天使な狼、悪魔な羊

駿馬

文字の大きさ
13 / 271
第3章 油断大敵

1.無防備な渡り鳥

しおりを挟む



目指しているディモアの街から少し遠回りになるものの、白魔道士がいなさそうな小さな町が地図上にあったので、私とルクトはその町に立ち寄ることにした。

そこは大抵どこにでもある神殿すらない、小さな小さな町だった。





「『白い渡り鳥』様にこんな小さな町までお越し頂けるなんて…!この町には白魔道士がおりませんので、本当に助かります。
どうぞ、この町の中心にある家をお使い下さい。すぐに使えるように人を遣ります」


町長さんのところに挨拶に行くと、快く受け入れてくれてすぐに治療院の場所の手配をしてくれた。
長い間白魔道士が居なかったらしく、その日の内に治療院を開くとすぐに町の人が訪ねてきた。




「ずっと前に骨折したところが、未だに痛むんです」


「ここ最近、ずっと咳が止まらなくて…」


一般の人に混じって傭兵の姿も見かけるので、この町は傭兵もどこかへと向かう通過点にしているようだった。


そんなことを思いながら1日の治療を終えて宿に戻る途中、患者として来ていた1人の傭兵がルクトに声をかけてきた。




「ルクトだよな?」


「あ?えーっと、ガルシアか?久しぶりだな」


「今、何してるんだ?護衛?」

男性は私を面白そうにチラリと見た。





「あー、うん」


「へぇ。お前が護衛ねぇ。『赤い悪魔』もついに護衛業を始めたのか?」




「ルクト、私は先に宿に戻っているからゆっくりお酒でも飲んで来なよ」


2人の様子から親しい関係を感じ取ったのでルクトにそう言うと、ルクトは嬉しそうな顔をして2人で酒場の方へと歩いていった。




「この規模の町中なら護衛なくても大丈夫でしょ。あ、小鳥屋がある!行っとこ~」


私は町の中で用事を済ませると宿に戻り、部屋に結界を張ってベッドの上に横になった。



ーーーーーーーーーー




シェニカと別れた後、俺とガルシアは町の酒場にやって来た。

ガルシアが座ったテーブルには数人の男と1人の女が座っていた。
全員傭兵姿なので、どうやらチームを組んだか傭兵団にでも加入したらしい。





「ルクト、紹介するな。ここにいるメンバーは今一緒に傭兵としてチームを組んでいる奴らなんだ。
みんな、こいつはルクト。酒飲み友達の傭兵だ」




酒を飲みながら話していると、ガルシアたちはこの国の国境を越えて新たな戦場を求めて移動中らしかった。


「ルクト。お前強いんだろ?『白い渡り鳥』の護衛なんかさっさと辞めて、どこかの戦場に行こうぜ!」



「まぁ、俺もそうしたいんだが」


酔いがまわってきたガルシア達は、大きな笑い声をあげながら俺にそう言ってきた。



「じゃあ、この町であんな白魔道士なんかと別れて私達と行きましょうよ!
黒魔法の使えない白魔道士なんてお断りだけど、私達も強い仲間が加わるのは大賛成なんだから!ね?みんなもそう思わない?」


女がそう言うと、ガルシア以外の男達は大きく頷いた。




「あんな白魔道士なんかって…。ノイア、君だって今日治療してもらって、世話になったじゃないか。
『白い渡り鳥』はただの白魔道士とは違うんだよ?
確かに黒魔法は使えないけど、上級の白魔法が使えるからこそ、みんなに大事にされているんだよ?」


ガルシアが酔っ払ったノイアという女を諌めたが、逆に理路整然としたその言葉は火に油を注ぐことになった。




「なによ。『白い渡り鳥』なんて、だいたい好みの護衛を侍らせて、好きな時に好きな場所で気まぐれに治療して、みんなからチヤホヤされてるだけじゃない。
みんなだってそう思わない?!ルクトだって、護衛なんか辞めて戦場に行きましょうよ。
どっか規模の大きな町まで連れて行けば、次の護衛だってすぐに見つかるでしょ?」


「まぁ、そうだな。俺も自由に戦場に行きたいからな」


「じゃ、明日にでも私からあの白魔道士に話をつけてあげるわ!」


「ノイア。また面倒事を起こすのは止めてくれよ?」

それから夜が更けるまで、俺達は酒場で飲み明かした。







ーーーーーーーーーー






町で2日目の診療を終えたのは、午後を少し過ぎた頃だった。小さな町だったから、ほとんどが昨日の治療で終えたらしい。

これなら明日にはこの町を出発することが出来そうだ。




ルクトと一緒に宿に戻る途中、昨日ルクトとお酒を飲んでいたらしい傭兵の人達が近づいてきた。


「ルクト、私は今日も宿にいるから楽しんできなよ」


「あぁ。ありがとな」


私はその人達に会釈をしてその場を去った。





宿まであとちょっと…というところで、さっきまで傭兵達と一緒にいた女性が私の腕を掴んだ。



「ちょっとこっちに来てもらえる?話があるのよ」



私は相手が女性でも護衛なしで2人きりになるのは嫌だったが、この人は何やら深刻そうな顔をしていた。
人目をはばかる相談だろうかと思って、大人しく彼女の後をついていった。




「あの、なんで裏山に行く必要があるんですか?」


だが彼女は街の裏門を出て、裏山を登りはじめた時には流石にどうかと思った。




でも私が話しかけても彼女はずっと無言で、スタスタと落ち葉が降り積もる山を登って行く。

ここまで来て1人で引き返すのも何だか中途半端な気がして、不安になりながらも大人しくその後ろを歩いて行った。



そして町の裏山を登る途中にある崖で彼女は立ち止まると、急に鬼のような形相で私に掴みかかってきた。


「あんたみたいなのがどうしてチヤホヤされるのよ!」



「は?」


急に何を言い出したのか全く分からないが、私の両肩を掴む手に物凄い力が入っていてかなり痛い。
なんとか振りほどこうとするが、私と違って普段から鍛えているからか私の抵抗なんて全く意味を成さない。


「あんたなんか見かけだって地味なくせに!
あんたみたいな白魔法しか取り柄のない奴より、黒魔法も白魔法も出来て、剣だって使える私の方が存在価値があるじゃない!」



「あの、急に何を言って…」



「あんたよりも、黒魔法の使える私の方がよっぽど偉いじゃない!
あんたは戦場じゃ足手まといにしかならないんだから!あんたなんか守られてばかりのお荷物でしょうが!
大事にされるのは私だけでいいのよ!私の目の前から消えて!」


何を言っているのか分からず困惑する私を、彼女は崖に向かって思いっきりドン!っと突き飛ばした。





「きゃあああ!!!」



足元のバランスを崩し、私の身体はグルグルと転がりながら急な斜面を滑り落ちた。


激しく回る視界の中、綺麗な青空の下で黄色と赤の葉っぱが激しく舞い上がるのをハッキリと捉えた。
そして頭と背中に何か硬いものが当たる強い衝撃と、脇腹あたりに激しい痛みを感じると目の前が真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...