天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第20章 渦紋を描く

4.取らぬ狸の皮算用

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■■■前書き■■■
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更新お待たせしました!
今回はフシュカードの将軍エラルドと『殿下』と敬称で呼ばれる人物の会話です。
■■■■■■■■■

フシュカードの首都。王宮の眼前に広がる城下町の一角に、フシュカード兵に囲まれて移動する人がいた。国民から人気のある将軍エラルドが指揮している上に、兵士が何度も足を止める状況は異様だったため、道ゆく人々は何事かと興味津々に様子を伺っている。ただ、兵士たちの視線の先にいるのが、スカーフを巻いた一般人と他国の将軍の2人だと分かると、興味をなくしたように去って行った。
エラルドが2人の入る装飾品店を窓越しに見れるよう、通りの向かいに立っていると。灰色の地味なローブを着て、フードをすっぽりと被って身を隠した小柄な人物が、警備をすり抜けて近付いてきた。警備の兵士たちは、2人だけでなくエラルドに近付こうとする民衆も即座に止めるのに、その人物を見ても声をかけることすらしないから、あっという間にエラルドの横までやってきた。


「指輪選びしてるってことは、結婚に向けての準備?」

「ディスコーニはシェニカ様との関係について、『ご想像におまかせします』と言っていますが。シェニカ様は、茶会の席でディスコーニも傭兵の男も紹介しなかったそうなので、取り入ろうとしているだけの可能性もあります」

「あんなにイチャイチャしてるのに、身内として紹介されなかったら、そりゃあ焦るよねぇ。ディスコーニは乗り気に見えるし、シェニカ様も満更でもなさそうなのに。なんで結婚しないのかしら」

「シェニカ様に何かしら考えがあるのだと思います」

2人の会話を読み取るため、エラルドが視線をそらさないまま会話していると、身を隠した人物は、少し離れた建物の影にいる2人の傭兵に顔を向けた。


「『赤い悪魔アレ』はフラレたの?」

「今後行く予定のポルペアで、別れるおつもりでいらっしゃるようです」

「へぇ、そうなんだ。なんでいま別れないのかしら」

「ポルペアで新しい護衛と合流するようなので、それまでの間は護衛として手元に置いておくつもりなのかもしれません」

「新しい護衛が誰なのか分かっているの?」

「いいえ、詳細は不明です。今連れているもう1人の傭兵に、新しい護衛と一緒に行動し、評価して欲しいとおっしゃっているそうなので、信頼関係が薄い者なのかもしれません」

「なるほどねぇ。これからどう動く?」

「こちらが『ウィニストラの客人』を直接警備することができないため、一目惚れでもしてもらえるとスムーズだったのですが。残念ながら、それは叶いませんでした。
ディスコーニがあのように常に囲っているため、近付くには奴を何とかしなければなりませんが…。『赤い悪魔』ならいくらでもやりようがあったのですが、ディスコーニは隙を見せませんし、弱点などもロクにありません。
『赤い悪魔』はシェニカ様に未練があるようなので、手を組んでディスコーニを排除する、という方法も検討しましたが、捨てる男の言葉に耳を傾ける可能性は低いと思われます。
ディスコーニのどこを気に入ったのか分かれば、もう少し動けるのですが。殿下から見て、何かお分かりになりますか?」

「うーん…。鋭い感じがないし、物腰が柔らかそうだから、ついつい気を許しちゃうのかしら。私を茶会に出してくれていれば、女同士の話としてその辺りのことが聞けたのにな~。
それにしても。恋人として紹介してもよさそうなのに、そうしなかったってことは、ディスコーニに何か問題があるのかしら。どう思う?」

身を隠した人物は、シェニカの左手の薬指にいくつかの指輪を嵌め、デザインや指輪の幅などを確認しては幸せそうに微笑む2人を、ウィンドウ越しにジッと眺めた。


「常に合理的で戦略的な思考をしていて、感情を表に出さないので人間味に欠けているとも言えます。シェニカ様はその辺りに、何か感じていらっしゃるのかもしれません」

「でもディスコーニなら上手く取り繕いそうね。常に張り付く護衛になったら厄介極まりないけど、その可能性はある?」

「将来的にはありますが、ディスコーニは国民から『英雄』ともてはやされていますので、数年は退役出来ないと思います。その代わり、息のかかった者を護衛につけるか、暗部をつけるかと。その者らを排除することは可能ですが、それをするとディスコーニはこちらに不利になるよう、シェニカ様に吹き込むことが予想されます。シェニカ様との繋がりがなければ、反論の機会を得ることすら難しいですし、その機会を得ても、関係が薄い状況ではこちらの話を信用してもらえません。シェニカ様とある程度の関係が構築できるまでは、静かに機を待ち続けるしかありません。
いっそのこと、『白い渡り鳥』様に重婚を認めるとフェアニーブで決めたように、各国に愛人を作り、子をもうける、など決めて貰えれば楽なのですが」

「現実的に考えれば、種を蒔く男なら可能でも、子を生む女の身では無理だからねぇ。でも、どの国も同じことを思っているから、今後議題に上がるかもしれないわね」

「他の方々同様、シェニカ様もおおらかな異性関係になってくれると、入り込む余地はあるのですが。陛下が懸念していらっしゃるように、ローズ様の影響を強く受けすぎて、限られた者としか関係を持たない可能性があります」

「あ。もしかして。ディスコーニを吟味してる最中だから、今すぐ結婚しようとしていないとか?」

「そうかもしれません」

「なるほどねぇ…。まぁ、最初はそんな風でも、良い男に言い寄られていれば絆されるし、だんだん意識も変わって2人、3人と増えてるかもしれないわよ。その時が狙い目かもしれないけど、生き残れそう?」

「どのような相手がいようとも、シェニカ様の寵愛があれば生き残れるとは思います。しかし、相手がそれを許さないでしょうから、最終的には殺し合うことになると思います。その時は何かしら痕を残して、とは思いますが、ディスコーニや名だたる黒彩持ちが相手では難しいでしょう。シェニカ様との強い信頼関係を構築し、こちらの言う通りに操って追い払う、というやり方が一番だと思います。
『シェニカ様の愛人』というだけでも名誉なことですが、公式な場で隣に堂々と座る『夫』、そしてシェニカ様の血を引く子の『父』という立場になりたいものです」

「そこまでの立場になったら、夫や子供に万が一の危険が来た場合に備えたいからって理由をつければ、『聖なる一滴』も分けてくれそうね」

「ええ。そうなれば我が国の天下です」

「ふふっ。最初からシェニカ様を堕としていれば、今頃世界はトラントの国旗で溢れていたでしょうに。フェアニーブでは、トラントが失敗した原因を深く掘り下げ、教訓を得なければならないわね」

「陛下がおっしゃっているとおり、今必要なのは情報と機を待つことです。神殿にも有益な情報はありましたが、検証が必要な情報もありましたので精査が必要です。可能であればセゼルとウィニストラ、特にディスコーニが見知ったシェニカ様の情報が欲しいですが、手に入れるには相当の時間がかかると思われます。
短絡的な国、結果を焦っている国は失態を犯すと予想されますので、シェニカ様との関係構築に失敗した国、上手く行った国の情報を集めながら、着実に進めた方が良いと思います」

「そうね。世界で一輪しか存在しない花だもの。その根も、葉も、蜜も、花びらも、果実も、種も全部手に入れる日が楽しみね。焦らずじっくり行きましょう」

エラルドに背を向けると、その人物は警備の兵士たちの方向へと立ち去った。
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