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第2章 始まりは手探りで
4.白い渡り鳥の価値
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翌日、シェニカと一緒に町長から準備してもらった空き家に行くと、目をギラつかせた傭兵達が大挙して押し寄せていた。
「なんかすごい人だかり。そんなに怪我してるのかなぁ」
「物珍しさだろ」
俺は男たちの品定めするような視線から遠ざけるために、さり気なくシェニカと男たちの間に入った。
すると今度は、俺に嫉妬の篭った視線が浴びせられた。
それが面白くて、俺はシェニカの背中に手を回して先を急がせるフリをすれば、より多くの嫉妬の視線が矢のように浴びせられた。
ーーシェニカの言うように、からかうのも結構面白いな。
今まで戦場で身の竦むような殺気や憎悪の視線に晒されていた俺にとって、痛くも痒くもない嫉妬の視線はただからかって面白い程度だった。
そして治療が始まると、シェニカを口説き落とそうとする傭兵達が、隙あらば触れようとしたり抱きつこうとする。
「先生、俺、胸の動悸が止まらないんですっ!」
「あー、そうですか。大丈夫そうですけど治療の準備するんで、ちょっとそこの椅子で座って待っててくれますか?」
シェニカは出口近くの椅子に男を座らせると、次の患者を呼んだ。
「先生…。俺、熱があるみたいで身体が熱いんです」
「そうですか、熱も気になることないし病気じゃないみたいですね。
じゃ、そこに座ってる人と立った状態で向き合ってくれますか?次に両手を大きく広げて目を閉じて…」
「「??」」
先程の動悸を訴えた男と発熱を訴えた男は向かい合うように立たされ、目を閉じた上に両手を大きく広げさせられた。
2人も俺も、シェニカが何をするのか分からなくて首を傾げた。
シェニカは男たちから少し離れたところに立ったと思ったら、一度大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間、シェニカは勢い良く走って肘を突き出した状態で1人の男の背中に体当たりをした。
「ナンパはお断りじゃボケェ!2人で抱き合って仲良くしてろっ!二度と怪我するなよ!」
「「ぐえっ!!!」」
ぶつかられた男は目の前にいる男にぶつかり、抱き合うように出口へ転げていった。
「ふぅ。いい運動になるわね」
「お前、実力行使するんだな」
「ちゃんと人を見てやってるわよ。私じゃ無理そうなのが来たら、ルクトお願いね」
「あ、あぁ」
俺は隙だらけのシェニカが、思った以上に行動的な女だと認識を改めた。
治療の合間の休憩時間に、俺は疑問に思ったことをシェニカに聞いてみた。
「しかし、治療代が無料で生活出来るのか?」
傭兵や民間人はシェニカに治療をしてもらったら、金を支払わないしシェニカも要求しない。
時折ナンパ目的の男が、装飾品や宝石を置いていくくらいだ。
『白い渡り鳥』を見たことは1度あるが、ぞんざいな態度が気に食わなくて治療してもらわなかった。
だから『白い渡り鳥』のシステムがどうなっているのか分からない。
「大丈夫だよ。町長さんから最後に謝礼をもらうことになってるのよ。
治療院に来る傭兵や一般の人には無料で、その場所の長からしっかりと代金をもらうの」
「へぇ~。なるほどね。そうすればシェニカは懐が潤うし、町長も民衆から支持を得られるわけか。初めて知った」
「そういうこと。いい機会だし、『白い渡り鳥』のこと色々と教えてあげるよ」
俺が『白い渡り鳥』についてあまりにも知識がなかったのを見かねたのか、シェニカは一から説明してくれた。
『白い渡り鳥』になると、軍に入ったり傭兵になること、傭兵団に所属することは禁止される。
禁止される理由はいくつかあるが、1つ目は国や傭兵団に所属すると戦場のバランスが崩れるからだ。
将軍やその側近の副官相手に深手を負わせることが出来ても、その近くに『白い渡り鳥』がいれば、一度退却されて治療を受けてまた戦って…となって、なかなか決着がつかない。
そうなれば、ただでさえ数が多くない『白い渡り鳥』を自国に取り込まなければならなくなり、確保出来なかった国は不利になる。
どこかが独占すれば、そこだけが権力と戦力が集中する。
考えてみれば納得の理由だった。
2つ目の理由は、治療が必要な地域に行けることだ。
世の中が戦争に明け暮れているから、攻撃主体の黒魔法に各国例外なく重きをおいた結果、俺のようにまともに白魔法が使えない者や、白魔法を苦手とする者は多くなった。
白魔法が使える者が傭兵になれば街を出て行ってしまうし、街に残ったとしても軍に徴兵されたりするから、治療が必要な地域が出てきてしまう。
住民らに治療が必要な状況になると、町長や領主といった治者は国王に対し、国が抱える白魔道士を派遣するように嘆願する。
だが戦場を優先させる国は、簡単にそれを聞き入れられない。
その状態が続くと民衆の不満は高まり、最悪の場合民衆による蜂起が起こる場合もある。
そうなると困る国王は、国中を回って治療して貰うために『白い渡り鳥』を招く。
この時『白い渡り鳥』がもしどこかに所属していれば、主要な地域しか治療しなかったり、敵対する国や地域に治療に行かなくなってしまう。
人道的な考えから、そういうことにならないように『白い渡り鳥』は傭兵になったり、軍や傭兵団に所属することが禁止されている。
そして『白い渡り鳥』が来た時には患者を無料で治療してもらい、町長や領主が治療費を支払う。
民衆は高い白魔法が使える『白い渡り鳥』招いてもらった上に、治療費を全て払ってくれると国王や町長といった治者に感謝する。
『白い渡り鳥』が来た時、治者は金を払うだけで民衆から支持を得る。
だから繋がりを作って長く逗留させて利用しようとする。
制限や特権もあるが、『白い渡り鳥』のシステムは案外よく出来ているらしい。
「なんかすごい人だかり。そんなに怪我してるのかなぁ」
「物珍しさだろ」
俺は男たちの品定めするような視線から遠ざけるために、さり気なくシェニカと男たちの間に入った。
すると今度は、俺に嫉妬の篭った視線が浴びせられた。
それが面白くて、俺はシェニカの背中に手を回して先を急がせるフリをすれば、より多くの嫉妬の視線が矢のように浴びせられた。
ーーシェニカの言うように、からかうのも結構面白いな。
今まで戦場で身の竦むような殺気や憎悪の視線に晒されていた俺にとって、痛くも痒くもない嫉妬の視線はただからかって面白い程度だった。
そして治療が始まると、シェニカを口説き落とそうとする傭兵達が、隙あらば触れようとしたり抱きつこうとする。
「先生、俺、胸の動悸が止まらないんですっ!」
「あー、そうですか。大丈夫そうですけど治療の準備するんで、ちょっとそこの椅子で座って待っててくれますか?」
シェニカは出口近くの椅子に男を座らせると、次の患者を呼んだ。
「先生…。俺、熱があるみたいで身体が熱いんです」
「そうですか、熱も気になることないし病気じゃないみたいですね。
じゃ、そこに座ってる人と立った状態で向き合ってくれますか?次に両手を大きく広げて目を閉じて…」
「「??」」
先程の動悸を訴えた男と発熱を訴えた男は向かい合うように立たされ、目を閉じた上に両手を大きく広げさせられた。
2人も俺も、シェニカが何をするのか分からなくて首を傾げた。
シェニカは男たちから少し離れたところに立ったと思ったら、一度大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間、シェニカは勢い良く走って肘を突き出した状態で1人の男の背中に体当たりをした。
「ナンパはお断りじゃボケェ!2人で抱き合って仲良くしてろっ!二度と怪我するなよ!」
「「ぐえっ!!!」」
ぶつかられた男は目の前にいる男にぶつかり、抱き合うように出口へ転げていった。
「ふぅ。いい運動になるわね」
「お前、実力行使するんだな」
「ちゃんと人を見てやってるわよ。私じゃ無理そうなのが来たら、ルクトお願いね」
「あ、あぁ」
俺は隙だらけのシェニカが、思った以上に行動的な女だと認識を改めた。
治療の合間の休憩時間に、俺は疑問に思ったことをシェニカに聞いてみた。
「しかし、治療代が無料で生活出来るのか?」
傭兵や民間人はシェニカに治療をしてもらったら、金を支払わないしシェニカも要求しない。
時折ナンパ目的の男が、装飾品や宝石を置いていくくらいだ。
『白い渡り鳥』を見たことは1度あるが、ぞんざいな態度が気に食わなくて治療してもらわなかった。
だから『白い渡り鳥』のシステムがどうなっているのか分からない。
「大丈夫だよ。町長さんから最後に謝礼をもらうことになってるのよ。
治療院に来る傭兵や一般の人には無料で、その場所の長からしっかりと代金をもらうの」
「へぇ~。なるほどね。そうすればシェニカは懐が潤うし、町長も民衆から支持を得られるわけか。初めて知った」
「そういうこと。いい機会だし、『白い渡り鳥』のこと色々と教えてあげるよ」
俺が『白い渡り鳥』についてあまりにも知識がなかったのを見かねたのか、シェニカは一から説明してくれた。
『白い渡り鳥』になると、軍に入ったり傭兵になること、傭兵団に所属することは禁止される。
禁止される理由はいくつかあるが、1つ目は国や傭兵団に所属すると戦場のバランスが崩れるからだ。
将軍やその側近の副官相手に深手を負わせることが出来ても、その近くに『白い渡り鳥』がいれば、一度退却されて治療を受けてまた戦って…となって、なかなか決着がつかない。
そうなれば、ただでさえ数が多くない『白い渡り鳥』を自国に取り込まなければならなくなり、確保出来なかった国は不利になる。
どこかが独占すれば、そこだけが権力と戦力が集中する。
考えてみれば納得の理由だった。
2つ目の理由は、治療が必要な地域に行けることだ。
世の中が戦争に明け暮れているから、攻撃主体の黒魔法に各国例外なく重きをおいた結果、俺のようにまともに白魔法が使えない者や、白魔法を苦手とする者は多くなった。
白魔法が使える者が傭兵になれば街を出て行ってしまうし、街に残ったとしても軍に徴兵されたりするから、治療が必要な地域が出てきてしまう。
住民らに治療が必要な状況になると、町長や領主といった治者は国王に対し、国が抱える白魔道士を派遣するように嘆願する。
だが戦場を優先させる国は、簡単にそれを聞き入れられない。
その状態が続くと民衆の不満は高まり、最悪の場合民衆による蜂起が起こる場合もある。
そうなると困る国王は、国中を回って治療して貰うために『白い渡り鳥』を招く。
この時『白い渡り鳥』がもしどこかに所属していれば、主要な地域しか治療しなかったり、敵対する国や地域に治療に行かなくなってしまう。
人道的な考えから、そういうことにならないように『白い渡り鳥』は傭兵になったり、軍や傭兵団に所属することが禁止されている。
そして『白い渡り鳥』が来た時には患者を無料で治療してもらい、町長や領主が治療費を支払う。
民衆は高い白魔法が使える『白い渡り鳥』招いてもらった上に、治療費を全て払ってくれると国王や町長といった治者に感謝する。
『白い渡り鳥』が来た時、治者は金を払うだけで民衆から支持を得る。
だから繋がりを作って長く逗留させて利用しようとする。
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