天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第20章 渦紋を描く

8.気分は上々!

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■■■前書き■■■
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更新お待たせしました!
今回はローズ様の孫シャオム視点のお話です。
■■■■■■■■■

ビステンの一番北にある地方都市ジェマに到着した。
ここはフシュカードとロスカエナの関所に一番近い交通の要所ということで、軍の拠点もある巨大な傭兵街になっている。領主の屋敷がある街の中央部は建物と人が密集して騒がしいが、城壁に近付くにつれて木々が生い茂り、古ぼけた建物が点在する田舎町のような空気が漂っている。


ーー『迷いの森』はヘビガラスの根城なのか。不吉だ。

空を見上げると、ヘビガラスが何羽も飛んでいる。この街の南側には、霧が立ち込める上に、目印になるようなものもないため、『迷いの森』と呼ばれる昼間でも暗い森がある。この街を出た後、どこに行くのか聞いていないが、そんな不吉な場所は通りたくない。でもここから他の街に繋がる街道が森を通っているから、避けては通れない。

そんなことを考えて憂鬱になっている自分とは反対に、ローズ様はこの街に住む古い知り合と久しぶりに再会するらしく上機嫌なご様子だ。これまでローズ様とはダーファスの神殿でたまに会うくらいしか接触していなかったが、今の仕事に就いてから、退位したどこかの国王や学者、一般人など、色んな人と手紙のやり取りをしていると知った。思った以上に交友関係は広いらしい。


「これから知り合いに会いに行きます。シャオムとルニットの2人だけついてきて下さいな」

宿に到着すると、ローズ様はそう言って休憩する間もなく宿を出られた。今回会う人の家には行ったことがあるらしく、ローズ様はスタスタと中心部から離れた道を進んで行く。なぜルニットを連れて行くのか、なぜルニットは自分の荷物を詰めた鞄と旅先で集めた虫籠を持っているのか不思議だったが、ルニット自身はその理由を知っているようで、なぜか緊張と喜びが混ざったような変な顔をしている。よく分からないが、ルニットに関係する人と会うらしい。

城壁近くまで歩き、外壁の石に痛みが目立つ大きな平屋の前に立つと、ローズ様はコンコンと扉を叩いた。しばらく待っていると、開いた扉の中からローズ様よりも年上の男性が顔を出し、ローズ様を見ると喜びで破顔した。


「ローズ!引退以来というのに変わらないな」
「元気そうで安心したよ。ゼドットも変わらんな」

ローズ様と挨拶をした後、なぜかゼドットという老人にまじまじと顔を見られた。初対面の相手にそういう態度を取られるのは不快だと思ったが、それも数瞬で終わり応接室に案内された。ルニットと一緒に応接室の隅に控え、さりげなく室内を見渡してみると、この家は見た目以上に広いようだが、使用人はいないようで、応接室だけでなく廊下や玄関にも、天井や床の隅には蜘蛛の巣が張り、埃っぽい空気が流れている。外壁の痛みも気になったが、内部は雨漏りの跡が目立つし、家が少し傾いている感じがするから、あと数年も経てばこの家には住めなくなるかもしれない。


「とりあえず治療の魔法をかけさせておくれ」
「おぉ、助かる。この前からちょっとだるさを感じてね…」

ローズ様がソファに座るゼドットに治療魔法をかけると、老人は少し元気が戻ったような笑顔を浮かべた。その様子に安心したローズ様は、向かいにあるソファに座った。


「待ち人はまだ来ておらんぞ」
「私の方が遅いくらいだと思ったが。ではこの街で待つとしよう」

ローズ様はこの街で誰かと待ち合わせをしているらしい。誰と会う予定なのだろうと思っていると、ゼドットは揶揄うような表情になった。


「それで? ニフェール様とはどうなっとるんだ?」

「どうもこうも変わりませんよ」

「白薔薇の棘はま~だ健在か。そろそろ棘を落とさんと可愛くないぞ。素直なのが一番じゃ」

「余計なお世話ですよ」

「相変わらず頑固だなぁ。それはそうと。そこの護衛神官、なんかジュハに似とらんか?」

「孫ですよ」

「孫か!どうりで似とるわけだ。一緒に酒を飲みながら愚痴を言い合っていたのが懐かしいの」

この老人は現役の頃のローズ様やじいちゃん達のことを知っているようで、自分を見て懐かしそうに笑っている。ローズ様やじいちゃん達の若い頃の話を親類以外から聞くのは新鮮な気持ちになるから、もっと聞きたいのだが。ローズ様はその話をするつもりはないようで、後ろを振り返ると、自分の隣にいるルニットに手招きをした。


「ルニット、こっちに来なさい。この人が話した昆虫学者ですよ。ゼドット、この子が貴方の弟子候補にと連れてきた子ですよ」

「はっ、はじめまして!ルニット・インベファルタと申します」

「随分と若くて可愛い子だねぇ。儂はゼドット・アルタスだ。よろしくな」

「ではこの子をしばらく預けます。迎えに来るまでの間、弟子として迎えるか見極めてちょうだいな。ルニット、ゼドットはお前と同じ昆虫が大好きな爺さんだ。気負わず、いつもどおりお過ごしなさい」

「は、はいっ!よろしく、お、お願いしまっす!」

「ゼドット、頼みましたよ」

「もちろんじゃ。こんなに若くて可愛い子が来てくれるなんて思ってなかったわい。素直でまっすぐな、良い目をしとる」

ローズ様は立ち上がると、今まで座っていたその場所に座るようルニットに促した。そしてゼドットに一つ頷くと、振り返ることなく廊下へ続く扉へと歩き始めた。


「あ、あの!ゼドット様の本、全部持ってます!どれも素晴らしい内容に感動しましたが、中でもあの玉虫色を抽出しようとした研究は、とても興味深く読ませて頂きました」

「おぉ!儂の本を持っているのか? もう50年も前の本だというのに…」

「ゼドット様の本は全部持ってます!」

「なんてやつだ! ルニットはどういう虫が好きかい?」

「私はどの虫も好きですが、土の中に住む虫。特にミミズが好きでして。土を掘ると出てくる感動は、まるで宝を掘り当てたようでーーー」

この老人が昆虫学者だったのか。道理でルニットが珍しく嬉しそうにしていたわけだ。早速始まったマニアックな話に夢中になり、2人はローズ様が退出したことにも気付いていないような感じだった。


宿に戻り、ローズ様がお茶を楽しまれていると、フィラが窓をコツコツとつついた。巫女が窓を開けると、鳥はローズ様の膝の上にとまって手紙を届けた。すぐに手紙を読み始めたローズ様は、楽しそうな表情を浮かべると、機嫌よく手紙を書き始めた。


「これをダーファスの町長に。これはユダニカの爺さんに。こっちをこのカケラの主に届けてくださいな。それと、そのうちこの街にフェアニーブに向かうネドアニアの一行がやってきます。到着したら私に知らせるようにして下さい」

「はい、分かりました」

3通の手紙とカケラを1つ受け取ると、ローズ様はまた手紙を書き始めた。ここ最近、ローズ様は頻繁に手紙を送っている。送り先は様々だが、町長には数日おきに送っている。ルニットの様子でも教えてあげているのだろうか。
それにしても。ネドアニアの一行に待ち人がいるようだが、フェアニーブに向かっているのは、どの国も主要な王族や筆頭将軍ばかりだ。ローズ様が会うとすれば、ネドアニアの王太子だろうか。そんな人物と何を話すのだろう。


「ニフェール様宛の手紙があるから、シスートを連れて小鳥屋に行ってくるよ」

廊下側に控えていた巫女のメルスにそう伝えると、彼女は頷いて部屋に入った。新人神官シスートを連れて小鳥屋に向かって歩いていると、彼は少年心が抜けてないようで、キョロキョロと楽しそうに眺めている。その視線を追っていると、工芸品を扱う土産物屋ばかり見ている。やんちゃな弟や妹がいるらしいから、物珍しい他国のおもちゃでも買ってあげたいのかもしれない。新入りだからと遠慮なく雑用を任されるから、彼が買い物ができる時間には閉店していることも多いだろう。


「このあと急ぐ予定もないし、小鳥屋の帰りに土産物屋に行くか?」
「いいんですか! ありがとうございます!」

喜びを表情と空気で表現するシスートを見ていると、土産に飛びつく親戚の子供を思い出す。最近会ってないけど、元気にしているだろうか。鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌になったシスートを横目で見ながら、渡された手紙の中で1番枚数の少ない、ニフェール様じいちゃん宛の手紙を見た。
ローズ様から預かった手紙を勝手に見ることは出来ないが、『まだダーファスに帰ってないから、来ても意味ないぞ』とか書いてるのかな、と想像すると思わず頬が緩んでしまった。腹踊りをさせられたり、怒られたりしているけど、なんだかんだローズ様にとってじいちゃんは特別な人だ。
この手紙を出す時、『じいちゃんがダーファスに住む日が近々来るかもしれないよ』と自分からも一緒に手紙を送っておこう。
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