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第20章 渦紋を描く
9.強欲な友好国
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■■■前書き■■■
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更新お待たせしました!今回は銀髪将軍視点のお話です。
■■■■■■■■■
スーランの首都に到着すると、「フェアニーブに到着する前にお会いしたい」と6ヶ国から会談を申し込まれた。スーランの王宮に赴いて挨拶を済ませた後、3ヶ国と会談を終えたが。相手方からの話といえば、フェアニーブで配布予定の報告書を先に読ませて欲しいとか、シェニカ様の情報を売って欲しいとか、シェニカ様に会わせてほしい、ということばかりだった。
大人しく特別区で尋問の開始を待っていれば良いものを、わざわざここで待ち構えている辺り、出し抜きたい国があるのだろう。だが、今まで目立った外交や貿易もなかった国に、そのような特別扱いなどするわけもない。いくら言われても、どんな対価を提示されてもシェニカ様の情報は売らないし、シェニカ様との橋渡しをするような真似もしない。ただ、友好国であるロージットについては、他国との違いを見せるために報告書を先に渡し、会談にはディスコーニを同席させることにした。
「これが昼までに届いたやつだ。締め切りは目前だが、ほとんど揃ったのか?」
「あと10か国程度が未提出ですが、まもなく集まると思います」
会談が行われる宿の一室に向かう直前、書類をディスコーニに渡すと、奴は『会談なんかさっさと終わらせ、シェニカ様の元へ行きたい』と訴えるように、大きなため息を吐いた。
仕事という真っ当な理由があるのに、シェニカ様の側を離れようとしない様子を見ていると、童貞の執着心はすげーな、と思うと同時に、シェニカ様の迷惑になっているのではと、本気で心配しているが。近くで控える副官たちからは、嫌がっていらっしゃる素振りは見受けられない、と報告される。
シェニカ様が旅に戻れば、ディスコーニも以前のように扱いやすくなると思うが、シェニカ様にちょっかいをかける連中が一気に増える。護衛につけた暗部が勤めを果たしてくれるが、その報告を聞いたディスコーニはまた騒ぎ出すだろう。
はぁ。今回の一件が起きてから毎日毎日悩まされてばかりだ。
こういう時は、気晴らしにガンテツ屋の串焼きを食べるに限る。いつも美味いが、この前食べた夜食セットの焼きおにぎりと、軟骨入りのつくね串は特に絶品だった。高級レストランの飯は美味いが飽きが来る。その点ガンテツ屋は毎回味が違うから、1日3食を1年食べ続けても飽きない自信がある。あぁ、早く帰国したい。
「お時間を作っていただきありがとうございます」
「いえ、久しぶりにお会いできて光栄です」
会談が行われる部屋に入ると、ロージットの王太子、筆頭将軍、新任の将軍、それぞれの腹心が2人と、王太子付きの2人の文官が待っていた。新任の将軍イシュメを同席させているということは、こいつがロージットの『贈り者』なのだろう。
「この度の勝利、おめでとうございます。そして報告書を先に見せていただき、大変感謝しております。
報告書の内容を見て大変驚きました。早速ですが、いくつかディスコーニ殿に直接お聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「どうぞ」
俺が返事をすると、王太子はディスコーニへ期待に満ちた視線を向けた。友好国の王太子だろうが、国王だろうが、あいつは望む情報を喋ることはない。上手く行かないからと勝手に恨んでくれるなよ、同席させるのも一苦労だったんだぞ、と心の中でため息を吐いた。
「シェニカ様がアステラとベラルスに『聖なる一滴』を使用した時の状況を、お聞かせ下さいませんか」
「報告書と内容が重複しますが、トラントは強力な『聖なる一滴』を求めて、シェニカ様を狙っていました。そんな中、トラントの首都において落盤事故に巻き込まれ、私とシェニカ様は地下に広がる鍾乳洞内に落下してしまいました。鍾乳洞内を彷徨い歩いた末に、潜伏していたトラント国王らと鉢合わせすることになりました。逃げ場のない鍾乳洞内において、アステラとベラルスはシェニカ様を捕らえようと襲ってきましたので、シェニカ様はやむを得ず『聖なる一滴』を使用することになりました」
「報告書には、トラントがシェニカ様を保護し、安全な場所へ導くことを期待して、お1人で国王らのいる場所へ向かって頂いたが、彼らは悪意を持って襲ってきたため、シェニカ様はやむを得ず『聖なる一滴』を使用した、とありますが。本当にシェニカ様はお1人で向かったのですか?」
「報告書に記述している通りです」
「いかに強力な『聖なる一滴』があろうと、武器を持たず、戦闘経験のない高貴な女性を1人で行かせるなど、冷酷極まりないご判断だったのでは?」
「鍾乳洞内は脆く、狭い空間のため、少しの衝撃で落盤が起きる可能性がある状態でした。戦闘になれば、落盤でシェニカ様を巻き込む可能性がありましたので、大変心苦しい状況ではありましたが、そういった事情を正直に話し、ご協力頂きました」
「戦闘を避けたいのはトラントも同じだったでしょう。私なら狭い地形を利用し、おびき出して体術や暗殺術などで仕留めますが。シェニカ様がご無事で何よりだったと思います」
筆頭将軍はそう言うが。あの場を見ていない者が、事後にあれこれ言うのは簡単なことだが、同じ状況になった時、はたして今と同じことを言えるだろうか。確かに体術や暗殺術を使えば落盤の危険は避けられるだろうが、おびき出そうとしても、アステラは別の将軍を呼ぶ可能性の方が高いし、逃げ場のない迷宮のような場所で、シェニカ様を守りながら1人で全てをこなす、というのはかなり厳しい。
ならどうするか。
シェニカ様は結界で身を守れるが、丸腰で体術も使えないし、戦闘経験もない。アステラに『聖なる一滴』を使ってもらおうにも、その前に襲われてしまい、計画通りに運ぶ可能性は非常に低かっただろう。トラントは切り札のシェニカを殺すことはないが、アステラたちに捕らわれてしまえば、厳重な管理下に置かれたシェニカ様を1人で取り返すのは非常に困難だ。
ディスコーニはシェニカ様を危険に晒すようなマネはしたくなかったと思うが、奴の行動は合理的な判断だったと理解している。ただ、俺ならシェニカ様が捕まった場合に備え、『聖なる一滴』をいくつか預かれないかとお願いする。ディスコーニも同じように考えたと思うが、あいつは敢えて退路を断ったようだ。
「鍾乳洞を彷徨った1週間、シェニカ様と協力しながら生き延びたとありました。その間にディスコーニ殿との信頼関係も深まったと思いますが、具体的にどのような言動がそのような結果に繋がったとお考えでしょうか」
「節度を持って、誠心誠意尽くしたことだと思います」
「どのような言動を取られたのか、一例を挙げていただけませんか」
「特に例を挙げる必要もないほど、初対面の方と接するのと同じ対応です。適切な距離を保ち、丁寧な言葉遣いを心がけました」
シェニカ様とディスコーニの関係は相変わらず『お友達』らしいが、『赤い悪魔』よりも一緒にいることが多いのは周知の事実。そんな状況では、既に深い関係になっていると思い込むのも仕方のないことだ。どうやって短期間でシェニカ様をおとしたのか、ということが知りたくて堪らないようだが、ディスコーニから聞き出すのは無理だろう。ディスコーニの取り付く島もない様子を見て、王太子はわざとらしいため息を吐いた。
「シェニカ様とカケラの交換した方はいらっしゃるのですか?」
「私と王太子妃殿下が交換しております」
「それは素晴らしい!羨ましい限りです。ディスコーニ殿はシェニカ様の世話役として側にいらっしゃる時間が長いとのことですが、シェニカ様はどのような方ですか?」
「噂に違わぬ真面目で誠実な方です」
「シェニカ様が我が国を訪問して下さった時の参考にしたいので、お好きな食べ物や会話の話題など、教えて下さいませんか?」
「苦手な食べ物は特にないそうです。旅の話をよくお聞きしています」
「相応の対価は支払いますので、もう少し具体的に教えて下さいませんか。2人で部屋にいらっしゃる時の様子もお聞きしたいです」
「相応の対価とは?」
「言い値をお支払い致します」
ファーナストラ殿下が尋ねると、ロージットの王太子は自信満々で即答した。俺たちから見ればディスコーニは十分返答しているが、ロージットはもっと踏み込んだ情報を貰えると期待しているらしい。これまで会談で何度も同じことを言われてうんざりしている殿下は、返答する前に小さく息を吐いた。
「我が国はシェニカ様に大罪を証明してもらった上に、無理を言って旅の足を止めて尋問に付き合って頂いております。国としてだけでなく、個人的にも大きな恩のある大切な方ですので、お話するつもりはございません」
「シェニカ様が貴国に滞在している間、どのようなものを召し上がったとか、何に興味を示されたのか、ということでも構いません。少しでも教えて頂けないでしょうか」
「今後もロージットとは友好的な関係を続けていきたいと思っていますが、どのような対価を提案頂いても、そのお願いを聞き入れることは出来ません」
殿下が真顔で言うと、王太子は奥歯を噛み締めた。
国を救ってくれたシェニカ様を売るようなマネは国王陛下が許さないし、ファーナストラ殿下は妃殿下を助けてくれた恩がある。俺達にもディスコーニを治療をしてもらい、柵のある中で大罪の証明をしてもらった恩がある。友好国との関係は大事ではあるが、この件については対価として何を積まれようとも、出来ないものは出来ない。
「ディスコーニ殿とシェニカ様は、随分と親しげなご様子だと聞き及んでおります。お2人はどのようなご関係なのですか?」
「ご想像におまかせします」
この王太子には20代の王子が数人いる。高い能力の子を望むなら王子達は候補から外れるが、国内外に強力な影響力を持てるから、イシュメだけでなく自分の息子ともくっつけたいと思っているのかもしれない。まったく強欲なことだ。
『白い渡り鳥』様が一般人と同じように1人としか結婚出来ない、不倫や浮気に後ろ指さされるような状況だったら、生涯を終える時までに一体何人の屍が転がっているのだろう。王族に重婚が認められているのは、血を絶やさぬため、婚姻が他国との関係を深める手段のため、自由な恋愛を認めるため、特別な存在なのだと国民に示すためなど、様々な理由があるのは理解していたが。『白い渡り鳥』様にも同様に認められている理由を調べたことはなかったが、きっとこのような状況が過去にあったのだろう。
予想していたとはいえ、面と向かってシェニカ様への執着を窺わせられると、ディスコーニの『退役してシェニカ様の元へ』という気持ちに拍車がかかってしまうから本当に勘弁して欲しい。
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スーランの首都に到着すると、「フェアニーブに到着する前にお会いしたい」と6ヶ国から会談を申し込まれた。スーランの王宮に赴いて挨拶を済ませた後、3ヶ国と会談を終えたが。相手方からの話といえば、フェアニーブで配布予定の報告書を先に読ませて欲しいとか、シェニカ様の情報を売って欲しいとか、シェニカ様に会わせてほしい、ということばかりだった。
大人しく特別区で尋問の開始を待っていれば良いものを、わざわざここで待ち構えている辺り、出し抜きたい国があるのだろう。だが、今まで目立った外交や貿易もなかった国に、そのような特別扱いなどするわけもない。いくら言われても、どんな対価を提示されてもシェニカ様の情報は売らないし、シェニカ様との橋渡しをするような真似もしない。ただ、友好国であるロージットについては、他国との違いを見せるために報告書を先に渡し、会談にはディスコーニを同席させることにした。
「これが昼までに届いたやつだ。締め切りは目前だが、ほとんど揃ったのか?」
「あと10か国程度が未提出ですが、まもなく集まると思います」
会談が行われる宿の一室に向かう直前、書類をディスコーニに渡すと、奴は『会談なんかさっさと終わらせ、シェニカ様の元へ行きたい』と訴えるように、大きなため息を吐いた。
仕事という真っ当な理由があるのに、シェニカ様の側を離れようとしない様子を見ていると、童貞の執着心はすげーな、と思うと同時に、シェニカ様の迷惑になっているのではと、本気で心配しているが。近くで控える副官たちからは、嫌がっていらっしゃる素振りは見受けられない、と報告される。
シェニカ様が旅に戻れば、ディスコーニも以前のように扱いやすくなると思うが、シェニカ様にちょっかいをかける連中が一気に増える。護衛につけた暗部が勤めを果たしてくれるが、その報告を聞いたディスコーニはまた騒ぎ出すだろう。
はぁ。今回の一件が起きてから毎日毎日悩まされてばかりだ。
こういう時は、気晴らしにガンテツ屋の串焼きを食べるに限る。いつも美味いが、この前食べた夜食セットの焼きおにぎりと、軟骨入りのつくね串は特に絶品だった。高級レストランの飯は美味いが飽きが来る。その点ガンテツ屋は毎回味が違うから、1日3食を1年食べ続けても飽きない自信がある。あぁ、早く帰国したい。
「お時間を作っていただきありがとうございます」
「いえ、久しぶりにお会いできて光栄です」
会談が行われる部屋に入ると、ロージットの王太子、筆頭将軍、新任の将軍、それぞれの腹心が2人と、王太子付きの2人の文官が待っていた。新任の将軍イシュメを同席させているということは、こいつがロージットの『贈り者』なのだろう。
「この度の勝利、おめでとうございます。そして報告書を先に見せていただき、大変感謝しております。
報告書の内容を見て大変驚きました。早速ですが、いくつかディスコーニ殿に直接お聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「どうぞ」
俺が返事をすると、王太子はディスコーニへ期待に満ちた視線を向けた。友好国の王太子だろうが、国王だろうが、あいつは望む情報を喋ることはない。上手く行かないからと勝手に恨んでくれるなよ、同席させるのも一苦労だったんだぞ、と心の中でため息を吐いた。
「シェニカ様がアステラとベラルスに『聖なる一滴』を使用した時の状況を、お聞かせ下さいませんか」
「報告書と内容が重複しますが、トラントは強力な『聖なる一滴』を求めて、シェニカ様を狙っていました。そんな中、トラントの首都において落盤事故に巻き込まれ、私とシェニカ様は地下に広がる鍾乳洞内に落下してしまいました。鍾乳洞内を彷徨い歩いた末に、潜伏していたトラント国王らと鉢合わせすることになりました。逃げ場のない鍾乳洞内において、アステラとベラルスはシェニカ様を捕らえようと襲ってきましたので、シェニカ様はやむを得ず『聖なる一滴』を使用することになりました」
「報告書には、トラントがシェニカ様を保護し、安全な場所へ導くことを期待して、お1人で国王らのいる場所へ向かって頂いたが、彼らは悪意を持って襲ってきたため、シェニカ様はやむを得ず『聖なる一滴』を使用した、とありますが。本当にシェニカ様はお1人で向かったのですか?」
「報告書に記述している通りです」
「いかに強力な『聖なる一滴』があろうと、武器を持たず、戦闘経験のない高貴な女性を1人で行かせるなど、冷酷極まりないご判断だったのでは?」
「鍾乳洞内は脆く、狭い空間のため、少しの衝撃で落盤が起きる可能性がある状態でした。戦闘になれば、落盤でシェニカ様を巻き込む可能性がありましたので、大変心苦しい状況ではありましたが、そういった事情を正直に話し、ご協力頂きました」
「戦闘を避けたいのはトラントも同じだったでしょう。私なら狭い地形を利用し、おびき出して体術や暗殺術などで仕留めますが。シェニカ様がご無事で何よりだったと思います」
筆頭将軍はそう言うが。あの場を見ていない者が、事後にあれこれ言うのは簡単なことだが、同じ状況になった時、はたして今と同じことを言えるだろうか。確かに体術や暗殺術を使えば落盤の危険は避けられるだろうが、おびき出そうとしても、アステラは別の将軍を呼ぶ可能性の方が高いし、逃げ場のない迷宮のような場所で、シェニカ様を守りながら1人で全てをこなす、というのはかなり厳しい。
ならどうするか。
シェニカ様は結界で身を守れるが、丸腰で体術も使えないし、戦闘経験もない。アステラに『聖なる一滴』を使ってもらおうにも、その前に襲われてしまい、計画通りに運ぶ可能性は非常に低かっただろう。トラントは切り札のシェニカを殺すことはないが、アステラたちに捕らわれてしまえば、厳重な管理下に置かれたシェニカ様を1人で取り返すのは非常に困難だ。
ディスコーニはシェニカ様を危険に晒すようなマネはしたくなかったと思うが、奴の行動は合理的な判断だったと理解している。ただ、俺ならシェニカ様が捕まった場合に備え、『聖なる一滴』をいくつか預かれないかとお願いする。ディスコーニも同じように考えたと思うが、あいつは敢えて退路を断ったようだ。
「鍾乳洞を彷徨った1週間、シェニカ様と協力しながら生き延びたとありました。その間にディスコーニ殿との信頼関係も深まったと思いますが、具体的にどのような言動がそのような結果に繋がったとお考えでしょうか」
「節度を持って、誠心誠意尽くしたことだと思います」
「どのような言動を取られたのか、一例を挙げていただけませんか」
「特に例を挙げる必要もないほど、初対面の方と接するのと同じ対応です。適切な距離を保ち、丁寧な言葉遣いを心がけました」
シェニカ様とディスコーニの関係は相変わらず『お友達』らしいが、『赤い悪魔』よりも一緒にいることが多いのは周知の事実。そんな状況では、既に深い関係になっていると思い込むのも仕方のないことだ。どうやって短期間でシェニカ様をおとしたのか、ということが知りたくて堪らないようだが、ディスコーニから聞き出すのは無理だろう。ディスコーニの取り付く島もない様子を見て、王太子はわざとらしいため息を吐いた。
「シェニカ様とカケラの交換した方はいらっしゃるのですか?」
「私と王太子妃殿下が交換しております」
「それは素晴らしい!羨ましい限りです。ディスコーニ殿はシェニカ様の世話役として側にいらっしゃる時間が長いとのことですが、シェニカ様はどのような方ですか?」
「噂に違わぬ真面目で誠実な方です」
「シェニカ様が我が国を訪問して下さった時の参考にしたいので、お好きな食べ物や会話の話題など、教えて下さいませんか?」
「苦手な食べ物は特にないそうです。旅の話をよくお聞きしています」
「相応の対価は支払いますので、もう少し具体的に教えて下さいませんか。2人で部屋にいらっしゃる時の様子もお聞きしたいです」
「相応の対価とは?」
「言い値をお支払い致します」
ファーナストラ殿下が尋ねると、ロージットの王太子は自信満々で即答した。俺たちから見ればディスコーニは十分返答しているが、ロージットはもっと踏み込んだ情報を貰えると期待しているらしい。これまで会談で何度も同じことを言われてうんざりしている殿下は、返答する前に小さく息を吐いた。
「我が国はシェニカ様に大罪を証明してもらった上に、無理を言って旅の足を止めて尋問に付き合って頂いております。国としてだけでなく、個人的にも大きな恩のある大切な方ですので、お話するつもりはございません」
「シェニカ様が貴国に滞在している間、どのようなものを召し上がったとか、何に興味を示されたのか、ということでも構いません。少しでも教えて頂けないでしょうか」
「今後もロージットとは友好的な関係を続けていきたいと思っていますが、どのような対価を提案頂いても、そのお願いを聞き入れることは出来ません」
殿下が真顔で言うと、王太子は奥歯を噛み締めた。
国を救ってくれたシェニカ様を売るようなマネは国王陛下が許さないし、ファーナストラ殿下は妃殿下を助けてくれた恩がある。俺達にもディスコーニを治療をしてもらい、柵のある中で大罪の証明をしてもらった恩がある。友好国との関係は大事ではあるが、この件については対価として何を積まれようとも、出来ないものは出来ない。
「ディスコーニ殿とシェニカ様は、随分と親しげなご様子だと聞き及んでおります。お2人はどのようなご関係なのですか?」
「ご想像におまかせします」
この王太子には20代の王子が数人いる。高い能力の子を望むなら王子達は候補から外れるが、国内外に強力な影響力を持てるから、イシュメだけでなく自分の息子ともくっつけたいと思っているのかもしれない。まったく強欲なことだ。
『白い渡り鳥』様が一般人と同じように1人としか結婚出来ない、不倫や浮気に後ろ指さされるような状況だったら、生涯を終える時までに一体何人の屍が転がっているのだろう。王族に重婚が認められているのは、血を絶やさぬため、婚姻が他国との関係を深める手段のため、自由な恋愛を認めるため、特別な存在なのだと国民に示すためなど、様々な理由があるのは理解していたが。『白い渡り鳥』様にも同様に認められている理由を調べたことはなかったが、きっとこのような状況が過去にあったのだろう。
予想していたとはいえ、面と向かってシェニカ様への執着を窺わせられると、ディスコーニの『退役してシェニカ様の元へ』という気持ちに拍車がかかってしまうから本当に勘弁して欲しい。
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