天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第9章 新たな関係

6.寂れた町

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私達はトラントとマードリアの関所にやって来た。
いつものように私がルクトの越境に必要な書類を記入し、トラントを出国しマードリアに入国出来た。



「んじゃ、とりあえずここから一番近い町で1泊して、地方都市のヤンゴートを目指そうか」


「行き先はまかせる」


私達がマードリア側の関所を抜けると、トラント側に向かう越境待ちの人達がズラリと並んでいた。
どんな国の関所でも、その列には商人や観光客、貴族といった民間人も混ざっていることが多いのだが、目の前の行列はほとんど傭兵だった。




「この関所、傭兵ばかりであんまり民間人がいないね。私が前に来た時は、商人とか民間人が居たと思うんだけど」


私が以前この国を訪れた時にも、この関所を通った。
その時も今と同じで傭兵の数は多かったが、観光客や大きな荷物を背負った商人、物々しい数の軍人に護衛された荷馬車を引く商人の姿も見かけた。


でも、今はそういった人達の姿は見当たらない。



軍人に護衛された商人なんて初めて見たな、と思って宿場町の人に聞いたら、その商人はこの国で採れた金を輸出先に持って行く途中だと言っていた。

金を欲しがる盗賊は彼らを狙って襲うので、護衛は軍人が務めることになっているそうだ。




護衛と言えば傭兵がよく務める仕事の1つだが、お金で雇われた傭兵は盗賊とグルになって裏切る可能性があるから、軍人が護衛することになっているらしい。

金は普通の貿易品とは違い、国が取引先や取引量を管理している大事な品物だ。きちんと取引場所に金が届かなければ、国の信用問題に関わるだろう。


途中で盗賊に奪われましたなんて事態になったら、『マードリアはきちんと金を守るくらいの護衛も出来ないのか。これは国防が手薄いという事で、攻め込めるチャンスでは?』と思われて信用はガタ落ち、最悪攻め込まれる。



だからマードリアは小国ながらも、国防に力を入れて優秀な軍を持っていると聞いたのだが。





「この国は金で収入を得ているから、観光に積極的にならなくてもやっていけるんだろ。
それにしても、ここはマードリアにも関わらずサザベルの軍人がやたらと多いな」


「ルクトはこの国に初めて来た?」


「あぁ」


「私が以前来た時も、マードリアなのにサザベルの軍人が居たんだ。その時よりもサザベルの軍人が多くなってる気がする。
新聞の情報じゃ何も出てなかったけど、戦争が近いのかな」


この国と軍事同盟を結んでいるサザベルの軍人がいっぱいいるということは、この国に攻め込んでくるような戦争が近いのかと思ったのだが、ルクトはチラリと軍人を見て首を小さく横に振った。



「傭兵が出て行ってるし、軍人の様子からしても戦争はないと思う。
でもこの国、サザベルと軍事同盟を結んでるとは言え、何で関所くらい自国の軍に任せないんだか。
これじゃまるで『関所も守れないくらい弱い国です』って言ってるようなもんだ」


「トラントは嫌な感じの国だったけど、この国もそうなのかな」


「どうだかなぁ。まともな国なんて、世界のどこを探してもそうあるもんじゃないからな。どの国も大抵黒い部分を持ってるはずだ。
とりあえず、ここから1番近い町まであと半日はかかりそうだから先を急ぐか」


「うん、そうだね」


関所の前に広がる宿場町を抜けると、切り立った高い山々が私達を出迎えた。

遠くに見える山は岩肌が剥き出しの灰色ばかりだが、街道が続く先にある山は木々が生えた緑色だ。マードリアの主要産物である金は灰色の切り立った山にあると聞くので、あの高く険しい山を登って掘っているんだろう。





私達は越境のために関所に向かう傭兵達とすれ違いながら、アドーニという農業が盛んな小さな町に到着した。


この地域は豊富な水と栄養に富んだ土に恵まれているので、美味しい農産物が取れると有名な場所だ。

この町の周辺だけでなく、町中でも野菜を育てている畑があって、宿の食堂では敷地内の畑から採った野菜をたっぷり使った料理がすごく美味しかった。
市場で野菜を買うと、果物と野菜をすりつぶしてジュースにしてくれたりもして、とても楽しかった思い出がある。


そんな楽しみな町だったのだが。





「なんか寂れてんなぁ」


「そうだね。人も少ないけど、ここはサザベルの軍人もいないみたいね」


「こんだけ寂れた町なら、サザベルが出張でばる必要もなさそうだしな」


町の中には軍人だけでなく、傭兵の姿もちらほらと見かけるが、町の中を歩いてもすれ違う民間人は少ない。
商店があった場所は道具屋を除いてほとんど店仕舞いされていて、商人の姿は見かけない。市場に繋がる区画は、入れないように封鎖されていた。


町が小さいからなのか、ここにはサザベルの軍服を着た人はおらず、町の詰め所で働くマードリア軍の軍人しかいないようだ。


大通りを歩いている人は少ないし、何だか町に活気がない。

この町に来るのは2回目だが、その時はたくさんの商人が野菜の買い付けに来たりして、賑わっていたと思うのだが。
戦場が近いわけでもないのに、なんでこんなに寂れた感じなのだろうか。




町長さんの家に挨拶に行くと、何だか覇気のない弱々しい雰囲気の漂う町長さんが出迎えてくれた。
私がここに来たのは、確か2年近く前だったと思う。その時はハキハキした町長さんだったと記憶しているのだが。


「シェニカ様、以前も治療院を開いて頂きありがとうございました。治療院には、今回も道具屋の隣にある空き家をお使い下さい」


「あの、この町の商店や市場はどうして閉まっているんでしょうか。美味しい野菜が売ってあったと思うんですけど…」


「時代の流れなんです」


町長さんは窓の外に広がる荒れた畑を見ながら、何だか寂しそうな顔をしていた。

その様子を見ると、詳しく話を聞くことはできなかった。






「ねぇ、ルクト。この町にも情報屋ってあるかな」


「あると思うが。行きたいのか?」


「うん。なんか前に来た時とあまりにも雰囲気が違うから、なんでか知りたくて」



宿を取った後、ルクトに連れられて看板のない小さなドアの前に立った。
情報屋というものは、大体路地裏にあって、こうして看板代わりのランタンで店の存在を知らせるそうだ。


ドアをくぐると、小さなカウンター席の向こうに、目がほとんど開いてなさそうなつぶらな目をした、白髭を蓄えたお爺さんがお皿を洗っていた。


「いらっしゃいませ」


「酒を2つ」

ルクトが注文すると、彼は目で『ほら、話してみろ』と言ってきた。



「あの。前に来た時、この町は賑わっていたと思うんですけど、何があったんですか?」


ドキドキしながらお爺さんに話しかけると、お爺さんはグラスにお酒を静かに注ぎながら私を見て、一瞬悲しそうに微笑んだ。



「今から一年半前、前国王の死去に伴い現国王の治世となりました。
まだ年若い国王は、重臣をそのまま引き継いだのですが、しばらくしてサザベルの王女を王妃に迎え入れてからは、様々な変化が起きました」


私達の前にお酒が置かれると、ルクトが金貨を1枚置いてくれた。
お爺さんがその金貨の上に静かに手を置いて、音もなくお金を受け取った。



「変化?」


「この国はサザベルからの農産物を積極的に輸入するようになり、サザベル国籍の者であれば、比較的簡単な審査で越境出来るようになりました。
また、この国への侵略戦争が起きると、すぐにサザベルの軍が加勢出来るように、サザベル軍専用の駐屯地も出来ました。
この他にもサザベルに有利な政策が取られるようになったのです。

その影響で、この町のような国内の農作地では、サザベルからの輸入した農産物が国から格安で払い下げられるので、作る必要がなくなりました。

仕事をする必要がなくなった者は、地方都市や首都といった大きな街に行って、その日暮らせるだけの収入が得られる仕事をしているそうです。


そうした理由で人口が減り、産業もなくなったので、この町は以前より活気がないと感じられるのではないのでしょうか?」


「そう…だったんですか」


だから町長さんが寂しい目で荒れた畑を見ていたのかと思っていると、ルクトが飲み干したグラスをコトリと置いた。



「酒をもう1杯。随分とサザベル寄りの政治してるが、これじゃ属国みたいだな。誰も意見しないのか?」



「前国王時代から仕えていた重臣達はもちろん意見しました。
ですが、まだ年若いからなのか、王妃が有能だからか分かりませんが、国王はその進言は聞き入れず、自分の判断を押し通したようです。

意見した重臣達は辺境の地に左遷されたと聞きますが、その姿を誰も見た者はいないので処刑されたのではと噂されています」


「あの、確か前国王時代ですけど、第5王子は良識のある方だったと思いますが、その方は?」


「あぁ。エルシード王子ですね。かの方は、マードリアの1番南の街に事実上幽閉されているそうです」


「幽閉?」


「国王からしてみれば、頭が切れて民衆の人気も高いエルシード王子は目の上のタンコブ。
前国王が崩御する頃に暗殺の手が何度も伸びたと聞いていますが、何とか逃れたそうです。

暗殺者を送ったのは当時の王太子で、エルシード王子は彼に忠誠を誓う代わりに身の安全を要求したそうです。
王太子はそれを承諾し、今は首都から離れた何もない辺境の地で、軍の監視の元で生かさず殺さずの状況で幽閉しているそうです」


「そんなに偏った政策を取る国王なら、クーデターや民衆の蜂起は起こらないのか?」


「この国は金で収入を得ていますので、財政的にはかなり余裕があります。
その恩恵として国民への税負担はありませんから、『白い渡り鳥』様があまり来ないという事を除けば、これと言って大きな不満はないのです。ですから、蜂起は起きないでしょう」






私達は情報屋のお店から出ると、普通の酒場で飲み直すことになった。

酒場には傭兵や民間人はいるが、軍人は居なかった。大声で話す声や笑い声で、酒場は町の様子とは違ってとても賑やかだった。




「お前はどうしてこの国の王子の事を知ってるんだ?」

ルクトは綺麗な琥珀色のお酒の入ったグラスを回すような仕草をしながら、鋭さのある目で私を見てきた。何だかちょっと不機嫌そうな感じがするが、強いお酒を飲んでいるみたいだから酔いが回っているのだろうか。



「前にこの国に来た時、首都で治療院を開いたんだ。その時に前国王に挨拶をしたんだけど、その場に王族がいたから知ってるんだ。
世間話程度しかしてないから、当然カケラは交換しなかったし、繋がりはないんだけどね」




「へぇ、そうなんだ。トラントは関わりたくない国だったが、この国はサザベルに乗っ取られそうだな」


ルクトは鋭い視線と不機嫌そうな空気を引っ込めて、持っていたグラスを一気に飲み干すと、テーブルの近くを通った店の人におかわりのお酒を注文した。酔いが回っていてもまだ飲むらしい。

本当によく飲むなぁ。これで二日酔いしたところなんて見たことないから、本当に凄いと思う。



「そうね。今の国王には会いたくないから、首都に行って治療院開くのはやめておこうかな」


「その方が良いだろうな。じゃあ地方都市を回って別の国に行くか?」


「うん。そうだね。ルクト、リクエストはある?」


「そうだな…」


ルクトは世界地図を小さく広げると、頬杖をついて考え込む仕草をした。
彼はあまり行き先にこだわりはないように見えたが、行きたい国が出て来たのだろうか。




「ギルキアが良いかな」


「ギルキア?温泉に入りたいの?」


ギルキアというのは、火山帯がある影響で温泉が湧いている小国だ。
温泉があるだけで、これといって特徴のない国だが、温泉目当てなんだろうか。



「あーうん。お前、ずっと働き詰めだろ?たまには温泉入ってゆっくり休んだらどうだ?」


「え…。そ、そうだね」


「じゃ、決まりな」


ルクトが私に休んだらどうかって気を遣ってくれている。彼のその言葉がとても意外で驚いたけど、気にかけてくれている事実がとっても嬉しい。
本当に私はルクトに大事にされているんだなぁ。


色んな人に怖がられるルクトだけど、こうして優しい面もあったりする。そんな所を実感してしまうと、また胸がドキドキしてしまう。




ーーギルキアかぁ〜。仕事を休むなんて随分久しぶりだから、楽しみだな。


温泉地の温泉ってなかなか行く機会がないから、今からとても楽しみになる。 私は美肌の湯とかが良いけど、ルクトはお酒や食事が美味しい宿が良いよね。


これはリサーチしなければ。






翌日、ギルキアの事で浮かれていた私だったが、治療院を開くとため息しか出ない状況になっていた。


「シェニカ様、これから俺と食事に行こうよ」


「間に合ってます。治療終わりました。出口はあちらです」



ため息の原因は、マードリアの軍人がしてくるナンパだ。


今、私をナンパしているヒョロっとした軍人だけじゃない。来る軍人が全員ナンパするのだ。

普通ナンパしてくるのは傭兵で、厳しい規律を叩き込まれた軍人はナンパなんてして来ない。
なのに、この国の軍人はナンパしてくる。



「シェニカ様。俺、今度副官の組織する部隊に配属されるんだ。ゆくゆくは副官になるだろうし、将来は将軍になれると思う」


「はぁ」


ーーこの人、面倒だなぁ。断ってるんだから、早く諦めて帰ってくれ…。


ルクトをチラリと見ると、立ったまま気怠げに壁に寄りかかって腕を組み、呆れた表情で軍人を見ている。

そんな姿が様になっていて一段とカッコよく見える。



ルクトをカッコいいなと思うと、また胸がドキドキしてくる。
彼のことを考えると胸がドキドキしてしまうので、私はまだ若いのにそのうち心臓発作で死にそうな気がする。

ドキドキする度に治療魔法をかけた方が良いのではないかと、本気で心配になって、実際何度か自分に上級の治療魔法をかけてしまった。
魔力の無駄遣いと言われるかもしれないが、身体が資本なのできっと許されるだろう。




「俺って、国王陛下から金の取引を任された商家の息子でもあるんだ。だから、将来は金持ちな将軍なんだ」


私の胸のドキドキは、勘違いな患者の言葉で冷水を浴びせられ、平常心に戻された。




「それは良かったですね…。お帰りはあちらですよ」


いい加減帰ってよ。後がつかえているんだよっ!とイライラのボルテージはどんどん上がっていく。



「好きな物は何でも買ってあげるよ。俺、見た目も良いし、金はあるし、将来は将軍だから身分もバッチリだよ。
だから結婚しよう。結婚式はいつにしようか」



ブチッ……。

勘違い発言に、とうとう堪忍袋が切れた音がした。







「するかボケェェ〜!!軽々しくプロポーズなんてすんなぁっ!」


バキィィッッ!!


私はドキドキを邪魔され、何度もナンパされる状況にいい加減に嫌気がさし、溜まりに溜まった怒りが爆発して、口汚く叫んで思いっきりグーパンチをしてしまった。




「おい。気絶してるぞ。お前の右ストレートも凄いな。予備動作が最小限でスピードが速い……」


ルクトは椅子から離れた場所に倒れた患者に近寄り、足先で軽く蹴って反応を見ている。
雑な扱いをされても、ルクトをたしなめる気にもならない。
むしろ踏んでも、今回に限って私は何も言わない。




「こいつは見るからに実力不足だと思うが、これが副官の部隊に入れるのか?信じられんな」


「とりあえず治療魔法かけて…と。ルクト、この人を待合室の外に出しておいて」


私がそう言うと、ルクトは患者の首根っこを掴んでズルズル引きずり、治療部屋の外に繋がるドアを開けてドサリと放り投げて誰かと会話していた。




「何か言われた?」


「すぐそこに軍の奴がいたから、『白い渡り鳥』にセクハラしたから、お前に殴られて気絶したって正直に言っといた。『すみませんでした』って言って運び出してたぞ」


「そ、そっか良かった」


その一件以降、治療が終わった後の軍人のナンパは鳴りを潜めたのだが。




「シェ、シェニカ様。治療ありがとうございましたっ!」


「ありがとうございましたっ!失礼しましたぁっ!」


私よりも絶対強い人なのに、軍人が私に少し怯えた様子で治療院を去って行くようになった。嬉しいような、ちょっと心外のような…。複雑な気持ちになる。



2日目の治療でもそんな軍人が続出する中、治療を終えた傭兵が、私を見てクスクス笑いながら話しかけてきた。


「先生、ナンパした軍人を殴り飛ばして気絶させたって本当?」


「えっと?どこでそれを?」


「やっぱり本当なんだ!あははは!
いや、昨日治療院から気絶した軍人が運び出されてたから、町中その話で持ちきり!
その時、待合室にいた奴らが、護衛が『先生が殴り飛ばして気絶させたって』って言って放り出してたって聞いたから、面白くって!」


「そ、そうですか」


「この国の軍人って、金持ち出身が多いからか知らないけど、なんかやたらと見下して来てさ。
嫌ってる傭兵がかなり多いから、先生に殴られた話を聞いたら面白くって。いい酒の肴になってるよ!ありがとう、先生」


「そ、そりゃどうも」




民間人や傭兵は少ないし、町にはマードリアの軍人くらいしかいないからか、治療院は2日目の夕方前には終わった。
これなら明日には町を発つ事が出来ると、町長さんに報告をして宿への帰り道を歩いていた時、あるお店が目に入った。



「ねぇねぇ。あそこの古書店に行っていい?」


「構わねぇけど、何買うんだ?」


「ギルキアの観光本を見たいなって思ってさ」



ルクトと2人で小さな古書店に入ると、そこは本棚が整然と並べられた店内になっていた。
入り口近くに店主が居るカウンターがあるが、その前には木の長椅子があって、本が座って読めるようになっている。



「俺はここで座って待ってる」


「うん、分かった」


ルクトは長椅子に座ったのを見届けて、私は『観光』と分類された本棚の方に歩いた。




「ふんふんふ〜ん♪」

いつだってあちこちの国を回っているが、ルクトと良い感じの雰囲気になれそうな場所には行ったことがない。

仕事を休んで温泉地に行くなんて、まるでデートのようだ。




ーールクトと手とか繋いじゃったりしたらどうしよう。部屋は別になるはずだから安心だけど、ウキウキし過ぎて1人で枕投げとかしちゃいそう!きゃ〜!楽しみっ!!


そう思うと胸がドキドキして、ワクワクして鼻歌が止まらない。




ーーあ。これ…。読んでみたいな。


ジャンルは違うが気になった本をパラパラと捲っていると、ルクトの声がかけられたので慌てて本を元に戻した。


「良い本があったか??」


「うん!まだ新しいギルキアの温泉地特集の本を見つけたんだ。これ買うね」






宿の食堂でご飯を食べた後、食後のお茶を飲みながら買ったばかりの観光本を開いた。


「ルクトは、どんな宿が良い?」


食い入るように読みながらページを捲っていると、あるページで私の目は釘付けになった。





ーー知る人ぞ知る、秘境にある美肌の湯ですって!?



こ、ここにしたい。どうやらお酒も食事も美味しいらしいから、ちょっと高いけどここがいい。



「俺は酒とメシが美味いところかな。あと、静かな所が良い」


「そっか。いくつか候補考えておくね」


部屋に戻ってベッドの上で観光本を何度も読み返す。ギルキアは温泉地帯があちこちにあるらしく、山裾辺りに広がる温泉地、山の上にある秘境の温泉地、湖の近くにある温泉地と気になる場所ばかりだ。


「良いお宿がいっぱいあって、どこにしようか迷っちゃうなぁ。
まだ時間があるからルクトと相談しながら、ゆっくり決めよ」



ルクトって、きっとあのおねーさんのように、ボンッ!キュッ!ボーン!な色気に満ち溢れた感じの人が好みに違いない。


おねーさんの理想的なプロポーションに比べれば、私はもう悲しくなるくらいのレベルだ。



プロポーションはどうしようもないから諦めるしかないが、私に何か出来ることはないだろうかと、古書店で少しだけ読んだ恋愛マニュアル本の中身を思い出した。


ーーえっと、確か『傭兵の男性は、三度の飯より好きなものがある。賭け事、お酒、女性、喧嘩などが大好き。
そんなどうしようもない彼を好きになってしまったら、貴女は彼との距離を少しずつ深めよう!
まずは彼が好きな物に興味を持ち、共通の話題をもとう』って書いてあったな。


ルクトってお酒大好きだもんな〜。お酒を共通の話題にするのかぁ。
私、お酒弱いけど大丈夫かなぁ?



ーー『次は彼とのボディタッチを交えた会話をしよう!』だったはず。

ボディタッチを交えた会話ってどうすればいいんだろう。あの時、ルクトが声をかけなければ、もう少し見れたのになぁ。



私はギルキアの温泉とルクトのことで頭がいっぱいになり、キナ臭さのあるマードリアの旅を忘れそうになった。




ーーーーーーーーー



シェニカにギルキアの温泉地に行きたいとリクエストしたのは、シェニカに言った通り、働き詰めのあいつを休ませたいというのもあるが、当然下心がたっぷりと詰まっている。



温泉地にはシングルの部屋はないはずだ。
となると、当然2人で1つの部屋を取ることになる。



野宿の時とは違い、ベッドか布団で寝るから胸に直に触れる!!


野宿の時、服の上から胸に触れていると直に触りたくなる。
寝袋に入ったまま胸に直接触れることも可能だが、寝袋が邪魔でしっかり堪能出来ない。どうせなら目でしっかり見て、起こさない程度に触りたい。



俺のそんな下心になんて微塵も気付いていない鈍感なシェニカは、よほど温泉を楽しみにしているのか一生懸命観光本を見ていた。


まるで、狼に食べられるのも知らない兎が、鼻歌交じりにスキップしながら野を駆けているようだ。


早くこの美味しそうなシェニカを食べてしまいたい。



さっさとこの国を出てギルキアの温泉地に行きたい。
温泉宿の夜は、シェニカと一緒のベッドか布団で、出来ればあいつの合意の上で色々とやりたい。


それまでに何とか俺を男として認識させ、俺を好きになるように何とか距離を縮めたい。
だが、あの鈍いシェニカ相手にどこまで出来るか、正直言って分からない。

それでも出来れば恋人関係になって、あれやこれやヤりたい!




胸だけじゃなく、身体全体も柔らかいんだろうなぁ。あいつ、どんな声で喘ぐのかな。

色白だから、顔を真っ赤にしたら、全身はピンク色になったりするのかな。



『ルクト。もっとして…』


『ああっ!ルクトぉっ!』



あいつは普段自分の要望なんて口に出さないから、ベッドの上だと、あいつが素直に俺を強請ってくるのが良いな。俺好みにしっかり教え込んでやりたい。





……。



俺の頭の中では、シェニカと結ばれて朝から晩までベッドの上でよろしくヤッている想像でいっぱいだ。



レオンは居ないし、治療院でムラッとすることが最近ないから、俺の手の甲はキレイなままで指輪の世話になることもないが、俺の手は別の意味で忙しくなった。



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