天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第13章 北への旅路

5.小屋にいた少年

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「あのさ。流石にここじゃ俺も何もしないって。とりあえず話を聞いてくれる?まぁ、何もない所ですが中に入って」

 
色白で細身の少年がすぐ側の壁に立てかけてあった2本の銀色の剣を両手で持ち、左足を引きずりながら小屋の中に入って行くと、ルクトは臨戦態勢を解いても私を背中に隠すようにして中に入っていった。


一瞬見えたルクトの目つきはかなり鋭くなっていて、何だかピリピリとした緊張感が漂っている。





ーー武器を持っているとはいえ、子供なのにどうしてそんなに警戒するのだろう。
それに少年の話し方だと、2人は顔見知りなのだろうか。相手が子供なのにルクトと顔見知りで、しかも彼が警戒する相手ってどういうことなんだろう。



私は不思議に思いながら小屋の奥へと進むと、4人掛けの質素な木製のテーブルセットのある広めのリビング、煉瓦造りの暖炉、隅の方にはミニキッチンがある。

部屋の奥の方には大きめの窓ガラスがあるようだが、そこには灰色のカーテンが敷かれていて外は見えない。
暖炉の側にはハシゴがあって、そこを登れば寝室に使っている様子のロフトがあるらしい。


外から見たらボロボロの小屋だったのに、中は綺麗で意外と使える状態にあったから外の木材の表面だけが痛んでいるらしい。
 
 
部屋の様子に関心しながらルクトの後をついて行くと、先に椅子に座っていた少年は、隣の椅子に2本の銀色の剣をカチャリと置いた。






「ここに『白い渡り鳥』が来たってことは、村で俺のこと聞いたわけ?」


私達が少年と向かい合うように椅子に座ると、ルクトは腕を組んで威圧するように少年を睨みつけている。

普通の子供なら絶対泣きそうな顔をするか逃げ出すはずなのに、目の前の少年はルクトの威圧にたじろぐこともなく、面倒くさそうな顔はしているものの平然とした様子で受け止めている。



この少年は普通の少年じゃないのだろうか。





「そうだ。だが治療して欲しいなら話を聞いた後だ」
 


「ちょっとルクト勝手に決めないで」
 

何だか私を放ったらかして2人は何やら話を始めている。やっぱり顔見知りのようだけど、仲良しな空気はないし一体どういうことだろうか。
 





 
「シェニカさんだっけ。また凄いのを護衛にしてるね」
 

少年は、白に近い灰色の旅装束の胸元に垂れている黒い革紐を、手でクルクルといじりながら面倒くさそうな顔をして私をジッと見た。

どう見ても14、5歳の少年にしか見えないのに、ルクトを前にしてこの態度というのは一体何なのだろうと不思議で仕方がない。





「はぁ、そうですね?2人は知り合いなの?」
 







「こいつは傭兵の『白い悪魔』だ」

 
話についていけない私に、ルクトは視線を少年に固定したまま驚きの事実を突き付けた。
 







「え!?」
 

目の前に居るのはどう見ても成人前の少年だ。この少年がランクSSの『白い悪魔』と呼ばれるほどの傭兵なのだろうか。

 





「見た目は常にガキだが中身は違う。戦場で会う時は顔も毎回違うが、こいつは間違いなく『白い悪魔』だ」



 
「ははは!悪かったねぇ、いつまで経ってもガキの成りで」



少年は面白そうに大きな声で笑った。その笑い声は無邪気な子供そのものだ。
 
 
ーーちょっと待って欲しい。会う時は子供のままなのに、毎回顔が違うってどういうことよ。







「どうしてお前がここにいるんだ」
 


「そうだなぁ。普通の白魔道士じゃなく『白い渡り鳥』の治療を受けないといけない状況になってる、と言えばいいか?」




「核心を早く話せ」
 

ルクトはイライラした感情を隠さずに少年を睨みつけながら話の先を促すと、そんなルクトの様子なんて気にしてないのか、少年はルクトをからかうような無邪気で悪戯っぽい笑顔を浮かべた。





「相変わらずのせっかちだねぇ。そんなんだから死亡説なんて流れるんだよ。まぁ、そのことは置いといて。俺な、戦場でヘマしちまったんだ」
 



「ヘマ?お前が?」
 

ルクトは顔を意外そうに顰めると、少年は「はぁ~」と深い溜息を吐いて頬杖をついた。






「トラントを相手にした戦場でさ、気が狂ってる傭兵共から奇襲を受けた。
まさか太陽が昇る前に来るとは思わなくて油断してたんだよな。その時に毒を足に受けた。毒矢で足を射られたんだが解毒できないんだよ」




「解毒できない?白魔道士なら出来るだろ」
 



「それがさ、傭兵の白魔道士に頼んだら『こんなの見たことない』って言われたから、わざわざ神殿に行って元『白い渡り鳥』の婆さんに解毒を頼んださ。

でもその婆さんが言うには、その毒はある特殊な方法で作られる毒で、解毒するとなると一般的な解毒の呪文じゃ手に負えないらしい。何でも治療には薬を調合しないといけないが、材料が手に入らないとか」


 
少年のその発言に、私は衝撃を受けて言葉を無くして目を見開いた。
 
 




「そんな毒があるのか。それでなんでこんなところにいる必要がある。『白い渡り鳥』の治療が必要ならこんな所じゃなくて、デカイ街に行けばいいだろ?」
 

気を抜くと手が小刻みに震え出しそうになるから、手をギュッと強く握り込んだ。






「そうしたいのはやまやまだが、手負いの『白い悪魔』がいるとバレてみろ。暗殺されるに決まってるだろ。
いくら顔が違うとは言え、お前のようにすぐ分かる奴なんてザラにいるんだから。これで説明は以上。治療して貰えるかな?」




「まぁ、いいだろう」

 
ルクトは少年の話に嘘はなく、治療しても大丈夫だと判断したようだ。
 
 
 



「じゃあ、そこに座ったままでいいから傷口を見せて」
 

私が少年の前に膝をつくと、少年はサラリと流れる銀髪を揺らしてズボンを捲って左足の膝を見せてくれた。


そこには傷口は塞がっているが引きつったような傷跡と、その傷跡の周囲をどす黒い色が覆っていた。
 





 
「この毒を受けて症状は?」
 


「痺れと痛み、それとゆっくり魔力が抜けていく」
 

私は言われた症状と傷跡の状況、手をかざして得た毒のパターンから全て把握したが、私はやるせない気持ちになって、小さく縦に伸びる傷口を1度なぞって手を静かに外した。
 






「魔力が抜けていく?毒にそんな効果があるのか?聞いたことないが」
 

私のすぐ後ろに居るルクトが、傷口をジッと見たままの私に信じられないという感じで問いかけてきた。




『魔力が抜けていく』という効果があるものは、毒に限らず呪いの効果にもそんなものはないのだ。


世界中の人が日常の生活や戦闘の中で魔力に頼っている。
そんな状況だから『魔力が抜けていく』というのは、致命的な症状になる。戦場でそんな効果があるものを使えば、その毒はあっという間に有名になるだろう。







「ねぇ、確認するけど。この毒は戦場で受けたんだよね?そこは街からどれくらい離れた場所だった?」



「トラントとエルドナの戦場にいた時、トラントに雇われた傭兵に射られた。一番近くの街からだいたい1日半くらい離れた場所かな」



エルドナという国は、トラントと国境を接する小国の1つだ。
この国に限らずトラントは侵略戦争を仕掛けていたと思うけど、この毒は頻繁に使われているのだろうか。







「他に毒を受けた人はいた?その人はどうなったの?」



「いたよ。そいつらは当たりどころが悪かったのか、苦しそうにしてたけど全然動けなくてさ。
攻撃してた傭兵じゃなくて、わざわざトラントの副官達がトドメを刺していたよ。俺は足を引きずって身を隠したから、なんとか逃げ切ったけどね」


私の問いかけに、少年は降参のポーズをして首を横に振った。





「わざわざ副官がトドメを?」




「毒矢を射ってきた傭兵は奇声を上げながら川に飛び込んだりしてたから、トドメを刺せなかったとは思う。
けど、その直後に副官達がゾロゾロやって来てさ。毒矢に射られた傭兵をわざわざ探して、状況を確認してから殺していくから流石の俺も焦った。しかも、死体を魔法で焼くという徹底ぶり!

痛くて立てないし、魔力が抜けていく中で這いつくばりながら無事に隠れられたのは良かったけど、久しぶりに死を覚悟したよ」





「トラントは色々と行動がおかしいな」




「トラントが雇う傭兵の異常さと、侵略戦争の多さには周辺国が迷惑してるから、この前、比較的友好関係のある4か国がこの国で軍事会談したらしいよ。
新聞の報道だと、トラントはそれ以降大人しくしてるらしいけど、いつまでそうしてるのかは分からないな。それでこの毒は解毒出来そう?」




少年は期待に満ちた金色の目で私を見てきた。

私は彼のその目から逃げるように視線を傷口に落とし、もう一度そっと指で傷口に触れた。








「この毒はね、とても特別な調合をしてあるの。だから魔力が抜けていく効果が生まれるんだよ」



「「特別な調合?」」


私が立ち上がって座っていた椅子に座ると、ルクトは隣に座って私をジッと見ている。

向かいに座る少年と2人分の視線を受けるのが辛くて、私はテーブルに置いた自分の握りしめた右手を見つめた。






「アルビン・スコーピオンっていうサソリの毒は神経を麻痺させる効果が有名なんだけど、もう一つ。ニニアラガっていう蜘蛛の毒を加えて、魔法をかけると魔力を消費させる効果が加わるの」
 





「へぇ。流石『白い渡り鳥』。症状を聞いて、傷跡を見るだけでそんなこと分かるんだ。そんな毒って毒の専門家が作ったりするの?解毒出来るよね?」
 


少年は感心したように明るい声を出したけど、私は次の言葉がなかなか出なかった。














「ううん。毒の専門家は作れない。だって……。この毒、『白い渡り鳥』だけが調合出来るんだもの」
 


「「え?」」
 

2人は同時に私の顔を見た。その様子に私は複雑な心境になって、握りしめていた右手をもっとギュッと強い力で握りしめた。
爪が皮膚に食い込んで痛いけど、それは自分を正気に保たせてくれるような痛みに感じた。
 







 
「知らないのは当然だよ。このことは神殿によって秘密にされているんだから。
私はこの毒の調合法を教わった時、あくまでも『白い渡り鳥』が自分の身を守るためのものとして教えられたの」
 
 
いくら汚職があったり覇権争いに勤しんでいる神殿とはいえ、まさか『白い渡り鳥』を輩出し、治療や解毒、解呪などを教える場所で、こうして人を苦しめる毒を調合する方法を教えているなど誰が思うだろうか。
 




しかもそれが本来の使用目的である己の身を守るためではなく、戦争に使われていようなど…。
それを思えば私は胸が締め付けられるような、やるせない気持ちになった。
 
 






「身を守るためのものってどういうことだ?」
 

隣に座っているルクトを見ることが出来ないけど、いつもと違って硬さのある声から、信じられないような思いを隠せていないのが分かる。



 
 
 
「いくら護衛を雇うとはいえ、『白い渡り鳥』みたいに黒魔法が使えない人は身を守る術がないでしょ?
だから『白い渡り鳥』が自分の身を守るために、この特殊な毒を調合していざという時のために持っているの」
 



 
「調合の仕方を知ってるなら、すぐに解毒も出来るんだよね?こう、上級の解毒の魔法とかでちゃちゃっと」
 

期待を込めた少年の言葉を、視線を自分の右手に落としたままの私は首を横に振って返事を返した。
 
 






「『白』さん、貴方さっき元『白い渡り鳥』に解毒を頼んだと言ったでしょ?
調合法を知っているその人は、薬を調合しないといけないけど材料がないって言って治療しなかった。これがどういうことだか分かる?」
 





「もしかして…。材料は簡単に手に入らないってこと?」
 

「……そう」
 

私の返事を聞いた少年は、悲しそうに俯いたのが何となく分かった。そして部屋の中には重苦しい沈黙が落ちた。










「なぁ、お前はその毒を作れるのか?作ってる所なんて見たことないぞ」
 


「この毒薬は『聖なる一滴』と呼ばれるものなの。これはね、作ったそばから効果がどんどん失われていくから、他の『白い渡り鳥』は毎日作っているはずだよ」




「お前、作ってないだろ」




「うん、作ってない。作らなくてもルクトが居てくれるから大丈夫でしょ?」





「まぁ…。そうだが」


ようやく顔を上げてルクトを見れば、彼はあまり見たことがないような複雑な顔をして私を見て、視線を少年に向ければ、彼は今にも泣きそうな顔をして私を縋るように見つめていた。









「この毒はね、とても強力なんだ。『白』さんは矢じりに塗るくらいの微量で、しかも薄められた状態だから今の症状で済んでるんだ。
もしこれが原液が触れてしまっていたら、今より少し早いスピードで魔力が消費されて、毒を受けた部分だけじゃなく、広範囲に広がって痛みと痺れで全く動けなくなるの」
 





「「……」」
 

ルクトも少年も俯いて無言になってしまった。
 







「それで……。解毒の材料はどこかで手に入らないのか?」
 

沈黙を破ったルクトの声は、何となく弱々しく聞こえた。いかに毒を受けたのが自分自身でなくても、きっと自分の身にふりかかった様な気がしているのだろう。
 
 




「残念だけど、その材料はもう絶滅して手に入らないの。だから解毒薬の調合はもう事実上出来ない」






「そんな……。じゃあ、俺はずっとこのままってこと!?もう傭兵として終わったってことじゃんか!」


私の話を聞いた少年は、嘆くように叫んで椅子を倒す勢いで立ち上がった。
その顔には、悲しみ、悔しさ、嘆きと言った負の感情がたくさん入り混じっている。






「落ち着いて『白』さん。材料は絶滅しているけど、私ならきっと解毒薬が作れる」
 




「本当!?嘘じゃない?!」
 

テーブルに手をついて身を乗り出した少年を見れば、さっきの悲嘆にくれた表情は見間違いだったのだろうかと思うほど、思いっきり顔が明るくなっていた。


まるで子供がおもちゃを買ってもらえる時のような無邪気な笑顔に、私は少しだけ罪悪感を抱いた。
 
 




 
「解毒の材料が絶滅しているのに、どうしてお前なら調合出来るんだ?」
 



「私は……。神殿に居た時、自分で絶滅した薬草を完全ではないけどなんとか再生して、解毒薬を調合してみたら出来たんだ。
でも私ね、その解毒薬をまだ人に試したことないの。初めての人体実験になるけどそれでも良い?」




私が申し訳ない気持ちを込めてそう言うと、2人分のゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。

 




「なぁ『赤』。この『白い渡り鳥』の腕は確かか?」
 


「あぁ。保証する」
 

ルクトは少年の問いかけに迷いなく答えてくれたのを聞いて、私はルクトに信頼されているのだと感じてとても嬉しかった。







「なら頼む。どちらにしろ、俺はあんたに頼むしか方法はないんだから」
 


「じゃあ、材料集めを手伝ってくれる?」
 


「俺は足が痺れてろくに動けないが、出来ることならやるよ」
 

少年は左足を擦りながら、複雑な表情を浮かべていた。
きっと元々動き回っていたはずなのに、今ではまともに動かない足になってしまって不自由な思いをしてきたんだろう。





「大丈夫だよ。そんなに苦にはならないと思うから。じゃ、とりあえず協力者としてよろしくね。シェニカって呼んでね」



「俺はエアロス」
 

私がエアロスに握手を求めて手を差し出すと、小さな手でギュッと強く握りしめてくれた。





「じゃ、ルクトも解毒が終わるまでは仲良くやってね」
 


「あぁ。分かった」
 
 
この瞬間、とりあえずの解毒材料集めのチームが発足した。
 
 





早速小屋の外に出ると、私は鞄から何も入っていない革袋を3枚取り出した。
 
 

「そんで必要な素材ってなんだ?」


 
「アルビン・スコーピオンとニニアラガをまずは捕まえるの。アルビン・スコーピオンもニニアラガも猛毒だから迂闊に触らないようにね。
見つけたら革袋に上手く誘導して。目標は1人1匹ずつ。同じ袋にサソリと蜘蛛が一緒にならないように、1匹捕まえたら声をかけて1つの革袋にまとめて入れるようにしましょう」



私が説明しながら革袋を1枚ずつ渡すと、2人は何の変哲もない見慣れているはずの革袋をマジマジと見ていた。





 
「分かった。で、そのサソリと蜘蛛はどこにいるんだ?」


 
「アルビン・スコーピオンもニニアラガも気候の変動を受けにくいから、森の中ならどこにでも住んでいるんだ。
サソリは手のひらサイズの大きさで色は白。ジメジメして暗い所を好むから、水辺近くの石の隙間に居ることが多いかな。

蜘蛛は小指の爪くらいの大きさで、色は透明に近い白。普段は陽の光の少ない枝の先にいることが多いかな。臆病な性格で人が近づくと、葉っぱの裏に隠れてしまうの。じゃあ森の奥に行って探しましょ」





「じゃあ水辺の方に俺が案内するよ」


先導するエアロスの後ろを歩いていると、後ろに居たルクトが隣に移動してきた。






 
「俺のそばから離れるなよ」
 


「うん」
 
 
ルクトは私の腰を抱き寄せて、耳元で小さく囁いた。きっと動けない状態であってもエアロスを警戒しているのだろう。







ーーーーーーーーー
 
 





「んー。いないねぇ」
 

水辺が近く陽の光があまり届いていない場所をエアロスが選んでくれたのだが、なかなか見つからない。





 
「本当にいるのか?」


 
「いるよ。どこにでもいるから毒の素材に選ばれたって聞いてる」


 
「ねぇシェニー。この毒ってさ、どうして流通しないわけ?魔力が消費されるような毒ってさ、需要があると思うんだけど」



エアロスの方に視線を向けると、痛む足を庇いながらも一生懸命背伸びをしながら枝の先を確認している。





 
「この毒は作って時間が経つと、効果がどんどんなくなっていくの。
保存することは出来ないし、表立って『白い渡り鳥』がこんな毒なんか作ったら、今回みたいに絶対に悪用されるじゃない。
私達は世界共通の法律で戦場不介入って決められているし、それに……。解毒薬がないから流通出来ない」


解毒薬のない毒を流通させるのは、使われる方には恐怖心を煽るし抑止力にもなるだろう。でも使う側も、万が一自分たちの中で使われてしまえば、あっという間に自滅してしまうリスクがある。


だから流通させるには、必ず解毒薬が必要になる。






 
「そっか。『白い渡り鳥』は戦場不介入だってことすっかり忘れてた。でもこの毒をトラントは戦場で利用してるってことだよね?」 
 



「そんなことが公になったら、それを旗印に戦争してる国以外からも攻めて来られる口実になるのにか?」
 




『白い渡り鳥』を戦場に介入させた場合、介入させた国は国境を接する全ての国に対して『侵略戦争を起こしてもらって構いません』という大義名分を与えることになる。



例えどんなに隣国と友好関係を築いていても、侵略戦争を行わないようにしている大国であっても、『白い渡り鳥』を戦場介入させてしまうとその国に侵攻して来る。

何か国もの軍勢が同時に首都に向けて侵攻してくるのだから、自国を失いたくなければ『白い渡り鳥』を戦場介入させるのは非現実的だ。







「でも、戦場の外で『白い渡り鳥』が作った毒だったらギリギリセーフなのかなぁ?」
 


私は2人の会話を聞きながら、色々な記憶が蘇ってきた。

何も考えたくなくて、エアロスとルクトの会話に言葉を挟むことが出来ず、私は蘇る記憶を振り払うように無心で蜘蛛と蠍を探した。








「……あ!蜘蛛いたいた!」
 

私が見つけたニニアラガは、1本の木の枝の先に纏まって何匹もいてくれた。この機会を逃さないように3匹と言わずに全部捕まえておいた。

普段はこんなに密集していないので、とっても幸運だった。





 


「サソリはいないなぁ」
 

今度はアルビン・スコーピオンを探し始めて数時間。

水辺の周辺に好んで生息しているので、小川や池、大きな水たまりを選んで探し回っているが、なかなか見つからない。


場所を移動していると、今度は鬱蒼とした木々に囲まれた沼地を探し始めた。
そこそこ大きな沼地の周りには水たまりがたくさんあるから、最近雨が降ったようだ。






「ねぇ、シェニーは解毒薬作れるんだよね?絶滅した素材をどうやって集めるの?」
 

エアロスが水たまりの近くにある石をポイッと投げていた手を止めて、不安そうな顔をして沼の水際を探している私に話しかけてきた。

きっとどうやって作るか分からないから、不安になっているのだろう。






「それは後で見せてあげる」
 

エアロスに向けて『初めての人体実験だけど大丈夫だよ。多分』という意味を込めて、ニッコリと笑って応えておいた。







「お前なら出来るってことは、便利魔法を使うのか」




「そう」
 

私のすぐ近くに居たルクトに向けてコクリと頷くと、彼は大きな岩を持ち上げて居たところだった。

幼児くらいの大きさの岩なのに、ルクトは涼しい顔をして持ち上げている姿を見て、『やっぱりルクトはカッコいい』と再認識して顔が赤くなった。



彼が見終わった大きな岩を地面に置く時、ビチャリと泥が跳ねて彼の頬に泥がついてしまった。








「便利魔法?なにそれ」



 
「今は使われていない昔の魔法だよ。ルクト、頬に泥が跳ねたよ」


私はカッコいいルクトに誘われるように近付くと、頬についた泥を指で拭ってあげた。






 
「へぇ~そんなのがあるのか。って、ちょっとイチャつかないでくれる?」
 



「え?頬についた泥を取っただけなんだけど…」


何故か怒りの表情で私とルクトを見るエアロスが不思議だったけど、ルクトは私の頭の後ろに手を当てて胸元に抱き寄せた。





ーーわわっ!ルクトどうしたの!?ルクトって恥ずかしがり屋だから人前でこんなことしないじゃない。


はっ!もしかしてこれは妄想ルクトなのっ!?ねぇ、そうなのっ!私、夢遊病になったのかもしれないけど、それはそれで良いっ!!




私は思ってもみなかったドキドキなシチュエーションに感動して、私はこれ幸いとばかりにスーハースーハーとこっそりとルクトの匂いを嗅いだ。
彼からは落ち着く太陽の匂いが感じられて、とっても幸せな気持ちになった。






 
「あのねぇ。こっちはあんな小屋で1人寂しく膝抱えて不安になってたわけ!なのにさ、お前ときたら可愛い子を捕まえてイチャイチャしやがって……!

あ!シェニー!このサソリ違うっ!?白い蠍がいるよ!」
 



頬を膨らませて文句を言っていたエアロスが、次に捲った石を見た途端嬉しそうな声を上げた。

私は思わずルクトからエアロスの方に駆け寄って、エアロスの指し示した蠍を見た。






「それそれ!革袋に入れて!」
 


「おい、こっちに大量にいるぞ」
 


「全部捕まえて~!」

 
この場所はほとんど人が来ないからか、私は今までにないくらいの大量のサソリと蜘蛛を捕まえることが出来た。
 

 
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