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第3章 油断大敵
1.無防備な渡り鳥
しおりを挟む目指しているディモアの街から少し遠回りになるものの、白魔道士がいなさそうな小さな町が地図上にあったので、私とルクトはその町に立ち寄ることにした。
そこは大抵どこにでもある神殿すらない、小さな小さな町だった。
「『白い渡り鳥』様にこんな小さな町までお越し頂けるなんて…!この町には白魔道士がおりませんので、本当に助かります。
どうぞ、この町の中心にある家をお使い下さい。すぐに使えるように人を遣ります」
町長さんのところに挨拶に行くと、快く受け入れてくれてすぐに治療院の場所の手配をしてくれた。
長い間白魔道士が居なかったらしく、その日の内に治療院を開くとすぐに町の人が訪ねてきた。
「ずっと前に骨折したところが、未だに痛むんです」
「ここ最近、ずっと咳が止まらなくて…」
一般の人に混じって傭兵の姿も見かけるので、この町は傭兵もどこかへと向かう通過点にしているようだった。
そんなことを思いながら1日の治療を終えて宿に戻る途中、患者として来ていた1人の傭兵がルクトに声をかけてきた。
「ルクトだよな?」
「あ?えーっと、ガルシアか?久しぶりだな」
「今、何してるんだ?護衛?」
男性は私を面白そうにチラリと見た。
「あー、うん」
「へぇ。お前が護衛ねぇ。『赤い悪魔』もついに護衛業を始めたのか?」
「ルクト、私は先に宿に戻っているからゆっくりお酒でも飲んで来なよ」
2人の様子から親しい関係を感じ取ったのでルクトにそう言うと、ルクトは嬉しそうな顔をして2人で酒場の方へと歩いていった。
「この規模の町中なら護衛なくても大丈夫でしょ。あ、小鳥屋がある!行っとこ~」
私は町の中で用事を済ませると宿に戻り、部屋に結界を張ってベッドの上に横になった。
ーーーーーーーーーー
シェニカと別れた後、俺とガルシアは町の酒場にやって来た。
ガルシアが座ったテーブルには数人の男と1人の女が座っていた。
全員傭兵姿なので、どうやらチームを組んだか傭兵団にでも加入したらしい。
「ルクト、紹介するな。ここにいるメンバーは今一緒に傭兵としてチームを組んでいる奴らなんだ。
みんな、こいつはルクト。酒飲み友達の傭兵だ」
酒を飲みながら話していると、ガルシアたちはこの国の国境を越えて新たな戦場を求めて移動中らしかった。
「ルクト。お前強いんだろ?『白い渡り鳥』の護衛なんかさっさと辞めて、どこかの戦場に行こうぜ!」
「まぁ、俺もそうしたいんだが」
酔いがまわってきたガルシア達は、大きな笑い声をあげながら俺にそう言ってきた。
「じゃあ、この町であんな白魔道士なんかと別れて私達と行きましょうよ!
黒魔法の使えない白魔道士なんてお断りだけど、私達も強い仲間が加わるのは大賛成なんだから!ね?みんなもそう思わない?」
女がそう言うと、ガルシア以外の男達は大きく頷いた。
「あんな白魔道士なんかって…。ノイア、君だって今日治療してもらって、世話になったじゃないか。
『白い渡り鳥』はただの白魔道士とは違うんだよ?
確かに黒魔法は使えないけど、上級の白魔法が使えるからこそ、みんなに大事にされているんだよ?」
ガルシアが酔っ払ったノイアという女を諌めたが、逆に理路整然としたその言葉は火に油を注ぐことになった。
「なによ。『白い渡り鳥』なんて、だいたい好みの護衛を侍らせて、好きな時に好きな場所で気まぐれに治療して、みんなからチヤホヤされてるだけじゃない。
みんなだってそう思わない?!ルクトだって、護衛なんか辞めて戦場に行きましょうよ。
どっか規模の大きな町まで連れて行けば、次の護衛だってすぐに見つかるでしょ?」
「まぁ、そうだな。俺も自由に戦場に行きたいからな」
「じゃ、明日にでも私からあの白魔道士に話をつけてあげるわ!」
「ノイア。また面倒事を起こすのは止めてくれよ?」
それから夜が更けるまで、俺達は酒場で飲み明かした。
ーーーーーーーーーー
町で2日目の診療を終えたのは、午後を少し過ぎた頃だった。小さな町だったから、ほとんどが昨日の治療で終えたらしい。
これなら明日にはこの町を出発することが出来そうだ。
ルクトと一緒に宿に戻る途中、昨日ルクトとお酒を飲んでいたらしい傭兵の人達が近づいてきた。
「ルクト、私は今日も宿にいるから楽しんできなよ」
「あぁ。ありがとな」
私はその人達に会釈をしてその場を去った。
宿まであとちょっと…というところで、さっきまで傭兵達と一緒にいた女性が私の腕を掴んだ。
「ちょっとこっちに来てもらえる?話があるのよ」
私は相手が女性でも護衛なしで2人きりになるのは嫌だったが、この人は何やら深刻そうな顔をしていた。
人目をはばかる相談だろうかと思って、大人しく彼女の後をついていった。
「あの、なんで裏山に行く必要があるんですか?」
だが彼女は街の裏門を出て、裏山を登りはじめた時には流石にどうかと思った。
でも私が話しかけても彼女はずっと無言で、スタスタと落ち葉が降り積もる山を登って行く。
ここまで来て1人で引き返すのも何だか中途半端な気がして、不安になりながらも大人しくその後ろを歩いて行った。
そして町の裏山を登る途中にある崖で彼女は立ち止まると、急に鬼のような形相で私に掴みかかってきた。
「あんたみたいなのがどうしてチヤホヤされるのよ!」
「は?」
急に何を言い出したのか全く分からないが、私の両肩を掴む手に物凄い力が入っていてかなり痛い。
なんとか振りほどこうとするが、私と違って普段から鍛えているからか私の抵抗なんて全く意味を成さない。
「あんたなんか見かけだって地味なくせに!
あんたみたいな白魔法しか取り柄のない奴より、黒魔法も白魔法も出来て、剣だって使える私の方が存在価値があるじゃない!」
「あの、急に何を言って…」
「あんたよりも、黒魔法の使える私の方がよっぽど偉いじゃない!
あんたは戦場じゃ足手まといにしかならないんだから!あんたなんか守られてばかりのお荷物でしょうが!
大事にされるのは私だけでいいのよ!私の目の前から消えて!」
何を言っているのか分からず困惑する私を、彼女は崖に向かって思いっきりドン!っと突き飛ばした。
「きゃあああ!!!」
足元のバランスを崩し、私の身体はグルグルと転がりながら急な斜面を滑り落ちた。
激しく回る視界の中、綺麗な青空の下で黄色と赤の葉っぱが激しく舞い上がるのをハッキリと捉えた。
そして頭と背中に何か硬いものが当たる強い衝撃と、脇腹あたりに激しい痛みを感じると目の前が真っ暗になった。
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