天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第19章 再会の時

12.5 部下たちの願い

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■■■前書き■■■
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更新おまたせしました!
今回は銀髪将軍視点のお話です。

■■■■■■■■■

雨で足止めを食らっている間、寝る以外の全ての時間を書類の処理に回させた甲斐もあり、山積みだった書類が徐々に片付き始め、俺だけでなくエニアスたちにも余裕が出てきた。明日も雨が降りそうだから、今日も深夜まで出来そうだと思っていたのに、シェニカ様と夕食に行ったディスコーニの帰りがいつも以上に遅い。
あのディスコーニがシェニカ様と長時間何を話すのか不思議に思っていると、扉が開いてファズが入ってきた。


「ディスコーニは?」
「今夜は休養されるとのことです」

ファズだけ戻るとは何かまずいことでもあったのかと心配したら、そんなことを報告された。


「はぁ!? 何言ってんだ! あいつは今どこにいる!」
「シェニカ様のお部屋にいらっしゃいます」
「変なこじつけを言って、無理にお邪魔しているんじゃないのか?」
「そのようなことはないと思いますが…」

今すぐあいつの首根っこを捕まえて連れ戻したいが、シェニカ様の部屋となると、押し入ることはもちろん気軽に訪ねることも出来ない。あいつのことだから、そうなることを予想してシェニカ様の部屋にいるのではないかと思ってしまう。


「なにが休養だ。まだこんなに仕事が残ってるって分かってるだろ。まったくサボりやがって」

「サボっているのはバルジアラ様なような…」

自分が睨めば、エニアスは居心地悪そうな空気を出しながら、手元の書類に集中し始めた。


「バルジアラ様。シェニカ様がディスコーニ様の近くにいる機会は、非常に限られています。陛下も温かく見守ろうとおっしゃっておりますので、バルジアラ様がディスコーニ様に過度な仕事を課し、シェニカ様との時間を減らすことは、陛下のご意向に反しているのではないかと思われる可能性があります。
せめてシェニカ様がいらっしゃる間だけでも、ディスコーニ様に時間を与えていただけないでしょうか」

ファズが真っ直ぐな目で俺にそう言うと、ここにいる自分やトゥーベリアスの副官達だけでなく、セナイオルとラダメールも驚いた顔をしてファズを見た。この様子だと、ファズなりに考えての行動なのだろう。
最近のファズは、日々の鍛錬はもちろん、デスクワークの処理に積極的に取り組んでいて、要領よくこなせるようになったと聞いている。向上心はあるし、ディスコーニと部下からの信頼も厚い奴で、実績を積み重ねていけば、予定より早く将軍職へ昇格させてやれそうだと思う反面、まったくエニアスは…。ちょっと書類の決裁を遅らせただけで、ビービー言いやがる上に、余計な一言も言いやがって。だからフラれるんだよ。


「これくらいあいつにとって過度な仕事量じゃない。それに、シェニカ様との夕食の時間はちゃんと許可している」

「以前ご報告しましたが、お2人の関係が進展するには、キッカケと一緒に過ごす時間次第だと思われますし、ディスコーニ様は、シェニカ様と一生を過ごす関係になるのを心から望んでいらっしゃいます。
陛下のご意向に沿うのは当然ではありますが、個人的にもディスコーニ様の幸せを強く願っておりますので、どうかディスコーニ様にシェニカ様との時間を与えていただけないでしょうか」

ファズはそう言うと、俺に向かって深々と頭を下げた。それを見たセナイオルとラダメール、さらにエニアスを始めとした俺の副官たちまで立ち上がって頭を下げた。トゥーベリアスの副官達だけが座ったままだが、異様な光景に圧倒されて、困惑した顔で行く末を見守っている。

ディスコーニの部隊にいるのは、副官から下級兵士までもともと俺の部隊にいた連中だ。部隊の垣根を超え、上下関係なく助け合い、交流を持つことで結束を強くするよう育てたのは俺だから、ファズ達だけでなくエニアス達も、ディスコーニに肩入れするのは分かる。それに、浮いた話一つなかったディスコーニが、あのシェニカ様に気に入られた、というのは既に両部隊の末端まで広がっていて、自分のことのように喜んでいる。ここで許可しなければ、両部隊の全員が同じことをする可能性が高く、俺が悪者になってしまう。
ディスコーニとシェニカ様の関係は、首都にいる兵士たちにも知れ渡っているから、話が盛られた状態で地方に回るのは時間の問題だ。変な噂を耳にするのも嫌なのに、俺が2人の邪魔をするのは男色だからとか、妬んでいるとか、俺がシェニカ様を狙っているからだとか、面白おかしく脚色された上で更に広がってしまうのは迷惑この上ない。


「……はぁ。分かった分かった。善処する。ただしシェニカ様が近くにいらっしゃる時に限るぞ」
「ありがとうございます」

俺の仕事に影響が出れば、エニアス達にも影響が出るというのに。それが分かっていながらも、あいつを応援するとは、求心力の部分もしっかり備わっているようだ。
将軍としての実績はまだ足りないが、実力、求心力、仕事の処理能力などは順調そのものだろう。この10年ずっと喜怒哀楽の感情が動かず、負の感情を引き出せない状態だったが、この前やっと怒りの感情が出た。これでようやく黒彩持ちなのか確認出来るし、持っていなくても奴の黒魔法の威力は格段に増す。

着々と階段を上がり、誰もが憧れる筆頭将軍の座に手が届きそうだというのに、『いざとなったら国を捨ててシェニカ様を取る』とか言い出すようになってしまった。あいつにシェニカ様との時間を与えなければ、もっと暴走するかもしれないから、ある程度要求に応えたほうが良いのは分かるが…。
奴を以前と同じように制御し、大人しく働かせようと方法を考えてみても、今のところ餌になりそうなのがシェニカ様だけ。大恩のある方を利用するのは許されないが、もっともな理由をつけてディスコーニを動かさなければ。
まったく、とんでもない相手に気に入られてしまった。


「俺にも良い相手が出来たら、お前たちも同じようにディスコーニに頼んでくれるよな?」

自分の副官達に向かってそう言うと、5人は顔を見合わせて「はい、そうですね」と答えたのだが。


「お前ら、ディスコーニに俺の仕事を肩代わりしてくれって頼むのって、今の状況と大して変わらないんじゃないか?って思っただろ」

「………思ってます」

部下5人は言いにくそうな空気でまた顔を見合わせたが、沈黙に耐えきれなかったようでエニアスが小さく答えた。


「そこは嘘でも思ってないって言えよ」

「ですが本当のことですし…」
「嘘はつけませんし…」
「お世辞を真に受ける可能性もありますし…」
「そもそも、そういう状況になるのか分かりませんし…」
「そんな奇特な方は…ねぇ?」

とか、失礼なことを小声で次々に言い始めた。
余計なことを好き勝手言いやがってと一睨みをすれば、エニアスに『そういうところですよ』と言わんばかりのため息を吐かれた。エニアスはフラレてやがるし、他4人だって浮いた話の1つもないくせに。人のこと言える立場じゃねぇだろと伝えるために、わざと室内に響く大きなため息を出してやった。

あぁ、俺好みのスパイスで味付けされた、ガツン!と山椒の衝撃が来る串焼きが食いてぇ…。
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