は護身用としては確かに有効だけど、今も昔も『白い渡り鳥』は護衛が身を護る役目を果たしていたはずだから、使う場面なんて滅多になかったと思う。でも、私が使った時のように、1人で強敵に立ち向かわなければならない時があったから、切り札として『聖なる一滴』が作られたのだろうか。
もしそうだったのなら、巻き込まれたその『白い渡り鳥』はどうなったのだろうか。
「ローズ様なら知ってるかな?」
色々と考えていると、『聖なる一滴』を作るきっかけが何だったのか、作った人はどういう人だったのか、といったことがどんどん気になってきた。今度、ローズ様に手紙で聞いてみようか。
着替えを済ませてソファに行こうとした時、どこからともなくコツコツと音がする。音がする窓の方に近寄ってみれば、窓の外にある僅かな枠の所に茶色の小鳥が止まって、コツコツと窓をつついている。
部屋を包んでいた結界を消し、少ししか開かない窓を開ければフィラは私の肩の上に止まって、フィーフィーと耳元で鳴いた。
「ちょっと待ってね~」
ローブから繋ぎの結晶の入った革袋を取り出し、ローテーブルの上に置いた。すると、フィラはその革袋の上にパタパタと飛んで、袋の上から固い結晶をつついた。
フィラを優しく両手で包み、筒から手紙を取ると中に入っている石を舐めさせ、窓の外で手を開けば、フィラは朝日が眩しい世界に元気よく羽ばたいて行った。
「誰からかな?」
受け取った手紙を開くと、『シェニカへ』と冒頭に書き始めた手紙の中に、小さく折り畳まれた紙が1枚入っていた。
折り畳まれた紙は気になるけど、懐かしい筆跡が嬉しくて私宛の手紙を読み始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シェニカへ。
忙しい中、心のこもった手紙をありがとう。私も手紙を書こうかと思っていたところでした。
今回の戦争は世界中だけでなく貴女にとっても、大変な事件となりましたね。心配していましたが、無事と聞いてひとまず安心しました。
今回、貴女がトラントによる『聖なる一滴』の使用を証明したという通知が届いてから、私はセゼルの首都の神殿に行って、この戦争のこと、今まで神官長達がやっていたことなどを全て聞きました。貴女の力になれなかったことを、悔しく思っています。
貴女と会って、無事であることをこの目で見て確かめ、色んなことを話したくなりましたので、私もフェアニーブに行くことにしました。
出来ればフェアニーブで顔を合わせるのではなく、ウィニストラ領内の街で落ち合いたいと思っていますので、ディスコーニ様に同封の手紙を渡し、場所の調整をして貰って下さい。
そして、フェアニーブに私も向かう予定であることは、貴女の胸の内にしまって、誰にも言わないようして下さいね。
ローズ・エルシニア
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ローズ様がフェアニーブに!?会えるなんて嬉しいっ!」
私は喜びのあまり、ローズ様の手紙にキスをして抱きしめた。
◆
朝日が昇り始めた早朝。ディスコーニの副官達が廊下に出てきた気配で目が覚めた。
ベッドから降りて窓の側に立つと、大通りを忙しそうに駆ける兵士達がいた。その慌ただしい姿とは真逆のゆっくりしたペースで身支度を整え終えた頃、隣の部屋の気配が動き出し、しばらくするとファズが朝食を乗せたトレイを持ってきた。
ふっくら焼かれたパンが2つにブルーベリーのジャム。ハムときゅうり、ゆで卵が入ったマカロニサラダ、桃のゼリー、チョコレートクッキーが2枚、オレンジジュース。ありふれた朝食だと思うが、流石高級宿のレストランが作ったと感心するほどパンが美味い。
ファミシールが成人した時、祝いをするからと高級宿のレストランに連れて行かれた。その時に食べたパンは普段食べるものに比べて格段に美味かったが、今食べているパンよりも固いし香りも劣る。同じ大国でも、農産物に恵まれたウィニストラとはパン1つでこんなにも違う。愛国心なんて微塵も抱いていないが、国力の違いはパン1つでも感じるものなのかと思った。
朝食を食べ終えた頃、シェニカが部屋の外に出たタイミングで自分も扉を開ければ、廊下ではディスコーニがファズ達と何か話していた。
「おはようルクト、ディズ。ファズ様達もおはようございます」
「おはよ」
「おはようございます」
「シェニカ様、おはようございます」
紙袋を大事に抱えたシェニカは、挨拶を終えるとすぐに袋の中の人形を見てニコニコとした笑顔になった。こんだけ気に入っている様子からして、昨晩のシェニカのベッドの上には、大量のあの人形がズラッと並んでいたのかもしれない。藁人形に囲まれて寝るシェニカを想像すると、なんとも微妙な気持ちになる。
「では行きましょうか」
自然な流れでディスコーニがシェニカの隣に来れば、あいつも当然のようにそれを受け入れる。その後ろ姿を見るのは今でも腹立たしいが、「今は我慢」「ただの風景だ」と言い聞かせて心を無にするしかない。
「あのね。フェアニーブに行く時、アドアニザに立ち寄ったりする?」
「アドアニザは立ち寄ることになると思いますが。その街で何かしたいことがありますか?」
「合流する護衛がその街にいるから、寄って欲しかったんだ。それとこれ。読んでくれる?」
シェニカは歩きながらローブのポケットから何かを取り出すと、ディスコーニの手のひらに折り畳んだ小さな紙を載せた。その紙を開いたディスコーニは、読み終わるとクスリと笑った。
「分かりました。首都に戻れば具体的な日程が決まりますので、その時に返事を送るようにしてもらっていいですか?」
「うん、分かった」
階段を下り終えた俺たちが宿の外に繋がる扉に向かって歩いていると、バーナンとソルディナンド、副官達が壁側に置かれたソファから立ち上がって近付いてきた。
「シェニカ様、おはようございます」
「おはようございます」
ソルディナンドはシェニカの前に満面の笑みで立ち止まると、期待に満ちた目でシェニカの抱える袋を見た。その中に素晴らしい贈り物が入っていると思っているようだが、まさか藁人形がウジャウジャ詰まっているとは思わないだろう。しかも、ソルディナンドは特に禍々しい目がある強烈な藁人形だ。
「これでお別れとなってしまうのは大変残念ですが、フェアニーブには私も行けるように話をしてみますので、またお会いできることを楽しみにしております」
「急な見届人の役目を引き受けて下さった上に、美味しいお食事まで頂き、本当にありがとうございました。またどこかでお会い出来るのを楽しみにしております」
「1度だけでしたが、シェニカ様と夕食を共に出来たことが夢のようでした。またシェニカ様とお話する機会を頂きたいので、カケラ」
「お世話になった御礼に、皆様に御礼の品を贈らせて下さい」
ソルディナンドがカケラの交換を言い出そうとした瞬間、シェニカは遮るようにそう言って紙袋からゴソゴソと取り出した人形を、バーナンと副官達に渡し始めた。奴らは何度も瞬きをしながら、手の平の上に乗せられた2体の人形を凝視している。
「これは……?」
「皆さんに差し上げたのは、祈願人形のコッチェルくんです。バーナン神官長に差し上げたのは、健康と長寿。副官の皆様には健康と出世を祈願しています。可愛いだけでなく、身につけておけばご利益も確かだそうです。可愛がって下さいね」
「ありがとうございます!」
シェニカの話を聞いたバーナンは困った感じで人形を持ったままだが、シェニカから貰ったというだけで嬉しいのか、副官達は嬉しそうな笑顔を浮かべて軍服の胸ポケットに入れて顔だけ覗かせたり、階級章にくっつけたりと身に着け始めた。それを見たシェニカも嬉しそうな笑顔になり、笑顔のまま困惑した空気を出すソルディナンドの前に立った。
「ソルディナンド様、大変お世話になりました。これはソルディナンド様用の真コッチェルくんです。日頃から身につけて下さいね」
ソルディナンドは、シェニカがローブの内ポケットから出したあの人形を受け取ると、笑顔のまま凍りついた。奴もあの人形の禍々しさを感じ取ったらしく、全然喜んだ空気を出していない。だが、シェニカから貰ったものにケチをつけることも、悪く言うことも出来ないようで、貼り付けた笑顔を維持しながら困ったように小首を傾げた。
「あ、ありがとうございます。とても素敵な人形ですね」
「この大きなお目々が特に可愛いと思いませんか?この真コッチェルくんは1体ですが、祈願は2つされています。可愛がって下さいね」
「何を祈願して頂いたのでしょうか」
「ソルディナンド様の幸福に繋がる願いです」
「そうですか、とても嬉しいです」
シェニカはソルディナンドが持ったままの人形を、しょんぼりしながら見つめている。シェニカは単に愛着が湧いて手放すのが惜しかったのだろうが、ソルディナンドはシェニカが副官達のように身につけるのを待っているのだと受け取ったらしく、禍々しい顔を外に出すように胸ポケットに入れた。
「とっても似合っていますよ」
「大事にさせて頂きます」
見るからに呪いの道具のようなその人形は、シェニカとリスを除いて嬉しいと思う者はいないだろうが、ソルディナンドはシェニカから貰ったものだから捨てることはないだろう。
「ではこれで。皆様のご無事をお祈りしております」
「シェニカ様のこれからの旅が無事でありますよう、私共も心より祈っております」
ソルディナンドが礼を言って腰を折ると、バーナンと副官達も同時に頭を下げた。シェニカもペコリと頭を下げると、扉に向かって歩き始めた。俺もその後を追おうとした時、ソルディナンドの胸元にある人形の目がギョロリと斜めに動き、奴の顔を見たような気がした。
思わず二度見したが、人形の目は真っ直ぐなままだったから見間違いだったようだ。そもそも、あの目はただインクで描かれたものだから動くはずもない。
でも、なんとなく。
ソルディナンドは呪われたような気がした。
ーーーおまけーーー
隣の部屋にいるディスコーニも眠りにつく深夜。
スヤスヤと眠るシェニカの枕の両脇に並べられたコッチェルくん達は、ムクッと起き上がるとシェニカが胸元で抱きしめる真コッチェルくんの元に集まった。大きな目が描かれた人形は、抜け出そうと藁の手をシェニカの手に当てて踏ん張ってみるが、小さな身体ではビクともしない。その様子を見ていた麦わら帽子の人形達は、物音1つ立てることなく移動を始めた。
12体の人形はシェニカの手を動かそうとパジャマの袖を掴むと、布団の上に立つ水色の服を着た人形が振る両腕に合わせるように、ヨイショヨイショと綱引きをするように引っ張った。
何度が繰り返すうちにシェニカの手がズレ、ようやく自由になった真コッチェルくんはシェニカの顔の横まで近付いた。
その寝顔をジーっとしばらく見つめた後、シェニカの頬を藁の手で撫でるとベッドからピョンと飛び降りた。それを見ていた他のコッチェルくん達も、それに倣うようにシェニカの頬を藁の手で撫でるとベッドから飛び降りた。
絨毯の上を1列になり、細長い手を大きく振り、短い足を高く上げて行進する14体の人形の先頭は、時折周囲を伺うようにキョロキョロと目を動かす真コッチェルくんである。
器用にローテーブルの上までよじ登った真コッチェルくんは、向かいのソファの上に横一列に並ぶコッチェルくん達に、ダンスを教えるようにクルクルと回ったり、飛び跳ねたりした。すると、彼らはウンウンと全身で相槌を打ったり、全員が右手を上げたり、ポーズを取ったりする。
音が立つことはないが、その動作から真コッチェルくんが何かを教えているようだ。
そんな秘密の授業がしばらく行われた後、人形達はベッドに向かって再び綺麗に整列して行進した。
先頭にいた真コッチェルくんだけがベッドの足をよじ登って枕元まで戻ってきたのだが、夢見が悪くてゴロンゴロンと転がるシェニカをじーっと見ると、ベッドの下で待つコッチェルくん達に向けて顔を横に振った。そしてピョンとベッドの下に飛び降りると、コッチェルくん達と共に絨毯の上に横になって動かなくなった。
数時間後。絨毯の上に寝転ぶコッチェルくん達のスレスレの位置に、シェニカが豪快に落下してきた。
誰も下敷きになることはなかったが、自分が落としてしまったと思い込んだシェニカが、お詫びにと治療魔法をかけてキスをした時。キスがくすぐったかったのか、顔のある真コッチェルくんは思わず大きな目を細めてしまったが、その目は一瞬で戻ってしまったために、シェニカは気付かないままだった。
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