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Ideal - Idea
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僕は、理想の自分でいたかった。
中学二年生になって、勉強も一段階難しくなり、卓球部も先輩が引退してから二年生が主体になり、忙しくなった。
僕はというと、勉強はあまりできない方で、部活ではベンチにすらも入れてもらえず、後輩には先を越され、他の部員からは白い目で見られているのはわかっていた。更にもともと友達もいなかったので、僕の中学校生活は黒歴史になることが確定しているのだ。
そんな僕を、変えたかった。
定期テストでは学年一位になりたかった。だから、1日5時間以上勉強した。当然、睡眠時間は大幅に短くなった。そのせいで授業はとても眠くなったが、眠らないように努めた。授業中に寝てしまっては本末転倒だし、そもそもそんなクズになりたくはなかった。そして遂に、学年首位に上り詰めた。
部活ではエースになりたかった。だから、一番早くに部活に来て、一番遅くに帰った。空き時間はサーブ練習、フットワーク練習を徹底した。素振りもよくやった。すると、みるみるうちに技術はつき、あっという間にエースになってしまった。市の大会でベスト4にもなった。
ただ、人間関係だけは改善しなかった。人一倍努力をすることでみんなが勝手に寄ってくれると思っていた。でも、逆に、人はますます離れていった。でも、自分からアプローチするほどの勇気があったわけでもなく、孤立は加速した。
そして、ある日。その勇気を手に入れた。
その矛先は、クラスメイトに。
「ねえ、みんな、僕のこと、どう思う?」
後々後悔した。何でこんな聞き方をしてしまったのだろうか。
「んー、正直言うと“気持ち悪い”かなー。急にどうかしちゃったように頑張っちゃってさー。確かに成績とかは上がったけどさ、逆に、引いちゃうよねー」
「てか、何でそんなこと聞いたの? もしかして、見返りが欲しかったの? でも努力するかって人の勝手でしょ?」
「それで人の関わり方が変わるだなんて、思わないでね」
僕は、ぶっ倒れて、保健室へ担ぎ込まれた。
「大丈夫か?」
保健室に入ってきた担任の先生が、こちらに来ながらベッドに横たわる僕に声をかけた。
「はい。少し疲れてしまっただけです。もう大丈夫ですよ」
心配をかけたくなかったので、そう答えておいた。
「少し、じゃねえだろ。睡眠時間、取れてないんじゃないのか? 勉強も部活も頑張ってるって聞いたし。すっかり教員中でも話題になってるけどよお、自分の体ぐらい、労われよ?」
先生のことは、好意を持っていた(そういう意味ではなくて)。陰の僕を、しっかり見てくれていると思っていたからだ。
だからこそ、だった。
「でも、僕はまだ、理想の自分になれていないんです。みんなに認められるまでは、努力を続けないといけないんです」
「……そこまでして、みんなに認められたいのか?」
「現に、あの反応からは、認められたと思ってません。それだと、納得ができないんです」
そうか、と、先生はそれだけ言った。
そして、また先生が言った。
「『着想』、簡単に言うと『考え』ってんだけど、英語だと“idea”だよな。それに“L”をつけると、なんて単語になるか、わかるよな」
「“ideal”は『理想』ですね」
「そうだ。そして“ideal”から“idea”を取ると、“l”、つまりただの棒っきれになっちまうんだ」
「仰っている意味がよくわかりません」
「まあそうだよな。俺も最初は全く意味がわからなかった。あ、これは俺が高校の時に英語の先生から聞いた話なんだけどな」
近くの椅子に座る。そういえばずっと立たせっ放しだった。悪い事をした、と思った。
「これは『理想に尽くす人への正と負の両方の意味』を指している。正とすれば、この棒は『考えることなんて無駄なような困難にでも立ち向かう人』になる。ちょうど、今のお前ってとこだな。でも、負にとるとすれば、この棒は『考えがなくなって途方に暮れて立ち尽くしている人』になる。つまり、自分がどこに行こうとしてるのかわからなくなってるってことだ」
「だったら、今の僕は紛れもなく正です」
きっばりと、言い放った。
「ほんとに、そうか?」
先生も、退かない。
「僕がみんなに認められるには、このまま突っ走るしかないんです。卒業式の日だけでもいいから、その一日を手に入れるには、今、これから、このまま走り切るしかないんですよ」
「突っ走る、走り切る、すばらしい意志だと思うよ。でもな、それって逆をとると『思考停止になっている』ってこともありえるんだ。お前は走り過ぎだ。その結果、こうやって体壊して、みんなにも引かれてんじゃないのか。まあ、それはみんなにも非があるんだけども……。とにかく、本当に方法はそれしかないのかどうか、考えるといい。もちろん、今までの事をこれで止める必要性はない。貫け。ただ、考えろ。考え抜いて、ベストを尽くせ。自分にマイナスが生じれば、それはベストではないということだ」
クラスメイトは、何を求めているんだろう。
中学二年生になって、勉強も一段階難しくなり、卓球部も先輩が引退してから二年生が主体になり、忙しくなった。
僕はというと、勉強はあまりできない方で、部活ではベンチにすらも入れてもらえず、後輩には先を越され、他の部員からは白い目で見られているのはわかっていた。更にもともと友達もいなかったので、僕の中学校生活は黒歴史になることが確定しているのだ。
そんな僕を、変えたかった。
定期テストでは学年一位になりたかった。だから、1日5時間以上勉強した。当然、睡眠時間は大幅に短くなった。そのせいで授業はとても眠くなったが、眠らないように努めた。授業中に寝てしまっては本末転倒だし、そもそもそんなクズになりたくはなかった。そして遂に、学年首位に上り詰めた。
部活ではエースになりたかった。だから、一番早くに部活に来て、一番遅くに帰った。空き時間はサーブ練習、フットワーク練習を徹底した。素振りもよくやった。すると、みるみるうちに技術はつき、あっという間にエースになってしまった。市の大会でベスト4にもなった。
ただ、人間関係だけは改善しなかった。人一倍努力をすることでみんなが勝手に寄ってくれると思っていた。でも、逆に、人はますます離れていった。でも、自分からアプローチするほどの勇気があったわけでもなく、孤立は加速した。
そして、ある日。その勇気を手に入れた。
その矛先は、クラスメイトに。
「ねえ、みんな、僕のこと、どう思う?」
後々後悔した。何でこんな聞き方をしてしまったのだろうか。
「んー、正直言うと“気持ち悪い”かなー。急にどうかしちゃったように頑張っちゃってさー。確かに成績とかは上がったけどさ、逆に、引いちゃうよねー」
「てか、何でそんなこと聞いたの? もしかして、見返りが欲しかったの? でも努力するかって人の勝手でしょ?」
「それで人の関わり方が変わるだなんて、思わないでね」
僕は、ぶっ倒れて、保健室へ担ぎ込まれた。
「大丈夫か?」
保健室に入ってきた担任の先生が、こちらに来ながらベッドに横たわる僕に声をかけた。
「はい。少し疲れてしまっただけです。もう大丈夫ですよ」
心配をかけたくなかったので、そう答えておいた。
「少し、じゃねえだろ。睡眠時間、取れてないんじゃないのか? 勉強も部活も頑張ってるって聞いたし。すっかり教員中でも話題になってるけどよお、自分の体ぐらい、労われよ?」
先生のことは、好意を持っていた(そういう意味ではなくて)。陰の僕を、しっかり見てくれていると思っていたからだ。
だからこそ、だった。
「でも、僕はまだ、理想の自分になれていないんです。みんなに認められるまでは、努力を続けないといけないんです」
「……そこまでして、みんなに認められたいのか?」
「現に、あの反応からは、認められたと思ってません。それだと、納得ができないんです」
そうか、と、先生はそれだけ言った。
そして、また先生が言った。
「『着想』、簡単に言うと『考え』ってんだけど、英語だと“idea”だよな。それに“L”をつけると、なんて単語になるか、わかるよな」
「“ideal”は『理想』ですね」
「そうだ。そして“ideal”から“idea”を取ると、“l”、つまりただの棒っきれになっちまうんだ」
「仰っている意味がよくわかりません」
「まあそうだよな。俺も最初は全く意味がわからなかった。あ、これは俺が高校の時に英語の先生から聞いた話なんだけどな」
近くの椅子に座る。そういえばずっと立たせっ放しだった。悪い事をした、と思った。
「これは『理想に尽くす人への正と負の両方の意味』を指している。正とすれば、この棒は『考えることなんて無駄なような困難にでも立ち向かう人』になる。ちょうど、今のお前ってとこだな。でも、負にとるとすれば、この棒は『考えがなくなって途方に暮れて立ち尽くしている人』になる。つまり、自分がどこに行こうとしてるのかわからなくなってるってことだ」
「だったら、今の僕は紛れもなく正です」
きっばりと、言い放った。
「ほんとに、そうか?」
先生も、退かない。
「僕がみんなに認められるには、このまま突っ走るしかないんです。卒業式の日だけでもいいから、その一日を手に入れるには、今、これから、このまま走り切るしかないんですよ」
「突っ走る、走り切る、すばらしい意志だと思うよ。でもな、それって逆をとると『思考停止になっている』ってこともありえるんだ。お前は走り過ぎだ。その結果、こうやって体壊して、みんなにも引かれてんじゃないのか。まあ、それはみんなにも非があるんだけども……。とにかく、本当に方法はそれしかないのかどうか、考えるといい。もちろん、今までの事をこれで止める必要性はない。貫け。ただ、考えろ。考え抜いて、ベストを尽くせ。自分にマイナスが生じれば、それはベストではないということだ」
クラスメイトは、何を求めているんだろう。
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