天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第11章 天使と悪魔が交わる時

2.はむはむ、ぷにぷに ※R18

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シェニカの部屋にいる時は、嬉しさで顔が笑ってしまいそうになるのをプライドをかけて堪えていたが、自分の部屋に戻って風呂場に行って鏡を見れば、『赤い悪魔』が嬉しそうにニヤついている。
 



顔を引き締めるために少し冷たい水のシャワーを浴び、ベッドにゴロリと横になった。


「はぁ〜。長かった。やっと俺に振り向かせられた。さて、これからどう料理してやろうか」


 
 
目を閉じて思い出すのは、昨日見た男に組み敷かれたシェニカの身体だ。

今まではっきりとは見たことのなかった服の下には、あの男のように夢中で貪りたくなるような、魅力的な身体が隠されていた。


あんな状況じゃなく、シェニカと恋人になる前に見ていたら、あの男の様に襲いかかっていただろう。
我慢して服や下着の上から胸に触るだけで止めておいて良かった。
 





主従の誓いの研究者から「従者が一方的に好意を寄せると、主人は相手にしきれなくなって誓いを破棄する結果になる」と言われてから、シェニカに嫌われるのが余計に怖かった。
 
 
だから誓いが破棄された後も、自分の欲求を必死に抑え、まじないと称した子供じみた接触を楽しみつつ、ウブなあいつのレベルに合わせていた。
 
でも、今回のように神殿から邪魔な男が贈られてきた挙句、襲われてしまうという状況になってしまうと、もう待てそうにもなかった。

 



他の男に奪われるくらいなら、先にあいつを自分のものにしたい。
あいつは俺の物なんだと、俺とあいつの身体に深く深く刻みつけたい。


そんな焦る気持ちもあって、少々強引に告白させた。



 
 
「あいつ初めてだけど優しくしてやれるか?今まで相手の状況なんて考えてなかったからなぁ。
でも、最初しくじると絶対マズイよなぁ」
 
 
俺はシェニカと出会う前。娼館でのことを思い出した。
 
 
 
 
どこの街でも、娼館が軒を連ねる道を歩けば、俺が『赤い悪魔』と気付いた奴らや客引きの視線を一斉に浴びる。
奴らは俺がどの店でどんな相手を選ぶのか、堂々と観察していて居心地が悪くて堪らなかった。
 
 
 
「あら、素敵な人!貴方みたいな人に選んで貰えるなんて嬉しいわ。お酒飲む?私は」
 
 
 
「酒はいらない。さっさと服を脱いでうつ伏せになれ」
 
 
適当な店で適当に選んだ女の部屋に行って、俺は何か言い始めた女に短くそう命令すると、女は呆れた様子で俺の言う通りに服を脱いでベッドの上でうつ伏せに寝た。
 
 
俺は腰に差していた剣をベッドの上の自分の手の届く範囲に置くと、ベルトとズボンを緩めて女に覆い被さった。
 
女は近くに俺の剣がある事に気付くと、身体を捩って眉を顰めて俺を見た。
 


 
「ねぇ、折角なんだからこんな不粋な物をベッドに置かないで?」
 
 
「うるせぇよ。黙って言う通りにしてろ」
 
 
俺は女の首の後ろを押してベッドに押さえつけた。
 




 
「あ…ん。ああっ!」
 
 
手を伸ばして胸を揉みしだけば、すぐに硬くなる尖端を指で弄る。
背中や尻を触って女特有の柔らかい身体をひとしきり手で触れた後は、硬くなったモノを女の中に入れて、無造作に腰を振って快感を貪った。
 
 
 
 
「あぁっ!あああっ!あ、あ、あぁぁぁ!」
 
 
乱暴な扱いにも慣れている女は簡単に絶頂を迎え、俺は女の中から引き抜いて柔らかな背中の上で果てた。
背中に吐き出した物を布で拭き取り、呼吸を整えて女の上から退くと、女はベッドの上に寝転んで、口元に笑みを浮かべて俺を見上げた。
 
 


「ねぇ、今度は前からして?」
 
 
「あ?」
 
 
「貴方、乱暴だけど凄く情熱的。もっと貴方を感じたいわ。
次は抱きしめ合ってしましょうよ。貴方なら特別に中で出して良いわよ。だから今度は貴方も裸になって?」
 
 


 
「もう良い」
 
 
伸びてきた女の手を振り払い、ベッドから下りて身支度を整え始めた。
 

 
 
「え?ねぇ、もう終わりなの?泊まらないの?」
 

 
「帰る」
 
 
女もベッドから下りると、ベルトを締め出した俺の首に手を回してきた。
 


 
 
「じゃあ、せめてキスして?」
 
 
「なんでそんなことしないといけねぇんだよ」
 
 
回された手を払い落とすと、女は俺を信じられないという表情で見上げてきた。
 
 


「なんでって良いじゃない。したいんだから」
 
 
「俺はしたくないね」
 
 
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 
 
身支度を整え終わった俺が部屋から出ようとすると、女は裸のまま俺に追いすがるように腕を掴んだ。
 
 
 
「俺は客だろ。自分の好きな時に帰って何か問題でもあるのかよ」
 
 
 
「私がもう一度しようって誘ってるのよ?こんな事滅多にしないのよ?今日は帰るんだったら、今度はいつ来てくれる?」
 
 
 
「あんたの価値なんざ知らないね。金は払ってるんだからどうしようが自由だろ。もう2度と来ねぇ」
 
 
女の腕を外し、後ろで何か叫ぶ女を放ったらかして俺は店を後にした。
 
 

初対面だし信用出来る相手でもないのに、なんで朝まで過ごすのか分からない。
寝ている時に暗殺者でも招き入れられ寝首を掻かれる事だって十分あり得るし、娼婦自身もスパイや暗殺者の可能性だってある。
 
 
 
だから服は着たままだし、剣をベッドの上に置いてるし、最低限の接触にするためにキスもしなければ身体に口を触れないし、取り押さえられるように後ろからしかしない。
 
単独行動の俺にとって、信用出来るのは自分自身と愛用の剣だけだった。
 
 
 
そんな自分がまさか普通に恋をして恋人を作ろうなんて、過去の自分では予測出来なかった。
相手がシェニカじゃなければ、おそらくずっと恋人なんて作らないだろう。
 
 
自分の予想を大きく覆すほど、いつの間にかシェニカは特別な存在になっていた。
 
 
 





翌朝。 
 
 
傭兵団『黒鷹』の屋敷の前には、俺達を見送るために傭兵団の奴らが全員見送りに来た。

最初ここに来た時は食ってかかるような敵意に満ちた視線しか感じなかったが、今ではそういう視線は僅かにしか感じない。
 
 
 
規律の厳しい兵士でもない縛りを嫌う奴らばかりなのに、こいつの一声で自分の恨みつらみを抑えさせる芸当は凄いと思う。
 
 
強さも兼ねそろえた『黒い悪魔』の本当の強みは、こいつの社交性と統率力、そして求心力なんだろうと改めて実感する。
 
 
 
 
「今度はどこに行くんだ?」
 
 
「ギルキアに行く予定だよ。久しぶりに仕事を忘れてゆっくりするんだ」
 
 
シューザの問いにシェニカが行き先を言うと、奴は意味ありげな目を俺に寄越してきた。
 
 
その視線で『お前良いなぁ。どうせやるつもりなんだろ』と言っているので、口元だけで笑って肯定しておいた。
 


 
 
 
「そうか。また会いに来てくれよ。俺の傭兵団は規模の大小はあるが、あちこちに拠点がある。何かあったら頼ってくれ」
 
 
「ありがとう。ねぇ、シューザは繋ぎの結晶持ってる?持ってたらカケラを交換しようよ」
 

 
「良いのか?じゃあ遠慮なく」
 
 
シェニカがそう提案すると、シューザは嬉しそうな顔をして胸ポケットに手を突っ込んだ。

こいつはシェニカに殴られてから、かなりプライドが傷ついたらしく、『何かの拍子にまた殴られたら…』と心配している節がある。


是非そのまま心配していればいいものを、シェニカはカケラの交換をもちかけやがった。




「ほら、ルクトもカケラ出して」
 
 
「俺もか?」
 
 
シェニカの提案に俺は呆れた。
レオンの時もそうだったが、こいつは俺にもカケラの交換をさせたがる。
 
多少打ち解けたこいつとも元々はライバル関係だし、手紙のやり取りなんてする習慣も必要性もないというのに、なんで交換するのか分からない。
 


 
「当たり前でしょ。折角なんだから交換しておいた方が良いって」
 
 
やたらとやる気に満ちたシェニカに押され、3人で結晶を交換した。
シューザの結晶はやっぱり黒色で、稲光のような白い筋が斜めに入っていた。
 
 
 
 
 
 
「シェニカ、ルクト。じゃあ、元気でな!」
 
 
「みんなお世話になりました!怪我しないでね!」
 
 
俺達はヤンゴートを出てギルキアに向かった。
 
 
 
 




 
私とルクトは恋人という肩書きが加わったものの、ギルキアまでの道はいつもと旅路と何ら変わらない。
 


 
「おい、数歩先に石があるからつまづくなよ」
 
 
街道を私が観光本を読みながら歩いているから、コケたりしないようにルクトは私の足元にも注意を払ってくれている。
 




「うん!ありがとう。ねぇねぇ。温泉宿どこにする?」
 
 
 
「地図と観光本貸してみろ」
 
 
ルクトに観光本を手渡すと、視線は本にあるのに足元に転がっている石や木の枝といったものは簡単に避けて歩いている。
 
彼の目はどこまで見えているのか不思議で仕方がない。
 
 
私みたいに、本を読みながらつまづくってことはなさそうだ。
 
 



 
「この温泉街が良いな」
 
 
 
ルクトが指し示したページは、私が目星をつけていた秘境にある温泉地だ。
 
 
 
「あ、そこ?私もそこが良いなって考えてたの。知る人ぞ知る美肌の湯があるんだよ。山を登らないといけないけど、良い宿だと思うんだ〜。
じゃあ、この美肌の湯にしようよ!」



 
「いいぞ。お前、色々あって疲れてるだろ?温泉宿に着くまで治療院は休めよ」
 
 

「え?大丈夫だよ?」
 
 

「あんな事があったんだ。それにまた元副官とか寄越されると面倒だから、この国の中で治療院を開くのはやめておいた方が良い。楽しいことだけ考えてろ」
 
 
「う、うん…。そうだね」
 
 
立ち止まって観光本を鞄にしまうと、ルクトの言う通り楽しいことだけを考えようとした。
 
 
 
誰もいない原っぱを通る街道を隣り合って歩いていると、突然ルクトは私の腰に腕を回し、初めて見る色っぽい目で私を見下ろしてきた。
 
 
 
ーーあわわわ。ルクトが!ルクトが近い〜!どうしたの?もしかして、こっそり追手が来てるの?!
 
 
 


「ど、どどどどうしたの?」
 
 
「恋人なら別におかしな事じゃないだろ?ここは誰も居ないし恥ずかしくないだろ?」
 
 
 
「そ、そっか。そっかぁ〜」
 


ーーた、確かに恋人ならしていそうなことだけど、なんか積極的過ぎない?豹変したみたいで、私の心臓はついていけてないよ!

 

私は顔が赤くなるのを自覚しながら、ドキドキと胸を高鳴らせてルクトに腰を抱かれたまま歩いた。あまりにドキドキし過ぎたせいか、私は気絶したわけでもないのに、街道を歩いた記憶がなかった。
 
 
 
 
 
「じゃ、今日はここらで休むぞ」
 
 
私達は小さな山の麓にある小さな小川のそばで野宿をすることになった。
この山を越えれば、後は関所に向かってまっすぐに伸びた街道が続いているはずだ。




「魚獲ってくる。お前はあまり遠くに行くなよ」
 
 
「うん!もちろん」
 
 
野宿をする時の魚を持ってくるのはルクトの役目、その近くで枯れ木を拾うのは私の役目としてすっかり定着した。
そしてルクトの持って来た魚を焼いて、私が骨取りの魔法をかけるのもすっかり野宿の定番だ。
 
 

「その骨取りは便利だよな」
 
 
「でしょ?」


私がルクトに骨を取った魚を渡すと、彼は早速それを大きな口でパクリと頬張った。



 
「そういや、リズソームでもその魔法の魔導書読んだんだろ?何か成果はあったか?」
 
 
「新しい魔法はいくつかあったから覚えて来たよ。色々魔導書読んだけど、既に知ってるものが多かったけどね」
 
 

「そうか。その研究者も便利魔法使えるのか?」
 
 

「ううん。使えない。使えるのは私と恩師くらいだったから、ただ研究してるだけの人。
前から知ってる人だったから、あんな風に神殿に私のことを言われるなんて思ってなかった。他の研究者も元神官長とかいるから、もう研究者の所に行くのも危ないかもしれない」
 
 

「そうだな。また要らない贈り物されても、俺が追い帰してやるよ。お前は安心しとけ」
 
 
「うん…。ルクト、ありがと」
 
 
私の向かい側で寝る支度をしていたルクトを見て、侵入不可の結界を張って自分も寝袋を出して寝る支度を始めた。



 
「おい、こっちに来い」
 
 
「どうしたの?」


ルクトは自分の方に手招きしたので、私は何も考えずにルクトの隣に移動しようとした。


 

 
「寝袋も持って来い。俺のそばで寝ろ」
 
 
「うん!」
 
 
私はルクトの隣に腰を下ろして寝袋に入って目を閉じると、焚き火のあったかさが寝袋越しにも伝わってくるし、パチパチと爆ぜる音を聞いていると何だかとっても眠くなってきた。
 




 
「もう寝るのか?」
 
 
 
「ん〜?」
 
 
私に呼びかけるルクトの声が何だかやたらと近くで聞こえた気がしたが、すぐそこまできた眠気に勝てず目を閉じたまま返事をした。
 
 
 
 
「もう寝かけてるのかよ。相変わらず寝つきがいいな」
 
 
「おやすみぃ…」
 
 
かろうじてルクトにおやすみの言葉をかけると、唇にあったかい何かが触れた。
 
 
ーーん〜?なんかあったかいなぁ。なんだこれ。気になるけど、眠いからもういいや…。
 
 
 




私は宿の食堂にいる。



目の前には美味しそうなソースがかかったハンバーグ定食が並べられていて、メインのハンバーグは半分ほど食べかけている。

視線を感じて顔をあげると、私の向かいの席に座るルクトがいるのだが、小さなテーブルだからかやけに近く感じる。
 
 

 
「おい。口にソースついてるぞ」
 
 
ーーえ?本当?やだな、子どもっぽい!




 
 
「そっちじゃない。こっちについてる。まったく仕方ねぇな」
 

私がソースを取ろうとまごついていると、ルクトが私の口についたソースを指で拭ってくれた。
 
 
 
ーーありがとう。でも何でソースのついた指を唇になすりつけるの?指を外してくれないと、なんか喋りにくいよ。
 
 



 
「こうした方が、お前も最後まで味わえるだろ?」
 
 
ーーそ、そうだよね。ソースも最後まで美味しく頂かないとね。でも、指を外してくれた方が舐めやすいんだけど…。
 


 
 
「俺の指にもソースがついてるから舐めろよ。ほら」
 
 
ーーえ?舐めるの?わ、分かった…。
 
 


私は照れくささに耐えきれずに目を閉じて、唇に触れたままのルクトの指をはむっと少しんでみた。すると、固そうな指だと思っていたのに何だか柔らかい。




ルクトの指を何度も食んで、ぷにぷにと柔らかい感触を確かめた。
 
 





はむはむ……ぷにぷに…はむはむ…ぷにぷに…
 




 
ルクトって剣を扱うのに、こんなに指が柔らかいんだなぁ。なんか保湿クリームとか使ってるのかな。今度使ってるクリームを教えて貰いたいな。
 
 
ぷにぷにと柔らかい弾力が面白くてしばらく遊んでいると、急に何か柔らかい弾力が押し付けられて、口の中にザラっとしたあったかくて分厚い何かが押し入って来た。
 
 
 



 
「んんんっ!んーっ!」
 


 
いきなりの出来事に一気に覚醒した。
 



目を開けると、私の目の前に目を閉じたルクトの顔がドアップで映った。
 
 

ーーな、何でルクトが目の前に!?
ん?えーっと、私は口の中に何かが入って、口の中を何か動いているんですけど!ちょっと何が起きてるのよ!
もしかして飲み込んだはずのハンバーグが口の中に残ってたの?!でも、なんでハンバーグが動くの?!
 
 
 
私の頭の中には?のマークが沢山浮かんで、何が起きているのか分からずに固まっていた。
 
しばらくすると、ルクトが目を開けて遠のいて行った。
 
 


周囲をキョロキョロと見渡してみると、寝袋に入って寝転んでいる私の上にルクトが跨って私を見下ろしていた。




「煽るなよ。折角俺らしくもなく、順序を追って優しくしてやろうって気ぃ遣ってやってるのに」
 


 
「えーっと?あの、何が起こったんですかね?ハンバーグは?」
 
 
私の目の前にあった食べかけのハンバーグはどうなったのだろうか。もしかしてルクトが食べてしまったのだろうか。




「あ?ハンバーグ?何のこと言ってんだ?俺はキスしただけなんだけど」
 

 
「えっ!?キス!?ソースのついた指じゃなかったの…!?」
 

私は至極真面目に尋ねたのに、ルクトは不機嫌そうに顔を顰めてしまった。

 


「ソースついた指?お前、夢でも見ながら散々俺を煽ったのか?」
 
 
「煽る?指だと思ったから、こう…パクっと…」
 
 

「…じゃ今度は目ぇ開けてろ」
 

ルクトは不機嫌さが増した顔つきでそう言い放つと、私の顎を掬って少し上を向かせ、目を閉じたルクトの顔がどんどん迫ってきた。




 
「えっ!?うむっ…!」
 
 
私は目を開けたままルクトのキスを受けた。



ーーちょ、ちょっと待って!なんか展開早くない?昨日恋人になったばっかりだよ?なのに、もう…。キ、キキキキスしてるの!?
 
 

ルクトの言う通りキスしてるのは分かったけど、早すぎる展開についていけずに、私の頭の中はパニック状態になって完全に固まってしまった。


 

 
 
 
 
そんな私の状況を知ってか知らずか、ルクトは私の上から退いて、私の両脇に手を入れて寝袋から引きずり出した。
 

 
「ちょ、ちょちょちょ!ちょっと待って!何?何?!」
 

 
「待てねぇ。大人しくしてろ」
 
 
ルクトはそう言うと、私を抱きしめ合うように膝の上に乗せて、後頭部をガッシリと掴んで上を向かせた。
 
ルクトの顔は見たことのない切なそうな、色気ムンムンのこっちが直視出来ないような表情だったから、最初から状況に付いていけていない私の心臓は破裂寸前だった。
 
 



 
ーーひぃぃ!ルクトの顔が!顔が近いぃぃ〜!!
 

心の中で大絶叫しながらまたルクトからキスをされると、今度は口の中に何かが入って来た。





 
ーーえええ!ちょ、ちょ、ちょっと待って!!お願いだから1度冷静になろうよ!ルクト〜!!
 
 
こんがらがる頭と裏腹に硬直して動けない私の舌を、何かが絡め取るように引っ張った。
 
 


 
「んんっ!むえっ!」
 
 
息が出来なくて、苦しくて。ゼェハァと息が上がってくると、ルクトがゆっくり目を開けた。
 
ドキドキするようなルクトの色っぽい目と視線が合わさると、唇と押し入って来ていた物が口の中から出て行った。
 
 


 
「煽るとどうなるか分かったか?」
 
 
ルクトはペロリと唇を舐めたが、それが何だか妙に色っぽくてまたドキドキしてきた。
 
 
 
「あ、あの…何か口の中に…」
 
 
「舌を入れたからな」
 
 
「し、舌っ!?」
 
 
舌っ!?いわゆるディープなやつですか!?
私の顔に血が一気に上ってくるのを自覚した。
 
 



 
私の顔は真っ赤っか。頭の中は真っ白け。心臓は過剰にバックバク。
 
 





 
お父さん、お母さん。そしてローズ様。
 
 
シェニカは今にも死にそうです。死因は短時間でのショックが原因の悶死です。恥ずかしいので病死ということでお願いします。
 
 
 
 


 
「お前、顔が真っ赤だけど大丈夫か?こんなもんで倒れるなよ?」
 
 

「へ、ヘイ。ガ、ガンバリマス」
 

私はもうフル回転し過ぎた頭から、プシューと蒸気でも出しているような状態になってしまった。

そして思考が上手くまとまらない状況になったからか、背中に回されたルクトの手にグッと彼の胸元に抱き寄せられるのを、恥ずかしがること無く自然と受け入れた。






「くくっ!お前、本当に初心者だな。ほら、もう寝とけ。今夜は俺の膝の上だ」
 

 
「ひ、膝の上っ!そ、それはちょっと…」
 
 

「あ?なんか不満があるのかよ」
 
 

「な、ないです。オ、オヤスミ、ナ、サイ…」
 

 
「プッ!何でカタコトなんだよ。ほら、さっさと寝ろ」
 

ルクトの珍しく嬉しそうな声を聞きながら目を閉じた。
 
 
 

 
ーーひぃ〜!ル、ルクトとキスしちゃったよぉ〜!しかも何で膝の上に乗って抱き込まれてるんだろう。
恋人になってまだ1日だよ?時間なんてロクに経ってないのに、何でこんなに急展開になったの?
 
 


でもルクトのキス、苦しかったけど優しかったな…。
それに…唇をペロッと舐めた仕草が…ちょ、超カッコよかった…。
 
思い出したらまた血が上っちゃうよ…。
 




 
強引な感じもするけど、今、こうして頭を撫でるルクトの手は優しいし。強引さと優しさのギャップが激しくて、なんかドキドキしちゃうよ〜〜!!
 
 
 
 
「ぐ…ぐはっ」
 
 
私はドキドキし過ぎたのか、意識が突然途絶えた。
 
 




ーーーーーーーーー
 
 


「……今、『ぐはっ』て言ったよな?」
 
 
俺は腕の中でダラリと弛緩して寝ているシェニカの顔をそっと確認すると、顔を赤くして鼻血をたらりと流して気絶しているのを見た。
 
 
 
 
「……何で今頃気絶するんだよ。今の流れで気絶するならキスした時じゃないのか?」
 
 
俺は笑いながらシェニカの鼻血を拭いて、念のためしょぼいが治療魔法をかけておいた。
 
 
いつもならこいつに気付かれないように寝込みを襲っていたが、もう恋人関係になったんだからと思って、堂々と寝込みを襲った。
 
 
 



肝心のシェニカは展開についていけなかったらしく、顔を真っ赤にして困惑した顔で固まっていたのが笑えた。
 
 
関係が変わったら、すぐにでもあいつを全身で感じたい。
キスをして、身体に触れて、一晩中抱いて、あいつに俺を刻みつけたくてたまらない。
 
 



ここが野外で良かった。宿の部屋だったら、キスで止められる自信がない。
 
 
1度やったらもう歯止めがきかなくなるのは分かりきっているから、せめて最初だけでも、あいつを良い雰囲気で抱いてやりたい。
 
 
だから温泉宿に着くまで野宿だ。
街に立ち寄って治療院なんて開いてたら、俺の我慢と忍耐が保たずに爆発しそうだ。
 
 
あいつの旅を安全にするためにも、俺の欲求不満の治療を優先して欲しいと心の中で叫んだ。

 



「キスでこれか…。最後までしたらどうなるんだか。本当に恋愛経験ないんだな」
 
 
俺は静かに笑いながらシェニカを抱きしめ、頭や額飾りにキスをして目を閉じた。
 
 
 




今回の神殿の企みをシェニカやフェイド達から聞いて、やたらと厄介事になったもんだと感じた。
 
今まで通り、行く先々の街で神殿の奴らがシェニカを見張るのは変わらないだろうし、俺が張り付いていれば奴らも下手に手は出してこないだろう。そして俺はシェニカの側を離れるつもりはない。
 
 



だが気がかりなのは、贈られてくる男が強さで俺に勝てなくても、性格や見た目でシェニカの気を惹ける奴がいるかもしれないことだ。
 
 
神殿から次々に男が贈られたら、数打ちゃ当たるで、そのうちシェニカの気持ちが向かう男が現れるかもしれない。
 
 
 
そうならない様に。一刻も早く自分の側からシェニカが離れない様に。
自分にシェニカの気持ちを縛り付けられる様に、自分のものにしたくなった。
 
 
ウブなこいつのタイミングで好きだと言わせるのを待っていたら、いつになるか分かったもんじゃない。下手したら数年かかっていそうな気がした。
そんなの待てるはずもない。
 
 
 
 
こいつの側を離れず守り続けたいと、もう一度目を開けてシェニカの寝顔を見ながら胸に誓った。
 
 
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