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第7章 コロシアム
4.魔法の適性
しおりを挟む昼過ぎに第2試合が終わると、すぐに第3試合が開始された。
実力の確かな人だけが勝ち進んでいき、ルクトとレオンさんも当然のように勝ち上がった。
2日目の試合が全て終わり、最後に更新されたトーナメント表を見れば、明日の最終日に行われる試合では、ルクトがあのベガという人と対戦するようだ。
宿に戻って3人でレストランの夕食を食べながら、今日の試合のことを話していたが、食事を終えても試合のことなど話が尽きなくて、私は2人の部屋に招かれた。
私はL字型のソファに座り、2人は私から少し距離を空けて隣り合って同じソファに座った。
「あのベガって人、すごかったね。黒魔法も白魔法も適性があっていいなぁ」
「まさか、護符を奪い取って強制催眠をかけるなんて思わなかったな」
今日の試合でルクトもレオンさんもすごく生き生きとしていたし、2人がやっぱり強い人なんだと実感したのだが、彼ら以上に印象に残ったのはやっぱりベガという人だった。
私がお茶を飲みながらそう呟けば、2人は部屋の戸棚に入っている酒瓶を豪快にローテーブルいっぱいに並べて、遠慮なくガブガブと飲みながら頷いた。
部屋に備え付けのお酒は、宿代に含まれているので飲み放題だ。ルクトは夕食の時にお酒を注文せずに部屋でしこたま飲んで欲しい。
食事代は私が支払う契約だし、美味しい食事には美味しいお酒を飲みたいのも分かるので、心の中で何度も呟くだけで口が裂けても言わないけどね!
「あれは俺も驚いたよ。護符を取られないようにしないとな」
ルクトは、左手首に巻かれた護符の宝珠が通された革紐のブレスレットを、右手で確認するように触った。
護符は、催眠、睡眠、呪いなどを防ぐ数種類の宝珠が1つの装飾品にまとめられている事が多い。
一般的に護符はブレスレットやネックレスなどになっていて、「私はちゃんと対策とってますから、そういう術をかけても意味ありませんよ」という意思表示のために大抵目に見えるように身に着ける。
明日の試合対策のために見えない場所に身に着けても良いかもしれないが、あのベガという人にとってみれば、ルクトの護符は意味がないだろう。
「明日はお前と奴が試合だな。トリッキーな相手だが勝てそうか?」
「そうだなぁ。まぁ勝てるんじゃないか?」
「何か作戦があるの?」
「んー、ない」
「ないのかよ」
レオンさんがすぐさまつっこんだ。最初のギスギス感は何だったのだろうかと思うくらい、今ではこの2人はとっても息が合っている。
「だってなぁ。多分俺じゃあの結界を破れないと思うんだよな」
「なんで?ルクトなら出来るんじゃない?」
「「え?」」
「だって。あの人、黒魔法と白魔法の両方に十分な適性があるんだよ?
あの人より黒魔法に適性の高いルクトなら、高威力の黒魔法でゴリ押しすれば、時間はかかっても結界は破れると思うんだけど」
「「そうなのか?」」
不思議そうな顔をして私の顔を見てくる2人が少し面白く見えた。
2人は結界をまともに張れる白魔道士と戦ったことはないのか、結界の壊し方を知らないようだ。
上級の黒魔法を防げる結界を張れる人は中級の治療魔法も使えるので、軍人でも傭兵でも、戦闘よりも治療メインで戦場を動いているのだろうから無理もない。
私だってそういうものだと思っていたから、今日見たベガという人の戦い方にはとても驚いた。
「防御の結界を破るには、2つ方法があるんだ。
1つ目は、結界を張った本人の持つ白魔法の適性と同等以上の黒魔法の適性を持つ人が、黒魔法をぶつけ続けて壊す方法。これは黒魔法の適性が高い、ルクトやレオンさんのような人が取れる方法だね。
2つ目は、白魔法の適性が圧倒的に差がある場合に限られるけど、同じ結界をぶつけ合って力押しして壊す方法。こっちは白魔法の適性が高い、私みたいな人が取れる方法だね」
「へぇ~。適性ねぇ。もうちょっと分かりやすく説明頼む」
ルクトは、ソファの背もたれにどっかりと背中を預け、大の字になるように両手を背もたれの上に伸ばし、天井を向いたままそう言った。
頼む、と言う割には人に何か頼む姿勢ではないようですが……。
「適性が物を言うってのは分かったが、どうやってそれを見極めるんだ?」
ルクトとは対象的に、レオンさんが興味津々な顔で身を乗り出しながら私に聞いてきた。やはりルクトよりも人として出来た感じがするのは年の功だろうか。ルクト、見習え。
「魔力量は人によって分母が違うけど、適性っていうのは分母は同じなんだ。
分かりやすく言えば、私みたいに白魔法の適性しかない人もいれば、ベガって人みたいに両方に適性のある人もいる。
適性の分母が全部で100とすると、私は白魔法に95、黒魔法に5なの。
私の白魔法の適性は高いから、白魔法で私の結界を壊せる人はいない。
私の張る結界を壊すには、黒魔法の適性値が95以上の人が結界に高威力の黒魔法で攻撃を与え続けるしかないの。
それで、前に調べた時にルクトは白魔法に10、黒魔法に90の適性値だったから…」
「ちょっと待て。前に調べた?いつの間にっ?!」
ルクトは信じられないと言った顔をして、レオンさんと同じように身を乗り出してきた。
「初めて会った時、脈を確認する時についでに調べておいたの」
ルクトと初めて会って彼を視た時、魔力量も多くて黒魔法の適性が高いのならば、高ランクの傭兵だろうとすぐに見当がついた。
テゼルの街で白魔道士になりたいと言った少年も、魔法で調べたからあんな風に助言出来た。
この魔法は、相手を見極める時にとても役に立つのだ。
「嬢ちゃん、俺も!俺も調べてくれ」
レオンさんはソファから立ち上り、私の横に来たので彼の手を取って適性を視た。
「レオンさんは白魔法が15、黒魔法が85」
「ということは、俺はこいつに魔法で押し合いになったら負けるのか」
「90と85であまり大きな差はないから、簡単に勝敗はつかないだろうけど、極端に言えばそういうこと。
でもその分、レオンさんはルクトよりも治療魔法が使えるってこと」
「そうか…。だから俺の使う治療魔法は微々たる効果しかなかったのか」
ルクトは妙に納得した顔をしていた。過去に思い当たるようなことがあったのだろう。
この適性の話は傭兵の間にはあまり知られていないが、軍部ではよく知られている。
なぜ傭兵は知らずに軍部が知っているかと言うと、ほとんどの傭兵は学校を卒業すると、独学か誰かに弟子入りして剣や魔法などの鍛錬に励むが、基本的にすぐに戦場に行ってランクを上げながら実戦経験を積んでいく。
だから比較する人がいないことが多いので、適性のことに気付かなかったり、知らないままでいることがほとんどだ。
一方、軍人は軍の施設で大人数で鍛錬を積むから比較する人がいるし、黒魔法の適性で分かりやすい差が出る『呪い』の術を習うことで、いやでも自分の適性を知ることになる。
黒魔法の適性が高い人ほど、高威力の攻撃魔法になるだけでなく、使える呪いの数が増え、その効果も高くなる。
そして、高威力の黒魔法を使い、かつ、強力な呪いも操れる人は、一様に白魔法が使えないという共通点を持つことに気づく。
『白い渡り鳥』が高レベルの白魔法は使えても黒魔法がさっぱり使えないのと同じ話だと、彼らは認識して来た。
「そう。ルクトの治療魔法が僅かにしか効果がないのは、私の黒魔法の威力がしょぼいのと同じこと。
上級の氷の魔法には、上級の炎の魔法で相殺させるよね?
でも、黒魔法にしか適性のない人は、相手にもよるけど、相手が使った上級の炎の黒魔法に対して中級の氷の黒魔法を使って相殺することも可能なはずだよ。
それで、あのベガって人だけど。結界は上級の黒魔法を防いでいたし、黒魔法も中級程度なら使えていたらしいから、白魔法の適性値はきっと60くらいじゃないのかな。
ルクトの黒魔法の適性値が90だから、あの人の白魔法の適性値60よりも高いし、ルクトは魔力量も多いから、あの人が張った結界は多少時間はかかっても、黒魔法で攻撃し続ければその内壊れるはず。
ただし、白魔法の適性はあの人の方が随分と高いから、ルクトは護符に関係なく強制催眠かかってしまうはずだよ。だから、それには注意しないといけないね」
「なるほどねぇ~。こいつは強制催眠に護符関係なくかかるのか?」
「強制催眠は術者の白魔法の適性が、かける対象より高ければかけられるの。
ルクトの場合、護符を持っていれば白魔法の適性値が20くらいの人の術までなら防げると思うよ。でも、それ以上の人になると多分護符の効果はない。
今日、あの人が対戦相手の護符を引きちぎったのは、術が確実にかかるようにするためじゃないかな?
もしかしたら、あの人はこの適性の話を知っていて、結界の中にいる時にぶつけられる黒魔法の威力を見て、相手の白魔法の適性の高さを測っていたかもしれないね」
「へぇ~。ただの引きこもりじゃなかったのか。しかし、お前はそんなこと良く知ってるなぁ」
ルクトは何か考えるように腕組をして、またソファに背中をどっかりと預けるように座った。
「私、学校で白魔法にしか適性がないって聞かされてすごく落ち込んだんだよね。その時、あんまり落ち込む私を見兼ねた恩師がこれを教えてくれたの」
ローズ様はこの適性を視る魔法は使えなかったが、この適性の話には私をとっても勇気づけられた。
「シェニカ。白魔法の適性が高い貴女なら、他の白魔道士が上級の治療魔法を使っている中、貴女は中級の治療魔法で済むのです。白魔法の質が良いということですよ。
そして貴女の作る結界を破ることが出来るのは、高い黒魔法の適性を持つ人だけです。
そんな人は一国の将軍クラスだったり、ほんの一握りの傭兵くらいでしょうから、関わらなければ問題ありません。
だから貴女の作る防御の結界は、自分自身や仲間を守る鉄壁の壁となるでしょう」
治療や身を守る白魔法しか使えない私には、この話を聞いて誰かのために力になれるようにと頑張り始めた。
「そうだったのか。しかし、適性を調べる魔法なんてどこで習ったんだ?学校の教科書にもないだろ」
「あははは。これも便利魔法の1つなんだよ」
ローズ様の持っていた魔導書に書いてあったこの魔法は、私が護衛を探す時など色んな場面で大いに役に立った。
あまりに頻繁に使っていたので、今では無意識に相手の適性を視てしまうクセまでついた。
「しかし、いい話が聞けたな。嬢ちゃんは本当にいろんなことを知っているんだな。魔法のことやその知識量には毎回驚かされるよ」
「あはは。もっと見直してくれた?」
「見直してばかりだよ」
レオンさんは両手を上げて降参のポーズを取った。
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