教室の窓から

いえろ~

文字の大きさ
8 / 14
第1章 春

8.テスト終了

しおりを挟む
 翌日、金曜日。追試当日。会場は講義室だったため、嵯峨本はいつも通り教室で独り勉強していた。

「追試、終わったよ」

 岡が放課後の教室を訪れると、嵯峨本は手を止めた。

「どうだったよ」

「久々に、手応えを感じられたよ。とりあえずボーダーは超えると思う」

「どうせなら、満点取ってくれれば俺に箔が付くんだけどな」

「それはどうかな……。そうだ。これ、描いてみたんだ。もらってよ」

 岡は、スケッチブックから切り離した1枚の紙を差し出す。嵯峨本の肖像画が描かれていた。例によって鉛筆のみで描かれていて、鼻の右側の黒子の位置や、左目の眉毛近くの傷跡も描いてある。いつの間に俺の顔を研究していたのだろうと寒気がするくらいに写実的だった。

「昨日、親に言ったらとりあえずわかってもらえたよ。といっても、父さんは渋い顔してたけど」

「そうか、よかったな。でも、美術科って言ってもどこ行くんだ?」

「あー、考えてるのはここ。隣の県だけど、家からも通えるし」

「ここって、聞くところによるとなかなかのところだぞ。確か偏差値60はある」

「え、そうなの!?」岡は過剰に驚く。

「まあ、大丈夫だろ。夢をもった人間は強いってよく言うだろ」

「無理無理! 勉強したくなーい!!」

 頭を抱える岡をよそに、嵯峨本は肖像画をもう一度見る。

「てかさ、お前自分を卑下し過ぎだろ、十分上手かったじゃねえかよ。これだって、なかなかイケメンに描いてくれたんだな。『忖度』の心が見える。けど勿論、これでチャラになんてならねえからな」

「え」岡の口からポロリと零れる。

「ほら、ハンバーガー食い行くぞ。3日分に、しかもポテトまでつけてくれるんだっけか」

「や、やっぱりポテトは控えてもらってもいいですか……?」

 嵯峨本が身支度を終え、立ち上がる。窓を見ると、野球部がグラウンドの整備を始めていた。

「あと、僕の絵には何か足りなかった気がしたんだ」

「へぇ」

 教室の去り際に岡は神妙にそんなことを言うが、嵯峨本はあくまで無関心を装った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...