天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第4章 小さな変化

3.悪魔の贖罪

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シェニカを見る視線の主を確認すれば、患者として来ていた民間人や傭兵が多い。

そいつらは隙あらばシェニカに声をかけて親しくなりたい、と下心がハッキリと透けて見えている。





男からの視線は単純な恋情だけでなく、欲情の色も混じっている。

女からの視線には、シェニカを突き落としたあの女のように嫉妬の色が混じっていることが多いが、他に羨望と何故かたまに恋情らしきものが混じっている。



そういう視線は最初の頃から感じていたが、注意すべきは男の視線だけで、女の嫉妬の視線なんて大したことないと侮っていた。

俺はそんな危険因子を排除することなく護衛の仕事を放棄した結果、シェニカに怪我を負わせて迷惑をかけてしまった。





男だろうが女だろうが、子供だろうが治療院の外では絶対に近付かせない。
治療中は相手が不穏な行動を取らないように、シェニカの後ろで油断なく見守った。

そういうつもりで、周囲の気配には敏感になるように意識を尖らせて、視線の主に近付くなと威圧した。









宿に戻って夕食を終えると、女将から昨日の新聞をいくつか貰った。
本当は最新の新聞を貰いたかったが、まだ見る人もいるから昨日の分で我慢だ。



シェニカが部屋に入り、結界を張ったことを確認すると自分の部屋に戻った。
部屋にある古ぼけたソファに座り、買った酒瓶を片手に新聞の中から神殿新聞を開く。

今まで神殿新聞なんてこんなに真面目に読んだことはなかった。
自分のいる場所の近くに『白い渡り鳥』がいるのか程度しか見ていなかったから、シェニカ達を取り巻く状況なんて考えた事はなかった。



神殿新聞に名前のある『白い渡り鳥』の数はおおよそ30人ほどで、シェニカを除く全員の所在場所が載っている。
全員神殿に立ち寄っているということは、将来的にはそういう権力にまみれた渦に巻き込まれていくんだろう。



今までのシェニカとのやり取りや考え方を聞いて感じたが、あいつは見た目はおっとりしてそうだが、結構しっかりしている。

町長やいかつい衛兵と話す時にも、物怖じせずにしっかりと自分の意見を言うし、面倒事には巻き込まれたくないという姿勢も一貫している。


思った以上に意志のはっきりしたその姿には、素直に好感が持てた。






そして今朝、シェニカの神殿に近寄らない理由を聞いて、どうしてあの町から逃げるように出たのか納得した。



町長が神殿に早馬を出すと言った時のため息の理由とシェニカの話から推測すると、神官長は汚職に塗れた奴なんだろう。

大事な『白い渡り鳥』を崖から突き落として大怪我をさせたとなれば、そんな神官長はあの女だけでなく仲間のガルシア達、護衛としての任務を放棄していた俺も許さないのは明らかだ。



どんな言葉で罵られ、何を要求されるのだろうか。


神殿に関わったことがないから見当もつかないが、汚職に塗れた奴の要求なんて、まともな内容であるはずもない。


あの女はそれだけのことをしたから、どんなに罵られようが何を要求をされようが当然だと思う。
ガルシア達は直接シェニカに危害を加えたわけではないが、女と同じチームだからと償う気でいた。





じゃあ俺は?




この町に来るまでの間、野宿をしながらシェニカに対する償いを色々考えた。
今まで償いなんてしたことがないから、どういう風にやればいいのか分からない。




何か欲しいものをあげれば良いのだろうか?
シェニカに俺の不甲斐なさを思いっきり罵ってもらえば良いのだろうか?
何か喜ぶようなことをしてあげたら良いんだろうか?



今までの行動を見ても欲しい物なんてなさそうだし、金だってかなり持ってるから、欲しいものがあれば自分で買うだろう。

罵ってほしくても、シェニカはあの一件のことで俺を責めようとしない。それが逆に俺の罪悪感を強くしていくのに、シェニカはあの一件のことをすっかり過去の事として処理しているようだった。


じゃあ喜ぶようなことって何をすればいい?





色んなことを考えていると、出会った時にシェニカは「護衛が欲しいんだ」と言っていたことを思い出した。




散々頭を巡らせた結果、俺に出来る償いはシェニカに危険が及ばないように、ちゃんと護衛としての仕事を全うする事しか思い浮かばなかった。


だから心を入れ替えて、俺は自分に与えられた仕事に向き合うことにした。










俺は手に持っていた神殿新聞をテーブルの上に置いて、次の新聞を手に取った。

この辺の地方新聞の見出しには「一体どこへ?『赤い悪魔』が姿を消す」とある。



紙面を見れば、バルジアラがあの平原で俺を討ち取ったという情報が流れたが、数日後には生存していると情報が修正された。

それから優に1ヶ月は経っているのに、どの戦場にも姿を現さない俺の状況から、復帰出来ないような大怪我を負っているのではないかと言うことらしい。



他の新聞の紙面でも、面白おかしく俺の今の状況を予想する内容が書かれているが、あの男ならこんな紙面を鵜呑みにすることなんてまずないだろう。

俺が姿を現さないのは、俺が奴に対して奇襲を狙っているか、何か水面下で動いているかを警戒するはずだ。




俺の傭兵人生の中で、あそこまでボロボロにされたのは初めてだった。
だからこそもう一度あいつに戦いを挑み、復讐してやりたくて堪らない。




シェニカへの礼と償いを終え、主従の誓いを破棄してもらったら、誰か信頼出来る奴に護衛を任せたい。

そして俺は戦場に戻って、もう一度バルジアラに挑みたい。




俺を勝ち誇った顔で見下ろす銀髪の男を思い出すと、自然と握り締めた手の平に爪が食い込む。





ーー必ず復讐してやる。


そんな思いが時間が経てば経つほど、固い決意になっていった。
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