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ガーデンパーティー編
繋いだ手だけは離さない
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「あらあら、クロヴィス・ティーゼ。王子様や学友殿もいないのに、私のところに来たの」
老婆はそう言って、クロヴィスに微笑みかけた。
空々しい笑みに、クロヴィスは笑い返してみせた。
医学を悪用してはなりませんと、医療の心得をクロヴィスに教えたこの己の師は、いつからこんなにおかしくなっていたのだろう。
いいや、いつから、などと、今考えても意味のないことだ。
クロヴィスは、背後にかばったリーゼロッテが自身を見ているのを感じて、ほうと息を吐いた。
リズが、ここにいる。
「王族の血の加護ーー特別な力のないあなたが、私に何ができるというのです。あなたは腕力も、脚力もないのですよ」
老婆はまるでおかしいことでもあるかのようにくすくすと笑い続ける。
クロヴィスは、黙ってそれを聞いていた。
右を見る、左に視線を向けて。そうして、記憶の中にある、老婆の癖と同じことを確認し、その表情を意図的に凍りつかせた。
クロヴィスがショックを受けたと思ったのだろう。己の師匠ーーロミルダ・バシュはいよいよ顔を歪めて笑い出した。
「ああ、あなたーーそう、あなた、私のかわいいお姫様を隠していたのですってね。葡萄好きの、悪食の、趣味の悪い、愚かな弟子ーーあなたを弟子に取ったことが、そもそもこの状況のためだと知っていましたか?いいえ、知らないでしょう、知らないでしょう!」
「貴族に、偏見を植えつけたのはあなたですか、師匠」
「もちろん!そこはお利口なのですね。愛犬という信仰のために、暗示をかけるのは容易でした。 クロヴィス。自分の好きなものを忌避される感覚はどうでしたか?」
「良いものではありませんでしたね」
「そうでしょう!そうでしょう!大変だったのですよ」
ロミルダが甲高い笑い声をあげる。狂っている。何が彼女をこんなに駆り立てたのか。
リーゼロッテがクロヴィスの手に力を込める。指先にわずかな力を感じて、リーゼロッテの体の麻痺が少しずつ解けているのを知った。もう少しだ。
クロヴィスは、思ったことをでたらめに口にした。
「あなたが、リズの母親を信仰しているのと同義でしょうか、愛犬信仰というのは」
ロミルダは、それを聞いた瞬間、カッと顔を赤らめて憤慨する。
「お姫様を犬などと同じにしないで!私のこの愛は、お姫様へ一心に捧げる、そう、無償の愛!だいたい、お姫様が悪いのです。愛犬を遠ざけて捨ててしまっても、愛犬を探して、私を一番にしてくださらない……」
ロミルダは、悲しげな顔で、まるで自分こそが被害者であるかのように言った。
「そのくせ、恋人を作って、どこかに行ってしまって……」
ロミルダの言葉。そして、クロヴィスの脳裏に思い起こされるのは、王女と侯爵子息という、まったく障害のない身分差なのに、駆け落ちせざるを得なかった叔父と王女の話。
ーーロミルダから、逃げていたのか。
クロヴィスはそっとリーゼロッテを振り返った。
リーゼロッテの目が揺れている。炎のように、ゆらゆらと。それは泣きそうなものにも見えたし、怒りによるものにも見えた。
「……だから、リズの両親を殺したのですか」
「……ああ、少し間違えてしまったのです。うっかりだったのですよ。お姫様を奪った男に毒をのませて、のませて、そして苦しませて……それをたまたまお姫様に見られてしまったのです。お姫様が逃げなさるから、仕方なくて……ですから、お姫様のお子様を、このばあやがお育てしようとしたのに……」
「なるほど、僕の父と母は、リズを守れたのですね」
「守ったなどと!!この乳母からお姫様を奪った!!貴様ーー貴様が!!」
突如、ロミルダの感情が爆発する。感情の起伏激しすぎる。もう、きっと正気ではないのだろう。
きっと、ロミルダには、クロヴィスが父に見えているし、リーゼロッテがリーゼロッテの母に見えている。
「私の、お母さんと、お父さん、を、あなたが」
リーゼロッテの声が震えて聞こえた。
もう、声がだいぶしっかりとしてきている。
ーー時間稼ぎとはいえ、こんなことを知らせてしまった。
知らせたくはなかった。だが、クロヴィスには力がない。
リーゼロッテが押し倒されているのを見て、頭が焼ききれそうになるほど怒りを覚えても、腕力で何かすることができない。
ーーごめん、リズ。
だからこそ。クロヴィスは、何が何でもリーゼロッテを守るのだ。
だって、リズはヴィーの一番大切な人でーー、この世で最も愛する人だから。
好きな相手を守りたいと思うのは、男として当然のことだろう。
クロヴィスは、リーゼロッテを振り返る。
突然自分に背を向けたことで、ロミルダか癇癪を起こしているのが背後から聞こえる。
リーゼロッテに、笑いかける。
リーゼロッテが戸惑ったように目を揺らした。
「リズ、僕の手を、離さないでいて」
リーゼロッテがはっと目を見開いて、その手に力を込める。クロヴィスは笑みを深めた。
ーーやっと繋げたこの手は、もう、けして離さない。
老婆はそう言って、クロヴィスに微笑みかけた。
空々しい笑みに、クロヴィスは笑い返してみせた。
医学を悪用してはなりませんと、医療の心得をクロヴィスに教えたこの己の師は、いつからこんなにおかしくなっていたのだろう。
いいや、いつから、などと、今考えても意味のないことだ。
クロヴィスは、背後にかばったリーゼロッテが自身を見ているのを感じて、ほうと息を吐いた。
リズが、ここにいる。
「王族の血の加護ーー特別な力のないあなたが、私に何ができるというのです。あなたは腕力も、脚力もないのですよ」
老婆はまるでおかしいことでもあるかのようにくすくすと笑い続ける。
クロヴィスは、黙ってそれを聞いていた。
右を見る、左に視線を向けて。そうして、記憶の中にある、老婆の癖と同じことを確認し、その表情を意図的に凍りつかせた。
クロヴィスがショックを受けたと思ったのだろう。己の師匠ーーロミルダ・バシュはいよいよ顔を歪めて笑い出した。
「ああ、あなたーーそう、あなた、私のかわいいお姫様を隠していたのですってね。葡萄好きの、悪食の、趣味の悪い、愚かな弟子ーーあなたを弟子に取ったことが、そもそもこの状況のためだと知っていましたか?いいえ、知らないでしょう、知らないでしょう!」
「貴族に、偏見を植えつけたのはあなたですか、師匠」
「もちろん!そこはお利口なのですね。愛犬という信仰のために、暗示をかけるのは容易でした。 クロヴィス。自分の好きなものを忌避される感覚はどうでしたか?」
「良いものではありませんでしたね」
「そうでしょう!そうでしょう!大変だったのですよ」
ロミルダが甲高い笑い声をあげる。狂っている。何が彼女をこんなに駆り立てたのか。
リーゼロッテがクロヴィスの手に力を込める。指先にわずかな力を感じて、リーゼロッテの体の麻痺が少しずつ解けているのを知った。もう少しだ。
クロヴィスは、思ったことをでたらめに口にした。
「あなたが、リズの母親を信仰しているのと同義でしょうか、愛犬信仰というのは」
ロミルダは、それを聞いた瞬間、カッと顔を赤らめて憤慨する。
「お姫様を犬などと同じにしないで!私のこの愛は、お姫様へ一心に捧げる、そう、無償の愛!だいたい、お姫様が悪いのです。愛犬を遠ざけて捨ててしまっても、愛犬を探して、私を一番にしてくださらない……」
ロミルダは、悲しげな顔で、まるで自分こそが被害者であるかのように言った。
「そのくせ、恋人を作って、どこかに行ってしまって……」
ロミルダの言葉。そして、クロヴィスの脳裏に思い起こされるのは、王女と侯爵子息という、まったく障害のない身分差なのに、駆け落ちせざるを得なかった叔父と王女の話。
ーーロミルダから、逃げていたのか。
クロヴィスはそっとリーゼロッテを振り返った。
リーゼロッテの目が揺れている。炎のように、ゆらゆらと。それは泣きそうなものにも見えたし、怒りによるものにも見えた。
「……だから、リズの両親を殺したのですか」
「……ああ、少し間違えてしまったのです。うっかりだったのですよ。お姫様を奪った男に毒をのませて、のませて、そして苦しませて……それをたまたまお姫様に見られてしまったのです。お姫様が逃げなさるから、仕方なくて……ですから、お姫様のお子様を、このばあやがお育てしようとしたのに……」
「なるほど、僕の父と母は、リズを守れたのですね」
「守ったなどと!!この乳母からお姫様を奪った!!貴様ーー貴様が!!」
突如、ロミルダの感情が爆発する。感情の起伏激しすぎる。もう、きっと正気ではないのだろう。
きっと、ロミルダには、クロヴィスが父に見えているし、リーゼロッテがリーゼロッテの母に見えている。
「私の、お母さんと、お父さん、を、あなたが」
リーゼロッテの声が震えて聞こえた。
もう、声がだいぶしっかりとしてきている。
ーー時間稼ぎとはいえ、こんなことを知らせてしまった。
知らせたくはなかった。だが、クロヴィスには力がない。
リーゼロッテが押し倒されているのを見て、頭が焼ききれそうになるほど怒りを覚えても、腕力で何かすることができない。
ーーごめん、リズ。
だからこそ。クロヴィスは、何が何でもリーゼロッテを守るのだ。
だって、リズはヴィーの一番大切な人でーー、この世で最も愛する人だから。
好きな相手を守りたいと思うのは、男として当然のことだろう。
クロヴィスは、リーゼロッテを振り返る。
突然自分に背を向けたことで、ロミルダか癇癪を起こしているのが背後から聞こえる。
リーゼロッテに、笑いかける。
リーゼロッテが戸惑ったように目を揺らした。
「リズ、僕の手を、離さないでいて」
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ーーやっと繋げたこの手は、もう、けして離さない。
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