いえろ〜の極短編集

いえろ~

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この世も悲観したものじゃない

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 人間、生まれながらの才能というものがある。
 例えば、隣の山田君は数学がとびきりできるし、後ろの青木さんは絵が特別上手い。斜め前の神林君だって走るのが超速いし、担任の下田先生は、いつも生徒を笑いの渦に巻き込んでいる。

 それに、比べて、僕は――。

 特に勉強ができるものがあるわけでもなく、美的センスがあるわけでもなく、運動だって可もなく不可もなくで、みんなの魅力を引くこともない。

 そう考えると、僕は才能なんてないのかもしれない。
 いや、そもそも、才能がない方が当たり前なのか。

 周りのみんながそうやって輝いてると、羨むし、僻むし、何しろ、歪む。

 いつしか、僕の口癖は「どうせ才能がない僕ですから」というようになってしまった。


 それは、昼休みの時だった。

「なあ、サッカーしに行こうぜ!」

 隣の山田君が、僕を遊びに誘ってきた。

 だが、僕は彼に変なライバル視というか、妙に彼を嫌っていて、嫌に自分を卑下し、同時に感嘆し、そして心の中で何度も何度も鋭利な刃物でグサグサにしていた。

「いいよ。僕は。どうせいてもいなくても変わらないじゃん」

 そう言って、僕は本を読み始めてしまった。

 すると、彼は乱暴に机を叩いて、こう言ったのだ。

「あのさあ、そういう態度やめてくれる? はっきり言って、見下しているようでムカつくんだよな」

 見下す?

「冗談はやめてくれよ。そうやって見下してるのはそっちじゃないか」

「見下してなんかいないだろう! 普通に接してるだけだ。やっぱり、最近、お前おかしいぞ。変に突っ張ってさ」

「だって、僕には才能がないんだ。才能がない僕に、生きてる価値なんて……」

 そしたら、山田君は頭をガリガリ掻いて、言い放った。

「才能がなんだよ! そんなちっぽけなこと気にしてんじゃねえよ!」

 ちっぽけなこと。

「そういうのが、見下すって言うんだよ」

「知らねえよ! そんなの勝手に履き違えてるだけだろうが! いいか、この際だから言っておく。俺は毎日数学に3時間費やしてるよ。わかるか? 俺は数学が苦手なんだ! そうやって追い込まないと、どんどんダメになってくんだよ!」

「1日、3時間も?」

 一体、僕は1日全体でどれくらい勉強に費やしているだろうか。恐らく、2時間もないのではないだろうか。

 天才に見えていた彼は、実はかなりの努力家だったのだ。

「そうやって悔しかったらな、這い上がってこいよ! 這い上がって、這い上がって、てっぺん目指せよ! なにやらないうちに『俺は才能がない』なんてほざいてんだ、俺だって元々才能なんざねえよ! 確かに、何もしなくてもできる奴は世の中に山ほどいるだろう。でもな、俺はそいつらとは違う。いっぱい、いっぱい努力してんだよ。なめんな!」

 これほどまで激怒する彼を、僕は初めて見た気がした。

「あーあ、もう昼休み終わっちまうじゃねえか。くそ、お前のせいだからな。少しでも付き合えよ!」

 だがそう言って、彼は僕の腕を引っ張ってしまった。慌てて僕もそれに従う。

 走りながら、彼は言った。

「お前のそう思う気持ち、俺も持ってた時期があった。でもさ、気づいたんだよ。思ってるだけじゃ、できることもできない、ってさ」

 ああ、この世も悲観したものじゃないな。
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