天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第13章 北への旅路

3.それぞれの夜

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ファミシール達と別れた後、立ち寄った街でシェニカが治療院を開きながら、ギルキアとアビテードとの国境を隔てる関所に向かっている。




大陸の中央から少し北寄りに位置するギルキアは、北から南に縦長の形をしている。首都は南寄りにあるから北の国境まではまだ距離がある。


大陸の北に行けば行くほど寒い気候になり、大陸の最北の地であるアビテードは1年のほとんど雪が降っている。



アビテードの領土は大国と言われる国と同じくらい広い。
でも、ほぼ1年中大地が雪に埋もれているせいで作物が育ちにくい場所だからか、また、観光名所や特産があるわけでもないからか、他国から利がないと判断されるらしくこの国に侵攻する戦争は起きていなかった。
 

逆に、ドルトネアのように、より良い土地を求めて周辺国へ侵攻してもおかしくないのに、アビテードは長年侵略戦争を起こしてはいなかった。
 
 



噂では、アビテードの国王や国民は痩せた領土に満足しているからだとか、戦争をするだけの戦力を持たないからだとか言われていたが、誰もアビテードへ行こうとしないからその真偽は噂の域を出なかった。
 
雪に閉ざされた国としか認識されていないからなのか、傭兵の仕事もなければ、戦火から逃れた避難民すら逃げ込まないという不人気ナンバーワンの国だった。
 
 
 
戦争から忘れられた国。それがアビテードのもう1つの名前だった。
 
 
 




「今日はこの辺りで休みましょ」
 
 

「そうだな。もうすぐ日が暮れるしな」
 
 
1つ前に立ち寄った町を出たのが昼頃だったから、あっという間に日が暮れてきて、街道沿いの小川のほとりで野宿をすることにした。
 
 




「小魚しかいなさそうだが、魚獲るか?」
 

すぐ側の小川を見てみれば、小指くらいの小さくて細長い魚しか泳いでいない。こんな小魚だったら、数十匹くらい食べないと腹は膨れないだろう。





1本だけ生えている大きな木の下に座り、集めてきた枯れ木に炎の魔法で火をつけたシェニカにそう尋ねると首を横に振った。

 



「ううん。町で買った干し肉があるからそれで済ませましょ」
 
 
シェニカは鞄の中から革袋にたっぷり入った干し肉を取り出して、肉を枯れ木に挿して焚き火で炙り始めた。





炙った干し肉を食べていると、小煩いファミシールのせいで聞くのを忘れていたことがあったのを思い出した。

 


「どうしてアビテードに行こうって思ったんだ?あそこは戦争してないし、『白い渡り鳥』の需要もない気がしたんだが」
 

戦争から忘れられた国と言われるほどの平和な国だから、治療をする『白い渡り鳥』の需要なんてなさそうな気がするのだが。
 
観光する場所もないって聞くし、メシが美味いわけでもなさそうなのに、なぜそんな辺境の国に行こうと思うのか謎だった。





「みんなそう思って行かないんだ。だから、もしかしたら『白い渡り鳥』の治療が必要な状態になっているかもしれないでしょ?
なかなか行く機会がないから1度くらいは行ってみたいと思ってたし、それに会いたい人がアビテードの首都にいるんだ」



 
「会いたい人?」
 

旅してばかりのこいつに、『会いたい人』と言う存在がいるのは初耳だ。


どこで出会って、どんな関係なのか。



こいつにとってそう思える人間は、こいつの生国の恩師や両親、友人くらいだと思っていたのだが、そうではないという事実に自分のまだ知らない部分が見つかって何だか妙に苛立った。
 
 





「私のお姉ちゃんみたいな人なんだ。とっても可愛くて大好きで憧れの人よ」
 

俺の苛立ちなんて気付いていないシェニカは、そいつのことを思い出したのか、嬉しそうな笑顔を浮かべてコップの水を飲み干した。


 
 

「へ~。そんな人がアビテードにいるのか。旅先で会ったのか?」
 


「うん、そうだよ。きっとルクトもその人のことが好きになると思うよ。あ、でも好きになったからって、イチャイチャしないでね?じゃ、そろそろ寝ましょ」



会話の内容から会いたい人が女と分かって少しだけ安心した。
でも、一体どんな奴で、どんな出会いだったのか聞きたいのに、こいつはもう話すよりも寝ることしか考えていないらしい。









シェニカは鞄から毛布を出すと、いつも通り結界を張った。
今までは寝袋で寝ていたシェニカだが、最近では野宿の時には木に凭れて胡座をかく俺の膝の上に乗って、抱きしめて寝ることになっている。


寝袋の方が身体を休められるとは思うが、野宿の時はこいつを抱かない分、その存在と体温を感じたいから寝袋は売り払わせて厚手で大きめの毛布を買い直させた。





「お邪魔しま~す」


毛布を羽織ってあぐらをかいた俺の膝の上に、そう言いながら跨ったシェニカも毛布を羽織って俺に抱きついた。

最初は寝にくそうにしていたシェニカだが、次第に慣れたらしく今では俺の膝の上で朝までぐっすり寝ている。




対面座位の状態になるから自然と抱きたくなるが、野宿の時は招かれざる客が来ることもあるから我慢だ。

抱けなくてもこの体勢だと間近で体温と存在を感じられるし、可愛い寝顔を至近距離で堪能出来るから、野宿の時はそれなりに満足出来ている。




 
 
「さすがに大陸の北に近くなると寒くて野宿なんて出来なくなるな」
 
 
「そうね。でも村や町も少ないだろうから、何か方法を探さないとね」
 

日中は他の場所と変わらないくらい暖かいが、日が暮れるのが段々と早くなってきたし、夜明け前にかけて結構冷え込むようになった。


ここまで北の方の土地に来たことがなかったから、野宿の装備が少々不安になってきた。次の街に行った時には、今後の旅路への準備や情報収集をしなければならないだろう。




 
今後のことを考えていたら、シェニカはすぐに眠気が来たらしくスースーと規則的な寝息を立てて眠り始めた。
俺はそんなシェニカの寝付きの良さを羨ましく思いながら、可愛い寝顔を見て目を閉じた。
 







翌朝。欠伸をしながら目を開けたシェニカは、寒かったのかブルリと身体を震わせた。



「夜は冷え込んだな。眠れたか?」


「うん。なんとか。ルクトは大丈夫だった?」
 

「俺は大丈夫だが、これから先は野宿は厳しくなるな。先を急ぐぞ」


「うん」

 
いくら火で暖を取りながらくっついて寝ていても、昨夜は結構冷え込んで野宿が辛く感じた。





野宿を避けるために、次の村まで一気に進もうと休憩を最低限にして先をひたすら歩き、空が茜色に染まる夕方近くになって、小さな村に到着した。
 

今日の道程を確認しようと宿の部屋で地図を広げると、今日の目標地点にしていた村から東にずれた別の村に到着してしまっていることに気付いた。
 




「あれ?ちゃんと街道を歩いたはずなのに、どうして地図と違う村に到着しちゃったのかなぁ」
 
 
「だよな。途中分岐するところなんてなかったのに。女将に聞いてみるか」

 







食事を終えて新聞を読んでいると、ガタガタと音を響かせるワゴンを引いた女将が食べ終わった食器を片付けに来た。


シェニカはローブの内ポケットに仕舞っておいた地図を出し、ワゴンの上に食器を乗せた女将に声をかけた。



「女将さん、この地図見てもらっても良いですか?この街道に従って歩いて来たんですけど、こっちの村に到着しちゃったです」





「あぁ、この地図はまだ新しい街道が書かれてないね」


テーブルの上に広げた地図を見た女将は、指で地図に書かれている街道をなぞった後、今いる村の場所をトントンと指で叩いた。






「街道が変わったんですか?」



「この前、この街道沿いの山で土砂崩れが起きて街道が新しく整備されたんだよ。でもこっちの村に行くにはまだ街道が通ってないから、山沿いにグルッと回らないといけなくなっちゃったんだよ。この村に行きたかったのかい?」



「私達はアビテードに行く途中だったんです」



「アビテードかい。じゃあこの村の前の街道を北に進めばアネシスに行けるよ。アネシスから関所までの道は、この地図に書いてある道で変わりはないから大丈夫だよ」



「そうですか。ありがとうございました」

 
 
「いえいえ、お安い御用だよ。そうだ。お嬢さんは『白い渡り鳥』様だろ?ちょっとお願いがあるんだ」
 
 
地図を畳んで胸ポケットに仕舞い始めたシェニカを、今度は女将が呼び止めるように声をかけた。





「なんでしょう?」
 
 


「この村から街道沿いに北へ行くと森の中を通るんだが、その森の中の旅人小屋に子どもが住み着いているんだよ。
その子がたまに食料を買いにくるんだけど、足を怪我しているみたいで痛そうにしてるし歩きにくそうなんだ。
見ていると可哀想でね。もし良かったらその小屋に寄って診てあげてくれないかい?」



女将はその子供を思い出したのか、心配そうに顔を顰めて窓の外を見た。
その視線の先には小さな食料品店があるから、そこによく買いに来ているのだろう。




 
「喜んで治療させてもらいますが、その子は家族と一緒に小屋にいるんですか?」



 
「いや、1人なんだよ。こちらが話しかけてもなんだか訳ありな感じではぐらかすし、もしかしたら戦争孤児なのかと、みんなで心配しているんだ。

でも小さな背中に剣を2本も差しているし、もしかしたら孤児院や学校の寮を脱走して、少年の身でこっそり戦場で働いていたのかもしれないんだ。
でも足に怪我をしているとロクに稼ぐことも出来ないだろうし、かと言ってこの辺りの村じゃ大人でも生計を立てられるような仕事もあまりないからねぇ。


あの子が元気に動けるようになれば孤児院や寮に戻る気になるかもしれないし、そうでなくても首都へ行けば住み込みで働きながら学校にも行けると思うんだけど…」
 
 


「分かりました。じゃあ、この村で治療を終えたらその子の所に行ってみようと思います」
 

 
「そうかいありがとう。白魔道士が派遣されるのはまだ先だし、『白い渡り鳥』様なんて滅多に通らないから…。本当に感謝するよ」
 
 


女将がワゴンをガタゴトと鳴らしながら去って行くと、向かいの席に座っていたシェニカが俺を呼んだ。

 

「ルクト、今夜は1人で居たいから部屋を別にさせて」
 
 



「はぁ?なんでだよ」
 
 
部屋はもう取ってある。なんでわざわざ別の部屋にする必要があるのか。1人で居たいってどういうことなんだよ。





「ちょっと1人で考えたいことがあるの」



「別に同じ部屋でも良いだろ?」




「ルクトと同じ部屋だったらすぐ襲って来るじゃない。ゆっくり思考に浸れる時間ないよ。
じゃ、お部屋は別ね。ルクトはそのままの部屋で過ごして良いから。たまには広いベッドで大の字になって寝てね」
 
 
シェニカは俺が何か言おうとする前に椅子から立ち上がって女将の所に行き、部屋の鍵を貰うと嬉しそうな顔をして俺の所に戻ってきた。





「私の部屋はルクトの部屋の隣だから。じゃ、部屋に戻りましょ」


部屋に続く階段を上りながら、俺の前を歩くシェニカは相変わらず嬉しそうな空気を出している。





部屋を別にするとなんで嬉しそうにするのか。


始終俺が張り付いているから他の男の影はない。別に喧嘩している訳でもないし、何かに悩んでいる様子も無いと思っていたのだが、なんで部屋を別にしたがるのか。





「なぁ、考えたいことってなんだよ」



「色々あるの」



「色々ってなんだよ」


宿にいる時は俺のことだけ考えていればいいのに、何を考えたいのか分からなくてイライラする。




「女の子の秘密!」



「なにあのババアみたいなこと言ってるんだよ」




「良いじゃない。それにファミさんはババアじゃなくてお姉さんだよ。じゃ、おやすみルクト」


シェニカは自分の部屋のドアを開けると手早く結界を張って、パタンとドアを閉めた。








「はぁ。あのババアに何か吹き込まれたのか?余計なことしやがって」


俺は仕方なく部屋に戻ると、風呂に入って広すぎるベッドに横になった。





あいつのいない部屋はやたらと広く感じるし、あいつの楽しそうな鼻歌も声も聞こえない。

時間が止まっているかのような物寂しさが部屋を満たし、手の届く所にあいつがいないと落ち着かなくてイライラしてくる。




今すぐに抱きしめて、五感であいつを感じたくて堪らない。





「はぁ…。つまんねぇ。考えたいことって何だよ」


俺の深いため息は、広くて静かな部屋に吸い込まれて消えた。







ーーーーーーーーー




「ひっさしぶ~りの1人部屋っ!楽しくて堪んな~い!それぇぇっ!!」



久しぶりの1人部屋に入ると、鼻歌交じりでお風呂に入ってパジャマを着て、小走りの助走をつけてベッドにダイブした。


スプリングの効いたベッドが『ボフン!!』と受け止めてくれた後、シーツからはルクトと同じ洗濯物を干した時の太陽の匂いを感じた。






「うふふ~。今夜はゆっくりバンディとイチャイチャ出来るっ!今日はバンディと手繋ぎデートにしよっ!」



シングルのベッドに横になり、布団を頭まで被って枕を抱きしめ、ニヤニヤしながら目を閉じた。









『シェニカ。やっと会えた』


ファミさんと別れて以来ご無沙汰だったバンディは、相変わらず凛々しい顔に優しげな微笑を浮かべて私を迎えてくれた。





『バンディ!私も会いたかった』


再会が嬉しくて、私はバンディに走り幅跳をするような勢いで抱きつくと、彼は逞しい腕でしっかりと受け止めてくれた。
彼の胸に抱き寄せられれば、懐かしい牧草の匂いがする。



ちなみに彼から牧草の匂いがする設定になっているのは、原型が馬だからだ。こういう細かな設定も妄想を楽しむ大事な要素だ!と勝手に思っている。






『今日は約束のデートだね。シェニカはどこに行きたい?』


私を優しく地面に下ろすと、バンディは嬉しそうに目を細めて私を見下ろした。






『今日は甘味処でフルーツテンコ盛り金魚鉢パフェを2人で食べるの』



『良いね。じゃあ、早速行こうか』


バンディはさりげなく私の手を取って、優しく手を繋いでくれた。
大きくてあったかい手は、私の手をすっぽりと包んでくれる。ルクトの手も暖かくて大きくて、すっぽりと包んでくれる手だったなぁ。





市場が見える大通り沿いの甘味処のテラス席に座ると、フルーツテンコ盛り金魚鉢パフェが運ばれてきた。


太陽が暖かな光を注ぐと、バンディの黒髪にある綺麗なキューティクルが目についた。



バンディって、キューティクルもバッチリね。
原型のバンディくんはマメにブラッシングしてもらっていた感じだから、このバンディも櫛で梳いているんだろうな。






『シェニカ。どうしたの?はい、あ~んして』



『あ、あ~ん…』


バナナと生クリームが乗ったスプーンをパクリと口に入れれば、バナナと生クリームの甘さ以外にこの甘~い状況の味がプラスされている気がする。





ーーむはっ!憧れの『あ~ん』タイムは妄想している私自身が恥ずかしい。でも、キュンキュンしちゃう~!!


妄想って自分の思い通りに出来るから、とっても便利だし夢が広がる。うへへ。癖になりそう。






『次は私がするね。はい、あ~ん』


私がスプーンで切り立った山のような生クリームを掬うと、向かいに座るバンディの口元にゆっくりとスプーンを持って行った。





『そのまま食べても美味しいけど、シェニカにあ~んってしてもらえると、もっと美味しいね。シェニカ。好きだよ。とても幸せだ。はい、あ~ん』



ーーむはっ。なんて幸せ…。バンディ~。私も大好き。


それからは金魚鉢の中身が空っぽになるまで、ひたすら『あ~ん』タイムを堪能して現実に戻ってきた。






「はぁ…。ルクトもバンディみたいな人だったらなぁ。でも、そうなったらそうなったで、彼らしくないなんて感じちゃうのかな。
今度はルクトと手繋ぎデートを妄想しちゃおうかな」


布団の中で枕を抱きしめ直し、バンディからルクトに妄想の相手を頭の中で変えてみた。






『ルクト、今日は市場を見て回ろうよ!』


どこかの国の大きな街の人の往来が激しい大通りで、私は隣を歩くルクトの腕を掴んでデートに誘った。





『別に良いけど、俺から離れるなよ。ほら、手ぇ繋いでやるよ』



『えっ!いいの!?』



『迷子になられると困るからな』


ルクトは照れ臭いのか、ぶっきらぼうにそう言うとプイッと顔を背けてしまった。

でも、少し強めに握られた手からは、表に出ない彼の優しさと力強さを感じた。






『ルクトの手、大っきいね』


『お前の手は小さくて可愛いな』


歩きながらルクトの手をギュッと握ると、彼も私の手をギュッと握ってくれた。
それが嬉しくて彼を見上げれば、優しそうな目で私を見ながらも、恥ずかしそうにしているのが分かった。


私が嬉しさのあまり笑顔を見せると、少しだけ浅黒い肌の頬を赤く染め、またプイッと顔を背けた。


ーーぐはっ!ルクトぉぉ。そんなに優しい目と可愛い仕草なんかしちゃってぇ!『可愛い』とか言われちゃった!嬉しいよぉ!





市場を歩いていると、お店の人が目の前でオレンジを絞ってジュースにしているのを見て、そのテントの前で立ち止まった。






『ねぇ、ここでオレンジジュース飲もう!』


花瓶のような大きさの透明のグラスに、搾りたてのオレンジジュースが並々と注がれ、2本のストローが差し込まれた。





『こういうのって楽しいね!』


店の横にあるパラソルの下のテーブル席に座り、2人で顔を見合わせながらストローでジュースを飲み始めた。

同じコップから2本のストローで一緒に飲むなんて、ザ・恋人って感じでドキドキしてくる。





『たまには良いかもな』



ーーんふふっ!ルクトの顔が近くてドキドキしちゃう。おでこがゴッツンコしちゃったり、ストローを咥えている時に目が合うと、勢い余って人の目があるにも関わらずキスしちゃったらどうしよう!とかハラハラドキドキしちゃう!






『なんか、こんなに近いとドキドキしちゃうね』



『ここでキスして欲しいのか?』


彼の言葉に思わず顔を上げると、ルクトは悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。





『ばっ、馬鹿!みんなが見てるからそんなことしないよ!』



『後でいっぱいしような』



ーーきゃぁぁぁ!ルクトってばぁ!もうもうっ!本当に『性欲の悪魔』なんだからっ!




お店から出たら誰も居ない公園の木の下に2人で寝そべった。木々や葉っぱの隙間からキラキラと陽の光が差し込んで綺麗だし、それに気持ちの良いそよ風が吹いてとても気持ちが良い。





『う~ん。気持ちが良い。さっきのジュース、美味しかったね』



『お前と一緒に飲むともっと美味しくなるな。またデートしような』



隣に寝そべるルクトの方を向けば、すぐそばに彼の凛々しい顔があった。

またデートしようって言われたことが嬉しくて、身体をモゾモゾと動かして彼の胸元に顔を寄せた。






『うん、ルクト大好き!』



『俺も好きだよ』


欲しくて堪らなかった彼からの言葉に思わず顔を跳ねあげて彼の顔を見上げると、彼は優しい目をして、私の身体に優しく腕を回して抱き寄せてくれた。






『ルクト…!やっと言ってくれたのね。私もルクトが好き、大好き』


そして私とルクトは強く抱きしめ合って、いつもみたいにキスをした。








「んふふふっ!バンディもいいけど、ルクトとの妄想デートも良いな。いつか現実になるかなぁ」


私は枕が潰れるほど強く抱きしめて、顔を激しくこすりつけた。

しばらく悶えていると、枕には赤い鮮血が幾筋にもなってついているのに気付いた。






「あ、あれ?これ血?血なの!?」


頬を触っても何も付かないが、鼻に触れた時に血が指についた。


どうやら興奮しすぎて鼻血が出てしまったらしい。







「いけないいけない。浄化の魔法で枕を綺麗にして、鼻には治療魔法かけて…と。よし、元通り!今度はバンディと夜景デートを妄想しちゃおっ!」





「うへへへ、バンディ~」


「ルクトぉ~。好きぃ」


私のバンディとルクトとのイチャイチャな妄想は、夜更けまで続いた。











翌朝。



「はぁ~。良い夜だった。たまにはこういうのも良いな。落ち込んでいた気持ちが急浮上しちゃった。ファミさんから良いアドバイス貰ったなぁ。えへへへっ」


大きく背伸びをしながら起きて顔を洗おうと洗面所に行くと、鏡に映った私の口の端にはヨダレの跡があった。




「ファミさん…。妄想って素敵ですね。良い助言をありがとうございます」


顔を洗いながら、ファミさんに感謝の言葉を呪文のように唱えておいた。









とある小国の傭兵街にある宿屋の一室で、ソファにどっかりと座ったレオンは胸ポケットから白い封筒を取り出した。



レオンが封筒を開けると、斜めに傾いた暗号文と新聞の切り抜きの脅迫文の2枚の手紙を手に頭をひねった。



「どこをどうすれば、こういう意味の文章になるんだよ…。照らし合わせても全然本来の字と似たところなんてねぇし。これを教えてる嬢ちゃんは苦労してんなぁ。

でもまぁ、無事に行く所まで行ったみたいだから、あいつの欲求不満も多少マシになったか?
あいつ、手の甲は抓りまくってたし、近寄る男は敵対心と独占欲剥き出しで睨んでたからなぁ。結構可愛い所があったな。あははは!


すぐに手を出してヤりまくったみたいだし。嬢ちゃん初心者なのにあいつの欲求不満に付き合わされて可哀想だなぁ。まぁ仲がいいのは良いことだな」


レオンは宿備え付けの便箋を手に取ると、大きな身体を姿勢よく正して返事を書き始めた。






ーーーーーーーーー




治療院の仕事を終えて宿までの道を歩いていると、ルクトの頭上にフィラが元気よくはためき、彼の上着の胸ポケットにあるカケラの入った革袋めがけて急降下してきた。




「フィラが来たってことは、レオンから返事来たの?見せて見せて!」


フィラから手紙を受け取ったルクトは、すぐに手紙を開けて読み始めた。その顔は今にも笑い出しそうな笑顔だったから中が気になった。




「お前は見なくても良い」


「え~!見せてよ」


「ダメだ。ほら行くぞ」



ルクトは手紙を鞄にしまうと、何もなかったように歩き出した。


ーー今度、レオンに手紙を送って何を書いたのか聞いてみようかな。でも、男同士の会話だから聞かないほうが良いかな?


やっぱりルクトとレオンは仲が良いなぁ。男の友情って、女性が入り込まない方が良いってイメージがあるからそっとしておいてあげよう。





私は見たい気持ちと聞きたい気持ちがあったが、男同士の友情が育っていることを信じて我慢した。



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