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第18.5章 流れる先に
11.キケンの危険(2)
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第18.5章は色んな名前が飛び交うため、少しでも分かりやすくなればと、出てくる人達を整理しておきます。ご参考までにどうぞ。
(バルジアラの副官)
●リスドー ※腹心
●イスト
●ヴェーリ
●モルァニス
●アルトファーデル
(下級兵士)
●ライン(リスドーの部隊所属)
●ロア(イストの部隊所属)
●マルア(ヴェーリの部隊所属)
●ロンド(ヴェーリの部隊所属)
●ワンド(アルトファーデルの部隊所属)
●ドルマード(モルァニスの部隊所属)
(階級章のない上級兵士)
●ダナン(イストの部隊所属)
(銅の階級章を持つ上級兵士)
●ダルウェイ(リスドーの部隊所属)
●リーベイツ(モルァニスの部隊所属)
■□■□■□■□■□
「あははははは!!! こりゃあ傑作だ!」
疾走した時に生まれた風がひゅるりと流れた瞬間、我に返って何が起こったのかと思っていたら。バルジアラ様は大声で笑いながら、自分を絞め殺してもおかしくない程の怪力で抱き締めてきて、副官方は自分に拍手を送り始めた。
「ディスコーニ!よくやった!」
「なんてやつだ!」
「お前!お前ってやつは!!」
「素晴らしい!」
「もうお前しかいないよ!」
下級、中級、上級兵士達は目をキラキラさせて拍手をし、副官方は自分の肩を叩いたり、両手を使った握手をしたり、抱き締めたりして賛辞を送る。バルジアラ様は大声で笑いつつ、自分の頭をグシャグシャと豪快にかき混ぜたり、満足そうに何度も頷きながら褒めてくれる。
「アレを戦闘不能にしたのも撤退させたのも世界でお前がはじめてだ! まさかお前がこんな偉業を成し遂げられようとはなぁ。防衛戦成功よりもすごい成果だ」
「そう、なんですか…」
『桃色宣教師』が撤退したことが喜ばしいらしいが、なぜこうなったのかまったく理解できず嬉しさを感じない。困惑しながら周囲を見れば、前線にいたウィニストラ兵たちが、盛り上がる直轄部隊に視線を送りながらゾロゾロと撤退していた。
「しかし。奴はお前を童貞と言っていたが、本当にそうなのか?」
「はい…」
「なんで娼館に行かないんだ?」
「私は娼館には行きたくなくて」
「なんで?もしかして、お前男が好きなのか?」
「いいえ、私の恋愛対象は女性です」
自分の答えが意外なのか、目の前にいるバルジアラ様を始め、周囲にいる部隊全員が静まり返り、目が点になったような顔をしていた。
「えっと…。ディスコーニには恋人とか婚約者とか、決まった人がいるってこと?」
「いいえ、いません」
「好きな相手がいるってことか?」
「はい」
「その人とはなかなか会えないとか?」
「そうですね。まだ出会えていませんので…」
「え? 出会っていない?」
「出会っていないけど、決めた人がいるってこと?」
バルジアラ様や5人の副官方から質問攻めに合っていると、ラインやロア達も興味があるのか、どんどん自分との距離を詰めてきた。
「『桃色宣教師』とのやり取りを聞いてたけど、ディスコーニは『運命の人』がいると思ってて、その人としかやりたくないから娼館に行かないってことで合ってる?」
「そうですね」
「ディスコーニって性欲ある、よね?」
「はい…」
「女に興味あるだろ?」
「女性全般には興味はありませんが、心に決めた人にだけ興味があります」
「19だったら、やりたくてやりたくてたまんねぇだろ。我慢してんのか?」
「その人に出会うまで待ちます」
「童貞じゃないと出会えないわけじゃないだろ。なんでそんなに拘るんだ」
「私はその人とだけ経験出来ればいいんです」
自分を除いた全員が目をパチパチとさせて呆然としてしまったが、そんなにおかしなことを言っているだろうか。
「この先その人と出会えたとして、付き合ったけど結局別れることになったらどうする?」
「そんなことにならないと思いますが、フラレたら復縁出来るまで待ちます」
「未来なんて誰にも分からないのに。なんでそんな自信があるんだ」
「その人とは運命で繋がっていると思っていますから」
「運命って!ぷっ!」
ほとんどの人たちが自分を珍しいものを見たような顔をしているなか、バルジアラ様は今にも笑い出しそうな口を押さえて俯いた。
「その人も誰とも付き合わずにいると思うの?」
「『愛する人とだけ結ばれたい』というのは、あくまで私の価値観です。相手にそれを求めるつもりはありません」
「ってことは、その人が他の人と付き合っていてもいいってこと? 結婚してたらどうするんだ?」
「自分を選んでくれるまで。別れるのをずっと待ちます」
「なんでそんなに1人に拘るの? もしかして不特定多数を相手にする娼婦が汚いとか思ってる?」
「そんなことは思っていません。ただ心から愛した人だけで十分なんです」
「こりゃあまさに『夢見る童貞』だな!あっはっは!」
バルジアラ様が笑うと、仲間たちもつられるように笑い始めた。恋愛観なんて個人特有のものだというのに、そんなに笑うような内容なのだろうか。
「んじゃ、キスもしたことないのか?」
「ありません」
「女の裸も見たことも?」
「ありません」
「お!顔が赤くなった。こりゃあからかいがいがあるな! 胸はデカイほうがいいか?」
「そういうのはありません」
バルジアラ様の矢継ぎ早の質問にはちゃんと答えたのだが、女性の裸や胸といった単語を聞いていると、急に恥ずかしくなってきた。それがバルジアラ様には面白かったようで、いたずらっ子の少年のような笑みを浮かべた。
「その相手が見つかったら、お前は童貞を卒業するんだろ? やり方知ってんのか?」
「一般常識の範囲で…」
級友たちとの会話や父の書斎にあった本で、肌と肌を合わせたら、手と口で触れ合って、お互いの準備が整えば1つになれば良いというのは知っている。でもそれでは足りないのだろうか。
「お前、折角出会った相手に失敗して微妙な空気になるのは嫌だろ? 最悪嫌われるかもしれんぞ。俺たちが教えてやろうか」
「大丈夫です」
「遠慮するなよ。その様子だと知らねぇんだろ? 挿れて腰振って出しとけばいいってもんじゃないんだ。なぁ?」
「バルジアラ様、とりあえず帰還しましょう」
リスドー様に促され、戦場から一番近い街に向かって帰還している間、徒歩で移動する仲間たちは自分を取り囲んだ。
「なぁなぁ。もう一度聞くけど、その人とは会ったことないんだよね?」
「えぇ。まだ出会っていません」
「出会う前に死んだらどうするの?」
「その時は仕方がありません。来世で早く出会えることを信じます」
「ら、来世?」
「来世でも同じ相手が『運命の人』ってこと?」
「はい」
「あはははは!!」
「ディスコーニは夢を見すぎだ!」
「妄想の相手に操を立てるなんて!」
「聞いてるこっちが恥ずかしいっ!」
自分の答えを聞いた仲間たちは腹を抱えて笑い出し、階級に関係なく仲間内で肩や背中を叩きあい、自分を見ては笑っている。
自分のような価値観を持っているのは少数なのだとは思うし、笑われると自分だけでなく『彼女』まで否定されたような感じがして心地悪い。でも。
ーー世界のどこかにディズと恋に落ちる『運命の人』がいて、その時が来たら『あぁ、この人だ。この人だったんだ』って心が動くと思うよ。
こう考えてるって話すと男女問わず笑われたりするし、現実離れの夢を見てダサいとか、いい歳して童貞守ってるのか?とか、からかわれて居心地は悪いけど。自分を大事にすることは、相手を大事にすることと同じなんだ。運命で繋がったその人は絶対馬鹿にしないよ。
誰かを想う純粋な気持ちは、きっと幸せな未来を運んできてくれる。他の人がなんと言おうと、私はそう信じているよ。
自分は自分。愛する人にだけ理解してもらえれば、万人に理解されなくても構わない。父の言葉を反芻しながら言い聞かせれば、心地悪さが少しずつ消えていくような気がした。
■■■おまけ■■■
「違うわ!何度言ったら分かるの!? ダンスを踊る時はもっとキレのある動きで、周囲を圧倒させなきゃだめよ! それくらいしなきゃご両親は認めてくれないわ!」
「ファーストキスをする時のおすすめの場所を教えて欲しいですって? そうねぇ。やっぱり雰囲気があって静かな場所がいいと思うわ。そうだ!デートにピクニックに行って、その時なんてどうかしら」
「え?キスが失敗したらどうすればいいですかですって?! 失敗しないように練習するしかないでしょ!
ちょ、ちょっと! そんなタコみたいに口を尖らせて、私にキスを迫ってこないでっ! ちょっと放しなさいっ!」
戦場を離脱し、マッサージ店のある街まで運ばれた『桃色宣教師』は、相変わらず幻に取り憑かれて現実に戻ってこれずにいた。板に縛り付けていたものの、何度もロープが引き千切れそうになったらしく、その上から追加で巻いたぶんだけ厚みが増している。常人なら身動きがとれないはずなのに、この状況でも『桃色宣教師』はロープを引き千切ろう暴れていた。
「そーすい、そーすい! しっかりしてくださいよぉ」
「お風呂に氷をたくさん浮かべてちょうだい!」
「わかりましたぁ!」
「白魔法が効かないなら、しょうがないわ! 水にドボンさせるわよ! 行くわよぉ!せぇぇぇのぉぉっ!」
ガタイの良いオネエたちは、店の奥にある巨大な風呂場に『桃色宣教師』を乗せた板を持っていくと、板にくくりつけたまま氷が浮かぶ水風呂に投げ入れた。風呂場にこだまするドボーンという豪快な音と天井に届く派手な水しぶきが収まる頃、ゴボゴボと泡立つ風呂から右手に引きちぎったロープを、左腕に板を抱えた大男が現れた。
白いドレスはずぶ濡れになり、肌に密着しているからその体格の良さが余計に際立っているが、下腹部にはしっかりとド派手なスカーフが巻かれている。
「そーすい!大丈夫ですかぁ?」
「な、なんとか…。この冷たさのおかげでやっと幻が分離出来たわ。あなた達、本当にありがとっ☆」
「良かったぁ!」
「元気そうでなによりですぅ!」
「きゃぁぁ♪ ドレスが濡れてセクシーですわ!」
「それにしても、そーすいに何が起こったんですの?私、お隣にいたのに全然分からなかったですぅ」
「ディスコーニちゃ…」
風呂場の隅に控える仲間たちの前へと歩いていた『桃色宣教師』は、急に足を止めたと同時に手から力が抜けたようにロープと板を落とした。時が止まったかのような表情で固まっていたが、両手の小刻みな震えが少しずつ全身に広がり始めると、周囲のオネエたちは異変を察知しアタフタと慌て始めた。
「そ、そーすい?」
「どう、しちゃったんですか…?」
「いやぁぁ!! 名前を言っただけでまた頭の中にぃぃ!!」
「そーすい! ここにはあの子はいませんわ! しっかりしてください!」
「ファーストキスって、どんな感じでしたか? 是非教えて下さいですって?! そんなこと絶対教えないわ! え?ネギ味ですかって?! そんなわけないじゃない!そういうのは乙女のヒミツなのっ!」
「手を繋いでいる時に汗ばんだらどうすればいいですか、って? ちょっと!モジモジしながら上目遣いでこっちを見ないでよぉ! いやぁぁぁ!」
「そーすい! そーすいったら!」
「しっかりしてくださいよぉ!!」
「こうなったら、もう一度お風呂に入れるわよ!」
錯乱しながら風呂場を右往左往する『桃色宣教師』に、オネエたちが突進して風呂に沈めようとしたのだが。『桃色宣教師』は錯乱中でも身体は俊敏に動くらしく、オネエたちは氷風呂にボチャン、ボチャンと水しぶきを上げながら沈められた。
「やだぁ! つめたぁぁい☆」
「いやぁぁん!濡れて透けちゃったぁ。みんな見ちゃいやよぉ♪」
「錯乱中でも身体が勝手に動くなんてっ! やっぱりそーすいって素敵ですわぁ!」
「私達じゃ無理ね! ここは親衛隊にお願いしますわ! みんな入り口に退避よぉ!」
オネエの1人がそう叫ぶと、どこからともなく現れたマスカレードマスクの男たちが複数の魔法を同時に発動させ、風呂場全体に激しい雨を降らせた。錯乱中は魔法が使えない『桃色宣教師』は、無防備にその豪雨にうたれることになったのだが、氷のような冷たさと雨の勢いのおかげで、しばらくすると正気に戻った。
「はぁ、はぁ…。あ、貴方達もありがとう。感謝するわ」
『桃色宣教師』が礼を言うと、親衛隊は手を胸に当て、恭しく礼を取ってまた姿を消した。
「顔を見るのもだめだけど、名前を口にするのもダメね。こんなこと初めてだわ…」
「そーすいっ!私達があの子を殺してきますわ!」
「いいえダメよ。私があの子を克服してこそ、もっと強く美しくなれるの。貴方達は手出し無用よ」
「きゃぁぁぁ!素敵ぃ!」
「かっこいい!」
「もっともぉっと惚れちゃいますわぁ!」
「口にするのもダメってことは…。まずは字を眺めることから始めましょ。ダキュア、あの子の名前を紙に書いて私に見せてちょうだい」
「わかりましたぁ!」
ダキュアはそう言って大きく『ディスコーニ・シュアノー』書いた紙を渡したのだが。
「いやぁぁぁ!!! 鼻下をだらしなく伸ばした顔で、私に『はい、あ~ん』なんてしないで! 私に近寄らないでっ!」
「顔を赤らめて抱き枕を抱き締めないでっ! やだっ!枕にキスをしながら、こっちをチラチラ見ないでよぉ!」
「え!?キスのあと、どんな話をすればいいですかって? そんなの知らないわよ!」
「初体験はどこでするのが良いですかって? それこそ二人っきりになれる場所に決まってるじゃない! 最初が肝心なんだから、ちゃんと雰囲気も大事にするのよっ! 優しく、情熱的に!独りよがりになっちゃダメなんだからっ!」
「そーすい! そーすいったらぁ!」
「文字すらだめなのぉ?!」
「そーすいをこんな風にしてしまうなんて! なんて恐ろしい子なのかしらっ!」
「親衛隊のみなさぁぁん! またお願いしまぁす!」
「しばらくそーすいは療養に入るってことと、そーすいが始末する子だから手を出しちゃダメってみんなに伝えなくちゃ!」
こうして『桃色宣教師』のディスコーニ克服に向けた戦いが始まったのであった。
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(バルジアラの副官)
●リスドー ※腹心
●イスト
●ヴェーリ
●モルァニス
●アルトファーデル
(下級兵士)
●ライン(リスドーの部隊所属)
●ロア(イストの部隊所属)
●マルア(ヴェーリの部隊所属)
●ロンド(ヴェーリの部隊所属)
●ワンド(アルトファーデルの部隊所属)
●ドルマード(モルァニスの部隊所属)
(階級章のない上級兵士)
●ダナン(イストの部隊所属)
(銅の階級章を持つ上級兵士)
●ダルウェイ(リスドーの部隊所属)
●リーベイツ(モルァニスの部隊所属)
■□■□■□■□■□
「あははははは!!! こりゃあ傑作だ!」
疾走した時に生まれた風がひゅるりと流れた瞬間、我に返って何が起こったのかと思っていたら。バルジアラ様は大声で笑いながら、自分を絞め殺してもおかしくない程の怪力で抱き締めてきて、副官方は自分に拍手を送り始めた。
「ディスコーニ!よくやった!」
「なんてやつだ!」
「お前!お前ってやつは!!」
「素晴らしい!」
「もうお前しかいないよ!」
下級、中級、上級兵士達は目をキラキラさせて拍手をし、副官方は自分の肩を叩いたり、両手を使った握手をしたり、抱き締めたりして賛辞を送る。バルジアラ様は大声で笑いつつ、自分の頭をグシャグシャと豪快にかき混ぜたり、満足そうに何度も頷きながら褒めてくれる。
「アレを戦闘不能にしたのも撤退させたのも世界でお前がはじめてだ! まさかお前がこんな偉業を成し遂げられようとはなぁ。防衛戦成功よりもすごい成果だ」
「そう、なんですか…」
『桃色宣教師』が撤退したことが喜ばしいらしいが、なぜこうなったのかまったく理解できず嬉しさを感じない。困惑しながら周囲を見れば、前線にいたウィニストラ兵たちが、盛り上がる直轄部隊に視線を送りながらゾロゾロと撤退していた。
「しかし。奴はお前を童貞と言っていたが、本当にそうなのか?」
「はい…」
「なんで娼館に行かないんだ?」
「私は娼館には行きたくなくて」
「なんで?もしかして、お前男が好きなのか?」
「いいえ、私の恋愛対象は女性です」
自分の答えが意外なのか、目の前にいるバルジアラ様を始め、周囲にいる部隊全員が静まり返り、目が点になったような顔をしていた。
「えっと…。ディスコーニには恋人とか婚約者とか、決まった人がいるってこと?」
「いいえ、いません」
「好きな相手がいるってことか?」
「はい」
「その人とはなかなか会えないとか?」
「そうですね。まだ出会えていませんので…」
「え? 出会っていない?」
「出会っていないけど、決めた人がいるってこと?」
バルジアラ様や5人の副官方から質問攻めに合っていると、ラインやロア達も興味があるのか、どんどん自分との距離を詰めてきた。
「『桃色宣教師』とのやり取りを聞いてたけど、ディスコーニは『運命の人』がいると思ってて、その人としかやりたくないから娼館に行かないってことで合ってる?」
「そうですね」
「ディスコーニって性欲ある、よね?」
「はい…」
「女に興味あるだろ?」
「女性全般には興味はありませんが、心に決めた人にだけ興味があります」
「19だったら、やりたくてやりたくてたまんねぇだろ。我慢してんのか?」
「その人に出会うまで待ちます」
「童貞じゃないと出会えないわけじゃないだろ。なんでそんなに拘るんだ」
「私はその人とだけ経験出来ればいいんです」
自分を除いた全員が目をパチパチとさせて呆然としてしまったが、そんなにおかしなことを言っているだろうか。
「この先その人と出会えたとして、付き合ったけど結局別れることになったらどうする?」
「そんなことにならないと思いますが、フラレたら復縁出来るまで待ちます」
「未来なんて誰にも分からないのに。なんでそんな自信があるんだ」
「その人とは運命で繋がっていると思っていますから」
「運命って!ぷっ!」
ほとんどの人たちが自分を珍しいものを見たような顔をしているなか、バルジアラ様は今にも笑い出しそうな口を押さえて俯いた。
「その人も誰とも付き合わずにいると思うの?」
「『愛する人とだけ結ばれたい』というのは、あくまで私の価値観です。相手にそれを求めるつもりはありません」
「ってことは、その人が他の人と付き合っていてもいいってこと? 結婚してたらどうするんだ?」
「自分を選んでくれるまで。別れるのをずっと待ちます」
「なんでそんなに1人に拘るの? もしかして不特定多数を相手にする娼婦が汚いとか思ってる?」
「そんなことは思っていません。ただ心から愛した人だけで十分なんです」
「こりゃあまさに『夢見る童貞』だな!あっはっは!」
バルジアラ様が笑うと、仲間たちもつられるように笑い始めた。恋愛観なんて個人特有のものだというのに、そんなに笑うような内容なのだろうか。
「んじゃ、キスもしたことないのか?」
「ありません」
「女の裸も見たことも?」
「ありません」
「お!顔が赤くなった。こりゃあからかいがいがあるな! 胸はデカイほうがいいか?」
「そういうのはありません」
バルジアラ様の矢継ぎ早の質問にはちゃんと答えたのだが、女性の裸や胸といった単語を聞いていると、急に恥ずかしくなってきた。それがバルジアラ様には面白かったようで、いたずらっ子の少年のような笑みを浮かべた。
「その相手が見つかったら、お前は童貞を卒業するんだろ? やり方知ってんのか?」
「一般常識の範囲で…」
級友たちとの会話や父の書斎にあった本で、肌と肌を合わせたら、手と口で触れ合って、お互いの準備が整えば1つになれば良いというのは知っている。でもそれでは足りないのだろうか。
「お前、折角出会った相手に失敗して微妙な空気になるのは嫌だろ? 最悪嫌われるかもしれんぞ。俺たちが教えてやろうか」
「大丈夫です」
「遠慮するなよ。その様子だと知らねぇんだろ? 挿れて腰振って出しとけばいいってもんじゃないんだ。なぁ?」
「バルジアラ様、とりあえず帰還しましょう」
リスドー様に促され、戦場から一番近い街に向かって帰還している間、徒歩で移動する仲間たちは自分を取り囲んだ。
「なぁなぁ。もう一度聞くけど、その人とは会ったことないんだよね?」
「えぇ。まだ出会っていません」
「出会う前に死んだらどうするの?」
「その時は仕方がありません。来世で早く出会えることを信じます」
「ら、来世?」
「来世でも同じ相手が『運命の人』ってこと?」
「はい」
「あはははは!!」
「ディスコーニは夢を見すぎだ!」
「妄想の相手に操を立てるなんて!」
「聞いてるこっちが恥ずかしいっ!」
自分の答えを聞いた仲間たちは腹を抱えて笑い出し、階級に関係なく仲間内で肩や背中を叩きあい、自分を見ては笑っている。
自分のような価値観を持っているのは少数なのだとは思うし、笑われると自分だけでなく『彼女』まで否定されたような感じがして心地悪い。でも。
ーー世界のどこかにディズと恋に落ちる『運命の人』がいて、その時が来たら『あぁ、この人だ。この人だったんだ』って心が動くと思うよ。
こう考えてるって話すと男女問わず笑われたりするし、現実離れの夢を見てダサいとか、いい歳して童貞守ってるのか?とか、からかわれて居心地は悪いけど。自分を大事にすることは、相手を大事にすることと同じなんだ。運命で繋がったその人は絶対馬鹿にしないよ。
誰かを想う純粋な気持ちは、きっと幸せな未来を運んできてくれる。他の人がなんと言おうと、私はそう信じているよ。
自分は自分。愛する人にだけ理解してもらえれば、万人に理解されなくても構わない。父の言葉を反芻しながら言い聞かせれば、心地悪さが少しずつ消えていくような気がした。
■■■おまけ■■■
「違うわ!何度言ったら分かるの!? ダンスを踊る時はもっとキレのある動きで、周囲を圧倒させなきゃだめよ! それくらいしなきゃご両親は認めてくれないわ!」
「ファーストキスをする時のおすすめの場所を教えて欲しいですって? そうねぇ。やっぱり雰囲気があって静かな場所がいいと思うわ。そうだ!デートにピクニックに行って、その時なんてどうかしら」
「え?キスが失敗したらどうすればいいですかですって?! 失敗しないように練習するしかないでしょ!
ちょ、ちょっと! そんなタコみたいに口を尖らせて、私にキスを迫ってこないでっ! ちょっと放しなさいっ!」
戦場を離脱し、マッサージ店のある街まで運ばれた『桃色宣教師』は、相変わらず幻に取り憑かれて現実に戻ってこれずにいた。板に縛り付けていたものの、何度もロープが引き千切れそうになったらしく、その上から追加で巻いたぶんだけ厚みが増している。常人なら身動きがとれないはずなのに、この状況でも『桃色宣教師』はロープを引き千切ろう暴れていた。
「そーすい、そーすい! しっかりしてくださいよぉ」
「お風呂に氷をたくさん浮かべてちょうだい!」
「わかりましたぁ!」
「白魔法が効かないなら、しょうがないわ! 水にドボンさせるわよ! 行くわよぉ!せぇぇぇのぉぉっ!」
ガタイの良いオネエたちは、店の奥にある巨大な風呂場に『桃色宣教師』を乗せた板を持っていくと、板にくくりつけたまま氷が浮かぶ水風呂に投げ入れた。風呂場にこだまするドボーンという豪快な音と天井に届く派手な水しぶきが収まる頃、ゴボゴボと泡立つ風呂から右手に引きちぎったロープを、左腕に板を抱えた大男が現れた。
白いドレスはずぶ濡れになり、肌に密着しているからその体格の良さが余計に際立っているが、下腹部にはしっかりとド派手なスカーフが巻かれている。
「そーすい!大丈夫ですかぁ?」
「な、なんとか…。この冷たさのおかげでやっと幻が分離出来たわ。あなた達、本当にありがとっ☆」
「良かったぁ!」
「元気そうでなによりですぅ!」
「きゃぁぁ♪ ドレスが濡れてセクシーですわ!」
「それにしても、そーすいに何が起こったんですの?私、お隣にいたのに全然分からなかったですぅ」
「ディスコーニちゃ…」
風呂場の隅に控える仲間たちの前へと歩いていた『桃色宣教師』は、急に足を止めたと同時に手から力が抜けたようにロープと板を落とした。時が止まったかのような表情で固まっていたが、両手の小刻みな震えが少しずつ全身に広がり始めると、周囲のオネエたちは異変を察知しアタフタと慌て始めた。
「そ、そーすい?」
「どう、しちゃったんですか…?」
「いやぁぁ!! 名前を言っただけでまた頭の中にぃぃ!!」
「そーすい! ここにはあの子はいませんわ! しっかりしてください!」
「ファーストキスって、どんな感じでしたか? 是非教えて下さいですって?! そんなこと絶対教えないわ! え?ネギ味ですかって?! そんなわけないじゃない!そういうのは乙女のヒミツなのっ!」
「手を繋いでいる時に汗ばんだらどうすればいいですか、って? ちょっと!モジモジしながら上目遣いでこっちを見ないでよぉ! いやぁぁぁ!」
「そーすい! そーすいったら!」
「しっかりしてくださいよぉ!!」
「こうなったら、もう一度お風呂に入れるわよ!」
錯乱しながら風呂場を右往左往する『桃色宣教師』に、オネエたちが突進して風呂に沈めようとしたのだが。『桃色宣教師』は錯乱中でも身体は俊敏に動くらしく、オネエたちは氷風呂にボチャン、ボチャンと水しぶきを上げながら沈められた。
「やだぁ! つめたぁぁい☆」
「いやぁぁん!濡れて透けちゃったぁ。みんな見ちゃいやよぉ♪」
「錯乱中でも身体が勝手に動くなんてっ! やっぱりそーすいって素敵ですわぁ!」
「私達じゃ無理ね! ここは親衛隊にお願いしますわ! みんな入り口に退避よぉ!」
オネエの1人がそう叫ぶと、どこからともなく現れたマスカレードマスクの男たちが複数の魔法を同時に発動させ、風呂場全体に激しい雨を降らせた。錯乱中は魔法が使えない『桃色宣教師』は、無防備にその豪雨にうたれることになったのだが、氷のような冷たさと雨の勢いのおかげで、しばらくすると正気に戻った。
「はぁ、はぁ…。あ、貴方達もありがとう。感謝するわ」
『桃色宣教師』が礼を言うと、親衛隊は手を胸に当て、恭しく礼を取ってまた姿を消した。
「顔を見るのもだめだけど、名前を口にするのもダメね。こんなこと初めてだわ…」
「そーすいっ!私達があの子を殺してきますわ!」
「いいえダメよ。私があの子を克服してこそ、もっと強く美しくなれるの。貴方達は手出し無用よ」
「きゃぁぁぁ!素敵ぃ!」
「かっこいい!」
「もっともぉっと惚れちゃいますわぁ!」
「口にするのもダメってことは…。まずは字を眺めることから始めましょ。ダキュア、あの子の名前を紙に書いて私に見せてちょうだい」
「わかりましたぁ!」
ダキュアはそう言って大きく『ディスコーニ・シュアノー』書いた紙を渡したのだが。
「いやぁぁぁ!!! 鼻下をだらしなく伸ばした顔で、私に『はい、あ~ん』なんてしないで! 私に近寄らないでっ!」
「顔を赤らめて抱き枕を抱き締めないでっ! やだっ!枕にキスをしながら、こっちをチラチラ見ないでよぉ!」
「え!?キスのあと、どんな話をすればいいですかって? そんなの知らないわよ!」
「初体験はどこでするのが良いですかって? それこそ二人っきりになれる場所に決まってるじゃない! 最初が肝心なんだから、ちゃんと雰囲気も大事にするのよっ! 優しく、情熱的に!独りよがりになっちゃダメなんだからっ!」
「そーすい! そーすいったらぁ!」
「文字すらだめなのぉ?!」
「そーすいをこんな風にしてしまうなんて! なんて恐ろしい子なのかしらっ!」
「親衛隊のみなさぁぁん! またお願いしまぁす!」
「しばらくそーすいは療養に入るってことと、そーすいが始末する子だから手を出しちゃダメってみんなに伝えなくちゃ!」
こうして『桃色宣教師』のディスコーニ克服に向けた戦いが始まったのであった。
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変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
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